筋腫は「どこにあるか」で語る―内膜を押す筋腫が招く過多月経
第108回医師国家試験 A問題 第13問
国試問題にチャレンジ
正常月経周期を有する女性の骨盤部MRIのT2強調矢状断像を別に示す。 この患者にみられる症状はどれか。

- a.頻尿
- b.排便痛
- c.過多月経
- d.下腹部腫瘤感
- e.不正性器出血
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
子宮筋腫は子宮平滑筋由来の良性腫瘍で、MRIのT2強調像では境界明瞭な低信号腫瘤として描出されるのが典型です。症状は発生部位で大きく異なり、内膜側に突出する粘膜下筋腫や筋層内筋腫は内膜面積の増大や子宮収縮の障害により過多月経と鉄欠乏性貧血を起こしやすく、外方へ発育する漿膜下筋腫や巨大な筋腫は腫瘤感や圧迫症状(前方なら頻尿、後方なら便秘)を起こします。排便痛はDouglas窩病変を伴う子宮内膜症に特徴的な症状であり、不正性器出血では悪性疾患の除外が優先されます。治療は症状と挙児希望に応じて経過観察、偽閉経療法、筋腫核出術、子宮全摘術、子宮鏡下切除などから選びます。画像から病変の正体と位置を読み取り、症状と治療を結びつける考え方は、婦人科診療の基本となります。
解答・解説
正解はcです
画像所見
骨盤部MRIのT2強調矢状断像で、子宮体部の後壁側に、境界明瞭で円形の腫瘤を認める。腫瘤は周囲の子宮筋層よりも低信号で、内部はやや不均一な渦巻き状の構造を示す。腫瘤の前方(腹側)には線状の高信号域があり、これは子宮内膜である。子宮内膜は腫瘤に押されて前方へ弧状に偏位・圧排されており、腫瘤が内膜に接していることがわかる。膀胱は子宮の前下方にあり、腫瘤による明らかな圧排はみられない。
診断
T2強調像で境界明瞭な低信号の円形腫瘤は、平滑筋の増殖からなる子宮筋腫の典型像である(平滑筋や線維成分はT2強調像で低信号を示す)。本例は子宮後壁の筋層内から内膜側に突出し、子宮内膜を変形させている筋腫と考えられる。
設問の考え方
子宮筋腫の症状は、大きさだけでなく「発生部位」に大きく左右される。内膜に近い筋腫(粘膜下筋腫や、内腔に突出する筋層内筋腫)は、内膜面積の増大や子宮収縮の妨げにより過多月経を起こしやすい。一方、周囲臓器の圧迫症状(頻尿、便秘など)や腫瘤の触知は、主に子宮外方へ大きく突出する漿膜下筋腫や巨大な筋腫でみられる。本例は内膜を圧排する位置にあるため、最も考えやすい症状は過多月経である。問題文の「正常月経周期を有する」という記載も、月経以外の出血(不正性器出血)を否定する手がかりとなる。
選択肢考察
- ×a. 頻尿
頻尿は、子宮前壁の筋腫や大きな筋腫が前方の膀胱を圧迫したときに起こる症状である。本例の筋腫は子宮後壁側にあり、画像上も膀胱が圧排されている所見はないため、本例でみられる症状としては考えにくい。後壁の筋腫が大きくなれば、むしろ直腸圧迫による便秘が問題になる。
- ×b. 排便痛
排便痛は、子宮内膜症でDouglas窩(直腸子宮窩)に病変や癒着がある場合に典型的な症状である。子宮筋腫そのものでは通常起こらず、本画像からDouglas窩の癒着や内膜症性病変を読み取ることもできないため、本例でみられる症状とはいえない。
- ○c. 過多月経
本例の筋腫は子宮内膜に接して内膜を前方へ圧排・変形させている。このように内膜側に突出する筋腫では、子宮内腔が引き伸ばされて内膜の面積が増え月経時に剥がれる内膜の量が増えること、筋腫があるために子宮筋の収縮による止血が不十分になること、内膜の静脈がうっ滞することなどから、月経血量が増える過多月経を生じる。過多月経が長く続くと鉄欠乏性貧血をきたす。本例で最も考えやすい症状である。
- ×d. 下腹部腫瘤感
下腹部腫瘤感(自分で下腹部のしこりを触れる感覚)は、筋腫が大きく、子宮が骨盤外(恥骨上)まで腫大したり、漿膜下筋腫が外方へ大きく突出したりした場合にみられる。本例の筋腫は骨盤内にとどまる大きさで子宮後壁側にあり、画像上も腹壁を押し上げる所見はないため、腫瘤感を自覚する可能性は低い。
- ×e. 不正性器出血
不正性器出血は月経以外の時期に起こる出血であり、子宮筋腫では粘膜下筋腫(特に有茎性で筋腫分娩を起こしたもの)などで起こりうるが、本問では「正常月経周期を有する」と明示されており、月経以外の出血は想定されていない。なお、不正性器出血を訴える場合は、子宮頸癌・子宮体癌などの悪性疾患の除外が優先される。
子宮筋腫の概要
子宮筋腫は子宮平滑筋から発生する良性腫瘍で、性成熟期女性の2〜3割程度にみられる頻度の高い疾患である。エストロゲン依存性に増大し、閉経後は縮小する。多くは子宮体部に発生し、多発することも多い。
発生部位による分類と症状の特徴
・粘膜下筋腫:子宮内腔に向かって発育する。小さくても過多月経・貧血をきたしやすく、不妊・流産の原因にもなる。有茎性のものは子宮口から脱出(筋腫分娩)することがある。 ・筋層内筋腫:最も頻度が高い。内膜側に突出すると過多月経、大きくなると月経痛や圧迫症状を起こす。 ・漿膜下筋腫:子宮の外側へ発育する。月経異常は起こしにくく、大きくなるまで無症状のことが多い。腫瘤触知や、前方なら膀胱圧迫(頻尿)、後方なら直腸圧迫(便秘)を起こす。有茎性では茎捻転による急性腹症を起こすことがある。
主な症状
過多月経とそれによる鉄欠乏性貧血、月経困難症、下腹部腫瘤感、圧迫症状(頻尿、排尿障害、便秘、腰痛)、不妊・流産など。
画像診断
超音波検査が第一選択で、境界明瞭な低エコー腫瘤として描出される。MRIでは典型的にT2強調像で境界明瞭な低信号腫瘤を示し、部位・数・大きさの評価や、子宮腺筋症(境界不明瞭な筋層の肥厚、T2低信号内に点状高信号)・子宮肉腫との鑑別に有用である。変性(硝子様変性、嚢胞変性、赤色変性など)を伴うと信号は多彩になる。
治療
無症状なら経過観察。症状があれば、GnRHアゴニスト・アンタゴニストによる偽閉経療法(術前の縮小目的や閉経への逃げ込み)、症状緩和の薬物療法、挙児希望があれば筋腫核出術、希望がなければ子宮全摘術を選択する。粘膜下筋腫には子宮鏡下筋腫切除術が行われる。
POINT
・T2強調像で境界明瞭な低信号腫瘤は子宮筋腫の典型像である。 ・筋腫の症状は部位で決まる:内膜側(粘膜下・内腔突出型の筋層内)→過多月経・貧血、外方(漿膜下)や巨大→腫瘤感・圧迫症状。 ・前壁の筋腫は膀胱圧迫で頻尿、後壁の筋腫は直腸圧迫で便秘を起こしうる。 ・排便痛はDouglas窩病変を伴う子宮内膜症の特徴的症状である。 ・「正常月経周期」との記載は不正性器出血の否定につながる。
