StudyMed医師国家試験

染まらない影と、じわじわ染まる影―ダイナミックCTで読み解く肝嚢胞と肝血管腫

第107回医師国家試験 I問題 第80問

国試問題にチャレンジ

第107回 I問題 第80問

健康診断の腹部超音波検査で肝に異常を指摘されたため,精査目的で撮影されたダイナミックCTの動脈相(A)と後期相(B)とを別に示す。  ①と②の病変の診断で正しいのはどれか。(編註:選択肢表は下記をご参照ください。)  ①  ② a 肝嚢胞 肝血管腫 b 肝嚢胞 肝細胞癌 c 肝嚢胞 転移性肝癌 d 転移性肝癌 肝血管腫 e 転移性肝癌 肝細胞癌 f 転移性肝癌 肝嚢胞

第107回 I問題 第80問の問題画像
  1. a.肝囊胞肝血管腫
  2. b.肝囊胞肝細胞癌
  3. c.肝囊胞転移性肝癌
  4. d.転移性肝癌肝血管腫
  5. e.転移性肝癌肝細胞癌
  6. f.転移性肝癌肝囊胞

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、健診で偶然見つかった肝臓の病変をダイナミックCTで見分ける問題だよ。ダイナミックCTは造影剤を急速に静注して、動脈相・門脈相・後期相と時間を追って撮影する検査だ。肝腫瘤を読むときの着眼点は2つ。「動脈相でどう染まるか」と「後期相で造影剤が残るか抜けるか」。この2つを軸に、2つの病変を見ていこう。
医学生医学生
健診で見つかったということは、無症状の良性病変の可能性が高いということでしょうか。
ドクタードクター
いい出発点だね。健診の超音波で偶然見つかる肝病変の多くは、肝嚢胞や肝血管腫のような良性病変だ。ただ、それを決めるのは画像所見そのもの。まず左葉寄りの病変から考えよう。動脈相でも後期相でも内部が低吸収のままで、まったく染まっていない。これをどう解釈する?
医学生医学生
造影剤が入ってこないということは、中に血流がないんですよね。壊死した腫瘍という可能性はありませんか。
ドクタードクター
鋭い疑問だ。壊死を伴う腫瘍でも中心は染まらないけれど、腫瘍組織には血流があるから、少なくとも辺縁がリング状に造影されたり、壁が厚かったりする。この病変は辺縁が平滑で境界明瞭、壁の肥厚も増強される充実成分もない。全相を通じて造影されない水に近い濃度の病変、つまり肝嚢胞と考えるのが自然なんだ。
医学生医学生
放射線医学の講義で、嚢胞はCT値がほぼ水と同じ0〜20HUくらいと習いました。超音波だと無エコーで後方エコーが増強するんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。では右葉の病変はどうだろう。動脈相では辺縁に斑状・結節状の濃染がみられて、中心はまだ染まっていない。後期相になると造影域が中心へ広がって、病変全体が周囲の肝臓と同じかやや高い濃度で染まり続けている。
医学生医学生
動脈相で染まっているので、多血性の肝細胞癌かと一瞬思いました。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴だね。肝細胞癌は主に肝動脈から血流を受けるので、動脈相で腫瘍全体が早期に濃染し、門脈相から後期相では周囲肝より低吸収になる。これがwash outだ。今回の病変は動脈相で辺縁だけが綿花状に染まり、後期相ではむしろ造影域が拡大して残っている。造影剤が抜けるどころか溜まっていくんだ。
医学生医学生
造影剤がゆっくり入って、なかなか出ていかない構造ということですか。
ドクタードクター
まさにそう。海綿状血管腫は拡張した血管腔の集まりだから、造影剤が辺縁からゆっくり流れ込んで中心へ広がり、そのまま貯留する。これをfill-inと呼ぶ。後期相で血管内と同程度の濃度を保つのが典型像だ。だから正解は、左葉の病変が肝嚢胞、右葉の病変が肝血管腫という組合せになる。
医学生医学生
転移性肝癌の可能性はどう否定すればいいでしょうか。消化器外科の実習で、大腸癌の肝転移の症例を見たことがあります。
ドクタードクター
大腸癌などの乏血性転移は、辺縁がリング状に造影されて、中心は後期相でも低吸収のまま残る標的様の像を示すことが多い。しかも多発しやすい。全く染まらない左の病変は転移らしくないし、中心まで均一に染まって持続する右の病変も転移のパターンとは違う。組合せを逆にした選択肢も、嚢胞が造影されることはないので成り立たないね。
医学生医学生
つまり、全く染まらなければ嚢胞、辺縁から埋まって残れば血管腫、早く染まって抜ければ肝細胞癌、リング状で中が抜けたままなら転移、という整理ですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。補足すると、小さな血管腫には動脈相で一気に全体が染まる高流速型もあって、肝細胞癌との区別が難しいことがある。そんなときはMRIが役に立つ。血管腫はT2強調像で電球のように著明な高信号を示すんだ。超音波では高エコー腫瘤で、辺縁高エコー帯や体位変換で内部エコーが変わるchameleon signが知られている。
医学生医学生
血管腫なら、確定のために生検をしたほうがいいですか。
ドクタードクター
そこは臨床で特に注意してほしい点だ。血管腫は血液の塊のようなものだから、経皮的な生検は出血の危険が高く、安易に行うべきではない。典型的な画像所見がそろって無症状なら、嚢胞も血管腫も経過観察で十分なことが多い。巨大化して症状が出る場合や、巨大血管腫で血小板減少や消費性凝固障害をきたすKasabach-Merritt症候群では治療を考慮するよ。
医学生医学生
背景に慢性肝炎や肝硬変がある人なら、同じ病変でももっと慎重に見たほうがいいですね。
ドクタードクター
その感覚は大事だ。B型・C型肝炎や肝硬変があれば肝細胞癌のリスクが高いので、腫瘍マーカーのAFPやPIVKA-IIも含めて総合的に判断する。画像のパターンと患者背景をセットで考える習慣をつけておこう。

まとめ

ダイナミックCTによる肝腫瘤の鑑別は、「動脈相での染まり方」と「後期相で造影剤が残るか抜けるか」の2点で考えるのが基本です。全相で造影されない境界明瞭な水濃度病変は肝嚢胞、動脈相で辺縁から斑状に濃染し後期相で中心へ広がって造影が持続する(fill-in)病変は肝血管腫と判断できます。これに対し、肝細胞癌は動脈相の早期濃染と後期相のwash out、乏血性の転移性肝癌は辺縁のリング状濃染と中心の低吸収(標的様)が特徴です。血管腫は出血の危険から安易な生検を避け、典型例で無症状なら経過観察が基本となります。造影パターンを病変の血流構造と結びつけて理解することは、健診で偶然見つかる肝病変を適切に振り分ける臨床判断の土台になります。

解答・解説

正解はaです

問われていること

健診の腹部超音波検査で偶然見つかった肝腫瘤について、ダイナミックCT(造影剤を急速静注し、動脈相・門脈相・後期相〈平衡相〉と時間を追って撮影するCT)の造影パターンから病変の性状を判定する問題である。肝腫瘤の鑑別では「動脈相でどう染まるか」「後期相で造影剤が残るか抜けるか」の二点を押さえることが基本となる。

画像所見

・病変①(肝左葉内側寄りの類円形病変):動脈相(A)・後期相(B)のいずれでも内部は低吸収で、造影効果をまったく認めない。辺縁は平滑で境界明瞭、壁の肥厚や増強される充実成分もない。水に近い濃度の内容物を含む病変と考えられる。 ・病変②(肝右葉の病変):動脈相(A)では病変の辺縁部に斑状・結節状(綿花状)の濃染がみられ、中心部はまだ造影されていない。後期相(B)では造影域が中心に向かって広がり、病変全体が周囲肝実質と同等かやや高い吸収値で持続して造影されている。造影剤が抜けるwash outはみられない。

診断

①は造影されない境界明瞭な水濃度病変であり肝嚢胞、②は辺縁から中心へ徐々に造影が広がり後期相まで造影が持続する(fill-in)病変であり肝血管腫と判断できる。どちらも無症状で健診時に偶然見つかることの多い良性病変であり、画像所見も典型的である。悪性腫瘍(肝細胞癌・転移性肝癌)に特徴的な造影パターンはみられない。

選択肢考察

  1. ○a.  肝囊胞肝血管腫

    ①は動脈相・後期相を通じて全く造影されず、境界明瞭で辺縁平滑な低吸収域であり、水濃度の内容液を含む肝嚢胞に合致する。②は動脈相で辺縁から斑状(綿花状)に濃染し、後期相で中心部に向かって造影域が広がって全体が造影され、造影剤が残り続ける。これは拡張した血管腔に造影剤がゆっくり流入・貯留する海綿状血管腫の典型的なパターンである。よってこの組合せが正しい。

  2. ×b.  肝囊胞肝細胞癌

    ①を肝嚢胞とする点は正しい。しかし典型的な肝細胞癌は主に肝動脈から血流を受けるため、動脈相で腫瘍全体が均一〜モザイク状に早期濃染し、門脈相〜後期相では周囲肝より低吸収となる(wash out)。②は動脈相で辺縁のみ斑状に染まり、後期相でむしろ造影域が拡大して造影が持続しており、肝細胞癌のパターンとは異なる。また、本例は健診受診者で慢性肝疾患を示す情報もない。

  3. ×c.  肝囊胞転移性肝癌

    ①を肝嚢胞とする点は正しい。転移性肝癌(特に大腸癌などの乏血性転移)は、辺縁がリング状に造影され、中心部は壊死などのため後期相でも低吸収のまま残ること(標的様・ブルズアイ様)が多い。②のように辺縁から中心へ造影が広がって病変全体が均一に造影され、後期相まで持続するパターンは転移性肝癌らしくない。

  4. ×d.  転移性肝癌肝血管腫

    ②を肝血管腫とする点は正しい。しかし①は動脈相・後期相を通じて造影効果がまったくない。転移性肝癌は腫瘍組織に血流があるため、少なくとも辺縁のリング状濃染など何らかの造影効果を示すのが普通であり、境界明瞭・辺縁平滑で内部が全く造影されない①は肝嚢胞と考えるべきである。

  5. ×e.  転移性肝癌肝細胞癌

    ①は造影効果がなく転移性肝癌ではない。②は後期相で造影剤が抜けず持続しており、肝細胞癌に特徴的な動脈相の早期濃染と後期相のwash outを示さない。いずれの診断も誤りである。

  6. ×f.  転移性肝癌肝囊胞

    組合せが逆である。造影されない①が肝嚢胞であり、②は辺縁から徐々に造影されて後期相まで造影が持続するため嚢胞ではない。嚢胞であれば②のように造影されることはなく、①を転移性肝癌とするのも誤りである。

ダイナミックCTでの主な肝腫瘤の造影パターン

・肝嚢胞:全相で造影されない水濃度(CT値おおむね0〜20HU)の境界明瞭な病変。壁は薄く、内部に充実成分はない。超音波では無エコーで後方エコー増強を伴う。 ・肝血管腫(海綿状血管腫):動脈相で辺縁から斑状・結節状(綿花状)に濃染し、時間とともに中心へ広がる(fill-in)。後期相でも造影剤が残り、大動脈など血管内と同程度の濃度を保つのが特徴。小さな血管腫では動脈相で一気に全体が染まるもの(高流速型)もある。超音波では高エコー腫瘤で辺縁高エコー帯(marginal strong echo)や、体位変換などで内部エコーが変わるchameleon signなどがみられる。MRI T2強調像では著明な高信号(電球様)を示す。 ・肝細胞癌:動脈相で早期濃染し、門脈相〜後期相でwash out(周囲肝より低吸収)となる。被膜を有する例では後期相で被膜が造影される。背景にB型・C型慢性肝炎や肝硬変があることが多く、AFP・PIVKA-Ⅱが腫瘍マーカーとなる。 ・転移性肝癌:多発することが多い。大腸癌などの乏血性転移は辺縁のリング状濃染と中心部の低吸収(標的様)を示す。神経内分泌腫瘍や腎細胞癌などの多血性転移は動脈相で濃染する。 ・限局性結節性過形成(FNH):動脈相で強く濃染し、中心瘢痕を伴うことがある。

臨床上の扱い

典型的な肝嚢胞・肝血管腫は無症状であれば経過観察でよい。巨大化して症状を呈する場合や、巨大血管腫に伴う血小板減少・消費性凝固障害(Kasabach-Merritt症候群)では治療を考慮する。血管腫は出血の危険があるため、安易な経皮的生検は避ける。

POINT

・肝嚢胞:全相で造影されない、境界明瞭な水濃度の病変。 ・肝血管腫:動脈相で辺縁から斑状(綿花状)に濃染 → 後期相で中心へ広がり造影が持続(fill-in、wash outなし)。 ・肝細胞癌:動脈相で早期濃染 → 後期相でwash out。 ・転移性肝癌:辺縁のリング状濃染、中心は低吸収(標的様)で多発しやすい。 ・肝腫瘤の鑑別は「動脈相の染まり方」と「後期相で造影剤が残るか抜けるか」で考える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。