4,000Hzだけが沈む谷―オージオグラムで読み解く騒音性難聴
第107回医師国家試験 I問題 第31問
国試問題にチャレンジ
純音聴力検査の結果を別に示す。 考えられるのはどれか。

- a.C5 dipがみられる。
- b.気導骨導差がみられる。
- c.補充現象が陽性である。
- d.めまいを伴うことが多い。
- e.語音明瞭度が著しく障害される。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
両側の4,000Hz付近だけが谷状に低下し8,000Hzで回復するC5 dipは、長期の騒音曝露で蝸牛基底回転の外有毛細胞が障害される騒音性難聴の典型所見です。気導と骨導がそろって上昇しているため気導骨導差はなく感音難聴であり、前庭は障害されないためめまいは通常伴わず、会話音域が保たれる初期は語音明瞭度も良好で自覚しにくいのが特徴です。補充現象は内耳性難聴で陽性となりえますが、判定にはSISIやABLBなどの閾値上検査が必要で、純音聴力検査だけではわかりません。高音漸傾型の加齢性難聴や急性の音響外傷との違いも押さえ、不可逆な難聴を防ぐための保護具着用や定期的な聴力検査の意義を理解しておくことが、産業保健の現場でも役立ちます。
解答・解説
正解はaです
オージオグラムの読み取り
示された純音聴力検査では、左右両耳とも4,000Hzを中心に閾値が谷状に上昇(聴力が低下)し、その前後の周波数、特に8,000Hzでは聴力がある程度回復している。気導閾値と骨導閾値はほぼ重なっており、両者の間に差(気導骨導差)はない。会話の理解に重要な500〜2,000Hzの閾値はほぼ正常範囲に保たれている。
考えられる病態
気導骨導差がないことから、障害部位は外耳・中耳ではなく内耳以降、すなわち感音難聴である。両側対称性で4,000Hz付近に限局した谷型の低下はC5 dip(シーファイブディップ)と呼ばれ、長期間にわたる騒音曝露による騒音性難聴に典型的な所見である。
設問の考え方
本問は、オージオグラムから直接読み取れる所見と、騒音性難聴の臨床的特徴(めまいの有無、語音明瞭度の保たれ方)を結びつけて判断する問題である。また、補充現象のように純音聴力検査だけでは評価できない項目を見分けることも求められている。
選択肢考察
- ○a. C5 dipがみられる。
両耳で4,000Hzの閾値だけが落ち込み、8,000Hzでは回復する谷型(V字型)の低下がみられる。これがC5 dipである。名称は、オージオメータの周波数を音階で表したときに4,096Hzがc5(5点ハ)に相当することに由来する。騒音性難聴の初期から現れる特徴的所見であり、本オージオグラムから読み取れる所見として正しい。
- ×b. 気導骨導差がみられる。
気導閾値と骨導閾値はともに同程度に上昇しており、両者の間に隔たりはない。気導骨導差(air-bone gap)は外耳や中耳で音の伝わりが障害される伝音難聴で生じる所見である。本例は感音難聴のパターンであり、誤りである。
- ×c. 補充現象が陽性である。
補充現象(リクルートメント現象)とは、閾値が上昇しているにもかかわらず、音を大きくすると急に正常耳と同様に大きく聞こえるようになる現象で、蝸牛(内耳)性難聴で陽性となる。騒音性難聴は蝸牛の外有毛細胞障害によるため補充現象を伴いうるが、その有無は純音聴力検査の閾値からは判定できない。SISI検査、ABLB検査(両耳音の大きさ平衡検査)、自記オージオメトリ(JergerⅡ型)などの閾値上検査が必要である。示された検査結果から判断できる事項ではないため、選べない。
- ×d. めまいを伴うことが多い。
騒音性難聴は、騒音によって蝸牛の有毛細胞が徐々に障害される病態であり、前庭(平衡をつかさどる部分)は障害されないため、めまいは通常みられない。随伴症状としては耳鳴が多い。めまいを伴う感音難聴としてはMénière病、突発性難聴の一部、外リンパ瘻などを考える。
- ×e. 語音明瞭度が著しく障害される。
語音明瞭度(言葉をどれだけ正確に聞き取れるか)は、主に会話音域である500〜2,000Hzの聴力に依存する。本例ではこの帯域の閾値がほぼ正常に保たれているため、日常会話の聞き取りは良好で、語音明瞭度が著しく低下することはない。騒音性難聴の初期に自覚症状が乏しく発見が遅れやすいのはこのためである。語音明瞭度が高度に低下するのは、後迷路性難聴(聴神経腫瘍など)や高度の感音難聴である。
騒音性難聴の概要
騒音性難聴は、工場・建設現場などで長期間(一般に数年以上)、おおむね85dB以上の騒音に曝露されることで生じる慢性の感音難聴である。蝸牛の基底回転付近の外有毛細胞が障害され、両側ほぼ対称性に進行する。
経過
初期は4,000Hz付近のみが低下するC5 dipを示し、会話音域は保たれるため自覚しにくい。曝露が続くとdipは深く広くなり、2,000Hz以下の会話音域にも及ぶと会話の聞き取りに支障が出る。一度障害された有毛細胞は再生しないため不可逆性であり、治療法はない。対策の中心は予防で、耳栓・イヤーマフなどの防音保護具の着用、作業環境の騒音低減、定期的な聴力検査(騒音職場の特殊健康診断)が重要である。
関連する難聴との区別
・音響外傷:爆発音など強大音への一回の曝露で急性に生じる。片側のこともある。 ・加齢性難聴(老人性難聴):両側対称性の高音漸傾型で、周波数が高くなるほど閾値が上昇し、8,000Hzでも回復しない点がC5 dipと異なる。語音明瞭度が閾値の割に低下しやすい。
伝音難聴と感音難聴
気導閾値のみが上昇し骨導が正常なら伝音難聴(気導骨導差あり)、両者が同程度に上昇していれば感音難聴、両者とも上昇し差もあれば混合難聴である。感音難聴はさらに内耳性(補充現象陽性)と後迷路性(補充現象陰性、語音明瞭度の著明な低下、聴性脳幹反応の異常)に分けられる。
POINT
・4,000Hzに限局した谷型の低下=C5 dip=騒音性難聴の典型所見 ・騒音性難聴は両側性の感音難聴で、気導骨導差はない ・会話音域(500〜2,000Hz)が保たれる初期は語音明瞭度は良好で自覚に乏しい ・めまいは伴わない(耳鳴は伴いやすい) ・補充現象は内耳性難聴で陽性となるが、判定には閾値上検査(SISI、ABLB、自記オージオメトリ)が必要で、純音聴力検査のみではわからない ・不可逆性のため予防(防音保護具・定期健診)が最重要
