糖は血糖と比べて読め―髄液検査で見抜く結核性髄膜炎
第107回医師国家試験 I問題 第24問
国試問題にチャレンジ
未治療の結核性髄膜炎患者の脳脊髄液所見として当てはまるのはどれか。 ただし,血糖値は98 mg/dLである。 糖(mg/dl) 蛋白(mg/dl) 細胞数(/mm3) 単核球数(/mm3) 基準 50~75 15~45 0~2 0~2 a 4 380 3,580 325 b 10 284 680 510 c 58 68 86 86 d 62 98 238 215 e 68 34 2 2
- a.4 380 3,580 325
- b.10 284 680 510
- c.58 68 86 86
- d.62 98 238 215
- e.68 34 2 2
対話形式の解説
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ドクターまとめ
髄液所見は「細胞の分画」と「糖」の2点で大きく鑑別でき、多核球優位+糖低下なら細菌性、単核球優位+糖低下なら結核性(真菌性・癌性も含む)、単核球優位+糖正常ならウイルス性を考えます。髄液糖は基準値だけでなく必ず血糖と比べて評価し、髄液糖/血糖比がおおむね0.4〜0.5未満なら低下と判断します。結核性髄膜炎では単核球優位の中等度細胞増加、蛋白の著明上昇、糖低下がそろい、ADA上昇やクロール低下が補助診断となります。亜急性に進行し脳神経麻痺や水頭症を合併しうるため、疑った段階で抗結核薬とステロイドによる治療を始めることが重要です。数値の読み方の型を身につけておくと、髄膜炎の初期対応を迷わず進められます。
解答・解説
正解はbです
髄液検査の数値から髄膜炎の原因を推定する問題である。表の各列は、糖(mg/dL)、蛋白(mg/dL)、細胞数(/mm3)、そのうちの単核球数(/mm3)を示している。
髄液所見を読む手順
1. 細胞数:増えているかどうか(基準は数個/mm3以下)。増加していれば髄膜に炎症がある。 2. 細胞の分画:総細胞数から単核球数を差し引けば多核球(主に好中球)の数がわかる。多核球優位なら細菌性髄膜炎を、単核球(リンパ球・単球)優位ならウイルス性・結核性・真菌性・癌性などを考える。 3. 糖:血糖値と比較して評価する。髄液糖は通常、血糖の約60〜70%(おおむね2/3)であり、髄液糖/血糖比が約0.4〜0.5未満なら低下と判断する。本問の血糖は98 mg/dLなので、髄液糖はおよそ60〜65 mg/dLが期待値となる。糖の低下は細菌・結核菌・真菌・腫瘍細胞による糖の消費や、血液脳関門での糖輸送障害を反映し、ウイルス性ではほとんど低下しない。 4. 蛋白:炎症による血液脳関門の破綻で上昇する。細菌性や結核性では著明に上昇しやすく、ウイルス性では軽度の上昇にとどまることが多い。
結核性髄膜炎の典型像
数週間かけて亜急性に進行し、髄液は単核球(リンパ球)優位の中等度の細胞増加(数十〜数百/mm3)、著明な蛋白上昇、糖の低下を示す。これに加えてアデノシンデアミナーゼ(ADA)の上昇やクロールの低下が補助診断に役立つ。まとめると「単核球優位+糖低下+蛋白高度上昇」の組み合わせを探せばよい。
選択肢考察
- ×a. 4 380 3,580 325
細胞数3,580/mm3と著しく増加し、そのうち単核球は325/mm3にすぎず、残りの約3,250/mm3(約9割)は多核球である。糖は4 mg/dLと著しく低く(血糖比約0.04)、蛋白も380 mg/dLと高値である。多核球優位の高度な細胞増加、糖の著減、蛋白の上昇という組み合わせは、細菌性(化膿性)髄膜炎の典型的な所見である。結核性髄膜炎でもごく初期には好中球が目立つことがあるが、このような数千単位の多核球優位の細胞増加は細菌性を強く示す。
- ○b. 10 284 680 510
細胞数680/mm3のうち単核球が510/mm3(約75%)を占め、単核球優位の細胞増加である。糖は10 mg/dLで血糖98 mg/dLに対する比は約0.1と明らかに低下し、蛋白は284 mg/dLと著明に上昇している。「単核球優位の中等度の細胞増加+糖低下+蛋白高度上昇」という組み合わせは結核性髄膜炎の典型像に一致する。なお同様のパターンは真菌性(クリプトコックスなど)髄膜炎や癌性髄膜炎でもみられるため、実際には髄液ADA、結核菌の塗抹・培養・核酸増幅検査(PCR)、墨汁染色やクリプトコックス抗原、細胞診などで鑑別を進める。
- ×c. 58 68 86 86
細胞数86/mm3はすべて単核球で、軽度の単核球優位の細胞増加である。糖は58 mg/dLで血糖比約0.6と保たれ、蛋白は68 mg/dLと軽度上昇にとどまる。糖の低下がない単核球優位の軽度細胞増加はウイルス性(無菌性)髄膜炎に合致する所見であり、結核性髄膜炎の特徴である糖低下を欠く。
- ×d. 62 98 238 215
細胞数238/mm3のうち単核球が215/mm3(約9割)で単核球優位の細胞増加があり、蛋白は98 mg/dLと中等度の上昇である。しかし糖は62 mg/dLで血糖比約0.63と正常範囲である。糖が保たれた単核球優位の細胞増加はウイルス性髄膜炎に典型的であり、糖が低下する結核性髄膜炎には当てはまらない。
- ×e. 68 34 2 2
糖68 mg/dL(血糖比約0.7)、蛋白34 mg/dL、細胞数2/mm3(単核球)といずれも基準範囲内であり、正常な髄液所見である。未治療の結核性髄膜炎で髄液が正常であることは考えにくい。
髄膜炎の病原体別の典型的な髄液所見
細菌性:外観は混濁。細胞数は数百〜数千/mm3以上で多核球(好中球)優位。蛋白は著明上昇。糖は著明低下。 結核性:外観は水様〜キサントクロミー、静置でフィブリン網(日光微塵、クモの巣状の析出)がみられることがある。細胞数は数十〜数百/mm3で単核球優位。蛋白は著明上昇。糖は低下。クロール低下、ADA上昇。 真菌性(クリプトコックスなど):単核球優位、蛋白上昇、糖低下。墨汁染色、クリプトコックス抗原で診断。 ウイルス性:水様透明。細胞数は数十〜数百/mm3で単核球優位(発症ごく早期は多核球が混じることがある)。蛋白は正常〜軽度上昇。糖は正常。 癌性:単核球優位の細胞増加、蛋白上昇、糖低下。細胞診で腫瘍細胞を確認する。
結核性髄膜炎の臨床
発熱、頭痛、意識障害などが数週間の経過で亜急性に進行する。脳底部に病変が生じやすく(脳底髄膜炎)、動眼神経・外転神経などの脳神経麻痺、交通性水頭症、血管炎による脳梗塞を合併しうる。治療は多剤併用の抗結核薬で、脳浮腫や後遺症の軽減目的に副腎皮質ステロイドを併用する。予後不良となりうるため、疑った時点で早期に治療を開始することが重要である。
POINT
・髄液所見は「細胞の分画」と「糖」の2点で大きく鑑別する。 ・多核球優位+糖低下 → 細菌性。 ・単核球優位+糖低下 → 結核性(真菌性・癌性も)。 ・単核球優位+糖正常 → ウイルス性。 ・髄液糖は必ず血糖と比べて評価する(正常は血糖の約2/3、比0.4〜0.5未満で低下)。 ・結核性ではADA上昇、クロール低下が補助診断となる。
