StudyMed医師国家試験

気管支の隣にいるのは誰?―肺動脈と肺静脈を見分ける胸部CTの「伴走ルール」

第107回医師国家試験 G問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第107回 G問題 第11問

成人男性の胸部CTを別に示す。  各部位の解剖名で誤っているのはどれか。

第107回 G問題 第11問の問題画像
  1. a.①:右気管支
  2. b.②:左上葉気管支起始部
  3. c.③:左下肺静脈
  4. d.④:食道
  5. e.⑤:葉間胸膜

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胸部CTの横断像で肺門部の解剖を同定する問題だ。カギは「この断面がどの高さか」と「肺動脈と肺静脈の走り方の違い」の2つ。まずは画像の向きから確認しよう。CTの横断像はどちらから見ている図だったかな。
医学生医学生
足側から見上げた向きなので、画面の左側が患者さんの右側、画面の上が腹側ですよね。
ドクタードクター
その通り。そして今回の画像は肺野条件で表示されている。含気のある肺や気管支は黒く、肺血管は白い線や点として見えるけれど、縦隔の軟部組織はほぼ一様に白っぽくなる。この断面は、左主気管支から上葉気管支が前外側へ分かれていく高さだ。
医学生医学生
解剖実習で、左主気管支は右より長くて、なだらかに走ると習いました。
ドクタードクター
いいね。左主気管支は分岐部から約4〜5cm進んでから上葉と下葉の気管支に分かれる。今回の断面は、ちょうどその左上葉気管支の起始部をとらえている。右側に見える円形の黒い管腔は右の気管支で、左上葉気管支と同じ高さだから、厳密には上葉気管支を出したあとの中間気管支幹と考えられる。
医学生医学生
ということは、右の気管支と左上葉気管支起始部の記載はどちらも正しいんですね。気管支の背側にある小さな空気を含んだ管は食道ですか。
ドクタードクター
そう、椎体のすぐ前で、気管・気管支の背側、下行大動脈の右前方を走るのが食道だ。内腔に少し空気が入っていると、CTで見つけやすい。では問題の血管だ。左の気管支の後外側に寄り添う太い血管は、何だと思う?
医学生医学生
左心房に向かう方向に見えるので、左下肺静脈かと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴なんだ。覚えてほしいのは「肺動脈は気管支と伴走し、肺静脈は気管支から離れて走る」という原則。肺動脈は気管支とペアになって肺区域の中心を走る。肺静脈は区域と区域の間を走って、肺門の前下方にある左心房へ注ぐんだ。
医学生医学生
組織学の講義で、細気管支の隣に必ず肺動脈の枝がいて、静脈は小葉間の隔壁にいる、と習ったのと同じ原則ですね。
ドクタードクター
まさにそれがマクロの画像にも当てはまる。しかも左肺動脈には特徴的な走り方がある。左主気管支の上を前から後ろへ乗り越えて、その後は気管支の後外側を下へ向かって走り、下葉の各区域に枝を出す。だから左上葉気管支の高さで気管支の後外側に見える太い血管は、左肺動脈の下行枝、つまり左下肺動脈なんだ。
医学生医学生
じゃあ左下肺静脈はどこに出てくるんですか。
ドクタードクター
下肺静脈は肺門構造のなかで最も尾側にある。この断面よりもっと下、下肺門のレベルで、気管支とは離れて前内側へ向かい、左心房の後面に入る。だから、この血管を左下肺静脈とした記述が誤りで、これが正解になる。
医学生医学生
右肺野を斜めに横切る細い線は葉間胸膜でいいですか。
ドクタードクター
いいよ。この高さでは大葉間裂、つまり斜裂にあたり、前方の上葉・中葉と後方の下葉を隔てている。葉間裂の周りは区域の境界の末梢部分なので、太い血管が乏しい帯のように見えるのも手がかりになる。右肺には斜裂と水平裂の2本、左肺には斜裂だけ、というのもセットで確認しておこう。
医学生医学生
気管支の高さで断面を決めて、気管支に寄り添う血管は動脈、離れている血管は静脈、と考えればいいんですね。
ドクタードクター
その2段構えで多くの構造が同定できる。もう一つ、右肺動脈は主に気管支の前方を走り、左肺動脈は左主気管支を乗り越えて後外側に回る、という左右差も押さえておくと強い。
医学生医学生
呼吸器内科の実習で、気管支鏡の前にCTで病変までの気管支のルートを確認していたのを思い出しました。
ドクタードクター
臨床ではまさにそこで役立つ。気管支鏡や肺切除の術前には、気管支と肺動脈・肺静脈の位置関係をCTで読む必要がある。肺門リンパ節の腫大を血管と見誤らないためにも、縦隔条件と肺野条件を切り替えながら、一つひとつの構造を連続するスライスで追いかける習慣をつけてほしい。

まとめ

胸部CTは足側から見上げた像で、画面の左が患者の右側になります。左上葉気管支起始部の高さでは、右の中間気管支幹、背側の食道、肺野の葉間裂(斜裂)などが同定でき、左の気管支の後外側を下行する太い血管は、左主気管支を乗り越えて後外側に回った左肺動脈の下行枝(左下肺動脈)です。肺動脈は気管支と伴走して区域の中心を走り、肺静脈は区域間を走って左心房へ注ぎ、下肺静脈は最も尾側の肺門構造であるため、この高さで気管支に寄り添う血管を左下肺静脈とするのは誤りです。断面の高さを気管支で決め、「伴走するのは動脈」という原則で血管を見分ける考え方は、気管支鏡や肺切除の術前評価など臨床の読影の基礎になります。

解答・解説

正解はcです

胸部CTの横断像を肺野条件で表示したものである。肺野条件では、含気のある肺や気管支がよく見える一方、縦隔の軟部組織はほぼ一様に白く表示される。画像の見方は、患者を足側から見上げた向きであり、画面の左側が患者の右側(R)、画面の上側が腹側(前方)になる。 この断面は、左上葉気管支が分岐しているレベルである。左肺門では、左主気管支から上葉気管支が前外側へ分かれていくところが見える(②)。右側では、気管支(①)が円形の含気像として横断されている。椎体のすぐ前には、小さな空気を含む食道(④)がある。左主気管支・左下葉気管支の後外側には、それに寄り添うように走る太い血管(③)がある。右肺の肺野には、細い線状の構造(⑤)がみられる。 解剖を同定するうえで重要なのは、肺動脈と肺静脈の走行の違いである。肺動脈は気管支と並走し、肺門から肺の末梢へと枝分かれしていく。これに対して肺静脈は、気管支から離れた肺区域の間(区域間)を走り、肺門の前下方にある左心房へ注ぐ。③は、左肺動脈が左主気管支の上を後方へ乗り越えたあと、気管支の後外側を下行する部分に相当する。つまり、左下葉へ向かう肺動脈(左下肺動脈、下行枝)であり、左下肺静脈ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  ①:右気管支

    ①は、右肺門の内側で黒い円形の含気像として横断されている管腔で、右の気管支である。反対側では左上葉気管支が分岐しており、それと同じ高さであることから考えると、厳密には右主気管支が上葉気管支を出したあとの中間気管支幹と考えられる。いずれにしても右側の気管支であり、記述は正しい。

  2. ×b.  ②:左上葉気管支起始部

    ②は、左主気管支から前外側へ分岐していく含気のある管腔で、左上葉気管支の起始部である。左主気管支は右より長く、分岐部から約4〜5cm進んだところで上葉気管支と下葉気管支に分かれる。この断面はちょうどその分岐部を捉えている。記述は正しい。

  3. ○c.  ③:左下肺静脈

    ③は、左の気管支の後外側に接して走る太い血管である。肺動脈は気管支と伴走するという原則から、これは左下肺動脈(左肺動脈の下行枝)と同定される。左肺動脈は左主気管支の上を前から後ろへ乗り越え、その後は気管支の後外側を下へ向かって走り、下葉の各区域へ枝を出す。一方、左下肺静脈は、下葉からの血液を集めて左心房へ注ぐ血管である。気管支とは伴走せず、この断面より尾側(下肺門のレベル)で、前内側へ向かって左心房の後面に入る。したがって、③を左下肺静脈とする記述は誤りであり、これが正解である。

  4. ×d.  ④:食道

    ④は、椎体の前方で気管分岐部から左主気管支の背側に位置し、内腔に少量の空気を含む管腔臓器である。これは食道である。食道は縦隔内で、気管・気管支の後方、下行大動脈の右前方を走る。内腔に空気があると、CTで同定しやすい。記述は正しい。

  5. ×e.  ⑤:葉間胸膜

    ⑤は、右肺の肺野を斜めに横切る細い線状の構造で、葉間胸膜(葉間裂)である。この高さでは大葉間裂(斜裂)にあたり、前方の上葉・中葉と後方の下葉を隔てている。葉間裂の周囲は、肺の区域どうしの境界にあたる末梢部分であり、太い血管が乏しい帯状の領域として見える。これが同定の手がかりになる。記述は正しい。

肺門部の構造の位置関係

・右肺門: 右主気管支は短く、急な角度で下行する。分岐部から約2〜3cmで上葉気管支を分け、その後は中間気管支幹となって中葉気管支と下葉気管支に分かれる。右肺動脈は、主に気管支の前方を走る。 ・左肺門: 左主気管支は長く、なだらかな角度で走る(約4〜5cm)。左肺動脈は左主気管支の上を乗り越え、後外側へ回る(左肺動脈が気管支をまたぐ「hyparterial」な関係)。そのため左上葉気管支の高さでは、肺動脈は気管支の後外側に見える。 ・肺静脈: 上肺静脈と下肺静脈は、左右とも肺門の前下方にあり、左心房に注ぐ。下肺静脈は最も尾側にある肺門構造である。

肺動脈と肺静脈の見分け方

・肺動脈: 気管支と並走し、肺区域の中心を走る(気管支と動脈は対になって走る)。 ・肺静脈: 気管支から離れ、区域と区域の間(区域間)を走る。末梢から肺門へ向かって合流し、左心房に集まる。 CTで気管支のすぐ隣に同じくらいの太さの円形・管状の血管があれば、それは肺動脈と考えてよい。

葉間裂

・右肺: 大葉間裂(斜裂)が上葉・中葉と下葉を隔て、小葉間裂(水平裂)が上葉と中葉を隔てる。 ・左肺: 大葉間裂(斜裂)だけがあり、上葉と下葉を隔てる。 葉間裂はCTの肺野条件で、細い線や、血管の乏しい帯状の領域として確認できる。

CTの表示条件

・肺野条件(ウィンドウ幅を広く、ウィンドウレベルを低く設定): 肺実質、気管支、肺血管を評価するのに適している。 ・縦隔条件: 縦隔のリンパ節、大血管、心臓などの軟部組織を評価するのに適している。

POINT

・肺動脈は気管支と並走して区域の中心を走り、肺静脈は区域間を走って左心房へ注ぐ。 ・左肺動脈は左主気管支を乗り越えて後外側を下行する。そのため左上葉気管支の高さで、気管支の後外側にある太い血管は左下肺動脈である。 ・下肺静脈は最も尾側にある肺門構造で、気管支とは伴走しない。 ・食道は気管・気管支の背側、椎体の前方にあり、内腔の空気が同定の手がかりになる。 ・胸部CTの画像では、画面の左が患者の右側である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。