「潜血陽性なのに赤血球がいない」―救出後の褐色尿が告げる挫滅症候群
第107回医師国家試験 F問題 第18問
国試問題にチャレンジ
50歳の男性。自宅で地震に遭い,倒れてきたたんすに右下肢を挟まれて動けなくなった。翌日に救出されて救急外来に搬送された。骨折はなく全身状態は良好であったが,褐色尿を認めた。 尿所見として考えられるのはどれか。
- a.糖陽性
- b.ビリルビン陽性
- c.潜血反応陽性
- d.沈渣に赤血球30~49/ 1視野
- e.沈渣に白血球10~30/ 1視野
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
四肢が長時間圧迫されたのちに救出された人に褐色尿がみられたら、骨格筋の崩壊による挫滅症候群とミオグロビン尿を考えます。尿潜血の試験紙はヘムのペルオキシダーゼ様活性を検出するため、ヘムを含むミオグロビンでも陽性となる一方、尿沈渣に赤血球はほとんどみられず、この「潜血陽性・沈渣赤血球なし」の解離がミオグロビン尿やヘモグロビン尿の重要な手がかりとなります。血尿では沈渣赤血球が多数、ビリルビン尿では潜血陰性・ビリルビン陽性と、潜血・沈渣・ビリルビンの組合せで褐色尿を鑑別できます。挫滅症候群では救出直後に全身状態が良好でも、高カリウム血症による不整脈、ショック、急性腎障害が起こりうるため、カリウムを含まない大量輸液と心電図モニターによる早期対応が不可欠です。尿検査の原理を理解しておくことは、災害医療や救急の現場で見逃しを防ぐ力につながります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・地震で倒れたたんすに右下肢を挟まれ、翌日に救出された(下肢が長時間圧迫されていた) ・骨折はなく、全身状態は良好 ・褐色尿がみられる
診断へのプロセス
四肢などの大きな筋肉群が長時間圧迫されると、その部分の骨格筋が虚血に陥って壊死する。圧迫が解除されて血流が再開すると、壊れた筋細胞から内容物が一気に全身循環へ流れ込む。これが挫滅症候群(クラッシュ症候群、圧挫症候群)である。震災や家屋倒壊で数時間以上挟まれていたという病歴は典型的で、救出直後は一見元気でも、その後に高カリウム血症による致死的不整脈やショック、急性腎障害(AKI)を起こしうる。本例の「全身状態は良好」という記載は、まさにこの疾患の落とし穴を表している。 骨格筋が崩壊すると(横紋筋融解)、筋肉内の色素蛋白であるミオグロビンが血中に放出され、糸球体で濾過されて尿中に出る。ミオグロビン尿は赤褐色〜コーラ色を呈するため、本例の褐色尿はミオグロビン尿と考えるのが自然である。外傷部位は下肢のみで、腎・尿路の損傷を示唆する所見はないため、出血による血尿の可能性は低い。
設問の考え方
ミオグロビン尿の尿検査上の特徴を問う問題である。尿試験紙の潜血反応は、ヘモグロビンのヘム部分がもつペルオキシダーゼ様活性を利用して色の変化をみる検査である。ミオグロビンも同じくヘムを含むため、潜血反応は陽性になる。一方、尿中に出ているのは色素蛋白であって赤血球そのものではないので、尿沈渣を顕微鏡で見ても赤血球はほとんどみられない。「潜血陽性なのに沈渣で赤血球がみられない(あるいは潜血の強さに見合うほどの赤血球がない)」という解離が、ミオグロビン尿(およびヘモグロビン尿)を疑う重要な手がかりとなる。
選択肢考察
- ×a. 糖陽性
尿糖が陽性になるのは、血糖値が腎の糖再吸収能力(腎閾値、おおむね160〜180mg/dL程度)を超える高血糖(糖尿病など)の場合や、近位尿細管の糖再吸収障害(腎性糖尿、Fanconi症候群など)の場合である。挫滅症候群によるミオグロビン尿とは直接の関係がなく、本例の褐色尿を説明する所見ではない。
- ×b. ビリルビン陽性
尿中に出るビリルビンは水溶性の直接(抱合型)ビリルビンで、閉塞性黄疸や肝細胞障害など直接ビリルビンが上昇する病態で陽性になる。このときも尿は褐色(ビール色)になるため色だけでは紛らわしいが、本例は長時間の下肢圧迫という病歴から筋崩壊によるミオグロビン尿と考えられ、肝胆道系疾患を疑う根拠はない。なお、溶血で増えるのは非抱合型の間接ビリルビンであり、これは尿中には出ない。
- ○c. 潜血反応陽性
尿潜血の試験紙はヘムのペルオキシダーゼ様活性を検出する。筋崩壊で放出されたミオグロビンはヘムを含むため、赤血球が尿中に出ていなくても潜血反応は陽性となる。挫滅症候群で褐色尿を呈する本例で最も考えられる尿所見である。
- ×d. 沈渣に赤血球30~49/ 1視野
尿沈渣の赤血球は正常では強拡大1視野あたり4個以下程度であり、30〜49個/視野は明らかな血尿を意味する。血尿は腎炎、尿路結石、尿路の腫瘍・外傷などでみられる所見である。ミオグロビン尿ではヘム蛋白が尿中にあるだけで赤血球は出ていないため、沈渣で赤血球は増えないのが特徴である。本例は下肢のみの外傷で尿路損傷を疑う根拠もない。
- ×e. 沈渣に白血球10~30/ 1視野
尿沈渣の白血球増加(膿尿)は、膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症、間質性腎炎などでみられる所見である。挫滅症候群によるミオグロビン尿とは関係がない。
挫滅症候群(クラッシュ症候群)の病態
・長時間の圧迫により骨格筋が虚血・壊死する。 ・圧迫解除(救出)後の再灌流で、筋細胞内のカリウム、ミオグロビン、乳酸、クレアチンキナーゼ(CK)などが全身に流出する。 ・損傷した筋に大量の体液が移動して患肢が腫れ、循環血液量減少性ショックを起こす。患肢ではコンパートメント症候群を合併しうる。
主な合併症
・高カリウム血症:心室細動などの致死的不整脈を起こし、救出直後の急変の原因となる。 ・急性腎障害:ミオグロビンによる尿細管閉塞・尿細管毒性に、循環血液量減少による腎血流低下が加わって起こる。酸性尿ではミオグロビンが円柱をつくりやすく、障害が強まる。 ・代謝性アシドーシス、低カルシウム血症(壊死筋へのカルシウム沈着による)など。
検査所見
・血清CKの著明な上昇、血清ミオグロビン上昇、高カリウム血症、高リン血症、低カルシウム血症。 ・尿:赤褐色〜褐色、潜血反応陽性、沈渣の赤血球はほとんどみられない。
治療の要点
・救出前から、または救出と同時に、カリウムを含まない輸液(生理食塩液など)を大量に投与し、尿量を確保する。 ・高カリウム血症への対応(心電図モニター、カルシウム製剤、グルコース・インスリン療法など)。 ・腎障害が進めば血液透析を行う。
褐色〜赤色尿の鑑別
・血尿:潜血陽性、沈渣赤血球多数。遠心すると上清は透明になり、沈殿物が赤い。 ・ヘモグロビン尿(血管内溶血):潜血陽性、沈渣赤血球はほとんどない。血漿はピンク〜赤色で、ハプトグロビンが低下する。 ・ミオグロビン尿(横紋筋融解):潜血陽性、沈渣赤血球はほとんどない。ミオグロビンは分子量が小さく速やかに尿中へ出るため、血漿の色は変わりにくい。CKが著明に上昇する。 ・ビリルビン尿:潜血陰性、尿ビリルビン陽性。 ・その他:ポルフィリン尿、薬剤(リファンピシンなど)や食物による着色では潜血は陰性。
POINT
・長時間の四肢圧迫+救出後の褐色尿 → 挫滅症候群によるミオグロビン尿を考える。 ・ミオグロビン尿(およびヘモグロビン尿)は「尿潜血陽性なのに沈渣の赤血球がみられない」のが特徴。 ・挫滅症候群では高カリウム血症による不整脈と急性腎障害に注意し、大量輸液で対応する。
