膀胱は空っぽか、満杯か―「無尿」と「尿閉」を分ける両側尿管結石
第107回医師国家試験 F問題 第12問
国試問題にチャレンジ
無尿をきたすのはどれか。
- a.大腸癌
- b.膀胱癌
- c.子宮筋腫
- d.前立腺肥大症
- e.両側尿管結石
対話形式の解説
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ドクターまとめ
無尿は1日尿量100mL未満の状態で、膀胱に尿がたまっているのに排出できない尿閉とは明確に区別されます。尿路の閉塞で無尿が生じるのは、両側尿管結石のように左右の上部尿路が同時に閉塞した場合か、単腎でその側が閉塞した場合です。前立腺肥大症など膀胱出口より下流の閉塞では尿閉となり、大腸癌・膀胱癌・子宮筋腫による尿管閉塞は通常片側性で、無尿の典型的な原因ではありません。腎後性腎不全は超音波での水腎症が手がかりとなり、尿管ステントや腎瘻による緊急ドレナージで腎機能の回復が期待できる一方、閉塞後利尿にも注意が必要です。「膀胱が空か満杯か」「閉塞は片側か両側か」という視点は、急性腎障害の原因検索の基本となります。
解答・解説
正解はeです
無尿とは、1日の尿量が100mL未満に減少した状態をいう(400mL未満は乏尿)。ここで重要なのは、無尿と尿閉を区別することである。 ・無尿:腎臓で尿がつくられない、またはつくられた尿が膀胱まで届かないため、膀胱内に尿がほとんどない状態。 ・尿閉:尿は膀胱までは届いてたまっているのに、膀胱から体外へ排出できない状態。 両者は導尿や超音波検査で膀胱内に尿がたまっているかどうかを見れば鑑別できる。 無尿の原因は、腎前性(高度の脱水やショックなどによる腎血流の低下)、腎性(急性尿細管壊死、急速進行性糸球体腎炎など腎実質の障害)、腎後性(尿路の閉塞)に分けられる。腎後性無尿が起こるのは、左右両方の尿管(または膀胱より上流の尿路)が同時に閉塞した場合、あるいはもともと機能している腎臓が一つしかない人(単腎)でその側の尿路が閉塞した場合である。片側の尿管だけが閉塞しても、反対側の腎臓から尿が膀胱に流れ込むため無尿にはならない。膀胱より下流(膀胱頸部・尿道)の閉塞では、尿は膀胱にたまるので尿閉となる。 本問の選択肢はいずれも尿路の閉塞に関係しうる疾患であるが、「両側の上部尿路を閉塞する」ことが病態の本質であり、典型的に無尿をきたすのは両側尿管結石である。
選択肢考察
- ×a. 大腸癌
大腸癌は進行すると周囲へ直接浸潤することがあり、S状結腸癌や直腸癌が尿管や膀胱に及ぶと、水腎症(尿の流れが妨げられて腎盂・腎杯が拡張した状態)をきたすことがある。しかし、左右両側の尿管を同時に閉塞するほどの浸潤はまれであり、通常は片側性で、腎臓の片方が機能していれば無尿にはならない。大腸癌が典型的に無尿をきたす疾患とはいえない。
- ×b. 膀胱癌
膀胱癌が膀胱三角部の尿管口付近に生じたり、筋層へ深く浸潤したりすると、尿管口が閉塞して水腎症をきたすことがある。理論上は、広い範囲に浸潤した癌が両側の尿管口を巻き込めば無尿となりうるが、そのような状態に至るまでに血尿(とくに無症候性肉眼的血尿)や膀胱刺激症状などで発見されることがほとんどであり、臨床的に無尿の典型的な原因とはいえない。
- ×c. 子宮筋腫
子宮筋腫は子宮平滑筋から発生する良性腫瘍で、過多月経・貧血・月経痛や、周囲臓器の圧迫による頻尿・便秘などを起こす。巨大化すると尿管を外から圧迫して水腎症をきたすことはあるが、両側の尿管を完全に閉塞して無尿に至ることはまれである。また、頸部筋腫などが膀胱頸部・尿道を圧迫した場合に生じるのは排尿障害や尿閉であり、無尿ではない。
- ×d. 前立腺肥大症
前立腺肥大症は、膀胱の出口を取り囲む前立腺(主に移行域)が肥大して尿道を圧迫し、排尿困難、残尿感、夜間頻尿などを起こす疾患である。進行したり、飲酒・感冒薬(抗コリン作用のある薬剤)・長時間の我慢などをきっかけにしたりして尿閉となることがあるが、この場合、尿は腎臓でつくられて膀胱にたまっており、無尿ではない。尿閉が長く続けば両側水腎症から腎後性腎不全に進むことはあるが、それでも本質は膀胱の出口の閉塞による尿閉であり、導尿すれば多量の尿が得られる点で無尿とは区別される。
- ○e. 両側尿管結石
結石が左右両方の尿管に嵌頓(はまり込んで動かなくなること)すると、両腎でつくられた尿がいずれも膀胱へ流れなくなり、膀胱は空のまま無尿となる。これが腎後性無尿(閉塞性腎不全)の典型例である。超音波検査で両側の水腎症と空虚な膀胱を認めれば診断に役立つ。放置すると血清クレアチニン値の上昇や高カリウム血症などの腎不全の所見が急速に進行し、感染を伴えば腎盂腎炎から敗血症(閉塞性腎盂腎炎)に至るおそれもあるため、尿管ステント留置や経皮的腎瘻造設による緊急の尿路確保(ドレナージ)が必要である。なお、単腎の患者では片側の尿管結石でも無尿となりうる。
尿量の異常の定義
・無尿:1日尿量100mL未満 ・乏尿:1日尿量400mL未満(腎臓が1日に生じる老廃物を排泄するのに最低限必要な量に満たない) ・多尿:1日尿量が概ね2,500〜3,000mLを超える状態 ・尿閉:膀胱内に尿がたまっているのに排出できない状態(尿量の異常ではなく排尿の障害)
急性腎障害の原因の分類
・腎前性:脱水、出血、ショック、心不全などによる腎血流の低下 ・腎性:急性尿細管壊死(虚血、腎毒性物質)、急速進行性糸球体腎炎、急性間質性腎炎など ・腎後性:両側の尿管閉塞(両側尿管結石、後腹膜線維症、骨盤内悪性腫瘍の浸潤など)、単腎での尿管閉塞、膀胱出口より下流の閉塞(前立腺肥大症、前立腺癌、神経因性膀胱などによる尿閉が長期化した場合)
腎後性腎不全の特徴
・超音波検査で水腎症を認める(腎前性・腎性では通常認めない)。 ・閉塞を解除すれば腎機能が回復しうるため、見逃さずに早期にドレナージすることが重要である。 ・閉塞解除後に一時的に大量の尿が出ること(閉塞後利尿)があり、脱水や電解質異常に注意する。
無尿と尿閉の鑑別
腹部超音波検査や導尿で膀胱内の尿の有無を確認する。膀胱に尿がたまっていれば尿閉、空であれば無尿である。尿閉では下腹部の膨隆や強い尿意・下腹部痛を伴うことが多い。
POINT
・無尿は1日尿量100mL未満、乏尿は400mL未満。 ・無尿(膀胱に尿がない)と尿閉(膀胱に尿がたまって出せない)を区別する。 ・腎後性無尿は、両側の上部尿路閉塞(両側尿管結石など)または単腎での尿路閉塞で生じる。 ・前立腺肥大症など膀胱出口より下流の閉塞は尿閉をきたす。 ・腎後性腎不全は水腎症が手がかりで、緊急の尿路ドレナージの適応となる。
