StudyMed医師国家試験

首のしこりは「のどの奥」からのサイン―梨状陥凹に潜む下咽頭癌

第107回医師国家試験 D問題 第26問

国試問題にチャレンジ

第107回 D問題 第26問

65歳の男性。徐々に増大する左頸部の腫瘤と嚥下障害とを主訴に来院した。左頸部に径2.5 cmのリンパ節を触知し,同部位の穿刺吸引細胞診で扁平上皮癌と診断された。喫煙は20本/日を30年間。飲酒は日本酒4合/日を45年間。喉頭内視鏡像を別に示す。  最も考えられるのはどれか。

第107回 D問題 第26問の問題画像
  1. a.喉頭癌
  2. b.上咽頭癌
  3. c.中咽頭癌
  4. d.下咽頭癌
  5. e.頸部食道癌

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、頸部リンパ節に見つかった扁平上皮癌の原発巣を突き止める問題だ。注目してほしいのは、喫煙・飲酒歴、症状が嗄声ではなく嚥下障害であること、そして喉頭内視鏡で腫瘍がどの解剖学的部位にあるか、の3点だよ。
医学生医学生
頸部リンパ節から扁平上皮癌が出たら、まずは頭頸部癌の転移を考える、と耳鼻科の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。口腔、咽頭、喉頭の扁平上皮癌が頸部リンパ節に転移していると考えて、原発巣を探しに行く。喫煙と大量飲酒の両方が強い危険因子になる扁平上皮癌としては、下咽頭癌、中咽頭癌、喉頭癌、食道癌が挙がるね。
医学生医学生
喫煙歴はブリンクマン指数で600、それに日本酒4合を45年…かなりのハイリスクですね。
ドクタードクター
そうだね。では内視鏡像を見てみよう。喉頭の左外側にあるくぼみ、左梨状陥凹に表面が不整な腫瘤がある。梨状陥凹は咽頭のどの部分に属するか、わかるかな。
医学生医学生
喉頭のすぐ横なので、喉頭の一部かと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが間違えやすいポイントだ。梨状陥凹は喉頭の両脇にある食べ物の通り道で、下咽頭に属する。しかも下咽頭癌の中で最も多い発生部位なんだ。咽頭の区分を整理しておこう。上咽頭は頭蓋底から軟口蓋上面の高さまで、中咽頭は軟口蓋上面から喉頭蓋谷底部の高さまで、下咽頭はそこから輪状軟骨下縁の高さまで。下咽頭は梨状陥凹、輪状後部、後壁の3つの亜部位に分かれる。
医学生医学生
解剖実習で喉頭を後ろから開いたとき、両脇にポケットみたいなくぼみがあったのを思い出しました。あれが梨状陥凹ですね。
ドクタードクター
いい記憶だね。魚の骨がよく刺さる場所でもある。下咽頭癌は初期には咽頭の違和感程度で症状に乏しいうえ、リンパ流が豊富なので小さいうちから頸部リンパ節に転移しやすい。だから「首のしこり」で受診し、その時点で進行癌、というのが典型的な経過なんだ。
医学生医学生
喉頭癌も喫煙が原因で高齢男性に多いですよね。迷いませんか。
ドクタードクター
迷うのは自然だよ。ただ、最も多い声門癌は早期から嗄声が出るので見つかりやすく、声門はリンパ管が乏しいから頸部リンパ節転移はまれだ。声門上癌ならリンパ節転移もありうるけれど、今回の腫瘍は喉頭の内腔ではなく外側の梨状陥凹にある。主訴も嗄声ではなく嚥下障害だね。
医学生医学生
上咽頭癌はEBウイルスと関係が深いんでしたっけ。
ドクタードクター
そう。上咽頭は鼻の奥にあり、EBウイルス関連の低分化型・未分化癌が多く、中国南部や東南アジアに多い。耳管がふさがって滲出性中耳炎を起こしたり、頭蓋底に浸潤して外転神経麻痺による複視が出たりするのが特徴だ。喉頭内視鏡で見る梨状陥凹とは場所がまるで違う。
医学生医学生
中咽頭癌は最近HPVが話題ですよね。
ドクタードクター
よく勉強しているね。中咽頭は口を開けて見える範囲で、口蓋扁桃に多い。HPV、特に16型陽性例が増えていて、比較的若く喫煙歴のない人が嚢胞状のリンパ節転移で見つかることが多い。ただ今回の腫瘍は中咽頭より下方にある。
医学生医学生
頸部食道癌も喫煙と飲酒が危険因子で、嚥下障害も出ますよね。
ドクタードクター
そうなんだ。ただ頸部食道は輪状軟骨下縁より下にあるから、喉頭内視鏡で梨状陥凹の腫瘍として見えることはない。とはいえ食道癌は無関係ではないよ。同じ危険因子に長年さらされた粘膜では、下咽頭と食道に癌が同時性・異時性に多発しやすい。これをfield cancerizationと呼ぶ。
医学生医学生
だから下咽頭癌の患者さんでは、上部消化管内視鏡で食道も必ず調べるんですね。
ドクタードクター
その通り。飲酒で顔が赤くなるALDH2活性の低い体質の人が大量飲酒を続けると、リスクはさらに高まる。治療は、早期なら内視鏡的切除や経口的切除、放射線療法。進行例では咽頭喉頭頸部食道摘出術と遊離空腸による再建、頸部郭清術、あるいは化学放射線療法を組み合わせる。喉頭を摘出すると声を失うから、喉頭温存治療も検討されるんだ。
医学生医学生
輪状後部癌はPlummer-Vinson症候群と関連して女性に多い、というのもセットで覚えておきます。
ドクタードクター
完璧だね。頸部腫瘤を見たら、触診だけで終わらせず、必ずのどの奥まで観察する習慣をつけてほしい。

まとめ

頸部リンパ節に扁平上皮癌を認めた場合は、口腔・咽頭・喉頭を中心とした頭頸部癌の転移を考えて原発巣を探します。喉頭の外側にある梨状陥凹は下咽頭に属し、下咽頭癌の最好発部位であり、喫煙・大量飲酒の高齢男性で嚥下障害と頸部リンパ節転移を伴う経過は下咽頭癌に典型的です。下咽頭癌は初期症状に乏しくリンパ流が豊富なため、リンパ節転移を初発症状として進行癌で見つかることが多く、一方で声門癌は早期の嗄声で発見されやすく転移は少ない点が対照的です。上咽頭癌はEBウイルス、中咽頭癌はHPVとの関連も押さえ、下咽頭癌では食道癌の重複を念頭に上部消化管内視鏡で食道も必ず評価します。咽頭の解剖学的区分と各部位の癌の特徴を結びつけることが、頭頸部癌の診断の基本となります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・65歳男性 ・徐々に大きくなる左頸部腫瘤と嚥下障害 ・左頸部リンパ節(径2.5 cm)の穿刺吸引細胞診で扁平上皮癌 ・喫煙:20本/日×30年(ブリンクマン指数 20×30=600) ・飲酒:日本酒4合/日×45年(大量飲酒) ・喉頭内視鏡:左梨状陥凹(喉頭の左外側にある、食べ物の通り道となるくぼみ)に表面が不整な腫瘤

診断へのプロセス

頸部リンパ節から扁平上皮癌が見つかった場合、まず頭頸部(口腔、咽頭、喉頭)の扁平上皮癌からのリンパ節転移を考え、原発巣を探す。喫煙と大量飲酒の両方が強い危険因子となる扁平上皮癌として、下咽頭癌、中咽頭癌、喉頭癌、食道癌が挙がる。 症状は嚥下障害であり、嗄声(声がれ)が主症状ではない点から、声帯を中心とする喉頭の病変より、食物の通り道の病変が考えやすい。そして内視鏡像で左梨状陥凹に腫瘍が確認されている。梨状陥凹は下咽頭に属する部位であり、下咽頭癌の中で最も発生頻度の高い部位である。 下咽頭癌は初期症状が乏しく(咽頭の違和感、軽い嚥下時痛程度)、下咽頭はリンパ流が豊富なため、原発巣が小さいうちから頸部リンパ節に転移しやすい。そのため、本例のように頸部腫瘤を主訴に受診し、初診時にすでにリンパ節転移を伴っている例が多い。

設問への考え方

解剖学的な部位(梨状陥凹=下咽頭)と、喫煙・飲酒歴、頸部リンパ節転移を初発症状とする経過を結びつければ、最も考えられるのは下咽頭癌である。

選択肢考察

  1. ×a.  喉頭癌

    喉頭癌も喫煙と強く関係する高齢男性に多い扁平上皮癌である。最も多い声門癌では早期から嗄声が出現し、声門にはリンパ管が乏しいため頸部リンパ節転移はまれである。声門上癌では咽頭違和感やリンパ節転移がみられるが、進行すると嗄声、吸気性喘鳴、呼吸困難が目立つ。本例は腫瘍が喉頭の内腔ではなく、喉頭の外側にある梨状陥凹に存在しており、喉頭癌ではない。

  2. ×b.  上咽頭癌

    上咽頭(鼻の奥、後鼻孔から軟口蓋上面の高さまで)に生じる癌で、EBウイルス(Epstein-Barrウイルス)との関連が深い低分化型扁平上皮癌・未分化癌が多い。中国南部や東南アジアに多く、若年者にもみられる。症状は鼻閉、鼻出血、耳管閉塞による滲出性中耳炎(耳閉感・難聴)、頸部リンパ節腫脹、頭蓋底への浸潤による脳神経麻痺(外転神経麻痺による複視など)である。喉頭内視鏡で見える梨状陥凹の病変とは部位が異なる。

  3. ×c.  中咽頭癌

    中咽頭(口を開けて見える口蓋扁桃、舌根、軟口蓋、咽頭後壁の範囲)に生じる癌で、口蓋扁桃に多い。喫煙・飲酒のほか、近年はヒトパピローマウイルス(HPV、特に16型)陽性例が増えており、この場合は比較的若年で喫煙歴がなく、頸部リンパ節の嚢胞状転移で見つかることが多い。咽頭痛や嚥下時痛を来すが、本例の腫瘍は中咽頭より下方の梨状陥凹にあるため、中咽頭癌ではない。

  4. ○d.  下咽頭癌

    喉頭内視鏡で左梨状陥凹に表面不整な腫瘍があり、下咽頭癌と診断できる。高齢男性、長期の喫煙と大量飲酒という典型的な危険因子を持ち、嚥下障害と頸部リンパ節転移(扁平上皮癌)という臨床像もよく合致する。下咽頭癌は症状が出にくく、リンパ節転移を初発症状として進行癌で発見されることが多い頭頸部癌の代表である。

  5. ×e.  頸部食道癌

    頸部食道癌も喫煙・飲酒を危険因子とする扁平上皮癌で、嚥下障害や頸部リンパ節転移を来しうる。しかし病変は輪状軟骨下縁より下方の食道にあり、喉頭内視鏡で梨状陥凹に腫瘍として観察されることはない。なお、飲酒・喫煙という共通の危険因子により、下咽頭癌には食道癌が同時性・異時性に重複しやすい(field cancerization)ため、下咽頭癌の患者では上部消化管内視鏡で食道も必ず調べる。

咽頭の区分

・上咽頭:頭蓋底から軟口蓋上面の高さまで(鼻腔の後方) ・中咽頭:軟口蓋上面の高さから喉頭蓋谷底部(舌骨上縁)の高さまで(口腔の後方)。前壁(舌根・喉頭蓋谷)、側壁(口蓋扁桃)、後壁、上壁(軟口蓋・口蓋垂) ・下咽頭:喉頭蓋谷底部(舌骨上縁)の高さから輪状軟骨下縁の高さまで。梨状陥凹、輪状後部、後壁の3亜部位に分けられる

下咽頭癌

・大部分が扁平上皮癌。高齢男性に多く、喫煙と飲酒が最大の危険因子。飲酒で顔が赤くなる体質(アルデヒド脱水素酵素ALDH2の活性が低い人)で大量飲酒を続けるとリスクがさらに高まる。 ・亜部位は梨状陥凹が最も多い。輪状後部癌は女性に比較的多く、鉄欠乏性貧血・嚥下障害・舌炎を伴うPlummer-Vinson症候群との関連が知られる。 ・初期症状は咽頭違和感、嚥下時のつかえ感・痛み程度で乏しい。進行すると嚥下障害、耳への放散痛、嗄声(喉頭浸潤や反回神経麻痺による)が出る。 ・頸部リンパ節転移の頻度が高く、初診時に多くがリンパ節転移を伴う。頭頸部癌の中でも予後が悪い部類である。 ・食道癌などの重複癌が多い。 ・治療:早期例は内視鏡的切除や経口的切除、放射線療法。進行例では咽頭喉頭頸部食道摘出術と遊離空腸による再建、頸部郭清術、または化学放射線療法を組み合わせる。喉頭を摘出すると発声機能を失うため、喉頭温存治療も検討される。

頸部リンパ節の扁平上皮癌を見たら

頭頸部(口腔、咽頭、喉頭)を中心に原発巣を検索する。原発巣が見つからない場合は原発不明頸部転移癌として扱い、中咽頭(口蓋扁桃・舌根)や上咽頭の潜在病変、HPV・EBウイルスの関与も検索する。

POINT

・梨状陥凹は下咽頭に属し、下咽頭癌の最好発部位である。 ・下咽頭癌:高齢男性、喫煙・飲酒、初期症状に乏しく頸部リンパ節転移で見つかることが多い。食道癌の重複に注意する。 ・喉頭(声門)癌は嗄声で早期発見されやすく、リンパ節転移は少ない。 ・上咽頭癌はEBウイルス、中咽頭癌は喫煙・飲酒に加えてHPVが関与する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。