StudyMed医師国家試験

「一人でも多く救う」ための仕組み―トリアージは誰がするのか

第107回医師国家試験 B問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第107回 B問題 第5問

災害医療について正しいのはどれか。

  1. a.災害拠点病院は市町村が指定する。
  2. b.トリアージは医師でなくても行うことができる。
  3. c.災害現場では医師は救急救命士の指揮下に入る。
  4. d.防災体制を整備する地域的単位を二次医療圏と呼ぶ。
  5. e.災害医療とは災害派遣医療チーム〈DMAT〉の医療活動のことである。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は災害医療の制度と現場活動の基本を問う問題だ。個々の知識もさることながら、まずは「災害医療は平時の救急医療と何が違うのか」という根本を押さえると、選択肢の正誤が判断しやすくなる。どう違うと思う?
医学生医学生
平時の救急は目の前の患者さんに全力を尽くしますけど、災害時は患者さんが多すぎて手が回らない、ということでしょうか。
ドクタードクター
そうだね。災害医療は、地域の医療提供能力を大きく上回る傷病者が一度に発生したときの医療だ。だから目標が「一人に最善」から「限られた資源でできるだけ多くを救命する」に変わる。そのために欠かせないのが、緊急度・重症度で優先順位をつけるトリアージなんだ。
医学生医学生
救急医学の講義でトリアージタッグを実際に見ました。でも、優先順位を決めるのは重い判断なので、医師がやるものだと思っていました。
ドクタードクター
そこが今回の核心だね。実はトリアージの実施者を限定する法令上の規定はなく、医師でなくても行うことができる。多数の傷病者を迅速に振り分けるには、医師だけでは到底足りないからね。
医学生医学生
じゃあ現場では誰が最初にトリアージしているんですか。
ドクタードクター
多くの場合、早く現場に到着する救急隊員や救急救命士だ。START法という方法で、歩けるか、呼吸、循環、意識の順に短時間で判定する。歩ければ緑、気道確保しても呼吸がなければ黒、呼吸数30回/分以上や橈骨動脈が触れない、毛細血管再充満時間が2秒を超える、簡単な指示に従えない、のどれかがあれば赤、それ以外は黄だ。病院に着いたら看護師や救急医が再評価する。
医学生医学生
状態は変わるので、一度つけたタッグもそのままではないんですね。
ドクタードクター
その通り。トリアージは繰り返し行うのが原則だ。では制度面の選択肢も見ていこう。災害拠点病院を指定するのは誰だと思う?
医学生医学生
問題文では市町村とありますが、医療計画は都道府県が作るので、都道府県でしょうか。
ドクタードクター
正解。災害拠点病院は都道府県が指定する。阪神・淡路大震災で被災地の病院が機能不全に陥った反省から、1996年の厚生省の通知で整備が始まった。基幹災害拠点病院が各都道府県に1か所以上、地域災害拠点病院が原則として二次医療圏ごとに1か所以上置かれ、24時間対応、DMATの保有、耐震構造やヘリポート、自家発電や備蓄などが求められる。
医学生医学生
二次医療圏ごとに置かれるなら、二次医療圏が防災体制の単位という記述も正しいように見えてしまいます。
ドクタードクター
よくある誤解だね。二次医療圏は医療法に基づいて都道府県が医療計画で定める単位で、特殊な医療を除いた一般的な入院医療を完結させ、病床を整備するために複数の市町村をまとめたものだ。地域災害拠点病院の配置に使われてはいるけれど、二次医療圏の定義そのものは防災のための単位ではない。
医学生医学生
医師が救急救命士の指揮下に入る、というのはさすがに違いますよね。救急救命士は特定行為のときに医師の指示を受ける立場なので。
ドクタードクター
そう、そのような定めはない。ただ逆に、医師が現場全体を指揮すると決まっているわけでもない。日本では自治体、消防、警察、自衛隊がそれぞれ本部を設けて活動していて、組織を越えた一元的な指揮命令系統は法的には定められていない。だからこそ機関同士の連携と情報共有が重視され、医療チームは現場の指揮本部や保健医療調整本部の調整のもとで動くのが望ましいんだ。
医学生医学生
最後の、災害医療はDMATの活動のこと、というのも言い過ぎな気がします。地域医療実習で、避難所の保健活動の話を聞きました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。DMATは医師・看護師・業務調整員からなり、発災からおおむね48時間以内の急性期に活動できるよう訓練されたチームで、災害医療の重要な担い手だ。でも災害医療はそれだけではない。避難所での医療・保健活動、感染症対策、慢性疾患の診療継続、DPATによる精神的ケアなど、急性期から復旧・復興期までを含む広い概念なんだ。
医学生医学生
整理すると、正しいのはトリアージは医師でなくても行える、という記述だけですね。
ドクタードクター
その通り。最後に体系として覚えておきたいのがCSCATTTだ。Command & Control(指揮・統制)、Safety(安全)、Communication(情報伝達)、Assessment(評価)の組織的な対応と、Triage、Treatment、Transportの3Tからなる。特にSafetyは、自分自身、現場、生存者の順で安全を確保するという意味で、救助者が二次被害に遭わないことが大前提になる。
医学生医学生
OSCEの救急の課題でも、まず周囲の安全確認からと教わりました。災害現場でも同じなんですね。
ドクタードクター
そう、原則は共通だ。研修医になると院内の災害訓練でトリアージ役を任されることもあるから、START法の手順とタッグの色の意味は、体で覚えておくといいよ。

まとめ

災害医療は、地域の医療能力を上回る傷病者が一度に発生した状況で、限られた資源を使ってできるだけ多くの命を救うことを目標とする医療です。そのために不可欠なトリアージは実施者の職種が法令で限定されておらず、救急救命士や看護師もSTART法などを用いて行い、状態の変化に応じて繰り返し再評価します。災害拠点病院は都道府県が指定し、二次医療圏は一般的な入院医療を完結させるための地域単位であって防災体制の単位ではありません。また災害医療はDMATの急性期活動にとどまらず、避難所医療、公衆衛生、精神的ケアまで含む幅広い概念です。CSCATTTの原則とトリアージ区分を理解しておくことは、試験対策だけでなく、院内災害訓練や実際の災害対応に参加するうえでの土台になります。

解答・解説

正解はbです

テーマ

災害医療に関する制度と現場活動の基本を問う問題である。

災害医療の特徴

災害医療とは、大規模な災害によって、その地域の医療提供能力を大きく上回る数の傷病者が一度に発生したときに行われる医療である。平常時の救急医療が「目の前の一人に最善を尽くす」ことを目標とするのに対し、災害医療では、限られた人員・物資・搬送手段の中で「できるだけ多くの傷病者を救命する」ことが目標となる。この違いから、傷病者の緊急度・重症度に応じて治療や搬送の優先順位を決めるトリアージが不可欠となる。

正解を導く考え方

・トリアージは多数の傷病者に対して迅速に行う必要があり、医師だけでは手が足りない。そのため法的に実施者の職種は限定されておらず、救急救命士、看護師、救急隊員なども行う。実際、現場では救急隊や救急救命士が最初のトリアージを担うことが多い。 ・制度面では、災害拠点病院を指定するのは都道府県であり、二次医療圏は一般的な入院医療を提供する地域単位である。 ・指揮系統については、医師と救急救命士の間に一方が他方の指揮下に入るという定めはない。 ・災害医療はDMATの活動だけでなく、避難所での医療・保健活動、精神的ケア、公衆衛生対策などを含む広い概念である。

選択肢考察

  1. ×a.  災害拠点病院は市町村が指定する。

    災害拠点病院を指定するのは市町村ではなく都道府県である。災害拠点病院は、1995年の阪神・淡路大震災で被災地の医療機関が機能不全に陥った経験を踏まえ、1996年の厚生省(当時)の通知によって整備が始まった。原則として各二次医療圏に1か所以上の地域災害拠点病院、各都道府県に1か所以上の基幹災害拠点病院が置かれ、24時間の救急対応、多数傷病者の受け入れ、広域搬送への対応、DMATの保有、耐震構造やヘリポート、自家発電・備蓄などの要件が定められている。

  2. ○b.  トリアージは医師でなくても行うことができる。

    トリアージを実施できる職種を限定する法令上の規定はなく、医師以外の医療従事者も行うことができる。災害現場では、到着の早い救急隊員・救急救命士がSTART法(歩行の可否、呼吸、循環、意識の順に短時間で判定する方法)などを用いて一次トリアージを行い、病院到着後は救急看護師や救急医が再評価(二次トリアージ)を行うことが多い。傷病者の状態は刻々と変化するため、トリアージは一度で終わらせず繰り返し行う。

  3. ×c.  災害現場では医師は救急救命士の指揮下に入る。

    災害現場で医師が救急救命士の指揮下に入るという定めはない。むしろ救急救命士は、特定行為を行う際に医師の指示を受ける立場にある。日本の災害時には、自治体、消防、警察、自衛隊などがそれぞれ対策本部や指揮本部を設けて活動しており、組織の枠を超えた一元的な指揮命令系統は法的には定められていない。そのため各機関の間で連携・情報共有を図ることが重視され、医療チームは現場の指揮本部や保健医療調整本部の調整のもとで活動するのが望ましい。

  4. ×d.  防災体制を整備する地域的単位を二次医療圏と呼ぶ。

    二次医療圏は、医療法に基づいて都道府県が医療計画の中で定める地域単位で、特殊な医療を除く一般的な入院医療を完結させ、病床の整備を図ることを目的として、複数の市町村をまとめて設定される。防災体制を整備するための単位として定められたものではない。なお、医療計画には災害医療も含まれており、地域災害拠点病院は原則として二次医療圏ごとに整備されるが、それは二次医療圏の定義とは別の話である。

  5. ×e.  災害医療とは災害派遣医療チーム〈DMAT〉の医療活動のことである。

    DMAT(Disaster Medical Assistance Team)は、医師・看護師・業務調整員で構成され、災害発生からおおむね48時間以内の急性期に活動できるよう専門的な訓練を受けたチームである。その活動は災害医療の重要な一部だが、災害医療はそれにとどまらない。災害現場での救命医療、傷病者の広域搬送、被災病院の支援に加え、避難所での医療・保健活動、感染症対策などの公衆衛生活動、慢性疾患患者の診療の継続、災害派遣精神医療チーム(DPAT)などによる精神的ケア、ボランティアの受け入れ・調整など、急性期から復旧・復興期までを含む幅広い概念である。

災害医療の基本原則:CSCATTT

災害時の医療対応で体系的に押さえるべき項目として、CSCATTTがある。 ・C(Command & Control):指揮と統制 ・S(Safety):安全(自分自身、現場、生存者の安全) ・C(Communication):情報伝達 ・A(Assessment):評価 ・T(Triage):トリアージ ・T(Treatment):治療(応急処置) ・T(Transport):搬送 前半のCSCAは組織的な対応(医療管理)、後半の3T(Triage, Treatment, Transport)は医療支援にあたり、3Tをいかに迅速かつ的確に行うかが救命数を左右する。

トリアージの区分(トリアージタッグの色)

・赤(区分Ⅰ):最優先治療群。生命にかかわる状態で直ちに処置が必要。 ・黄(区分Ⅱ):待機的治療群。多少の時間の遅れは生命に影響しない。 ・緑(区分Ⅲ):保留群。歩行可能な軽症者。 ・黒(区分0):救命困難群または死亡。

START法の流れ(成人)

歩行可能なら緑。歩行不能なら呼吸を確認し、気道確保しても呼吸がなければ黒、呼吸数30回/分以上なら赤。次に循環(橈骨動脈触知不能、または毛細血管再充満時間2秒超)なら赤。意識(簡単な指示に従えない)なら赤。いずれにも該当しなければ黄とする。

災害医学の定義

WHOの救急救援に関する専門委員会(1991年)は、災害医学を「災害によって生じる健康問題の予防と迅速な救援・復興を目的とする応用科学」とし、救急医学、感染症学、小児科学、疫学、栄養学、公衆衛生、地域保健、国際保健、災害管理などの幅広い分野を包含するものと位置づけている。

POINT

・災害拠点病院は都道府県が指定する(基幹災害拠点病院は各都道府県に、地域災害拠点病院は原則二次医療圏ごとに整備)。 ・トリアージの実施者に職種の制限はなく、救急救命士や看護師も行う。トリアージは繰り返し行う。 ・二次医療圏は一般的な入院医療を提供するための地域単位で、防災体制の単位ではない。 ・災害医療はDMATの活動に限らず、避難所医療、公衆衛生、精神的ケアまで含む広い概念である。 ・災害医療の原則はCSCATTT、現場医療の要は3T(Triage, Treatment, Transport)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。