負荷で消えて、休むと戻る―タリウムSPECTが映す「前壁の一過性虚血」
第107回医師国家試験 B問題 第46問
国試問題にチャレンジ
57歳の男性。胸痛を主訴に来院した。2か月前から階段を昇るときに前胸部痛が出現し,2~3分の安静で消失していた。これまで心疾患を指摘されたことはない。脈拍72/分,整。血圧136/80 mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。安静時心電図は正常である。201Tl運動負荷心筋血流SPECTを別に示す。 正しいのはどれか。

- a.左室前壁の虚血
- b.心室中隔の虚血
- c.左室下壁の虚血
- d.左室心内膜下の虚血
- e.虚血はみられない
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
労作で出現し数分の安静で消失する胸痛は労作性狭心症を示唆し、安静時心電図が正常でも否定できないため、負荷心筋血流SPECTで虚血を誘発して評価します。201Tlは冠血流に比例して心筋に取り込まれ、負荷直後の欠損が遅延像で回復すれば再分布ありの一過性虚血、回復しなければ梗塞と判断します。左室短軸像では上が前壁、下が下壁、向かって左が中隔、右が側壁であり、本例では前壁に可逆性欠損を認めるため左室前壁の虚血で、左前下行枝の狭窄が疑われます。薬物負荷や99mTc製剤の特徴、冠動脈の支配領域とあわせて理解しておくと、画像所見から責任血管を推定し、次の冠動脈評価へつなげる臨床判断に役立ちます。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・57歳男性。生活習慣病や動脈硬化が進みやすい年代である。 ・2か月前から、階段昇降という一定の労作で前胸部痛が起こり、2~3分の安静で治まる。発作の誘因(労作)、持続時間(数分)、軽快の仕方(安静で消失)がいずれも典型的な労作性狭心症の特徴にあてはまる。 ・脈拍・血圧は正常範囲で、心音・呼吸音に異常がない。弁膜症(例えば大動脈弁狭窄症による労作時胸痛)や心不全を示す所見はない。 ・安静時心電図は正常である。労作性狭心症では非発作時の心電図が正常であることが多く、正常だからといって狭心症は否定できない。そこで負荷をかけて虚血を誘発し、その有無と部位を調べる検査が必要になる。
心筋血流SPECTの読み方
201Tl(タリウム201)はカリウムに似た性質をもち、冠血流に比例して心筋細胞に取り込まれる。運動負荷のピークで静注して直後に撮像すると、狭窄した冠動脈の支配領域では血流の増加が不十分なため、周囲より集積が低い(欠損として見える)。その後、数時間たつと201Tlは細胞から洗い出されつつ再び分布し直す(再分布)。 ・負荷直後に欠損があり、3~4時間後の遅延像(安静時像)で欠損が埋まる=再分布あり → 生存心筋の一過性虚血(狭心症) ・負荷直後も遅延像も欠損のまま=再分布なし → 心筋梗塞(壊死・瘢痕) 本問の画像は左室短軸断層像である。短軸像はドーナツ状の左室心筋を輪切りにしたもので、通常、上が前壁、下が下壁、向かって左が心室中隔、向かって右が側壁として表示される。運動負荷直後の像では、いずれの断面でもリングの上方(前壁)の集積が明らかに低下しており、リングの下方(下壁)や左側(中隔)には保たれた集積がみられる。4時間後の安静時像では上方の集積が回復し、ほぼ全周性に均一なリングとなっている。すなわち前壁に再分布を伴う一過性の血流低下があり、左室前壁の虚血と判定できる。
診断
労作性狭心症(左室前壁の一過性虚血)。前壁は主に左冠動脈前下行枝の支配領域であり、前下行枝の有意狭窄が疑われる。確定と治療方針の決定には冠動脈造影や冠動脈CTが続いて行われる。
選択肢考察
- ○a. 左室前壁の虚血
短軸像の上方にあたる前壁が、運動負荷直後に集積低下を示し、4時間後の安静時像で集積が回復している(再分布あり)。これは負荷時にだけ生じる前壁の可逆的な虚血を意味し、症状経過とも合致する。前壁は主に左前下行枝が灌流する領域である。
- ×b. 心室中隔の虚血
短軸像で向かって左側にあたる心室中隔は、負荷直後の像でも集積が保たれており、欠損はみられない。中隔の前方寄りも前下行枝(中隔枝)の支配であるが、本症例の画像で集積低下が目立つのは前壁であり、中隔の虚血とは判定しない。
- ×c. 左室下壁の虚血
短軸像の下方にあたる下壁は、負荷直後から良好な集積を示している。下壁は主に右冠動脈の支配領域で、下壁虚血であればリングの下方に負荷時の欠損が生じるはずであるが、本例ではみられない。
- ×d. 左室心内膜下の虚血
本例の欠損は前壁という特定の冠動脈支配領域に一致しており、心内膜側に限局した所見ではない。なお、多枝病変や左主幹部病変などでびまん性の心内膜下虚血が起こると、負荷時に左室内腔が一過性に拡大して見える所見(一過性虚血性内腔拡大)などを呈するが、本例ではそうした像は認めない。現行のSPECTの空間分解能では心内膜下層と心外膜下層を分けて評価することも一般に難しい。
- ×e. 虚血はみられない
負荷直後像では前壁に明らかな集積低下があり、遅延像で改善している。これは典型的な再分布所見であり、虚血が存在する。安静時心電図が正常であっても、負荷検査で虚血が証明されることは労作性狭心症ではまれではない。
負荷心筋血流SPECTの基本
・負荷方法:トレッドミルやエルゴメータによる運動負荷のほか、運動が困難な場合はアデノシン、ATP(アデノシン三リン酸)、ジピリダモールなどの冠血管拡張薬を用いた薬物負荷を行う。薬物負荷では正常冠動脈の血流は大きく増えるが、狭窄枝の支配領域では増えにくく、相対的な血流差が生じる(冠血流予備能の低下を検出する)。 ・トレーサー:201Tlのほか、99mTc標識製剤(テトロホスミン、MIBI)がある。201Tlは時間経過で再分布するため、1回の投与で負荷像と遅延像が得られる。99mTc製剤は再分布がほとんどないため、負荷時と安静時にそれぞれ投与して撮像する。
所見と解釈
・負荷時欠損+安静時(遅延像)で改善:可逆性欠損=一過性虚血(狭心症) ・負荷時・安静時ともに欠損:固定性欠損=心筋梗塞(瘢痕) ・一部のみ改善:梗塞巣の周囲に虚血が残る状態
左室各部位と冠動脈支配の目安
・前壁、中隔前方、心尖部:左前下行枝 ・側壁、後側壁:左回旋枝 ・下壁、中隔下方(後壁寄り):右冠動脈(右冠動脈優位型の場合)
短軸像での方向
上=前壁、下=下壁、向かって左=中隔、向かって右=側壁。垂直長軸像・水平長軸像と合わせて部位を判定する。
POINT
・労作で出現し数分の安静で消失する胸痛は労作性狭心症を考える。安静時心電図が正常でも否定できない。 ・負荷心筋血流SPECTで、負荷時欠損が遅延像(安静時)で回復=再分布あり=一過性虚血。回復しなければ梗塞。 ・左室短軸像は上が前壁、下が下壁、左が中隔、右が側壁。 ・前壁虚血は左前下行枝病変を示唆する。
