結核は「過去の病気」ではない―法律・予防・届出・患者管理でたどる日本の結核対策
第107回医師国家試験 B問題 第31問
国試問題にチャレンジ
結核対策について正しいのはどれか。
- a.根拠法は健康増進法である。
- b.乳幼児に対する予防接種はBCGである。
- c.全国の年間新規患者登録数は約3,000人である。
- d.潜在性結核感染症は法に基づく届出が不要である。
- e.結核登録票の管理を行うのは感染症指定医療機関である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
日本の結核対策は、2007年に結核予防法が廃止されて以降、感染症法に基づいて行われており、結核は二類感染症に位置づけられています。予防の柱は予防接種法に基づくBCGの定期接種で、1歳に至るまでに1回接種し、乳幼児の結核性髄膜炎や粟粒結核などの重症結核の予防に有効とされます。医師は結核患者だけでなく、治療を要する潜在性結核感染症の者を診断した場合にも直ちに保健所長へ届け出る必要があり、保健所が結核登録票を管理して服薬支援や接触者健診、管理検診を行います。新規登録患者数は減少を続け近年は年間約1万人と低まん延国の水準になりましたが、高齢者や外国出生者の結核は依然として課題です。法制度と保健所の役割を理解しておくことは、臨床現場で結核を診断したときに適切に地域の対策へつなぐための基本となります。
解答・解説
正解はbです
わが国の結核対策の制度面を問う問題である。押さえるべき柱は次の4点である。 1. 法的根拠:かつては結核予防法という単独の法律があったが、2007年に廃止されて「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」に統合された。結核は同法の二類感染症に位置づけられている。予防接種(BCG)については予防接種法が根拠となる。 2. 予防:乳児期のBCG接種(予防接種法に基づく定期接種)と、潜在性結核感染症(LTBI)の治療による発病予防。 3. 発見と届出:医師は結核患者や治療を要する潜在性結核感染症の者を診断したら、直ちに保健所長へ届け出る。 4. 患者管理:届出を受けた保健所が結核登録票を整備し、服薬支援(DOTS)、接触者健診、管理検診などを行う。 あわせて、わが国の結核の疫学的な規模(年間新規登録患者数)を大まかに把握しておく必要がある。これらの知識と照らし合わせて各選択肢を検討すれば、正しい記述は一つに絞られる。
選択肢考察
- ×a. 根拠法は健康増進法である。
誤り。結核対策の根拠法は感染症法である。以前は結核予防法が根拠であったが、2007年に感染症法へ統合され、結核は二類感染症として扱われるようになった。健康増進法は国民の健康づくりを目的とする法律で、国民健康・栄養調査、受動喫煙の防止、特定給食施設での栄養管理などを定めたものであり、結核対策とは関係しない。
- ○b. 乳幼児に対する予防接種はBCGである。
正しい。BCG(Bacille de Calmette et Guérin:ウシ型結核菌を弱毒化した生ワクチン)は、予防接種法に基づくA類疾病の定期接種であり、生後1歳に至るまでに1回接種する。標準的な接種期間は生後5か月から8か月未満である。2005年以降はツベルクリン反応検査を行わずに直接接種する方式となっている。BCGは成人の肺結核の予防効果は限定的だが、乳幼児の結核性髄膜炎や粟粒結核といった重症結核の予防に有効とされる。管針を用いた経皮接種で行われる。
- ×c. 全国の年間新規患者登録数は約3,000人である。
誤り。本問出題当時(2012年)の新規登録結核患者数は約2万1千人であり、約3,000人ではない。その後も減少を続け、2021年には罹患率(人口10万対)が10を下回り、WHOの定義する「低まん延国」の水準に達した。近年の新規登録患者数は約1万人(2023年は10,096人)である。いずれの時期でも約3,000人という数字は実態に比べて少なすぎる。なお、新規患者の多くを高齢者が占めていること、外国出生者の割合が増えていることも近年の特徴である。
- ×d. 潜在性結核感染症は法に基づく届出が不要である。
誤り。潜在性結核感染症(latent tuberculosis infection:LTBI)とは、結核菌に感染しているが発病していない状態のうち、発病リスクが高く治療が必要と判断されるものを指す。インターフェロンγ遊離試験(IGRA)やツベルクリン反応で感染を確認し、活動性結核を画像検査などで除外したうえで診断する。感染症法上は二類感染症である結核の無症状病原体保有者にあたり、治療を行う場合は医師が直ちに保健所長へ届け出る義務がある。2007年の届出基準の改正で、年齢にかかわらず治療対象者は届出対象となり、医療費の公費負担の年齢制限も撤廃された。
- ×e. 結核登録票の管理を行うのは感染症指定医療機関である。
誤り。結核登録票は感染症法に基づき保健所長が整備・管理する。保健所は医師からの届出をもとに患者を登録し、治療終了後も一定期間にわたって経過を把握し、保健師による家庭訪問や服薬支援(DOTS)、接触者健診、再発の有無を確認する管理検診などを行う。感染症指定医療機関(結核の場合は結核指定医療機関)は、公費負担による医療を担当する医療機関であり、登録票の管理主体ではない。
結核に関する法制度の整理
・感染症法:結核は二類感染症。医師は診断後直ちに保健所長へ届出る。入院勧告、就業制限、医療費の公費負担、結核登録票、定期健康診断、接触者健診などを規定する。 ・予防接種法:BCG接種(A類疾病の定期接種、1歳に至るまで、標準は生後5〜8か月未満)。 ・2007年:結核予防法を廃止し感染症法に統合。
保健所の主な結核対策業務
・結核登録票の整備と患者管理 ・接触者健診(家族や職場などの感染者の把握) ・服薬支援(DOTS:直接服薬確認療法) ・治療終了後の管理検診 ・入院勧告や公費負担の手続き
潜在性結核感染症(LTBI)
・感染はあるが発病していない状態で、治療の必要があるもの。 ・診断:IGRA(クォンティフェロン、T-SPOT)やツベルクリン反応で感染を確認し、胸部画像などで活動性結核を除外する。 ・治療:イソニアジド単剤6〜9か月が基本で、リファンピシン単剤(4か月)なども用いられる。 ・対象の例:患者の接触者で感染が確認された者、HIV感染者、生物学的製剤(抗TNF-α製剤など)や免疫抑制薬を使用する予定の者、透析患者など発病リスクの高い既感染者。
わが国の結核の疫学
・新規登録患者数は減少を続けており、2012年は約2万1千人、近年は約1万人である。 ・罹患率は2021年に人口10万対10未満となり、低まん延国となった。 ・新規患者の多くは高齢者であり、若年層では外国出生者の割合が高い。
POINT
・結核対策の根拠法は感染症法(結核は二類感染症)。旧結核予防法は2007年に感染症法へ統合された。 ・BCGは予防接種法に基づく定期接種で、1歳に至るまでに接種(標準は生後5〜8か月未満)。ツベルクリン反応を行わず直接接種する。 ・潜在性結核感染症も治療対象者は届出が必要で、公費負担の対象となる(年齢制限なし)。 ・結核登録票を管理するのは保健所(保健所長)。 ・新規登録患者数は出題当時で約2万人、近年は約1万人で、低まん延国の水準にある。
