StudyMed医師国家試験

細い血管と太い血管で読み解く―糖尿病合併症の「見つけ方・治し方・多い病型」

第106回医師国家試験 I問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第28問

糖尿病の合併症について正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.腎症の早期診断に尿中アルブミン測定が有用である。
  2. b.増殖糖尿病網膜症は汎網膜光凝固の適応がある。
  3. c.脳血管障害では症候性脳出血が多い。
  4. d.心臓障害では拡張型心筋症が多い。
  5. e.末梢神経障害はまれである。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は糖尿病の慢性合併症の全体像を問う問題だ。ポイントは、合併症を細小血管症と大血管症の2つに分けて整理すること。細小血管症は「どう早く見つけて、どう治すか」、大血管症は「どんな病型が多いか」に注目すると選択肢を切りやすい。まず、細小血管症の3つを挙げられるかな。
医学生医学生
網膜症、腎症、神経障害の三大合併症ですね。CBTの前に「しめじ」で覚えました。
ドクタードクター
そう、神経障害(し)、網膜症(め)、腎症(じ)。どれも高血糖の持続期間と程度に強く関連する、糖尿病に特有の合併症だ。一方、大血管症は冠動脈疾患、脳血管障害、末梢動脈疾患で、動脈硬化が基盤になる。では腎症から。早期に見つけるには何を測る?
医学生医学生
尿蛋白の試験紙でしょうか。健診でよく使われていますし。
ドクタードクター
惜しい。試験紙で陽性になる頃には、腎症はすでにかなり進んでいるんだ。その前の段階で、ごく少量のアルブミンが尿に漏れ出てくる。随時尿の尿中アルブミン・クレアチニン比が30〜299 mg/gCrなら微量アルブミン尿で、腎症第2期にあたる。以前は早期腎症期と呼ばれていた時期だね。
医学生医学生
その段階なら、まだ引き返せるんですか。
ドクタードクター
血糖や血圧を厳格に管理すれば、正常アルブミン尿への改善も期待できる。だから尿中アルブミン測定は早期診断に有用で、これは正しい記述だ。300 mg/gCr以上になると顕性アルブミン尿期に進む。次は網膜症。増殖網膜症とはどんな状態だろう。
医学生医学生
眼科の実習で眼底写真を見ました。新生血管ができている状態ですよね。でも、なぜ網膜全体にレーザーを当てるのかがよくわからなくて。
ドクタードクター
いい疑問だ。網膜の血流が途絶えた無灌流領域が広がると、虚血に陥った網膜がVEGFを出し、もろい新生血管ができる。汎網膜光凝固は黄斑部を除く網膜を広く凝固して酸素需要を減らし、VEGFの産生を抑える治療なんだ。虚血という「元」を減らすわけだね。だから増殖網膜症は汎網膜光凝固の適応で、これも正しい。
医学生医学生
新生血管から出血して、それが引かない場合はどうするんですか。
ドクタードクター
吸収されない硝子体出血や、増殖膜による牽引性網膜剝離には硝子体手術が必要になる。また、視力低下の主因になる黄斑浮腫には抗VEGF薬の硝子体内注射が第一選択だ。では大血管症へ。糖尿病の脳血管障害で多いのは?
医学生医学生
糖尿病の人は高血圧も合併しやすいので、脳出血も多いのかなと思ったんですが……。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。脳出血の最大の危険因子は高血圧で、糖尿病との関連は脳梗塞ほど強くない。糖尿病は動脈硬化を進めるから、アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞が多いんだ。しかも症状のない小さな梗塞が多発しやすい。だから症候性脳出血が多いという記述は誤りだ。
医学生医学生
心臓も同じ考え方で、拡張型心筋症ではなく虚血性心疾患が多い、ということですね。
ドクタードクター
その通り。冠動脈硬化による狭心症や心筋梗塞が中心で、多枝病変になりやすい。糖尿病性心筋症という概念もあるけれど、初期にみられるのは左室が広がりにくくなる拡張障害が主体で、心室が拡大して収縮が落ちる拡張型心筋症とは別物だ。「拡張」という言葉に惑わされないようにしよう。
医学生医学生
末梢神経障害がまれ、というのは明らかに違いますね。内科の外来実習でアキレス腱反射をよく確認していました。
ドクタードクター
そう、神経障害は三大合併症の中で最も早く、最も多く出る合併症だ。両足先から左右対称に始まるしびれや感覚低下、アキレス腱反射の低下・消失、内果の振動覚低下が手がかりになる。というわけで、正しいのは尿中アルブミン測定と汎網膜光凝固の2つだね。
医学生医学生
実際の診療で特に気をつけることはありますか。
ドクタードクター
2つ挙げよう。1つは無痛性心筋虚血。自律神経障害があると胸痛を感じにくく、心筋梗塞でも息切れや倦怠感だけということがある。もう1つは足病変。感覚が鈍ると靴ずれや小さな傷に気づかず、潰瘍や壊疽に進むことがある。だから糖尿病の診察では、靴下を脱いでもらって足を直接見ることが大切なんだ。
医学生医学生
大血管症は境界型の段階から進み始めると聞いたことがあります。
ドクタードクター
よく知っているね。細小血管症は糖尿病になってからの高血糖の蓄積が大きく効くけれど、動脈硬化は耐糖能異常の段階からすでに進み始める。だから血糖だけでなく、血圧、脂質、禁煙まで含めた総合的な管理が欠かせないんだ。

まとめ

糖尿病の慢性合併症は、網膜症・腎症・神経障害からなる細小血管症と、冠動脈疾患・脳梗塞・末梢動脈疾患からなる大血管症に分けて整理すると理解しやすくなります。腎症は尿中アルブミン・クレアチニン比30〜299 mg/gCrの微量アルブミン尿(第2期)で早期に発見でき、この段階での厳格な管理により改善も期待できます。増殖網膜症では虚血網膜からのVEGFが新生血管を生むため、汎網膜光凝固で虚血網膜を減らし、進行例には硝子体手術を行います。大血管症では脳出血より脳梗塞、拡張型心筋症より虚血性心疾患が多く、神経障害は最も早期から高頻度にみられます。無痛性心筋虚血や足潰瘍といった見逃しやすい病態を含めて合併症の全体像をつかむことが、糖尿病患者の長期的な診療の基盤になります。

解答・解説

正解はa, bです

糖尿病の慢性合併症の全体像を問う問題である。 糖尿病の慢性合併症は、細い血管が障害される「細小血管症(細小血管合併症)」と、太い動脈に動脈硬化が進む「大血管症(大血管合併症)」に大別される。 ・細小血管症:糖尿病網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害の3つ(三大合併症)。高血糖の持続期間と程度に強く関連し、糖尿病に特有の合併症である。 ・大血管症:冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)、脳血管障害(主に脳梗塞)、末梢動脈疾患(PAD)。動脈硬化を基盤とし、高血圧・脂質異常症・喫煙などの危険因子も関与する。 各選択肢は、細小血管症については「どう早期発見し、どう治療するか」、大血管症については「どの病型が多いか」を問うている。網膜症・腎症・神経障害それぞれの診断・治療の要点と、大血管症では脳梗塞と虚血性心疾患が中心であることを押さえておけば解答できる。

選択肢考察

  1. ○a.  腎症の早期診断に尿中アルブミン測定が有用である。

    糖尿病性腎症では、試験紙法の尿蛋白が陽性になるより前の段階で、ごく少量のアルブミンが尿中に漏れ出る(微量アルブミン尿)。そこで随時尿で尿中アルブミン・クレアチニン比を測定し、30〜299 mg/gCrであれば微量アルブミン尿と判定する(3回測定して2回以上該当することを確認する)。この段階は腎症病期分類の第2期(2023年改訂の分類で「微量アルブミン尿期」、以前の分類では「早期腎症期」)に相当する。この時期に血糖・血圧の厳格な管理などを行えば、正常アルブミン尿への改善も期待できるため、早期診断に尿中アルブミン測定は有用である。300 mg/gCr以上(または持続性蛋白尿0.5 g/gCr以上)になると第3期(顕性アルブミン尿期)となる。

  2. ○b.  増殖糖尿病網膜症は汎網膜光凝固の適応がある。

    網膜の血流が途絶えた無灌流領域が広がると、網膜が虚血に陥り、血管内皮増殖因子(VEGF)が分泌されて脆弱な新生血管が生じる。これが増殖糖尿病網膜症である。汎網膜光凝固(PRP)は、網膜全体(黄斑部を除く)にレーザーを照射して虚血網膜の酸素需要を減らし、VEGFの産生を抑えて新生血管の発生・進展を抑制する治療であり、増殖網膜症(および広範な無灌流領域を伴う増殖前網膜症)が適応となる。ただし、新生血管からの硝子体出血が吸収されない場合や、増殖膜による牽引性網膜剝離をきたした場合には硝子体手術が必要となる。また、糖尿病黄斑浮腫には抗VEGF薬の硝子体内注射が第一選択として用いられる。

  3. ×c.  脳血管障害では症候性脳出血が多い。

    糖尿病は動脈硬化を促進するため、脳血管障害としては脳出血よりも脳梗塞が多い。主幹動脈や皮質枝のアテローム硬化によるアテローム血栓性脳梗塞に加え、穿通枝の細動脈病変によるラクナ梗塞も多い。症状を伴わない無症候性の小梗塞が多発しやすいことも特徴である。脳出血の最大の危険因子は高血圧であり、糖尿病との関連は脳梗塞ほど強くない。

  4. ×d.  心臓障害では拡張型心筋症が多い。

    糖尿病の心臓合併症で最も重要で多いのは、冠動脈硬化による虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)である。自律神経障害を伴うと胸痛を自覚しにくく、無痛性(無症候性)心筋虚血や無痛性心筋梗塞として発見が遅れやすい点が特徴である。また、冠動脈病変や高血圧がなくても心筋障害をきたす「糖尿病性心筋症」の概念があるが、その初期にみられるのは主に左室の拡張障害(心室が広がりにくくなること)であり、心室が拡大して収縮力が落ちる拡張型心筋症が多いわけではない。

  5. ×e.  末梢神経障害はまれである。

    糖尿病性神経障害は三大合併症の中でも最も早期から出現し、頻度が高い合併症である。代表的なのは、両足の先から左右対称に始まるしびれ・痛み・感覚低下などの多発神経障害(遠位対称性多発神経障害)で、アキレス腱反射の低下・消失、振動覚低下が診断の手がかりとなる。起立性低血圧、胃不全麻痺、排尿障害、勃起障害などの自律神経障害や、動眼神経麻痺などの単神経障害もみられる。感覚低下は足の傷に気づきにくくし、足潰瘍・壊疽の原因となる。

糖尿病性腎症の病期分類(2023年改訂)

・第1期(正常アルブミン尿期):尿中アルブミン30 mg/gCr未満 ・第2期(微量アルブミン尿期):30〜299 mg/gCr ・第3期(顕性アルブミン尿期):300 mg/gCr以上、または持続性蛋白尿0.5 g/gCr以上 ・第4期(GFR高度低下・末期腎不全期):eGFR 30 mL/分/1.73m²未満 ・第5期(腎代替療法期):透析療法・腎移植中 以前は第2期を「早期腎症期」、第3期を「顕性腎症期」と呼んでいた。

糖尿病網膜症の病期と治療(改変Davis分類)

・単純網膜症:毛細血管瘤、点状・しみ状出血、硬性白斑。血糖・血圧管理と経過観察。 ・増殖前網膜症:軟性白斑、網膜内細小血管異常、静脈の数珠状拡張。蛍光眼底造影で無灌流領域を確認し、必要に応じて光凝固。 ・増殖網膜症:新生血管、硝子体出血、増殖膜、牽引性網膜剝離。汎網膜光凝固、進行例では硝子体手術。新生血管緑内障にも注意する。 ・黄斑浮腫はどの病期にも起こりうり、視力低下の主因となる。抗VEGF薬の硝子体内注射、ステロイド局所投与、局所光凝固などで治療する。

糖尿病性神経障害の簡易診断のポイント

両側性の自覚症状(しびれ・痛みなど)、両側アキレス腱反射の低下・消失、両側内果の振動覚低下が手がかりとなる。

大血管症の特徴

糖尿病では冠動脈の多枝病変、無痛性心筋虚血、脳梗塞(アテローム血栓性・ラクナ)、末梢動脈疾患(間欠性跛行、足壊疽)が多い。大血管症は境界型(耐糖能異常)の段階から既に進行しはじめる点も重要である。

POINT

・細小血管症=網膜症・腎症・神経障害、大血管症=冠動脈疾患・脳梗塞・末梢動脈疾患。 ・腎症の早期発見は尿中アルブミン(30〜299 mg/gCrで微量アルブミン尿、第2期)。 ・増殖網膜症(および広範な無灌流領域をもつ増殖前網膜症)には汎網膜光凝固。硝子体出血・牽引性網膜剝離には硝子体手術。 ・脳血管障害は脳出血より脳梗塞が多い。 ・心臓では虚血性心疾患が多く、無痛性になりやすい。糖尿病性心筋症は拡張障害が主体。 ・神経障害は最も頻度が高く早期に出現する合併症。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。