StudyMed医師国家試験

肺も胸膜もむしばむ「静かな時限爆弾」―石綿関連疾患に喘息は含まれるか

第106回医師国家試験 G問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第106回 G問題 第8問

石綿のばく露に起因する可能性が低いのはどれか。

  1. a.胸膜中皮腫
  2. b.間質性肺炎
  3. c.気管支喘息
  4. d.原発性肺癌
  5. e.胸膜プラーク

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は石綿、つまりアスベストのばく露で起こる疾患を整理する問題だ。「可能性が低いもの」を選ぶので、石綿関連疾患を「肺実質の病変」と「胸膜の病変」に分けて挙げていき、その枠に入らないものを探そう。まず、石綿がなぜ体に悪いのか説明できるかな。
医学生医学生
細い繊維を吸い込んで、肺に刺さったまま残るから、というイメージです。
ドクタードクター
おおむねそのイメージでいい。石綿は天然の繊維状ケイ酸塩鉱物で、細く長い繊維は肺の奥や胸膜まで届く。マクロファージが処理しきれずに長く組織にとどまるので、慢性炎症、線維化、そして発癌を起こす。ポイントは、アレルギーではなく繊維そのものによる組織障害だということだ。
医学生医学生
では肺実質の病変から考えると、間質性肺炎は石綿肺のことですよね。じん肺の一つとして衛生学の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。高濃度・長期間のばく露で、両側下肺野の胸膜直下を中心に線維化が進む。CTでは胸膜下の線状影や網状影、進むと蜂巣肺がみられ、聴診では捻髪音、ばち指を伴うことも多い。肺組織や気管支肺胞洗浄液に鉄亜鈴状の石綿小体が見つかれば、ばく露の裏付けになる。
医学生医学生
病理実習で石綿小体の写真を見ました。あれが証拠になるんですね。原発性肺癌も石綿で増えるんでしたっけ。
ドクタードクター
増えるよ。石綿は国際がん研究機関で発癌性が確実なグループ1に分類されていて、肺癌は中皮腫と並ぶ代表的な石綿関連腫瘍だ。特に大事なのは、喫煙と重なるとリスクが足し算ではなく掛け算的に高まること。だからばく露歴のある人への禁煙指導は欠かせない。
医学生医学生
胸膜の病変では、胸膜中皮腫が一番有名ですよね。
ドクタードクター
そうだね。悪性胸膜中皮腫は石綿との関連が最も強い腫瘍で、潜伏期間は30〜50年程度と非常に長い。石綿肺と違って比較的少量のばく露でも起こりうるのが怖いところだ。繊維の種類では、まっすぐで硬い角閃石系のクロシドライトやアモサイトのほうが、クリソタイルより中皮腫のリスクが高いとされる。
医学生医学生
胸膜プラークは悪性ではないのに、なぜ重要なんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。胸膜プラークは壁側胸膜の境界明瞭な板状の肥厚で、側胸壁下部や横隔膜面によくでき、しばしば石灰化する。それ自体は良性で症状もほとんどないけれど、石綿ばく露を示す最も一般的な所見なんだ。つまり「この人は石綿を吸ってきた」という目印として臨床的に価値がある。
医学生医学生
そうすると、残る気管支喘息だけが枠に入りませんね。アレルギーの病気なので、繊維による障害とは機序が違う気がします。
ドクタードクター
正解だ。気管支喘息は主にTh2型の好酸球性気道炎症で、気道過敏性と可逆性の閉塞性障害が特徴。一方、石綿関連疾患の呼吸機能障害は、線維化による拘束性障害と拡散障害が中心だ。閉塞性と拘束性という呼吸機能の型の違いでも区別できるね。
医学生医学生
でも職業性喘息というのもありますよね。石綿は原因にならないんですか。
ドクタードクター
職業性喘息は、イソシアネート、小麦粉、動物の毛やふけ、木材粉じんのような感作性物質の吸入で起こる。石綿は感作を起こす物質ではないので、典型的な原因には含まれない。「職業性の吸入」という共通点だけで結びつけないことが大切だ。
医学生医学生
肺実質の石綿肺と肺癌、胸膜のプラークと中皮腫、という2つの枠で整理すれば迷わなそうです。
ドクタードクター
その枠に、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水、円形無気肺も加えておこう。円形無気肺は腫瘤影として肺癌と紛らわしいので画像で要注意だ。日本の労災補償では、石綿肺、肺癌、中皮腫、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚の5疾患が対象とされ、胸膜プラークはばく露の医学的所見として認定に使われる。
医学生医学生
日本ではもう石綿は禁止されているのに、今でも患者さんが出るのはなぜですか。
ドクタードクター
潜伏期間が長いからだよ。2012年までに全面禁止となったけれど、数十年前のばく露による中皮腫や肺癌は今も発生している。建設・解体、造船、断熱作業などの職業歴に加え、家族の作業着を介したばく露や工場周辺の環境ばく露もある。古い建物の解体時の対策も課題だ。だから呼吸器の患者さんを診るときは、何十年も前の職歴まで丁寧に聞くことが診断の糸口になるんだ。

まとめ

石綿は細く長い鉱物繊維で、肺の奥や胸膜に長くとどまり、アレルギーではなく繊維そのものによる慢性炎症・線維化・発癌を引き起こします。石綿関連疾患は、肺実質の石綿肺(間質性肺炎・肺線維症)と原発性肺癌、胸膜の胸膜プラーク、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水、悪性胸膜中皮腫などに整理でき、呼吸機能障害は拘束性障害と拡散障害が中心です。好酸球性気道炎症による可逆性の閉塞性障害である気管支喘息は、石綿ばく露に起因する可能性が低く、職業性喘息の原因も感作性物質に限られます。胸膜プラークはばく露の指標、中皮腫は少量ばく露でも長い潜伏期間を経て発生し、喫煙は肺癌リスクを相乗的に高める点も重要です。潜伏期間が数十年に及ぶため、現在も新たな患者が生じており、詳細な職業歴・生活歴の聴取が診断と労災認定の鍵になります。

解答・解説

正解はcです

石綿(アスベスト)は天然の繊維状ケイ酸塩鉱物である。耐熱性・耐薬品性・断熱性に優れるため、建材(吹き付け材、スレート)、断熱材、ブレーキ材などに大量に使われてきた。細く長い繊維を吸い込むと、肺の奥(呼吸細気管支から肺胞)や胸膜まで到達する。繊維はマクロファージに処理されにくく、長期間組織にとどまって慢性炎症・線維化・発癌を引き起こす。 石綿ばく露で起こる病変は、大きく二つに分けて整理すると覚えやすい。 ・肺実質の病変:石綿肺(石綿による間質性肺炎・肺線維症)、原発性肺癌 ・胸膜の病変:胸膜プラーク(限局性胸膜肥厚)、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水、悪性胸膜中皮腫 このほかに、腹膜・心膜・精巣鞘膜の中皮腫や円形無気肺もある。いずれも線維そのものによる物理的・化学的な組織障害が原因であり、アレルギー(即時型過敏反応)で起こるわけではない。 したがって、選択肢のうち上の一覧に含まれないものを選べばよい。気管支喘息は好酸球性の気道炎症による可逆性の気道閉塞であり、石綿ばく露の典型的な結果ではない。石綿関連疾患の呼吸機能障害は、線維化による拘束性障害と拡散障害が中心である。

選択肢考察

  1. ×a.  胸膜中皮腫

    悪性胸膜中皮腫は、胸膜の中皮細胞から発生する悪性腫瘍である。患者の大多数に石綿ばく露歴があり、石綿との関連が最も強い腫瘍といえる。潜伏期間は30〜50年程度と非常に長い。比較的少量のばく露でも発生しうる点が、石綿肺と異なる。繊維の種類では、角閃石系のクロシドライト(青石綿)とアモサイト(茶石綿)のほうが、蛇紋石系のクリソタイル(白石綿)より発癌性が高い。中皮腫は胸膜のほか、腹膜・心膜・精巣鞘膜にも発生する。石綿ばく露に起因するので、本問の「可能性が低いもの」には当たらない。

  2. ×b.  間質性肺炎

    石綿を高濃度で長期間(一般に10年以上)吸入すると、びまん性の間質性肺炎・肺線維症が起こる。これを石綿肺と呼び、じん肺(粉じん吸入による肺線維症の総称)の一つに数えられる。吸入された繊維をマクロファージが処理しきれず、炎症性サイトカインや線維化因子が持続的に放出されて、線維化が進む。 病変は両側の下肺野・胸膜直下に優位で、胸部CTでは胸膜下の線状影、網状影、蜂巣肺がみられる。聴診では捻髪音(fine crackles)を聴取し、ばち指を伴うことも多い。呼吸機能は拘束性障害と拡散障害(DLCOの低下)を示す。肺組織や気管支肺胞洗浄液に石綿小体がみられれば、ばく露の裏付けになる。石綿ばく露に起因するので、「可能性が低いもの」には当たらない。

  3. ○c.  気管支喘息

    気管支喘息は、主にTh2型の好酸球性炎症による慢性気道炎症である。気道過敏性と可逆性の気流閉塞(閉塞性障害)を特徴とし、アトピー型ではI型アレルギーが関与する。 一方、石綿は刺激性・感作性のある化学物質ではない。気道の過敏性やアレルギー反応を起こすのではなく、末梢肺や胸膜に沈着して線維化と発癌を起こす。石綿関連疾患でみられる呼吸機能障害も、閉塞性障害ではなく拘束性障害と拡散障害が主体である。 このため、気管支喘息は石綿ばく露に起因する可能性が低く、本問の正解である。なお、職業性喘息はイソシアネート(塗料・ウレタン原料)、小麦粉、動物の毛・ふけ、木材粉じんなど、感作性物質の吸入で起こる。石綿は含まれない。

  4. ×d.  原発性肺癌

    石綿は国際がん研究機関(IARC)で、ヒトに対する発癌性が確実なグループ1に分類されている。原発性肺癌は、中皮腫と並ぶ代表的な石綿関連の悪性腫瘍である。潜伏期間は15〜40年程度で、組織型は特定のものに偏らない。 喫煙と石綿ばく露が重なると、肺癌のリスクは相加ではなく相乗的(掛け算的)に高くなる。このため、ばく露者の禁煙指導は特に重要である。石綿肺を合併する例では、線維化した下葉に肺癌が生じやすい傾向がある。石綿ばく露に起因するので、「可能性が低いもの」には当たらない。

  5. ×e.  胸膜プラーク

    胸膜プラーク(限局性胸膜肥厚斑)は、主に壁側胸膜に生じる境界明瞭な板状の線維性肥厚である。両側の側胸壁の下部や横隔膜面によくみられ、しばしば石灰化する。ばく露開始から15〜30年程度で出現し、比較的少量のばく露でも生じる。 プラーク自体は良性で、通常は症状や呼吸機能障害を起こさない。しかし、石綿ばく露があったことを示す最も一般的な所見であり、ばく露の指標として臨床的に重要である。石綿ばく露に起因するので、「可能性が低いもの」には当たらない。

石綿の種類

・蛇紋石系:クリソタイル(白石綿)。使用量が最も多かった。 ・角閃石系:クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)など。繊維がまっすぐで硬く、肺内に長くとどまるため、中皮腫の発生リスクが高い。

石綿関連疾患の整理

・石綿肺:高濃度・長期のばく露で起こる。下肺野優位の線維化で、拘束性障害と拡散障害を示す。じん肺の一つ。 ・肺癌:喫煙と相乗的にリスクが高まる。 ・悪性中皮腫:胸膜が最も多く、腹膜、心膜、精巣鞘膜にも生じる。少量ばく露でも発生し、潜伏期間は30〜50年と長い。 ・良性石綿胸水:石綿ばく露による非悪性の胸水。他の原因と中皮腫を除外して診断する。 ・びまん性胸膜肥厚:臓側胸膜を含む広範な肥厚。拘束性障害を起こしうる。 ・胸膜プラーク:壁側胸膜の限局性肥厚で、石灰化を伴いやすい。ばく露の指標となる。 ・円形無気肺:胸膜肥厚に巻き込まれて肺が丸く虚脱したもの。腫瘤影として肺癌と紛らわしい。 日本の労災補償では、石綿肺、肺癌、中皮腫、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚の5疾患が石綿関連疾患として扱われる。胸膜プラークは、それ自体は補償の対象疾患ではないが、ばく露の医学的所見として認定に用いられる。

ばく露の証拠

・職業歴:建設・解体、造船、断熱作業、石綿製品製造など。家族の作業着を介したばく露や、工場周辺住民の環境ばく露もある。 ・画像:胸膜プラーク(特に石灰化プラーク) ・病理:石綿小体(石綿繊維の周囲に鉄を含むタンパクが付着した、鉄亜鈴状の小体)。肺組織や気管支肺胞洗浄液で確認する。

規制

日本では2006年に石綿含有製品の製造・使用等が原則禁止された。その後、猶予されていた一部製品を含め、2012年までに全面禁止となった。ただし、潜伏期間が長いため、過去のばく露による中皮腫・肺癌は現在も発生し続けている。既存建築物の解体・改修時のばく露対策も課題である。

POINT

・石綿関連疾患:石綿肺(間質性肺炎・肺線維症)、肺癌、悪性中皮腫、胸膜プラーク、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水、円形無気肺 ・石綿関連疾患の呼吸機能障害は拘束性障害と拡散障害であり、気管支喘息のような閉塞性障害ではない。 ・胸膜プラークはばく露の指標となり、中皮腫は少量ばく露でも長い潜伏期間の後に発生する。 ・喫煙と石綿ばく露は、肺癌リスクを相乗的に高める。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。