PaO2だけでは見えない酸素不足―Hbと飽和度で計算する動脈血酸素含量
第106回医師国家試験 G問題 第69問
国試問題にチャレンジ
ある患者の動脈血ガス分析(自発呼吸,room air)の結果を示す。 pH 7.40,PaCO2 50 Torr,PaO2 45 Torr,HCO3- 30 mEq/L,SaO2 84%。 血液検査結果が赤血球310万,Hb 8.9 g/dL,Ht 27%であるとき,動脈血100 mL中の酸素含量を求めよ。 ただし,正常ヘモグロビン1 gは1.34 mLの酸素と結合し,血液中に溶存する酸素は無視できるものとする。なお,小数点以下第1位を四捨五入すること。 解答:①②ml
対話形式の解説
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ドクターまとめ
動脈血酸素含量は、溶存酸素を無視すれば「1.34 × Hb(g/dL)× SaO2」で求められ、本問では8.9 × 0.84 × 1.34 ≒ 10 mLとなります。SaO2を掛け忘れて最大酸素結合能の12 mLを答えるのが典型的な誤りで、赤血球数やHtなど計算に不要な数値に惑わされないことも重要です。健常者の酸素含量は約20 mL/dLであり、貧血ではPaO2やSaO2が正常でも酸素含量が低下すること、組織への酸素供給は酸素含量と心拍出量で決まることを押さえておきましょう。この考え方は、呼吸不全や貧血の患者さんの酸素化を臨床で正しく評価するための基礎になります。
解答・解説
正解は10mlです
考え方
血液が運ぶ酸素は、ヘモグロビン(Hb)に結合した酸素と、血漿に物理的に溶け込んだ溶存酸素の2つからなる。本問では溶存酸素を無視してよいとされているので、Hbに結合している酸素の量だけを求めればよい。 Hb結合酸素量は「Hb量 × 酸素と実際に結合している割合(SaO2)× Hb 1 gあたりの最大結合量(1.34 mL)」で計算する。
計算過程
1. 動脈血100 mL中のHb量 100 mL = 1 dLなので、Hb 8.9 g/dL × 1 dL = 8.9 g である。 2. そのうち酸素と結合しているHb量 SaO2(動脈血酸素飽和度)は、全Hbのうち酸素と結合しているHbの割合を表す。SaO2 84%なので、 8.9 g × 0.84 = 7.476 g 3. 結合している酸素量 1 gのHbは1.34 mLの酸素と結合するので、 7.476 g × 1.34 mL/g ≒ 10.02 mL 小数点以下第1位を四捨五入して、答えは 10 mL となる。
よくある誤り
SaO2を掛け忘れて 8.9 × 1.34 ≒ 11.9 → 12 mL とする誤答が多い。この値はHbがすべて酸素で飽和した場合の最大量(酸素結合能)であり、実際の酸素含量ではない。問題文には赤血球数、Ht、PaCO2、HCO3-など計算に使わない値も並んでいるので、必要なデータ(Hb と SaO2)を見極めることが大切である。
動脈血酸素含量(CaO2)の式
CaO2(mL/dL)= 1.34 × Hb(g/dL)× SaO2 + 0.003 × PaO2(Torr) 前半がHb結合酸素、後半が溶存酸素である。溶存酸素の係数(約0.003 mL/dL/Torr)は非常に小さく、本症例ではPaO2 45 Torrなので 0.003 × 45 ≒ 0.14 mL/dL にすぎない。含めても10.16 mL程度で、四捨五入後の答えは変わらない。このため通常の空気呼吸下では溶存酸素はほぼ無視できる。ただし高濃度酸素吸入や高気圧酸素療法でPaO2が非常に高くなると、溶存酸素の寄与が無視できなくなる。 なお、Hb 1 gあたりの酸素結合量には1.34のほか、1.36や理論値の1.39が用いられることもあるが、国試では問題文の指定値に従えばよい。
健常者との比較
健常成人(Hb 15 g/dL、SaO2 97〜98%)では、CaO2 ≒ 1.34 × 15 × 0.98 ≒ 19.7 mL/dL、つまり約20 mL/dLである。本症例は約10 mL/dLと、健常者のおよそ半分しか酸素を運べていない。これは貧血(Hb 8.9 g/dL)と低酸素血症(SaO2 84%)が重なっているためである。
酸素運搬量
組織への酸素供給量(DO2)は「CaO2 × 心拍出量」で決まる。したがって組織の酸素化を評価するにはPaO2やSaO2だけでなく、Hb値(貧血の有無)と心拍出量も考慮する必要がある。貧血ではPaO2やSaO2が正常でも酸素含量は低下する点が重要である。
本症例の血液ガスについて(参考)
pH 7.40と正常だが、PaCO2 50 Torr(高値)とHCO3- 30 mEq/L(高値)であり、呼吸性アシドーシスに対して腎性の代償(HCO3-の再吸収亢進)が働いた状態と解釈できる。慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの慢性の高二酸化炭素血症を伴う呼吸不全で見られるパターンである。PaO2 45 Torrは60 Torr以下であり、呼吸不全(II型:PaCO2 > 45 Torr を伴う)の基準を満たす。
POINT
・動脈血酸素含量 ≒ 1.34 × Hb(g/dL)× SaO2(溶存酸素は通常無視できる) ・SaO2(小数)を掛け忘れると最大酸素結合能(本問では12 mL)を答えてしまう ・100 mL = 1 dL なので、Hb(g/dL)の数値がそのまま血液100 mL中のHb量(g)になる ・健常者の酸素含量は約20 mL/dL。貧血ではSaO2が正常でも酸素含量は低下する
