StudyMed医師国家試験

速すぎる思考、止まる思考―気分障害は「テンポ」の病

第106回医師国家試験 D問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第106回 D問題 第19問

気分障害でみられる思考障害はどれか。2つ選べ。

  1. a.観念奔逸
  2. b.思考伝播
  3. c.思考制止
  4. d.滅裂思考
  5. e.連合弛緩

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は気分障害でみられる思考の異常を選ぶ問題だ。思考障害は統合失調症のイメージが強いけれど、気分障害にも特徴的なものがある。カギは「思考のテンポ」と「思考のまとまり」を分けて考えることだよ。
医学生医学生
精神科の講義で思考障害の用語がたくさん出てきて、正直どれがどの病気か混乱しています。
ドクタードクター
用語が多いからね。まず全体の地図を作ろう。思考の障害は大きく、考えの流れ方の異常である思考過程の障害、妄想のような思考内容の障害、自分の考えが自分のものと感じられない思考体験様式の障害、つまり自我障害の3つに分けて整理する。今回の選択肢は、思考過程の障害か自我障害のどちらかに入るんだ。
医学生医学生
気分障害は気分の病気なのに、思考にも影響が出るんですね。
ドクタードクター
そう。気分が上がれば考えも速く、多くなり、気分が沈めば考えも遅く、少なくなる。つまり気分障害の思考過程の障害は、テンポの亢進か抑制という「量的」な変化が中心なんだ。
医学生医学生
躁状態の患者さんが、話題をどんどん飛ばしながら早口でしゃべり続けるのが観念奔逸でしょうか。
ドクタードクター
その通り。考えが次々に湧いて思考の進みが異常に速くなり、話が脇へ脇へとそれていく。ただ、語呂合わせや周りの刺激といった表面的な連想でつながっているので、聞き手がたどろうと思えばつながりはおおむね追える。多弁や、しゃべらずにいられない談話心迫とセットで出てくることが多いよ。
医学生医学生
逆にうつ状態では、考えが進まなくなるのが思考制止ですね。
ドクタードクター
そう。患者さんは「頭が働かない」「考えがまとまらず何も決められない」と訴え、質問への返答に時間がかかり、口数も少なくなる。精神・行動全体が抑えられる精神運動制止の一部として現れる。観念奔逸と思考制止の2つが、今回の正解だ。
医学生医学生
臨床実習で精神科を回ったとき、うつ病の患者さんが問診の質問にしばらく黙ってから小さな声で答えていたのを思い出しました。あれが思考制止だったんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。単に話したくないのではなく、考えが前に進まない苦しさがあるんだ。では、残りの選択肢を見ていこう。連合弛緩はどうかな。
医学生医学生
考えのつながりがゆるむ……観念奔逸も話が飛ぶので、似ている気がします。
ドクタードクター
そこが一番の引っかけだね。観念奔逸はテンポが速すぎて話がそれるだけで、連想のつながり自体はある。一方、連合弛緩は考えと考えの結びつきそのものが弱くなり、何を言いたいのかがつかめなくなる「質的」な障害だ。Bleulerが統合失調症の基本症状、いわゆる4つのAの一つに挙げたもので、統合失調症に特徴的なんだ。
医学生医学生
滅裂思考は、その連合弛緩がもっとひどくなったものですか。
ドクタードクター
そう位置づけられる。観念同士の論理的なつながりが失われて、話全体が理解できなくなる。さらに進むと単語の羅列、言葉のサラダになる。これも統合失調症の思考障害だ。ちなみに、せん妄のような意識障害のもとで思考がまとまらない場合は思考散乱と呼んで区別するよ。
医学生医学生
思考伝播は、自分の考えが周りに伝わってしまうと感じる症状ですよね。CBTの勉強でSchneiderの一級症状として覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。思考伝播は思考過程の障害ではなく、自分と外界の境界があいまいになる自我障害に入る。思考吹入や思考奪取、させられ体験の仲間で、統合失調症に特徴的だ。
医学生医学生
気分障害はテンポ、統合失調症はまとまりと自我、と分けると整理しやすいです。
ドクタードクター
その対比が覚えるコツだ。発展として、思考内容の障害、つまり妄想も同じように対比しておこう。うつ病では自分を過小評価する微小妄想、具体的には罪業妄想、貧困妄想、心気妄想が出る。躁状態では逆に、血統妄想や発明妄想のような誇大妄想。統合失調症では被害妄想や関係妄想、注察妄想が多く、気分とは無関係に生じることが多い。
医学生医学生
気分の向きと妄想の向きがそろっているんですね。
ドクタードクター
その通り。臨床で大事なのは、躁状態の観念奔逸がひどいと話がまとまらず、統合失調症の連合弛緩と区別しにくい場面があることだ。そんなときは、話の連想が表面的でも追えるか、気分の高揚や睡眠欲求の減少、行為心迫といった躁状態の症状がそろっているかを確認する。うつ病で微小妄想を伴う場合は希死念慮のリスクも高くなりうるので、慎重な評価が欠かせないよ。

まとめ

気分障害の思考過程の障害は、思考のテンポの量的な変化が中心で、躁状態では考えが次々に湧いて話がそれていく観念奔逸、うつ状態では考えが進まず遅くなる思考制止がみられます。これに対し、連合弛緩や滅裂思考は観念同士のつながりそのものが失われる質的な障害で、思考伝播は自我障害(Schneiderの一級症状)であり、いずれも統合失調症に特徴的です。妄想も、うつ病の微小妄想(罪業・貧困・心気)、躁状態の誇大妄想、統合失調症の被害・関係妄想と対比して整理できます。「気分障害はテンポ、統合失調症はまとまりと自我」という枠組みは、用語の暗記にとどまらず、実際の面接で症状を見分ける際の土台になります。

解答・解説

正解はa, cです

問われていること

気分障害(うつ病、双極性障害)で現れる思考の異常を選ぶ問題である。精神医学では思考の障害を大きく「思考過程(思路)の障害」「思考内容の障害(妄想など)」「思考の体験様式の障害(自我障害など)」に分けて整理する。本問の選択肢はいずれも思考過程の障害か、思考体験の障害に属する。

考え方

気分障害では、気分の高揚・低下にともなって思考の「速さ・量」が変化するのが特徴である。躁状態では考えが次々と湧き出して速く進み(観念奔逸)、うつ状態では考えが進まず遅くなる(思考制止)。つまり気分障害の思考過程の障害は、テンポの亢進か抑制という「量的」な変化が中心で、話の筋道自体は(飛躍はしても)ある程度追うことができる。 一方、統合失調症では思考同士の論理的なつながりそのものが失われる「質的」な障害(連合弛緩、滅裂思考)や、自分の考えが自分のものでないように体験される自我障害(思考伝播、思考吹入、思考奪取など)が特徴である。 この「気分障害=思考のテンポの障害」「統合失調症=思考のまとまりと自我の障害」という対比で整理すれば、a と c が選べる。

選択肢考察

  1. ○a.  観念奔逸

    観念奔逸(flight of ideas)は、次々に考えが浮かんで思考の進行が異常に速くなり、話題が脇へ脇へとそれていく状態である。個々の観念は音の類似(語呂合わせ)や周囲の刺激などの表面的な連想でつながっており、目標から逸れても、聞き手がそのつながりをたどることはおおむね可能である。多弁・談話心迫(しゃべらずにいられない)とともに、躁状態(双極性障害の躁病エピソード)の代表的な思考障害であり、気分障害でみられる。

  2. ×b.  思考伝播

    思考伝播は、自分の考えが声に出さなくても周囲の人に伝わってしまう、知れわたってしまうと体験するものである。自分と外界の境界があいまいになる自我障害(させられ体験の一群)に属し、Schneider(シュナイダー)の一級症状の一つとして統合失調症に特徴的である。気分障害に典型的な思考障害ではない。

  3. ○c.  思考制止

    思考制止(思考抑制)は、考えが浮かばず思考の進みが著しく遅くなる状態である。患者は「頭が働かない」「考えがまとまらず決められない」と訴え、応答までに時間がかかり、口数も少なくなる。精神運動制止(精神・行動全体の抑制)の一部であり、うつ状態(うつ病、双極性障害のうつ病エピソード)の代表的な思考障害として気分障害でみられる。

  4. ×d.  滅裂思考

    滅裂思考(思考滅裂)は、観念同士の論理的なつながりが失われ、話の内容が全体として理解できなくなった状態である。連合弛緩が高度になったものと位置づけられ、さらに進むと単語の羅列(言葉のサラダ)となる。統合失調症に特徴的な思考過程の障害であり、気分障害の典型像ではない。なお意識障害(せん妄など)のもとで思考がまとまらない場合は「思考散乱」と呼んで区別する。

  5. ×e.  連合弛緩

    連合弛緩は、考えと考えの結びつきがゆるみ、話の筋道が飛んだりぼやけたりして、何を言いたいのかがつかみにくくなる状態である。Bleuler(ブロイラー)が統合失調症の基本症状(4つのA)の一つに挙げたもので、統合失調症に特徴的である。観念奔逸と異なり、テンポの速さではなく連想のつながりそのものの弱さが問題である。

思考障害の分類と主な疾患

1. 思考過程(思路)の障害 ・観念奔逸:考えが速く次々に湧き、話がそれていく(躁状態) ・思考制止:考えが進まず遅い(うつ状態) ・連合弛緩、滅裂思考、言葉のサラダ:論理的なつながりの喪失(統合失調症) ・思考途絶:思考の流れが突然止まる(統合失調症) ・迂遠:細部にこだわり回りくどいが最終的に目的に達する(てんかん、認知症、知的障害など) ・保続:同じ観念・言葉が繰り返される(器質性脳疾患) 2. 思考内容の障害(妄想) ・うつ病:微小妄想(罪業妄想、貧困妄想、心気妄想)。自己を過小評価する内容 ・躁状態:誇大妄想(血統妄想、発明妄想など)。自己を過大評価する内容 ・統合失調症:被害妄想、関係妄想、注察妄想など。気分とは無関係に生じることが多い 3. 思考体験様式の障害(自我障害) ・思考伝播、思考吹入、思考奪取、させられ体験など(統合失調症、Schneiderの一級症状)

気分障害の症状整理

・うつ状態:抑うつ気分、興味・喜びの喪失、思考制止、精神運動制止、希死念慮、微小妄想、不眠(早朝覚醒)、食欲低下、日内変動(朝に悪い) ・躁状態:気分高揚・易怒性、観念奔逸、多弁・談話心迫、行為心迫、睡眠欲求の減少、誇大的思考、注意散漫

POINT

・気分障害の思考過程の障害は「テンポ」の異常:躁状態=観念奔逸、うつ状態=思考制止。 ・統合失調症は「まとまり」の障害(連合弛緩→滅裂思考→言葉のサラダ)と自我障害(思考伝播・思考吹入・思考奪取)。 ・妄想も対比して覚える:うつ病=微小妄想(罪業・貧困・心気)、躁病=誇大妄想、統合失調症=被害・関係妄想。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。