濁ったレンズを入れ替える前に―眼内レンズの度数を決める「2つの物差し」
第105回医師国家試験 I問題 第75問
国試問題にチャレンジ
75歳の男性。右眼の視力低下を主訴に来院した。細隙灯顕微鏡検査を施行し,組織の混濁程度から手術適応と判断した。前眼部の写真を別に示す。 術前検査に必要な検査項目はどれか。2つ選べ。

- a.眼軸長
- b.角膜厚
- c.前房深度
- d.水晶体厚
- e.角膜曲率半径
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
高齢者の水晶体混濁は加齢性白内障であり、手術は超音波乳化吸引術で水晶体の中身を除去し、眼内レンズを挿入するのが標準です。水晶体が担っていた屈折力を眼内レンズで補うため、術前には眼軸長と角膜曲率半径(角膜屈折力)を測り、SRK式などの計算式でレンズ度数を決定します。眼軸長は1 mmの誤差で約2.5ディオプトリーの屈折誤差につながるため、正確な測定が欠かせません。角膜厚は屈折矯正手術や眼圧補正、前房深度は閉塞隅角緑内障のリスク評価に主に用いられ、度数計算に必須の項目ではありませんが、術後の水疱性角膜症を防ぐための角膜内皮細胞密度の確認や、α1遮断薬の服薬歴の確認も重要です。手術で何を取り除き何を補うのかを理解すると、術前検査の意味が自然に整理できます。
解答・解説
正解はa, eです
所見の整理と診断
75歳の男性が、右眼の視力低下を訴えて受診した。細隙灯顕微鏡検査で、ある組織の混濁が強く、手術が必要と判断されている。前眼部写真では、瞳孔領の奥にある水晶体が中心部(核)を主体に黄白色に濁っており、皮質にも軽い混濁がある。年齢と経過をあわせると、加齢性白内障(核白内障を主体とする)と診断できる。
設問の考え方
現在の白内障手術は、濁った水晶体の中身を超音波で砕いて吸引し(超音波乳化吸引術)、残した水晶体嚢の中に人工の眼内レンズ(intraocular lens:IOL)を入れるのが標準である。水晶体は眼全体の屈折力のうち約20ディオプトリー(D)前後を担っているため、取り除いた分を眼内レンズで正確に補わないと、術後に強い遠視や近視が残ってしまう。 したがって、術前検査の中心は「どの度数の眼内レンズを入れるか」を決めるための測定になる。眼の屈折状態は主に二つの要素で決まる。一つは角膜の屈折力で、角膜のカーブの強さ、つまり角膜曲率半径から求める。もう一つは眼の長さ、つまり眼軸長である。この二つを計算式に入れて、術後に目標とする屈折(多くは正視〜軽い近視)になるレンズ度数を求める。 代表的な理論式・回帰式であるSRK式は次のとおりである。 P = A - 2.5L - 0.9K (P:眼内レンズ度数〔D〕、A:レンズごとに決まる定数〔A定数〕、L:眼軸長〔mm〕、K:角膜屈折力の平均値〔D〕) 改良版のSRKⅡ式では、眼軸長に応じた補正値を加える。この式から分かるように、眼軸長が1 mm長ければ必要なレンズ度数は約2.5 D小さくなる。眼軸長の測定誤差は術後屈折の誤差に直結する。以上から、必須の検査項目は眼軸長と角膜曲率半径である。
選択肢考察
- ○a. 眼軸長
眼軸長は角膜頂点から網膜(中心窩)までの長さで、成人では平均約23〜24 mmである。長いほど近視寄り、短いほど遠視寄りになる。眼内レンズ度数の計算に欠かせない基本的な値である。超音波Aモード法、または光干渉を利用した光学式眼軸長測定装置で測定する。光学式は精度が高いが、混濁が強い成熟白内障では測定できないことがあり、その場合は超音波法を用いる。前述のとおり、1 mmの誤差でおよそ2.5〜3 Dの屈折誤差を生じるため、正確な測定が必要である。
- ×b. 角膜厚
角膜厚は超音波パキメトリーなどで測定する。屈折矯正手術(LASIKなど)の適応判断や、角膜内皮機能の評価、眼圧測定値の補正に用いる指標である。一般的な眼内レンズ度数の計算には用いない。なお白内障手術では、術後の角膜浮腫(水疱性角膜症)のリスクを評価するため、角膜内皮細胞密度をスペキュラーマイクロスコープで調べることが重要である。ただしこれは角膜厚とは別の検査項目である。
- ×c. 前房深度
前房深度は角膜後面から水晶体前面までの距離で、閉塞隅角緑内障のリスク評価などに使われる。Haigis式などの一部の新しい度数計算式では、術後のレンズ位置の予測に前房深度を加えることがある。しかし、眼内レンズ度数決定に必須の基本項目ではない。基本となるのはあくまで眼軸長と角膜曲率半径である。
- ×d. 水晶体厚
水晶体は手術で摘出されるため、その厚さ自体は術後の屈折を決める主要因ではない。一部の新しい計算式ではレンズ位置の予測精度を上げる補助的な変数として使われるが、必須項目ではない。
- ○e. 角膜曲率半径
角膜は眼全体の屈折力の約3分の2(約40〜45 D)を担う、最も強い屈折面である。角膜曲率半径(正常では約7.5〜8.0 mm)はケラトメータ(オートケラトメータ)で測る。曲率半径が小さい(カーブが急な)ほど屈折力は大きくなり、およそ K ≒ 337.5 ÷ 曲率半径(mm) の関係で角膜屈折力(K値)に換算される。この値を眼軸長とともに計算式に入れて眼内レンズ度数を決めるため、必須の検査である。乱視の程度や軸もここから分かり、乱視矯正用のトーリック眼内レンズを選ぶかどうかの判断にも使われる。
白内障の分類
・加齢性(老人性)白内障が最も多い。混濁の部位によって、核白内障、皮質白内障、後嚢下白内障に分けられる。 ・核白内障では核の硬化で屈折力が増すため、近視化して「老眼が軽くなった」と感じることがある。 ・後嚢下白内障は、ステロイド使用や糖尿病に関連し、比較的早期から視力が落ちやすい。 ・その他の白内障:先天性白内障(風疹など)、併発白内障(ぶどう膜炎など)、外傷性白内障、糖尿病白内障、アトピー性白内障、放射線白内障。 ・核の硬さはEmery-Little分類(Grade 1〜5)で評価し、超音波乳化吸引術の難易度の目安になる。
白内障手術の術前検査
・視力・屈折検査、眼圧、細隙灯顕微鏡検査、散瞳下の眼底検査を行う(眼底が見えない場合は超音波Bモードで網膜剝離などを除外する)。 ・眼内レンズ度数決定のための検査:眼軸長、角膜曲率半径(新しい計算式では前房深度などを追加することもある)。 ・角膜内皮細胞密度(スペキュラーマイクロスコープ):一般に500個/mm²を下回ると術後に水疱性角膜症のリスクが高いとされる。 ・全身状態の評価:糖尿病、高血圧、抗凝固薬の服用、前立腺肥大症治療薬(タムスロシンなどのα1遮断薬)の服用歴。α1遮断薬は術中虹彩緊張低下症候群(IFIS)の原因になる。
眼内レンズ度数計算の要点
・SRK式:P = A - 2.5L - 0.9K ・眼軸長1 mmの誤差 → 約2.5〜3 Dの屈折誤差。角膜屈折力1 Dの誤差 → 約1 Dの屈折誤差。 ・角膜屈折矯正手術(LASIKなど)の既往がある眼では、角膜屈折力を正しく評価しにくく、術後屈折がずれやすい。
POINT
・高齢者の水晶体混濁 → 加齢性白内障。手術は超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入。 ・眼内レンズ度数の決定に必須の術前検査は、眼軸長と角膜曲率半径(角膜屈折力)。 ・SRK式:P = A - 2.5L - 0.9K。 ・角膜内皮細胞密度も術前に確認する(水疱性角膜症の予防)。 ・前房深度・水晶体厚は一部の新しい計算式で補助的に使うが、必須項目ではない。
