検査は全部正常、でも紫斑が出る―IgA血管炎と「隠れた」第XIII因子
第105回医師国家試験 I問題 第2問
国試問題にチャレンジ
IgA血管炎〈Schönlein-Henoch紫斑病〉の血液検査所見で正しいのはどれか。
- a.出血時間の延長
- b.血小板数の減少
- c.第XIII因子の低下
- d.プロトロンビン時間〈PT〉の延長
- e.活性化部分トロンボプラスチン時間〈APTT〉の延長
対話形式の解説
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ドクターまとめ
IgA血管炎(Schönlein-Henoch紫斑病)は、IgAを含む免疫複合体が小血管壁に沈着して起こる血管炎であり、紫斑は血管性の出血によるものです。そのため血小板数、出血時間、PT、APTTといった止血スクリーニング検査はいずれも正常となるのが特徴です。一方、急性期には第XIII因子(フィブリン安定化因子)活性が低下することが多く、特に腹部症状の強い例で目立ちますが、第XIII因子はフィブリン形成後に働くためPT・APTTには反映されず、別途測定が必要です。臨床では触知可能な紫斑・関節症状・腹部症状・腎炎の四主徴を押さえ、腸重積の合併や、長期予後を左右する腎炎の経過観察に注意します。各検査が止血のどの段階を見ているかを理解しておくことは、出血性疾患全般の鑑別の基礎になります。
解答・解説
正解はcです
テーマ
IgA血管炎(Schönlein-Henoch紫斑病、旧称アレルギー性紫斑病)は、IgAを主体とする免疫複合体が皮膚・消化管・腎糸球体などの小血管(毛細血管、細静脈、細動脈)の壁に沈着して起こる小型血管炎である。出血傾向の原因は「血管壁の炎症と透過性亢進」にあり、血小板や凝固因子の異常によるものではない。
出血性疾患を検査から整理する考え方
止血は、①血管、②血小板(一次止血)、③凝固因子(二次止血)、④線溶の各段階で成り立つ。スクリーニング検査は次のように対応する。 ・血小板数・出血時間:主に一次止血(血小板の数と機能)を反映する ・PT(プロトロンビン時間):外因系と共通系の凝固因子を反映する ・APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間):内因系と共通系の凝固因子を反映する IgA血管炎は血管自体の病変による出血(血管性紫斑)であるため、これらのスクリーニング検査はいずれも正常となるのが特徴である。
第XIII因子について
第XIII因子(フィブリン安定化因子)は凝固カスケードの最終段階で働き、フィブリン同士を架橋して血栓を強固にする。PTやAPTTはフィブリンが形成された時点で測定が終了するため、第XIII因子が低下してもPT・APTTは延長しない。IgA血管炎では、血管炎の病変部で第XIII因子が消費されるなどの機序により、急性期に第XIII因子活性が低下することが多く、特に腹部症状が強い例で低下が目立つ。したがって、選択肢の中で本疾患の血液検査所見として正しいのは第XIII因子の低下である。
選択肢考察
- ×a. 出血時間の延長
誤り。出血時間は、皮膚に小さな傷をつけて止血するまでの時間であり、主に血小板数の減少や血小板機能異常(血小板無力症、von Willebrand病、抗血小板薬の服用など)で延長する。IgA血管炎では血小板数も機能も正常であり、出血時間は通常正常である。なお、血管の脆弱性を調べる毛細血管抵抗試験(Rumpel-Leede試験)は陽性となることがある。
- ×b. 血小板数の減少
誤り。IgA血管炎の紫斑は血管炎によるもので、血小板数は正常(炎症に伴いむしろ増加することもある)である。血小板減少による紫斑の代表は免疫性血小板減少症(ITP)であり、IgA血管炎との鑑別点となる。ITPの紫斑は平坦で触知しないのに対し、IgA血管炎の紫斑はわずかに隆起して触知できる(palpable purpura)点も異なる。
- ○c. 第XIII因子の低下
正しい。IgA血管炎の急性期には、血管炎の病変部での消費などにより第XIII因子活性が低下することが多い。低下の程度は腹痛や消化管出血などの腹部症状の重さと関連するとされ、腹部症状が強い症例では第XIII因子製剤の補充が治療として用いられることがある。第XIII因子の低下はPT・APTTには反映されないため、別途活性を測定する必要がある。
- ×d. プロトロンビン時間〈PT〉の延長
誤り。IgA血管炎では凝固因子の産生や消費に大きな異常はなく、PTは正常である。PTが延長する代表的な病態には、ビタミンK欠乏症、肝不全(肝硬変など)、ワルファリン内服、播種性血管内凝固(DIC)、第VII因子欠乏症などがある。
- ×e. 活性化部分トロンボプラスチン時間〈APTT〉の延長
誤り。IgA血管炎ではAPTTも正常である。APTTが延長する代表的な病態には、血友病A(第VIII因子欠乏)、血友病B(第IX因子欠乏)、von Willebrand病(第VIII因子の安定化が障害されるため)、抗リン脂質抗体症候群でのループスアンチコアグラント、ヘパリン投与、DICなどがある。
IgA血管炎の概要
・好発:3~10歳前後の小児に多いが、成人にも発症する(成人例は腎障害が重くなりやすい)。 ・誘因:上気道感染(溶連菌など)が先行することが多い。薬剤、食物、虫刺されなどが契機となることもある。 ・病態:IgA(主にIgA1)を含む免疫複合体が小血管壁に沈着し、白血球破砕性血管炎を起こす。皮膚生検の蛍光抗体法で血管壁へのIgA沈着を認める。
主な症状(四主徴)
①皮膚症状:下肢・臀部を中心とした左右対称性の触知可能な紫斑(palpable purpura)。ほぼ全例にみられる。 ②関節症状:膝・足関節などの関節痛・腫脹。 ③腹部症状:腹痛、嘔吐、消化管出血。腸重積(小腸–小腸型が多い)を合併することがあり、紫斑に先行して腹痛が出現すると診断が難しい。 ④腎症状:血尿・蛋白尿(IgA血管炎腎炎)。組織像はIgA腎症と類似し、長期予後を左右する。
検査所見のまとめ
・血小板数、出血時間、PT、APTT:正常 ・第XIII因子活性:急性期に低下することが多い ・血清IgA:上昇することがある ・尿検査:血尿・蛋白尿の有無を経過中繰り返し確認する
治療と予後
多くは数週間で自然軽快し、安静や対症療法が中心となる。強い腹部症状には副腎皮質ステロイドが用いられ、第XIII因子の低下が著しい例では第XIII因子製剤を補充することがある。腎炎が高度な場合はステロイドや免疫抑制薬などを用いる。予後は腎障害の有無と程度に左右されるため、紫斑が消えた後も数か月は尿検査で経過観察する。
出血性疾患の検査パターン
・血小板減少症(ITPなど):血小板数減少、出血時間延長、PT・APTT正常 ・von Willebrand病:出血時間延長、APTT延長(ときに正常)、血小板数・PT正常 ・血友病:APTT延長のみ ・ビタミンK欠乏症:PT・APTTともに延長(PTが先行) ・DIC:血小板減少、PT・APTT延長、フィブリノゲン低下、FDP・Dダイマー上昇 ・IgA血管炎、第XIII因子欠乏症:スクリーニング検査はすべて正常
POINT
・IgA血管炎は血管壁の炎症による血管性紫斑であり、血小板数・出血時間・PT・APTTはいずれも正常である。 ・急性期に第XIII因子(フィブリン安定化因子)活性が低下することが多く、腹部症状の強さと関連する。高度の低下例では第XIII因子製剤を補充する。 ・第XIII因子の低下はPT・APTTでは検出できない。 ・四主徴は、下肢の触知可能な紫斑、関節症状、腹部症状(腸重積に注意)、腎炎である。予後は腎障害で決まる。
