「辞めたい」には待ったを―うつ病の治療導入で伝えるべきこと、伝えてはいけないこと
第105回医師国家試験 H問題 第19問
国試問題にチャレンジ
うつ病と診断された就労者に対する治療導入時の説明で適切でないのはどれか。
- a.「治療中には症状の一進一退があります」
- b.「病気であり怠けではありません」
- c.「休養と薬物療法が重要です」
- d.「回復に数か月はかかります」
- e.「早めに退職を考えましょう」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
うつ病の治療導入時には、病気であり怠けではないこと、早めの十分な休養、回復までの見通し、症状が一進一退すること、服薬の必要性と副作用、自殺しない約束などを伝えることが重要で、これらは笠原嘉の小精神療法の原則として知られています。急性期は判断力が低下し悲観的な考えに支配されやすいため、退職・離婚などの重大な決断は治療終了まで先延ばしにするよう勧めるのが原則であり、医師が退職を促すのは適切ではありません。就労者では休職して治療に専念し、主治医・産業医・職場が連携して段階的に職場復帰を目指します。寛解後も再燃予防のため抗うつ薬を数か月以上続けることや、治療開始直後と回復期の自殺リスクにも注意が必要です。治療の見通しを丁寧に伝えることは、服薬継続と回復を支える治療そのものの一部といえます。
解答・解説
正解はeです
問われていること
うつ病と診断されたばかりの就労者に、治療を始めるにあたって医師が伝える内容として「適切でないもの」を選ぶ問題である。
考え方
うつ病の初期治療では、薬物療法とともに、病気の性質と治療の見通しを本人(および家族)にわかりやすく伝える支持的な精神療法が重要となる。日本では笠原嘉が提唱した「小精神療法」の7原則がよく知られており、本問の選択肢の多くはこれに対応している。 1)病気であり、怠けではないことを伝える。 2)できる限り早く、十分な休養をとらせる。 3)回復までのおおよその期間(予想される治癒の時期)を示す。 4)治療中に自殺をしないと約束してもらう。 5)治療中は症状が一進一退することを前もって伝える。 6)退職・離婚・転居など人生上の大きな決断は、治療が終わるまで先に延ばすよう勧める。 7)服薬の必要性と、起こりうる副作用を説明する。 うつ病の急性期には、思考制止(考えが進まない)、集中力・判断力の低下、自責感や悲観的な思考(「自分は迷惑をかけている」「辞めるしかない」など)が生じやすい。このような状態で退職などの重大な決定をすると、回復後に後悔したり、生活基盤を失って回復が妨げられたりするおそれがある。したがって、退職を勧める説明は原則6に反し、適切でない。
選択肢考察
- ×a. 「治療中には症状の一進一退があります」
適切な説明である。うつ病の症状は治療により直線的に良くなるわけではなく、良い日と悪い日を繰り返しながら徐々に改善していくことが多い。あらかじめ一進一退があると伝えておくと、一時的な悪化で患者が「治らない」と絶望したり、自己判断で服薬や通院をやめたりするのを防げる。症状の変化に一喜一憂しないよう支えることにつながる。
- ×b. 「病気であり怠けではありません」
適切な説明である。うつ病でみられる意欲の低下、仕事の能率低下、朝起きられないといった変化は、本人や職場から「怠け」「気の持ちよう」と誤解されやすく、患者自身も強い自責感を抱きやすい。これらが病気による症状であると明確に伝えることで、罪悪感を和らげ、休養や治療を受け入れやすくする。
- ×c. 「休養と薬物療法が重要です」
適切な説明である。中等症以上のうつ病治療の基本は、心身の十分な休養と抗うつ薬(SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬、SNRI:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、NaSSA:ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬など)による薬物療法である。就労者では、必要に応じて診断書を作成し休職を勧めることも含まれる。抗うつ薬は効果が現れるまで通常2〜4週間程度かかること、副作用があり得ることも併せて説明する。
- ×d. 「回復に数か月はかかります」
適切な説明である。うつ病は短期間で治る病気ではなく、症状が落ち着く(寛解する)までに一般に数か月を要し、寛解後も再燃を防ぐために少なくとも数か月(おおむね4〜9か月、あるいはそれ以上)は抗うつ薬を継続することが推奨される。回復までの見通しを具体的に示すことで、患者の焦りを減らし、早すぎる職場復帰や服薬の自己中断を防ぐことができる。
- ○e. 「早めに退職を考えましょう」
適切でない説明であり、これが正解である。うつ病の急性期には判断力が低下し、悲観的・自責的な考えに支配されやすいため、退職のような人生上の重大な決断は治療が終わるまで保留するよう勧めるのが原則である。医師が退職を促すことは、回復後に取り返しのつかない結果(収入や社会的役割の喪失)を招くおそれがあり、職場復帰という治療目標にも反する。実際には、退職ではなく休職して治療に専念し、回復後に段階的に職場復帰する流れが一般的である。
うつ病の治療の流れ
・急性期治療:症状の改善・寛解を目指す時期。休養と抗うつ薬による薬物療法、支持的精神療法を行う。 ・継続療法:寛解後も再燃を防ぐため、同じ用量で抗うつ薬をおおむね4〜9か月以上継続する。 ・維持療法:再発を繰り返す例では、さらに長期間の服薬を続けて再発予防を図る。 症状が軽くなったからといって自己判断で中止すると再燃しやすいため、服薬継続の重要性を説明しておく。
自殺への配慮
うつ病は自殺の危険が高い疾患であり、特に治療開始直後や回復期(意欲が戻り始め行動力が回復する時期)には注意が必要とされる。治療導入時には自殺念慮の有無を確認し、「自殺しないと約束する」ことを求めるのが小精神療法の原則の一つである。
就労者のうつ病と職場復帰
休職が必要な場合、主治医は診断書を作成し、療養に専念できる環境を整える。回復後は、主治医の復職可能の判断、産業医による面談、職場との調整を経て、短時間勤務や業務量の軽減など段階的な復帰を行う(厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」に沿った流れ)。リワークプログラム(復職支援プログラム)が利用されることもある。
「心の風邪」という表現について
うつ病は誰でもかかりうる身近な病気であるという啓発の意味で「心の風邪」と表現されることがあるが、実際には回復に数か月を要し、再発も少なくないため、軽く考えてよい病気ではない点に注意する。
POINT
・うつ病治療導入時の説明(小精神療法の原則):病気であり怠けではない、早めの十分な休養、回復に要する期間の提示、自殺しない約束、症状は一進一退する、重大な決定は治療終了まで延期、服薬の必要性と副作用。 ・うつ病急性期は判断力が低下しているため、退職・離婚などの重大な決断は先延ばしにさせる。 ・就労者では退職ではなく休職して治療し、段階的な職場復帰を目指す。 ・寛解後も再燃予防のため抗うつ薬を数か月以上継続する。
