動かない子宮と腫れた卵巣―子宮内膜症を「触って」「写して」見つける
第105回医師国家試験 G問題 第58問
国試問題にチャレンジ
28歳の女性。月経痛と性交痛とを主訴に来院した。最近,月経時以外にも下腹部痛と腰痛とが持続している。内診で子宮は正常大で可動性が制限されている。左卵巣は鵞卵大に触れる。 診断に有用なのはどれか。3つ選べ。
- a.直腸指診
- b.骨盤部MRI
- c.頸管粘液検査
- d.子宮頸部細胞診
- e.経腟超音波検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
性成熟期の女性で、月経痛に加えて深部性交痛や慢性骨盤痛があり、子宮の可動性制限と卵巣腫大を認めれば、子宮内膜症と卵巣チョコレート嚢胞を考えます。好発部位はダグラス窩・仙骨子宮靱帯・卵巣であり、直腸診(腟直腸双合診)で硬結や圧痛を触れ、経腟超音波では点状エコーの充満した嚢胞、MRIではT1強調像・脂肪抑制T1強調像でともに高信号、T2強調像でシェーディングを示します。頸管粘液検査は排卵期評価などの不妊検査、子宮頸部細胞診は子宮頸癌のスクリーニングであり、子宮外の病変の診断には役立ちません。確定診断は腹腔鏡で、CA125は補助的な指標にとどまり、まれな悪性化や不妊との関連にも注意が必要です。「病変がどこにあるか」から検査を選ぶ発想は、婦人科に限らずあらゆる診断の基本になります。
解答・解説
正解はa, b, eです
所見の整理
・28歳女性(性成熟期) ・月経痛(月経困難症)と性交痛が主訴 ・最近は月経時以外にも下腹部痛・腰痛が持続(慢性骨盤痛) ・内診: 子宮は正常大だが可動性が制限されている(骨盤内の癒着を示唆) ・左卵巣が鵞卵大(ガチョウの卵ほどの大きさ、おおよそ直径5〜7 cm程度)に腫大
診断へのプロセス
性成熟期の女性で、月経痛に加えて性交痛、月経以外の時期にも続く下腹部痛・腰痛があり、内診で子宮の可動性制限を認めることから、子宮内膜症をまず考える。子宮内膜症は子宮の後方にあるダグラス窩(直腸子宮窩)や仙骨子宮靱帯に好発し、病変部の出血と炎症を繰り返すことで周囲と強く癒着する。その結果、子宮は後方に引きつけられて動かなくなり、性交時に深部が突き上げられて痛む(深部性交痛)。腰痛や排便痛もこの部位の病変を反映する。 左卵巣の腫大は、卵巣に生じた子宮内膜症病変に月経ごとの出血が貯留してできる卵巣子宮内膜症性嚢胞(内容がチョコレート色の古い血液であることからチョコレート嚢胞とよばれる)と考えられる。 子宮が正常大である点は、子宮筋層内に内膜様組織ができて子宮全体がびまん性に腫大する子宮腺筋症や、子宮筋腫とは合わない。
設問の考え方
子宮内膜症・卵巣チョコレート嚢胞の診断に役立つ検査を選ぶ。子宮内膜症の診断は、①内診・直腸診による癒着や硬結の触知、②画像検査(経腟超音波検査、MRI)による嚢胞の検出と性状評価、③腫瘍マーカー(CA125の軽度〜中等度上昇)を組み合わせて行う臨床診断が中心で、確定診断は腹腔鏡による病変の直接観察と組織診断である。頸管粘液や子宮頸部の細胞を調べる検査は、骨盤腔内の病変を評価する手段ではない。
選択肢考察
- ○a. 直腸指診
直腸内に指を挿入して、直腸の前壁越しにダグラス窩、仙骨子宮靱帯、直腸腟中隔を触診する方法である。子宮内膜症はこれらの部位に好発し、病変があると小さな硬い結節(硬結)や圧痛として触れる。直腸診は腟からの内診よりも子宮後方の情報を得やすく、内診と組み合わせた腟直腸双合診は、ダグラス窩の閉塞や深部子宮内膜症の評価に特に有用である。したがって本例の診断に有用である。
- ○b. 骨盤部MRI
MRI(磁気共鳴画像)は組織の成分の違いを鋭敏に描き分けられるため、卵巣嚢胞の内容物の推定に優れる。チョコレート嚢胞の内容は出血を繰り返した古い血液であり、T1強調像で高信号を示し、脂肪抑制T1強調像でも高信号が保たれる(脂肪を含む成熟嚢胞性奇形腫〈皮様嚢腫〉では信号が低下するので区別できる)。T2強調像では、濃縮した血液成分のため嚢胞内が低信号となるシェーディング(shading)とよばれる所見がみられる。さらに、嚢胞内に造影される充実部分がないかを評価することで、子宮内膜症性嚢胞から生じる悪性腫瘍(明細胞癌、類内膜癌)との鑑別にも役立つ。したがって診断に有用である。
- ×c. 頸管粘液検査
頸管粘液はエストロゲンの作用で排卵期に量が増え、透明で牽糸性(糸を引くように伸びる性質)が高まり、乾燥させるとシダ状の結晶(羊歯状結晶)を形成する。この変化を観察して排卵時期の推定や卵巣機能の評価を行うほか、性交後試験(フーナーテスト)で精子と頸管粘液の適合性を調べる。いずれも不妊症の検査として用いられるものであり、骨盤腔内の子宮内膜症病変や卵巣嚢胞の診断には役立たない。
- ×d. 子宮頸部細胞診
子宮頸部細胞診は、子宮腟部・頸管の表面から細胞を擦過して採取し、異形成(前がん病変)や子宮頸癌の有無を調べるスクリーニング検査である。子宮内膜症の病変は骨盤腹膜や卵巣など子宮の外に存在するため、頸部の表面の細胞を調べても診断の手がかりは得られない。本例の診断には有用でない。
- ○e. 経腟超音波検査
腟内にプローブを挿入して観察する超音波検査で、経腹法よりも子宮や卵巣に近い位置から高い解像度で観察でき、非侵襲的で外来ですぐに行えるため、骨盤内病変の第一段階の画像検査として用いられる。チョコレート嚢胞は、嚢胞内部に細かく均一な点状エコーが充満した、すりガラス状の像を示すのが特徴である。腹膜表面の小さな病変や癒着そのものは描出しにくいが、本例のような卵巣子宮内膜症性嚢胞の検出と経過観察には有用である。
子宮内膜症とは
子宮内膜に似た組織が、子宮腔の内面以外の場所(卵巣、ダグラス窩、仙骨子宮靱帯、骨盤腹膜など)で発生・増殖する疾患である。エストロゲンに依存して増殖するため、月経のある性成熟期(20〜40歳代)に多く、閉経後には軽快する。発生機序としては、月経血が卵管を通って腹腔内へ逆流し内膜細胞が生着するという月経血逆流説が有力である。 かつては子宮筋層内に生じるものを内性子宮内膜症、子宮外に生じるものを外性子宮内膜症とよんだが、現在は前者を子宮腺筋症として別の疾患として扱い、後者のみを子宮内膜症とよぶ。
症状
・疼痛: 月経困難症(最も多い)、慢性骨盤痛、深部性交痛、排便痛 ・不妊: 癒着による卵管の通過障害や卵の取り込み障害、腹腔内の炎症などが関与する
診察・検査所見
・内診・直腸診: 子宮の可動性制限(後屈固定)、ダグラス窩や仙骨子宮靱帯の硬結・圧痛、付属器の腫大 ・腫瘍マーカー: CA125が軽度〜中等度に上昇することがある(特異性は低く、経過観察の指標として用いる) ・経腟超音波: チョコレート嚢胞はびまん性の細かい点状エコーを伴う嚢胞として描出される ・MRI: チョコレート嚢胞はT1強調像で高信号、脂肪抑制T1強調像でも高信号、T2強調像でシェーディング ・確定診断: 腹腔鏡による病変の直接観察と組織診断
卵巣チョコレート嚢胞の注意点
卵巣チョコレート嚢胞は、まれに悪性化して明細胞癌や類内膜癌を生じる。年齢が40歳以上、嚢胞径が大きい(10 cm前後以上)といった場合にリスクが高まるとされ、画像で造影される充実部分がないかを確認する必要がある。破裂すると急性腹症を起こすこともある。
治療
・薬物療法: 鎮痛薬(NSAIDs)、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)、ジエノゲストなどの黄体ホルモン製剤、GnRHアゴニスト・アンタゴニスト(いずれも低エストロゲン状態にして病変を萎縮させる)。ダナゾールはかつて多く用いられたが、副作用のため現在は使用が限られる。 ・手術療法: 挙児希望がある場合は腹腔鏡下の嚢胞摘出術や病巣除去・癒着剥離などの保存手術を行う。根治を目指す場合は子宮全摘術と両側付属器摘出術を行う。
POINT
・性成熟期女性の月経痛+性交痛+慢性骨盤痛+子宮の可動性制限+卵巣腫大 → 子宮内膜症・卵巣チョコレート嚢胞 ・子宮内膜症の好発部位はダグラス窩、仙骨子宮靱帯、卵巣で、直腸診(腟直腸双合診)で硬結・圧痛を触れる ・画像検査は経腟超音波(点状エコーの充満した嚢胞)とMRI(T1強調像で高信号、脂肪抑制でも高信号、T2強調像でシェーディング) ・確定診断は腹腔鏡。CA125は軽度〜中等度上昇することがある ・頸管粘液検査は不妊(排卵期の評価)の検査、子宮頸部細胞診は子宮頸癌のスクリーニングで、子宮内膜症の診断には用いない
