その血圧、本当に「高血圧」?―初診の高値に飛びつかず家庭血圧で確かめる
第105回医師国家試験 G問題 第39問
国試問題にチャレンジ
42歳の男性。高血圧症治療中の父が脳梗塞を発症したため,自身の血圧を心配して来院した。職場の健康診断は毎年受診しているが,異常を指摘されたことはない。喫煙歴はない。12年前からビール350 mLを毎日飲んでいる。運動は月に1回のゴルフを10年間。身長175 cm,体重70 kg。脈拍72/分,整。血圧164/92 mmHg。心音に異常を認めない。腹部に血管性雑音を聴取しない。浮腫を認めない。 まず勧めるのはどれか。
- a.禁酒
- b.運動療法
- c.体重の減量
- d.降圧薬の内服
- e.家庭血圧の測定
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
初めて診察室で高い血圧を指摘されても、1回の測定だけで高血圧と診断して治療を始めるべきではありません。家族の脳梗塞を機に不安を抱えて受診し、健診では異常がなかったという経過は白衣高血圧を疑う手がかりであり、まず家庭血圧(基準135/85 mmHg以上)を測定して、持続性高血圧かどうかを確かめます。白衣高血圧の人に降圧薬を投与すると過降圧の危険があり、飲酒量が節度の範囲内でBMIも正常であれば禁酒や減量を最初に勧める根拠はありません。また、白衣高血圧は将来持続性高血圧へ移行しやすく、逆に診察室では正常な仮面高血圧も存在するため、家庭血圧は両者を見抜くための重要な手段です。「診断を確かめてから治療に進む」という順序と、患者の不安に寄り添う説明の姿勢は、高血圧に限らず外来診療全般の基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・42歳男性。父が高血圧治療中に脳梗塞を発症し、自分の血圧が心配になって受診した(不安・緊張が強い状態で来院している)。 ・毎年の職場健診で異常を指摘されたことがない(これまでの血圧は正常域だったと考えられる)。 ・喫煙なし。飲酒はビール350 mL/日(エタノール換算で約17 mL/日、節度ある量の範囲内)。 ・身長175 cm、体重70 kgからBMI=70÷(1.75×1.75)≒22.9 kg/m²で、肥満はない(日本の肥満の基準はBMI 25以上)。 ・運動は月1回のゴルフ程度。 ・診察室血圧164/92 mmHgで、収縮期血圧でみるとII度高血圧(160〜179 mmHg)に相当する。 ・心音異常なし、腹部血管雑音なし(腎血管性高血圧を示唆する所見なし)、浮腫なし。臓器障害や二次性高血圧を疑わせる所見は見当たらない。
考え方
高血圧の診断は、1回の診察室血圧だけで確定させるものではない。診察室では医師や医療環境に対する緊張によって血圧が一時的に上昇することがあり、診察室血圧は高いが家庭血圧は正常である状態を「白衣高血圧」という。本例は、父の脳梗塞を契機に不安を抱えて受診しており、毎年の健診では異常がなかったことから、白衣高血圧の可能性を十分に考える必要がある。 日本高血圧学会のガイドラインでは、診察室血圧と家庭血圧の診断が一致しない場合は家庭血圧による診断を優先するとされ、家庭血圧の高血圧基準は135/85 mmHg以上(診察室血圧は140/90 mmHg以上)である。したがって、まず行うべきは、患者の不安に配慮して説明をしたうえで家庭血圧の測定を指導し、その記録をもとに本当に高血圧かどうかを判断することである。持続性の高血圧と確認されれば、生活習慣の修正や、リスクに応じた降圧薬治療へと進む。
選択肢考察
- ×a. 禁酒
過度の飲酒は血圧を上昇させるため、高血圧の生活習慣修正では節酒が勧められる。その目安は男性でエタノール20〜30 mL/日以下(ビールなら中瓶1本・約500 mL程度)、女性はその約半分である。本例のビール350 mL/日(アルコール度数5%として約17 mL)はこの範囲内に収まっており、禁酒を最初に勧める根拠は乏しい。そもそも高血圧の診断自体がまだ確定していない段階である。
- ×b. 運動療法
有酸素運動は降圧効果があり、高血圧患者には中等度の有酸素運動を毎日30分以上(または週180分以上)行うことが推奨される。本例の月1回のゴルフは運動量としては少なく、生活習慣の一般的な助言として運動を勧めること自体は誤りではない。しかし、診察室血圧1回のみで高血圧の診断が確定しておらず、白衣高血圧の可能性も残る段階で、まず優先すべき対応ではない。
- ×c. 体重の減量
肥満は高血圧の重要な危険因子で、肥満者では減量により血圧が低下する。生活習慣修正の目標はBMI 25未満の維持である。本例はBMI約22.9と標準体重の範囲内であり、減量を指導する必要はない。
- ×d. 降圧薬の内服
診察室血圧164/92 mmHgは数値上II度高血圧に相当するが、1回の測定であり、不安による一時的な上昇(白衣現象)の可能性がある。臓器障害を示す所見もなく、直ちに薬物治療を開始しなければならない緊急性(高血圧緊急症など)もない。白衣高血圧の患者に降圧薬を投与すると、普段の血圧が正常であるため過度の降圧(ふらつき、めまい、失神など)をきたすおそれがある。まず家庭血圧や繰り返しの測定で持続性の高血圧かどうかを確認し、そのうえでリスクを評価して薬物治療の要否を判断する。
- ○e. 家庭血圧の測定
健診で異常を指摘されたことがなく、不安を抱えた状態で受診したという経過から、白衣高血圧を鑑別する必要がある。家庭血圧は日常生活下の血圧を多数回測定でき、診察室血圧よりも脳心血管疾患の発症をよく予測するため、診断において優先される。原則として上腕カフ式の血圧計を用い、朝(起床後1時間以内、排尿後、服薬前、朝食前、座位で1〜2分安静後)と晩(就寝前)に測定し、一定期間(例えば1週間程度)の平均値で評価する。平均が135/85 mmHg以上なら高血圧、それ未満なら白衣高血圧と判断できる。その際、血圧の上昇は緊張や不安によることがある点を丁寧に説明し、不安を和らげてから測定を勧めることが大切である。不安を強めたまま測定させると、自宅での血圧にも影響しうる。
血圧測定法ごとの高血圧基準(日本高血圧学会)
・診察室血圧:140/90 mmHg以上 ・家庭血圧:135/85 mmHg以上 ・24時間自由行動下血圧(ABPM):24時間平均130/80 mmHg以上、昼間平均135/85 mmHg以上、夜間平均120/70 mmHg以上
診察室血圧による分類(成人)
・正常血圧:120/80 mmHg未満 ・正常高値血圧:120〜129/80未満 ・高値血圧:130〜139/80〜89 ・I度高血圧:140〜159/90〜99 ・II度高血圧:160〜179/100〜109 ・III度高血圧:180以上/110以上 (収縮期・拡張期で分類が異なる場合は高い方の分類に入れる)
診察室血圧と家庭血圧の組合せによる病型
・白衣高血圧:診察室で高血圧、家庭では正常。持続性高血圧より予後は良いが、将来持続性高血圧へ移行しやすく、定期的な経過観察が必要である。 ・仮面高血圧:診察室では正常、家庭では高血圧。早朝高血圧・夜間高血圧・職場高血圧などがあり、見逃されやすく心血管リスクが高い。 ・持続性高血圧:両方で高血圧。
高血圧の生活習慣修正
・減塩:食塩6 g/日未満 ・野菜・果物の積極的摂取(重篤な腎障害では注意)、飽和脂肪酸・コレステロールを控える ・適正体重の維持:BMI 25未満 ・運動:中等度の有酸素運動を毎日30分以上(または週180分以上) ・節酒:エタノールで男性20〜30 mL/日以下、女性10〜20 mL/日以下 ・禁煙
二次性高血圧の手がかり
若年発症、急な発症や増悪、治療抵抗性、腹部血管雑音(腎血管性高血圧)、低カリウム血症(原発性アルドステロン症)、発作性の頭痛・動悸・発汗(褐色細胞腫)などがあれば二次性高血圧を検索する。本例ではこうした所見は認めない。
POINT
・1回の診察室血圧で高血圧と決めつけず、まず家庭血圧で確認する。 ・不安・緊張の強い受診状況や健診での異常歴なしは白衣高血圧を疑う手がかり。 ・家庭血圧の基準は135/85 mmHg以上(診察室は140/90 mmHg以上)で、両者が食い違えば家庭血圧を優先する。 ・白衣高血圧に降圧薬を投与すると過降圧の危険がある。 ・生活指導の目安:BMI 25未満、減塩6 g/日未満、節酒(男性エタノール20〜30 mL/日以下)、有酸素運動を毎日30分以上。
