「腸が使えるなら腸を使う」―短腸のCrohn病患者を救う成分栄養剤
第105回医師国家試験 E問題 第51問
国試問題にチャレンジ
47歳の女性。下痢と体重減少とを主訴に来院した。Crohn病に対して6年前までに計3回の小腸部分切除術が施行され,約90 cmの空腸と20 cmの終末回腸が残存していた。カテーテルによる発熱を繰り返し,右鎖骨下静脈の血栓性狭窄も起こしたため,4年前から中心静脈栄養は行っていなかった。経腸栄養にて排便回数が5~6回/日程度に落ち着いてきたため,約2年前に本人の希望で経口食に変更した。薬物はメサラジンのみを内服していた。2週前から下痢が10回/日以上となり,体重も2週間で約3 kg減少したため来院した。意識は清明。身長156 cm,体重34 kg。体温37.2℃。脈拍72/分,整。血圧90/52 mmHg。腹部に圧痛を認めない。腸雑音は亢進している。血液所見:赤血球323万,Hb 11.4 g/dL,Ht 34%,白血球5,200,血小板17万。血液生化学所見:アルブミン3.2 g/dL,尿素窒素20 mg/dL,クレアチニン0.8 mg/dL,AST 26 IU/L,ALT 38 IU/L,ALP 863 IU/L(基準115~359),Na 138 mEq/L,K 3.2 mEq/L,Cl 108 mEq/L,Ca 8.0 mg/dL。CRP 0.6 mg/dL。腹部造影CTで残存小腸の軽度拡張と回盲部近傍の小腸壁肥厚とを認める。本人は外来での治療を希望している。 まず行う栄養管理として適切なのはどれか。
- a.普通食の経口摂取
- b.乳製品を含む流動食の経口摂取
- c.成分栄養剤による経腸栄養
- d.末梢静脈栄養
- e.中心静脈栄養
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
Crohn病で小腸切除を繰り返し残存小腸が約110 cmとなった本例は短腸症候群であり、普通食への変更とCrohn病の軽度再燃が重なって下痢と体重減少が悪化したと考えられます。腸管が使える以上「腸が使えるなら腸を使う」の原則に従い、アミノ酸を窒素源とし低脂肪・無残渣・低抗原性の成分栄養剤による経腸栄養をまず選びます。成分栄養剤は短い小腸でも吸収されやすく、Crohn病の寛解導入・維持の効果もあり、在宅で継続できるため外来治療の希望にも合います。乳製品は乳糖不耐による下痢を悪化させ、末梢静脈栄養は熱量が不足し、中心静脈栄養はカテーテル感染や静脈血栓を繰り返した本例では再開のリスクが高いため、いずれも第一選択になりません。投与経路を腸管の使用可否と期間で選ぶ考え方は、あらゆる診療科の栄養管理に通じる基本です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・Crohn病で小腸部分切除術を計3回受け、残っている小腸は空腸約90 cm+終末回腸約20 cmの計約110 cmである。成人の小腸は約6 mあるので、大部分が失われており、短腸症候群(残存小腸が短く、栄養や水分・電解質を十分吸収できない状態)に該当する。 ・中心静脈栄養(TPN)はカテーテル関連の発熱(カテーテル感染)を繰り返し、右鎖骨下静脈の血栓性狭窄も起こしたため、4年前に中止されている。 ・経腸栄養を行っていた時期は排便5~6回/日で落ち着いていたが、本人の希望で経口食に切り替えた。その後、2週前から下痢が10回/日以上に増え、体重が2週間で約3 kg減った。 ・身長156 cm、体重34 kgで、BMIは約14 kg/m²と高度のやせである。血圧90/52 mmHgとやや低く、脱水傾向がうかがえる。 ・血液検査では、軽い貧血(Hb 11.4 g/dL)、低アルブミン血症(3.2 g/dL)、低カリウム血症(K 3.2 mEq/L)、低カルシウム血症(Ca 8.0 mg/dL。アルブミンで補正すると約8.6 mg/dLで基準下限付近)、ALP高値(863 IU/L)がある。いずれも慢性的な下痢と吸収障害を示唆する。AST・ALTはほぼ正常なので、ALP高値は肝胆道系よりも、ビタミンD吸収障害による骨軟化症など骨由来の可能性を考えたい。 ・CRPは0.6 mg/dLと軽度上昇で、腹部造影CTでは残存小腸が軽度に拡張し、回盲部付近の小腸壁が厚くなっている。Crohn病が吻合部近くで軽く再燃している可能性がある。 ・本人は外来での治療を希望している。
病態の考え方
短腸症候群による吸収障害を背景に、経腸栄養から普通食へ変えて負担が増したこと(脂肪や食物残渣の増加)と、Crohn病の軽度再燃とが重なり、下痢と体重減少が悪化したと考えられる。高度な腸管狭窄や穿孔を示す所見(強い腹痛、腹膜刺激症状、著明な炎症反応など)はなく、腸管は使える状態である。
栄養管理の選び方
栄養療法の大原則は「腸が使えるなら腸を使う」ことである。経腸栄養は静脈栄養に比べて、腸粘膜の萎縮を防いでバリア機能を保ち、細菌が血中へ入り込むこと(bacterial translocation)を減らし、切除後の残存腸管が吸収能を高める適応(intestinal adaptation)も促す。カテーテル感染のような重い合併症もない。 Crohn病では、さらに成分栄養剤(elemental diet)そのものに腸の炎症を鎮める治療効果がある。本例は過去に経腸栄養で症状が安定しており、TPNではカテーテル合併症を繰り返したという経過もあるため、外来でまず行うべきなのは成分栄養剤による経腸栄養である。
選択肢考察
- ×a. 普通食の経口摂取
誤り。今回の下痢の悪化は、普通食に切り替えてから起こった。普通食は脂肪や食物繊維・残渣を多く含み、短い小腸では消化吸収しきれず、下痢や吸収不良を強める。また食物に含まれる抗原や脂肪はCrohn病の腸炎を刺激しやすい。10回/日以上の下痢と急な体重減少がある状態で、普通食をそのまま続けるのは適切でない。
- ×b. 乳製品を含む流動食の経口摂取
誤り。小腸を広く切除した患者やCrohn病患者では、小腸粘膜の乳糖分解酵素(ラクターゼ)が不足しやすい。分解されなかった乳糖は腸の中に水を引き込み(浸透圧性下痢)、さらに大腸で細菌に発酵されてガスや下痢の原因となる。乳製品は脂肪も多く、短腸症候群の下痢を悪化させるので避けるべきである。流動食であっても乳製品を含むものは不適切である。
- ○c. 成分栄養剤による経腸栄養
正しい。成分栄養剤は、窒素源がアミノ酸、糖質がデキストリンで、脂肪をほとんど含まない。消化をほとんど必要とせず小腸上部で吸収されるため、残存小腸が短くても効率よく栄養を取り込める。食物残渣がなく抗原性も低いので腸管を安静に保てるうえ、Crohn病の活動性を下げる効果がある。本例では以前経腸栄養で排便が5~6回/日に安定しており、効果が期待できる。経鼻チューブを自分で入れる方法や経口摂取で在宅でも続けられるため、外来治療を望む本人の希望にも合う。成分栄養剤は浸透圧が高く、急に多く入れると下痢を起こすため、低濃度・少量から始めて注入ポンプでゆっくり投与し、徐々に増やす。脂肪をほとんど含まないため、長期に使う場合は脂肪乳剤の静注などで必須脂肪酸欠乏を防ぐ必要がある。
- ×d. 末梢静脈栄養
誤り。末梢静脈から入れられる輸液は、血管痛や静脈炎を防ぐため浸透圧に上限があり(血漿のおよそ3倍まで)、ブドウ糖濃度を高くできない。そのため1日に投与できるエネルギーは1,000 kcal程度が限度で、BMI約14まで痩せた患者の栄養状態を立て直すには足りない。末梢静脈栄養は短期間(おおむね2週間以内)の補助的な方法であり、外来で長期に続ける栄養管理にも向かない。腸が使える本例でまず選ぶ方法ではない。
- ×e. 中心静脈栄養
誤り。中心静脈栄養は高カロリー輸液で十分なエネルギーを入れられ、在宅中心静脈栄養(HPN)として外来で行うこともできる。しかし本例はカテーテル感染による発熱を繰り返し、右鎖骨下静脈に血栓性狭窄も起こしたため中止した経緯があり、再開すれば同じ合併症が再び起こる危険が高い。腸管は使える状態で、以前は経腸栄養が効いていたので、まず経腸栄養を試みるべきである。経腸栄養で栄養状態を維持できない場合に、初めて静脈栄養を併用・再開することを検討する。
短腸症候群
腸管の大量切除などで吸収面積が不足し、下痢、脱水、電解質異常、体重減少、栄養素・ビタミン・微量元素の欠乏をきたす状態である。成人では残存小腸がおおむね150~200 cm未満で起こりやすく、回盲弁や大腸が残っているかどうかで重症度が変わる。原因として、成人ではCrohn病による繰り返しの腸切除、上腸間膜動脈閉塞症などが代表的である。 ・回腸末端を失うと、ビタミンB12と胆汁酸の吸収が障害される。胆汁酸が大腸に流れ込むと水分分泌を促して下痢(胆汁酸性下痢)を起こす。胆汁酸が不足すると脂肪や脂溶性ビタミン(A・D・E・K)の吸収も落ちる。 ・ビタミンDとカルシウムの吸収障害は低カルシウム血症や骨軟化症を起こし、骨由来のALP上昇を伴うことがある。 ・慢性の下痢では、カリウム・マグネシウム・亜鉛が失われやすい。便に重炭酸が失われると、高クロール性代謝性アシドーシスとなることがある。
Crohn病の栄養療法
・日本では、成分栄養剤(エレンタール®など)や消化態栄養剤による経腸栄養療法が、寛解導入と寛解維持の両方に用いられる。1日の必要エネルギーの半分程度を栄養剤から摂るだけでも、寛解維持に効果があるとされる。 ・成分栄養剤:窒素源はアミノ酸、脂肪はごく少量。消化を必要とせず、抗原性が低く、残渣がない。長期使用では必須脂肪酸欠乏に注意する。 ・消化態栄養剤:窒素源がペプチド。半消化態栄養剤:窒素源がタンパク質で、ある程度の消化能力を必要とする。 ・経口では味や匂いのため続けにくいことがあり、自分で経鼻チューブを入れて夜間に注入する在宅経腸栄養がよく行われる。 ・静脈栄養は、高度の狭窄・瘻孔・大量出血があるときや、経腸栄養で栄養状態を保てないときに選ぶ。
栄養投与経路の選択原則
腸管が使える → 経腸栄養(経口または経管)。 腸管が使えない → 静脈栄養。2週間程度までの短期なら末梢静脈栄養、それ以上の長期なら中心静脈栄養。
POINT
・「腸が使えるなら腸を使う」が栄養療法の大原則である。経腸栄養は腸粘膜のバリア機能を保ち、カテーテル合併症もない。 ・Crohn病では、成分栄養剤による経腸栄養が栄養補給であると同時に、寛解導入・維持の治療でもある。 ・成分栄養剤は、窒素源がアミノ酸で低脂肪・無残渣・低抗原性である。短腸症候群でも吸収されやすい。 ・短腸症候群やCrohn病では、乳糖不耐や脂肪吸収障害で下痢が悪化しやすい。乳製品や高脂肪食は避ける。 ・末梢静脈栄養は1日1,000 kcal程度が限界の短期的な方法である。 ・中心静脈栄養の主な合併症は、カテーテル関連血流感染と静脈血栓症である。
