インスリンはなぜ「皮下」に打つのか―注射経路の違いが血糖を左右する
第105回医師国家試験 C問題 第9問
国試問題にチャレンジ
糖尿病患者がインスリンを自己注射する部位はどれか。
- a.皮内
- b.皮下
- c.筋肉
- d.静脈
- e.動脈
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
インスリンの自己注射は皮下注射で行います。皮下脂肪組織は血管や神経が比較的少なく安全に穿刺でき、薬剤がゆっくり一定の速さで吸収されるため、超速効型や持効型など各製剤の作用時間はこの経路を前提に設計されています。筋肉内に入ると吸収が速まり低血糖を起こしやすく、静脈内投与はケトアシドーシスなどの急性期に医療機関で行うもの、皮内注射はツベルクリン反応など局所反応をみる方法で、いずれも自己注射には用いません。注射部位は吸収が安定した腹壁がよく用いられ、同一部位への反復注射はインスリンボールや脂肪肥大による吸収不安定化を招くため、部位のローテーションを指導します。投与経路の理由まで理解しておくことは、血糖コントロール不良の原因を探るなど、実際の患者指導にも直結します。
解答・解説
正解はbです
インスリン療法は、1型糖尿病では生命維持のために必須であり、2型糖尿病でも経口薬で十分な血糖管理が得られない場合や、妊娠、周術期、重症感染症などで用いられる。在宅では患者本人(または家族)がペン型注入器などを用いて自己注射を行う。 自己注射の投与経路は皮下注射である。皮下組織(皮膚の真皮より深い脂肪層)は、①血管や神経が比較的少なく安全に穿刺できる、②薬剤が毛細血管からゆっくり一定の速さで吸収され、作用時間が製剤設計どおりに再現されやすい、③短く細い針で患者自身が簡単に注射できる、という条件を満たしている。インスリン製剤の超速効型・持効型といった作用時間の違いも、皮下からの吸収を前提に設計されている。 一方、静脈内投与や筋肉内投与は作用発現が速く低血糖の危険も大きいため、医療機関で医療者が行う投与経路であり、患者の自己注射には用いない。
選択肢考察
- ×a. 皮内
皮内注射は表皮直下の真皮内に少量(通常0.1 mL程度)の薬液を注入する方法で、ツベルクリン反応や薬剤アレルギーの皮内テストなど、局所の反応を観察する目的で用いられる。注入できる量がごく少なく、吸収も一定しないため、インスリンの投与経路としては用いない。
- ○b. 皮下
インスリンの自己注射は皮下注射で行う。皮下脂肪組織からの吸収は緩やかで比較的安定しており、各製剤の作用発現時間・持続時間はこの経路を前提に設定されている。注射部位は腹壁、上腕外側、大腿前外側、臀部などで、吸収は腹壁が最も速く安定しているため最もよく用いられる。同じ場所に繰り返し注射すると皮下にしこり(インスリンボール、脂肪組織の肥大)ができ、その部位では吸収が低下・不安定化して血糖コントロールが悪化するため、毎回2〜3 cm程度ずつ位置をずらして注射する(ローテーション)よう指導する。
- ×c. 筋肉
筋肉内に注射されたインスリンは皮下よりも血流の多い組織から速く吸収されるため、作用が早く強く現れ、予期せぬ低血糖を起こしやすい。自己注射では、やせた患者や小児で針が長すぎたり皮膚をつままずに垂直に刺したりすると誤って筋肉内に入ることがあり、これを避けるため短い針(4〜6 mm程度)の使用が推奨される。筋肉内投与は患者の自己注射の経路ではない。
- ×d. 静脈
静脈内投与では直ちに作用が現れ、作用時間も短い。糖尿病ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態の治療、周術期・集中治療での血糖管理などで、速効型インスリンを持続静注として用いる。血糖値と血清カリウム値を頻回に測定しながら量を調節する必要があり、医療機関で医療者が行うもので、自己注射の対象ではない。
- ×e. 動脈
動脈内への薬剤投与は、抗癌剤の動注療法や血管造影など特殊な状況に限られ、インスリンの投与経路としては用いられない。動脈穿刺には出血や血栓、末梢虚血などの危険もあり、患者の自己注射で行うことはあり得ない。
注射の種類と特徴
・皮内注射:真皮内。少量で局所反応をみる(ツベルクリン反応、アレルギー皮内テスト)。 ・皮下注射:皮下脂肪組織。吸収は緩やかで持続的。インスリン、GLP-1受容体作動薬、ヘパリン類、一部のワクチンなど。自己注射が可能なものが多い。 ・筋肉注射:皮下より吸収が速い。多くのワクチン、一部の抗菌薬・ホルモン製剤など。 ・静脈注射:即効性があり、量の調節がしやすい。緊急時の薬物投与、輸液など。
インスリン注射部位と吸収速度
吸収の速さはおおむね腹壁 > 上腕 > 臀部・大腿の順である。運動する部位(例えば運動前の大腿)に注射すると血流が増えて吸収が速まり、入浴や注射部位のマッサージでも吸収が速くなることがある。
自己注射指導のポイント
・注射部位のローテーションで硬結(インスリンボール)や脂肪肥大を防ぐ。 ・低血糖の症状(冷汗、動悸、手のふるえ、意識障害など)と対処(ブドウ糖の摂取)を教える。 ・食事をとれない日(シックデイ)の対応をあらかじめ決めておく。 ・未使用のインスリンは冷蔵保存し、凍結させない。使用中のペン型製剤は室温で保存できる。
自己注射が認められている主な薬剤
インスリン以外にも、GLP-1受容体作動薬、成長ホルモン、ヘパリン、インターフェロン、エピネフリン(アナフィラキシー時の自己注射薬)、生物学的製剤の一部などが、在宅で自己注射される。
POINT
・インスリン自己注射は皮下注射で行う。 ・注射部位は腹壁が第一選択で(吸収が速く安定)、ほかに上腕・大腿・臀部。 ・同一部位への反復注射は硬結(インスリンボール)・脂肪肥大の原因となり、吸収が不安定になるため、部位をローテーションする。 ・筋肉内に入ると吸収が速まり低血糖を起こしやすい。 ・静脈内投与(持続静注)はケトアシドーシスなどの急性期に医療機関で行う。
