肝静脈は「境界線」を引く―流入系と流出系で読み解く肝臓の血管解剖
第105回医師国家試験 B問題 第4問
国試問題にチャレンジ
肝臓の解剖で正しいのはどれか。
- a.門脈は肝動脈よりも細い。
- b.門脈と肝静脈とは並走する。
- c.下大静脈は肝臓の腹側に位置する。
- d.肝円索を肝側にたどると肝静脈に達する。
- e.右肝静脈は右葉の前区域と後区域の境を走行する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
肝臓の脈管は、門脈・肝動脈・胆管がGlisson鞘に包まれて並走し区域の中心を走る流入系と、これとは独立して区域の境界を走り下大静脈に注ぐ肝静脈系とに分けて整理できます。右肝静脈は右葉の前区域と後区域の境界、中肝静脈は機能的な左右葉の境界であるCantlie線、左肝静脈は左葉の内側区域と外側区域の境界付近を走り、肝切除では区域の目印となります。肝流入血の7〜8割は門脈血で門脈は肝動脈より太く、下大静脈は肝臓の背側を走り、臍静脈の遺残である肝円索は門脈左枝に達します。尾状葉の短肝静脈によるBudd-Chiari症候群での尾状葉腫大や、門脈圧亢進症でのメドゥーサの頭など、血管解剖は画像診断や病態理解に直結するため、発生と血流の観点からまとめて押さえておくことが大切です。
解答・解説
正解はeです
肝臓の血管解剖と区域解剖の基本を問う問題である。肝臓の脈管は、次の2つの系統に分けて整理すると理解しやすい。
流入系(Glisson系)
門脈・肝動脈・胆管の3つは、Glisson鞘(グリソン鞘:肝門から肝内に入る結合組織の鞘)にまとめて包まれ、肝門から末梢へ一緒に枝分かれしながら並走する。これらは各区域の「中心」を走り、肝区域を栄養する。
流出系(肝静脈系)
肝静脈(右・中・左の3本)は、Glisson系とは独立して走行し、肝臓の背側上部で下大静脈に流入する。肝静脈は区域の「中心」ではなく「境界」を走る。 この「Glisson系は区域の中心、肝静脈は区域の境界」という原則を理解していれば、右肝静脈が右葉の前区域と後区域の境界を走ることが導ける。また、肝臓への流入血液量は門脈が大部分を占めること、下大静脈が肝臓の背側を通ること、肝円索が胎生期の臍静脈の遺残で門脈左枝につながることも、発生と血流の観点から整理しておきたい。
選択肢考察
- ×a. 門脈は肝動脈よりも細い。
誤り。肝臓に流入する血液の約70〜80%(おおむね6〜8割)は門脈血であり、残りを肝動脈が担う。門脈は消化管・脾臓・膵臓からの静脈血を集める低圧・大流量の血管であるため、肝動脈よりもはるかに太い(門脈本幹の径は成人で約1cm前後、固有肝動脈は数mm程度)。なお酸素供給については、門脈血の酸素含量は低いものの流量が多いため、門脈と肝動脈がほぼ半分ずつを担っている。
- ×b. 門脈と肝静脈とは並走する。
誤り。門脈と並走するのは肝動脈と胆管である。これら3者はGlisson鞘に包まれて肝門から肝内へ一緒に分岐していき、組織学的には肝小葉の周辺にある門脈域(グリソン鞘)で小葉間静脈・小葉間動脈・小葉間胆管の三つ組として観察される。一方、肝静脈は肝小葉の中心静脈から始まり、Glisson系とは交互に(かみ合うように)配置され、並走しない。
- ×c. 下大静脈は肝臓の腹側に位置する。
誤り。下大静脈は肝臓の背側(後面)に位置し、肝後面の下大静脈溝に一部埋まるように走行する。肝臓の背側上部で右・中・左の3本の肝静脈が下大静脈に流入し、その後、下大静脈は横隔膜を貫いて右心房に入る。CTの横断像でも、下大静脈は肝臓の後方、脊椎の右前方に描出される。
- ×d. 肝円索を肝側にたどると肝静脈に達する。
誤り。肝円索は胎生期の臍静脈が閉鎖した遺残物で、臍から肝鎌状間膜の自由縁の中を通って肝臓に至り、肝下面の臍静脈裂(左縦溝の前部)を経て門脈左枝(臍部)に達する。胎生期には、胎盤からの酸素化された血液が臍静脈→門脈左枝→静脈管(アランチウス管)→下大静脈と流れていた。この静脈管が閉鎖したものが静脈管索である。したがって肝円索が直接つながるのは門脈であり、肝静脈ではない。
- ○e. 右肝静脈は右葉の前区域と後区域の境を走行する。
正しい。肝静脈は区域の境界を走り、区域を区切る指標となる。右肝静脈は右葉の前区域(S5・S8)と後区域(S6・S7)の境界を、中肝静脈は右葉と左葉の境界(Cantlie線にほぼ一致する面)を、左肝静脈は左葉の内側区域(S4)と外側区域(S2・S3)の境界付近を走行する(左葉の内側と外側の境界の指標としては、肝円索・肝鎌状間膜の付着部である臍静脈裂も用いられる)。肝切除では、これらの肝静脈を目印として区域の境界を決める。
肝区域(Couinaud分類)
門脈の分岐に基づいて肝臓を8区域(S1〜S8)に分ける。 ・S1:尾状葉 ・左葉外側区域:S2(外側後区域)、S3(外側前区域) ・左葉内側区域:S4 ・右葉前区域:S5(前下区域)、S8(前上区域) ・右葉後区域:S6(後下区域)、S7(後上区域)
Cantlie線(レックス・カントリー線)
胆嚢窩と下大静脈を結ぶ線で、機能的な右葉と左葉の境界である。この面の中を中肝静脈が走行する。解剖学的な左右葉の境界(肝鎌状間膜の付着部)とは異なり、肝鎌状間膜より右側のS4は機能的には左葉に属する。
肝静脈と境界の対応
・右肝静脈:右葉前区域と後区域の境界 ・中肝静脈:右葉と左葉の境界(Cantlie線) ・左肝静脈:左葉内側区域と外側区域の境界付近 ※尾状葉(S1)の静脈は短肝静脈として直接下大静脈へ流入する。このため、Budd-Chiari症候群では尾状葉の還流が保たれ、尾状葉が代償性に腫大しやすい。
胎生期の遺残構造
・肝円索:臍静脈の遺残(臍〜門脈左枝)。門脈圧亢進症では再開通した臍傍静脈を介して臍周囲の皮静脈が怒張することがある(メドゥーサの頭)。 ・静脈管索:静脈管(アランチウス管)の遺残(門脈左枝〜左肝静脈・下大静脈)。
肝臓の血流
肝血流量は心拍出量の約25%(約1〜1.5L/分)であり、その約70〜80%が門脈、残りが肝動脈に由来する。
POINT
・門脈・肝動脈・胆管はGlisson鞘に包まれて並走し、区域の中心を走る ・肝静脈はGlisson系と独立して走り、区域の境界を走る ・右肝静脈=前区域と後区域の境界、中肝静脈=左右葉の境界(Cantlie線) ・肝流入血の大部分は門脈血であり、門脈は肝動脈より太い ・下大静脈は肝臓の背側を走る ・肝円索(臍静脈の遺残)は門脈左枝に、静脈管索(静脈管の遺残)は門脈左枝と肝静脈・下大静脈の間をつなぐ
