見た目は似ていても原因は別物―性腺の病気を「染色体」と「遺伝子」で仕分ける
第105回医師国家試験 B問題 第37問
国試問題にチャレンジ
染色体異常が原因なのはどれか。2つ選べ。
- a.Kallmann症候群
- b.Klinefelter症候群
- c.Turner症候群
- d.先天性副腎皮質過形成
- e.男性ホルモン不応症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
染色体異常とは顕微鏡で確認できる染色体の数や構造の変化を指し、一つの遺伝子の変異で生じる単一遺伝子疾患とは区別されます。性腺機能低下や性分化異常をきたす疾患のうち、Klinefelter症候群(47,XXY)とTurner症候群(45,Xやモザイク、構造異常)は性染色体異常であり、いずれも性腺自体の障害による高ゴナドトロピン性性腺機能低下症を示します。一方、Kallmann症候群(ANOS1、FGFR1など)、先天性副腎皮質過形成(CYP21A2など)、男性ホルモン不応症(アンドロゲン受容体遺伝子)は核型が正常な単一遺伝子疾患で、特に46,XYで女性型の外見を示す男性ホルモン不応症は染色体異常と誤解しやすい点に注意が必要です。原発性無月経や思春期遅発ではLH・FSHで障害部位を見極め、高ゴナドトロピン性なら核型検査を検討するという流れを押さえることで、分類の知識が診断と遺伝カウンセリングに直結します。
解答・解説
正解はb, cです
【テーマ】染色体異常と単一遺伝子疾患の区別 「染色体異常」とは、顕微鏡で観察できるレベルの染色体の変化を指し、数の異常(トリソミー、モノソミーなど)と構造の異常(欠失、転座、環状染色体、同腕染色体など)に分けられる。これに対して、一つの遺伝子の変異(点変異や小さな欠失など)で起こる病気は単一遺伝子疾患(メンデル遺伝病)と呼ばれ、染色体の本数や形は正常である。
選択肢の整理
選択肢はいずれも性腺機能や性分化の異常をきたす疾患であり、症状だけでは区別しにくい。原因のレベルで分けると次のようになる。 ・性染色体の数の異常:Klinefelter症候群(47,XXY)、Turner症候群(45,X) ・単一遺伝子の変異:Kallmann症候群(KAL1〈ANOS1〉、FGFR1 などの遺伝子)、先天性副腎皮質過形成(ステロイド合成酵素の遺伝子)、男性ホルモン不応症(アンドロゲン受容体遺伝子) したがって、染色体異常が原因なのはKlinefelter症候群とTurner症候群である。
選択肢考察
- ×a. Kallmann症候群
単一遺伝子疾患であり、染色体異常ではない。胎生期に、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)を産生するニューロンは嗅プラコードから嗅神経に沿って視床下部へ移動する。この移動が障害されるため、GnRH欠乏による低ゴナドトロピン性性腺機能低下症と、嗅球の低形成による嗅覚低下・脱失をあわせもつ。代表的な原因はXp22.3にあるKAL1(ANOS1)遺伝子の変異によるX連鎖劣性遺伝の型であるが、FGFR1などの変異による常染色体顕性(優性)遺伝の型や常染色体潜性(劣性)遺伝の型もあり、遺伝形式は一様ではない。男性に多く、思春期が来ない、類宦官体型(手足が長い体型)、小陰茎などで気づかれる。女性では原発性無月経を呈する。
- ○b. Klinefelter症候群
X染色体が1本以上多い、性染色体の数の異常である。最も多い核型は47,XXYで、48,XXXYなどの型や46,XY/47,XXYのモザイクもある。Y染色体上のSRY遺伝子が働くため精巣はつくられ、表現型は男性となる。しかし精細管が硝子化して精子形成が障害され、テストステロンが低下する。フィードバックでLH・FSHが上昇するため、高ゴナドトロピン性性腺機能低下症となる。臨床的には小さく硬い精巣、無精子症による不妊、高身長・類宦官体型、女性化乳房などがみられる。主な原因は親の配偶子形成時の減数分裂での不分離である。
- ○c. Turner症候群
X染色体の全部または一部が欠ける性染色体異常である。核型は45,Xが最も多いが、45,X/46,XXなどのモザイク、Xの長腕の同腕染色体(46,X,i(Xq))、短腕の欠失(46,X,del(X)(p11)など)、環状X染色体(46,X,r(X))といった構造異常もある。低身長(短腕にあるSHOX遺伝子の不足が関係)、翼状頸、外反肘、盾状胸、後頭部の毛髪線が低いこと、大動脈縮窄症や大動脈二尖弁などの心血管異常、馬蹄腎などがみられる。卵巣は索状性腺となって機能不全に陥り、原発性無月経と二次性徴の欠如をきたす。検査ではエストロゲンが低く、LH・FSHは高い(高ゴナドトロピン性性腺機能低下症)。
- ×d. 先天性副腎皮質過形成
副腎皮質のステロイド合成酵素の遺伝子変異による常染色体潜性(劣性)遺伝疾患で、染色体の数や形は正常である。最も多いのはCYP21A2遺伝子の変異による21-水酸化酵素欠損症で、全体の約90%を占める。コルチゾールが作れないためフィードバックでACTHが過剰になり、副腎が過形成となる。合成経路で行き場を失った前駆物質が副腎アンドロゲンへ流れ込むため、女児では外性器の男性化がみられる。アルドステロンも不足する塩喪失型では、新生児期に低ナトリウム血症・高カリウム血症・脱水で発症する。日本では新生児マススクリーニングで17-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)を測定して早期に発見している。
- ×e. 男性ホルモン不応症
X染色体長腕(Xq11-q12)にあるアンドロゲン受容体遺伝子(AR)の変異によるX連鎖劣性遺伝疾患であり、核型は正常男性型の46,XYである。以前は精巣性女性化症候群と呼ばれた。精巣があり、テストステロンも正常から高値に分泌されるが、受容体が働かないため男性化が起こらない。完全型では外性器が女性型となり、女性として育てられて原発性無月経で見つかることが多い。精巣から出る抗ミュラー管ホルモンは正常に作用するため子宮と卵管はなく、腟は短く盲端に終わる。テストステロンが芳香化されてできるエストロゲンの作用で乳房は発達する。性染色体の本数や形は正常であり、単一遺伝子疾患に分類される。
染色体異常の分類
・常染色体の数的異常:Down症候群(21トリソミー)、18トリソミー(Edwards症候群)、13トリソミー(Patau症候群) ・常染色体の構造異常:猫鳴き症候群(5p-)、Wolf-Hirschhorn症候群(4p-)、転座型Down症候群、22q11.2欠失症候群(微細欠失) ・性染色体の数的異常:Klinefelter症候群(47,XXY)、Turner症候群(45,X)、トリプルX症候群(47,XXX)、47,XYY
性腺機能低下症の分類
・高ゴナドトロピン性(性腺そのものの障害):Klinefelter症候群、Turner症候群など。性ホルモンのフィードバックがなくなりLH・FSHが上昇する。 ・低ゴナドトロピン性(視床下部・下垂体の障害):Kallmann症候群、下垂体腫瘍など。LH・FSHが低い。
各疾患の遺伝形式のまとめ
・Kallmann症候群:X連鎖劣性(KAL1/ANOS1)が代表的だが、常染色体顕性・潜性の型もある ・先天性副腎皮質過形成:常染色体潜性(21-水酸化酵素欠損症ではCYP21A2) ・アンドロゲン不応症:X連鎖劣性(AR遺伝子)
Klinefelter症候群とTurner症候群の比較
・核型:47,XXY / 45,X ・表現型:男性 / 女性 ・身長:高身長 / 低身長 ・性腺:小さく硬い精巣、無精子症 / 索状性腺、原発性無月経 ・ホルモン:どちらもゴナドトロピンが高値
POINT
・染色体異常=顕微鏡で見える染色体の数や構造の異常。単一遺伝子の変異とは区別する。 ・Klinefelter症候群(47,XXY)とTurner症候群(45,X)は性染色体の数的異常で、どちらも高ゴナドトロピン性性腺機能低下症を示す。 ・Kallmann症候群(KAL1ほか)、先天性副腎皮質過形成(CYP21A2など)、アンドロゲン不応症(AR)は単一遺伝子疾患である。 ・Kallmann症候群=低ゴナドトロピン性性腺機能低下症+嗅覚障害。
