同じ染色体異常でも運命は大きく違う―18トリソミーの生命予後を読み解く
第105回医師国家試験 A問題 第7問
国試問題にチャレンジ
生命予後が最も不良なのはどれか。
- a.18 trisomy
- b.21 trisomy
- c.猫鳴き症候群
- d.Klinefelter症候群
- e.Prader-Willi症候群
対話形式の解説
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ドクターまとめ
出生に至る常染色体トリソミーは13番、18番、21番にほぼ限られ、このうち18トリソミー(Edwards症候群)と13トリソミー(Patau症候群)は重い心奇形を含む多発奇形や中枢性無呼吸のため、1歳まで生存するのは約10%以下と生命予後が極めて不良です。18トリソミーは手指の重なりや揺り椅子状足底が特徴で、近年は積極的治療による長期生存例も報告されていますが、代表的な染色体異常のなかで最も予後不良な疾患の一つです。一方、21トリソミーは医療の進歩で平均寿命が50~60歳以上に延び、猫鳴き症候群、Klinefelter症候群、Prader-Willi症候群も成人期までの生存が期待できます。「異常の種類」と「致死的合併症の有無」で整理すると、発達の重さや頻度と生命予後を混同せずに判断できます。こうした理解は試験対策だけでなく、出生前診断や家族への説明といった臨床の場面でも欠かせない基盤となります。
解答・解説
正解はaです
本問は代表的な染色体異常症・隣接遺伝子症候群について、生命予後(どのくらい生存できるか)を比較させる問題である。 一般に、常染色体の数的異常(トリソミー)は多数の遺伝子の量が1.5倍になるため影響が大きく、ほとんどは流産となる。出生に至る常染色体トリソミーは、遺伝子数の比較的少ない13番、18番、21番にほぼ限られる。このうち13トリソミー(Patau症候群)と18トリソミー(Edwards症候群)は重い心奇形をはじめとする多発奇形と中枢性の呼吸障害を伴い、多くが乳児期までに死亡する。これに対して21トリソミー(Down症候群)は合併症への医療の進歩により成人期まで生存するのが普通である。 一方、染色体の部分欠失による症候群(猫鳴き症候群など)や、性染色体の数的異常(Klinefelter症候群など)、インプリンティング異常を伴う症候群(Prader-Willi症候群)は、知的能力障害や内分泌異常などを伴っても、生命予後は比較的良好である。 したがって、選択肢のなかで生命予後が最も不良なのは18トリソミーである。「予後不良なのは13トリソミーと18トリソミー」と整理して覚えておくとよい。
選択肢考察
- ○a. 18 trisomy
正しい。18トリソミー(Edwards症候群)は出生3,500~8,500人に1人程度の頻度で、女児に多く、母体の高年齢で頻度が上がる。胎児期からの子宮内発育遅延、羊水過多、胎盤が小さいことなどがみられ、出生後は重度の発達遅滞を示す。特徴的な所見として、後頭部の突出、小顎、耳介低位、第2指が第3指に、第5指が第4指に重なる手指の重なり(握りしめた手)、踵が突出し足底が丸く張り出した揺り椅子状足底(rocker-bottom foot)、短い胸骨がある。90%以上に心奇形(心室中隔欠損、動脈管開存、両大血管右室起始など)を合併し、腎奇形、食道閉鎖、臍帯ヘルニアなども伴う。心不全、肺高血圧、中枢性無呼吸などのため、生存期間の中央値は数日から2週間程度と短く、1歳まで生存するのは約10%以下である。従来はほぼ全例が乳児期に死亡するとされてきたが、近年は心臓手術を含む積極的治療により長期生存する例も報告されている。それでも選択肢中で生命予後が最も不良であることに変わりはない。
- ×b. 21 trisomy
誤り。21トリソミー(Down症候群)は最も頻度の高い常染色体異常で、出生600~1,000人に1人程度にみられ、母体年齢の上昇とともに頻度が高くなる。名称は最初に記載した英国の医師J. L. H. Downに由来する。眼瞼裂斜上、内眼角贅皮、鼻根部平坦などの特徴的な顔貌、筋緊張低下、知的能力障害、低身長、手掌単一屈曲線(猿線)、第5指の内彎を示す。約半数に先天性心疾患(心内膜床欠損症〈房室中隔欠損症〉、心室中隔欠損など)を合併し、十二指腸閉鎖、鎖肛、ヒルシュスプルング病、環軸椎不安定性、甲状腺機能低下症、白血病(一過性骨髄異常増殖症を含む)、早期のアルツハイマー型認知症などの合併が多い。かつては短命とされたが、心臓手術などの医療の進歩により平均寿命は大きく延び、現在では50~60歳を超える。
- ×c. 猫鳴き症候群
誤り。猫鳴き症候群(5p-症候群)は5番染色体短腕の部分欠失によって起こる。喉頭の形態異常により、新生児期から乳児期に子猫の鳴き声に似た甲高い啼泣を示すことが名称の由来である(この泣き声は成長とともに目立たなくなる)。小頭症、円形顔貌(満月様顔貌)、眼間開離、耳介低位などの特異顔貌、筋緊張低下、重度の精神運動発達遅滞を特徴とし、心奇形や腎奇形、合指症などを伴うことがある。乳児期には哺乳障害や呼吸器感染症に注意を要するが、多くは成人期まで生存し、生命予後は比較的良好である。
- ×d. Klinefelter症候群
誤り。Klinefelter症候群は男性にX染色体が1本以上過剰に存在する性染色体異常で、大部分は47,XXY核型である。男児500~1,000人に1人程度と頻度が高く、男性の性腺機能低下症の原因として最も多い。精巣が小さく硬く、テストステロン分泌が低下するため、フィードバックによりLH・FSHが高値となる(高ゴナドトロピン性性腺機能低下症)。長身で四肢が長く(類宦官体型)、女性化乳房、無精子症による男性不妊を示す。軽度の知的能力障害や学習・言語面の困難を伴うことがあり、女性化乳房を伴う例では男性乳癌の発生率が高い。思春期までは気づかれにくく、不妊症の精査で発見されることも多い。重篤な内臓奇形は伴わず、生命予後は良好である。
- ×e. Prader-Willi症候群
誤り。Prader-Willi症候群は15番染色体長腕q11-q13領域にある父由来の遺伝子群が働かないことで生じる。原因として父由来染色体の同領域の欠失(約70%)、母性片親性ダイソミー(2本とも母由来、約25%)、インプリンティング異常などがある。新生児期・乳児期には著明な筋緊張低下と哺乳障害を示し、幼児期以降は視床下部機能障害による過食と肥満が目立ってくる。知的能力障害、低身長、性腺機能低下(外性器低形成)、アーモンド様眼裂、小さな手足などを特徴とする。肥満に伴う2型糖尿病や睡眠時無呼吸などの合併症が予後を左右するため、食事管理が重要であるが、適切に管理されれば成人期まで生存でき、生命予後は18トリソミーに比べてはるかに良好である。
出生児にみられる主な常染色体トリソミー
・21トリソミー(Down症候群):最多。平均寿命は50~60歳以上に延びている。 ・18トリソミー(Edwards症候群):女児に多い。手指の重なり、揺り椅子状足底、心奇形。1歳生存率は約10%以下。 ・13トリソミー(Patau症候群):全前脳胞症、口唇口蓋裂、小眼球症、多指症、頭皮欠損、心奇形。1歳生存率は約10%以下で、18トリソミーと同様に予後不良である。 いずれも母体年齢の上昇に伴って頻度が高くなる。主な原因は卵子形成時の減数分裂における染色体不分離である。
その他の主な染色体異常・関連症候群
・5p-症候群(猫鳴き症候群):5番染色体短腕欠失。子猫様の啼泣、重度発達遅滞。 ・Wolf-Hirschhorn症候群(4p-症候群):4番染色体短腕欠失。ギリシャ兵士のヘルメット様顔貌。 ・Klinefelter症候群(47,XXYなど):男性。小精巣、高ゴナドトロピン性性腺機能低下症、不妊。 ・Turner症候群(45,Xなど):女性。低身長、翼状頸、原発性無月経、大動脈縮窄症。 ・Prader-Willi症候群:15q11-q13の父由来遺伝子の機能欠如。筋緊張低下、過食・肥満。 ・Angelman症候群:同じ15q11-q13領域の母由来遺伝子(UBE3A)の機能欠如。重度知的能力障害、てんかん、容易に引き起こされる笑い。 Prader-Willi症候群とAngelman症候群は、同じ染色体領域でも親の由来によって異なる症状が出る「ゲノムインプリンティング」の代表例である。
POINT
・出生可能な常染色体トリソミーは13、18、21番である。 ・生命予後が不良なのは13トリソミーと18トリソミーで、1歳までの生存は約10%以下である。 ・21トリソミーは心奇形などの治療の進歩により平均寿命が50~60歳以上に延びている。 ・猫鳴き症候群、Klinefelter症候群、Prader-Willi症候群は生命予後が比較的良好である。
