持ち上げた瞬間、片肺がしぼんだ―「まず抜く」が鉄則の高度気胸
第105回医師国家試験 A問題 第49問
国試問題にチャレンジ
45歳の女性。胸痛と呼吸困難とを主訴に来院した。農作業中に重いものを一気に持ち上げたところ左肩から背部にかけて痛みを自覚し,その後呼吸困難が出現した。既往歴に特記すべきことはない。意識は清明。体温36.6℃。呼吸数27/分。脈拍116/分,整。血圧106/66 mmHg。心音は減弱している。左肺野で呼吸音は消失している。胸部エックス線写真を別に示す。 まず行うべき処置はどれか。

- a.ドパミン投与
- b.持続的陽圧換気
- c.胸腔ドレナージ
- d.プレドニゾロン投与
- e.アミノフィリン投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
重い物を持ち上げるなどの怒責を契機に突然の胸痛・呼吸困難が生じ、片側の呼吸音消失と胸部エックス線写真での肺虚脱・肺血管影の消失を認めれば気胸と診断できます。気胸の治療は虚脱度で選び、軽度は安静・経過観察、中等度以上や頻呼吸・頻脈・血圧低下を伴う例では胸腔ドレナージが第一選択です。血圧低下は胸腔内圧上昇による静脈還流障害が原因のため昇圧薬では解決せず、未処置の気胸への陽圧換気は緊張性気胸を招く危険があり、ステロイドや気管支拡張薬も無効です。緊張性気胸は臨床診断で直ちに穿刺脱気を行い、高度虚脱例のドレナージ後は再膨張性肺水腫にも注意します。症状に対症的に反応するのではなく、病態の原因を取り除く処置を優先するという考え方は、救急の初期対応全般に通じる重要な原則です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・発症様式: 重い物を一気に持ち上げた(いきみ=怒責により胸腔内圧・気道内圧が急上昇した)直後に、左肩から背部への痛みが出現し、続いて呼吸困難が生じた。突然発症の胸痛・呼吸困難である。 ・バイタルサイン: 体温36.6℃で発熱はない。呼吸数27/分の頻呼吸、脈拍116/分の頻脈があり、血圧106/66 mmHgとやや低めである。 ・身体所見: 左肺野の呼吸音が消失している。心音の減弱は、心臓と胸壁の間に空気が介在して音が伝わりにくくなったことで説明できる。 ・胸部エックス線写真: 左胸腔は肺血管影(肺紋理)のない透過性の亢進した領域で占められ、左肺は肺門部に向かって小さく虚脱している。左横隔膜は低位で平低化しており、胸腔内に多量の空気が貯留していることを示す。
診断に至るプロセス
突然発症の胸痛・呼吸困難をみたら、呼吸器領域では気胸、肺血栓塞栓症、気管支喘息発作を、循環器領域では急性冠症候群や急性大動脈解離を鑑別に挙げる。肺実質には痛覚がないため、胸痛は壁側胸膜・胸壁・心血管・食道などに由来する。本例は発熱がなく感染症は考えにくい。片側の呼吸音消失という局所所見と、胸部エックス線写真での肺虚脱・肺紋理消失から、左気胸と診断できる。中年女性であり、若年・長身・やせ型男性に多い原発性自然気胸の典型像ではないが、怒責を契機とした気胸として矛盾はない。
重症度の評価
本例は左肺がほぼ完全に虚脱した高度の気胸であり、頻呼吸・頻脈・血圧低下傾向を伴っている。胸腔内圧の上昇が進めば縦隔が健側へ偏位し、静脈還流が妨げられて循環が破綻する緊張性気胸に移行しうる状態である。したがって、胸腔内の空気を速やかに体外へ排出し、肺を再膨張させる処置が最優先となる。
設問の考え方
「まず行うべき処置」として問われているのは、気胸そのものを解除する治療である。昇圧薬や喘息治療薬などの対症的・他疾患向けの治療ではなく、胸腔の脱気が根本的な対応となる。
選択肢考察
- ×a. ドパミン投与
ドパミンはカテコラミン系の昇圧薬・強心薬で、心原性ショックなどで循環を支えるために用いる。本例の血圧低下傾向や頻脈は、気胸による胸腔内圧上昇で静脈還流が減少したことによるもので、原因は閉塞性の機序である。昇圧薬を投与しても原因は解除されず、まず脱気により胸腔内圧を下げることが必要である。
- ×b. 持続的陽圧換気
気胸がドレナージされていない状態で陽圧換気を行うと、肺の破綻部位からさらに空気が胸腔内へ押し込まれ、気胸が増悪して緊張性気胸を招く危険がある。そのため未処置の気胸に対する陽圧換気は禁忌と考えるべきである。人工呼吸が必要な場合でも、胸腔ドレーンを留置したうえで行う。
- ○c. 胸腔ドレナージ
胸腔内にドレーン(チューブ)を挿入し、貯留した空気を持続的に排出して肺を再膨張させる処置である。本例は左肺がほぼ完全に虚脱した高度の気胸で、頻呼吸・頻脈・血圧低下傾向を伴っており、速やかな脱気が必要である。気胸の治療は虚脱の程度で選択され、軽度では安静・経過観察、中等度以上ではドレナージが基本となる。本例はドレナージの適応に当たり、最初に行うべき処置である。
- ×d. プレドニゾロン投与
プレドニゾロンは副腎皮質ステロイドで、気管支喘息発作や間質性肺炎などの炎症性疾患に用いる。気胸は肺から胸腔内への空気の漏出という機械的な病態であり、ステロイドで改善することはない。
- ×e. アミノフィリン投与
アミノフィリンはテオフィリン製剤で、気管支拡張作用により喘息発作やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の増悪で用いられる。本例は喘鳴などの気道狭窄所見がなく、気胸に対して気管支拡張薬は無効である。
気胸の分類
・自然気胸: 原発性(基礎疾患なし。肺尖部のブラ・ブレブの破裂によることが多く、10〜20歳代の長身・やせ型男性に好発)と続発性(COPD、間質性肺炎、肺癌、リンパ脈管筋腫症、月経随伴性気胸などの基礎疾患に伴う)に分けられる。 ・外傷性気胸: 肋骨骨折や胸部の鋭的外傷など。 ・医原性気胸: 中心静脈カテーテル挿入、経気管支肺生検、陽圧換気などに伴う。
症状と身体所見
突然の胸痛(患側の肩・背部に放散することがある)、呼吸困難、乾性咳嗽。患側で呼吸音の減弱・消失、打診で鼓音、声音振盪の減弱がみられる。
虚脱度の目安(日本の分類)
・軽度: 肺尖が鎖骨より上にある。 ・中等度: 軽度と高度の中間。 ・高度: 肺の虚脱が著しく、全虚脱またはそれに近いもの。 軽度は安静で経過をみることが多く、中等度以上では胸腔穿刺による脱気や胸腔ドレナージを行う。再発例、持続的な空気漏れ(エアリーク)、両側気胸、血気胸などでは胸腔鏡下手術(ブラ切除)を検討する。
緊張性気胸
破綻部位が一方弁(チェックバルブ)として働き、吸気ごとに空気が胸腔内にたまって胸腔内圧が陽圧になる状態である。縦隔の健側偏位、気管偏位、頸静脈怒張、血圧低下をきたし、閉塞性ショックに至る。臨床所見で診断し、画像を待たずに第2肋間鎖骨中線(または第4〜5肋間中腋窩線付近)からの緊急穿刺脱気を行い、続いて胸腔ドレナージを行う。
ドレナージ後の注意
長時間虚脱していた肺を急速に再膨張させると、再膨張性肺水腫を起こすことがある。高度虚脱例では急激な陰圧吸引を避け、まず水封(ウォーターシール)で排気するなどの配慮がなされる。
POINT
・突然発症の胸痛・呼吸困難では、気胸・肺血栓塞栓症・気管支喘息発作(循環器では急性冠症候群・大動脈解離)を鑑別する。 ・片側の呼吸音消失と、胸部エックス線写真での肺紋理の消失・肺虚脱は気胸を示す。 ・中等度以上の気胸、循環・呼吸の悪化を伴う気胸では胸腔ドレナージが第一選択である。 ・未処置の気胸に陽圧換気を行うと緊張性気胸を招くため避ける。 ・緊張性気胸は臨床診断し、直ちに穿刺脱気を行う。
