StudyMed医師国家試験

涙が1 mmしか出ない目―眼精疲労の裏に潜むSjögren症候群

第105回医師国家試験 A問題 第36問

国試問題にチャレンジ

第105回 A問題 第36問

52歳の女性。眼精疲労を主訴に来院した。10年前から両眼の異物感があった。視力は右1.0(矯正不能),左1.0(矯正不能)。眼圧は右12 mmHg,左12 mmHg。Schirmer試験は右1 mm,左1 mm(基準10~15)。フルオレセイン染色下での細隙灯顕微鏡検査にて角膜に点状の上皮欠損を認める。眼底に異常を認めない。  考えられるのはどれか。

  1. a.Reiter症候群
  2. b.Sjögren症候群
  3. c.Sturge-Weber症候群
  4. d.von Recklinghausen病
  5. e.Wilson病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、眼科の検査結果から背景にある全身疾患を言い当てる問題だ。視力や眼圧、眼底といった「目の奥」の検査は正常で、異常が出ているのは「目の表面」と「涙」だけ、という点に注目してほしい。まず、Schirmer試験が何を測る検査か覚えているかな。
医学生医学生
下まぶたに濾紙を挟んで、5分間で涙がどれだけ濡らすかを見る検査ですよね。眼科の臨床実習で実際にやってもらいました。
ドクタードクター
その通り。涙液の分泌量を測る検査で、5 mm以下なら明らかな分泌低下と考える。今回は両眼とも1 mmだから、涙がほとんど出ていないことになる。では、フルオレセイン染色で角膜に点状に染まる部分がある、というのはどういう意味だろう。
医学生医学生
フルオレセインは上皮が欠けたところに染まるので、角膜の表面が細かく傷ついているということですか。
ドクタードクター
そう。涙が足りないと角膜表面が乾いて上皮が障害され、点状表層角膜症になる。長く続く異物感や眼精疲労は、まさにこの乾燥による症状だ。つまり病態は「涙液減少型のドライアイ」、乾性角結膜炎ということになる。
医学生医学生
ドライアイならパソコン作業やコンタクトレンズでも起こりそうですが、選択肢は全部全身疾患ですね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。選択肢はどれも眼症状を伴いうる全身疾患で、それぞれの特徴的な眼所見と結びつけられるかが問われている。中年女性に、両側性で長く続く涙液分泌低下をきたす代表的な疾患は何かな。
医学生医学生
Sjögren症候群です。免疫の講義で、中年女性のドライアイとドライマウスはまずこれを考えろと習いました。
ドクタードクター
正解。Sjögren症候群は涙腺や唾液腺などの外分泌腺にリンパ球が浸潤し、分泌機能が落ちる自己免疫疾患だ。今回は口の乾きの記載はないけれど、確定にはドライマウスの問診や唾液分泌量の測定、抗SS-A抗体・抗SS-B抗体、口唇小唾液腺生検などを追加していく。ほかの選択肢も眼所見と対応づけて確認しよう。まずReiter症候群は?
医学生医学生
今は反応性関節炎と呼ばれるんでしたっけ。関節炎、尿道炎、結膜炎の三つ組で、HLA-B27と関係があったと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。クラミジアや腸管感染症の数週後に起こり、若い男性に多い。眼の症状は結膜炎やぶどう膜炎で、涙が減るわけではない。次にSturge-Weber症候群はどうだろう。
医学生医学生
顔のポートワイン母斑と脳の軟膜血管腫で、てんかんを起こす神経皮膚症候群ですね。目だと……緑内障でしたか。
ドクタードクター
そう、眼圧が上がる緑内障や脈絡膜血管腫が特徴だ。今回は眼圧正常で、母斑の記載もない。von Recklinghausen病、つまり神経線維腫症1型では、虹彩にLisch結節という小さな結節が出るのが有名で、視神経膠腫を合併することもある。
医学生医学生
Wilson病はKayser-Fleischer輪ですね。CBTの勉強で、角膜の縁に銅が沈着する緑褐色の輪として画像ごと覚えました。
ドクタードクター
完璧だ。Wilson病は銅代謝の異常で、多くは小児から若年期に肝障害や錐体外路症状で見つかる。どれも眼に所見は出るけれど、「涙が出ない+角膜上皮障害」を説明できるのはSjögren症候群だけ、ということになる。
医学生医学生
全身疾患ごとに「この病気ならこの眼所見」とセットで覚えておけば、解ける問題なんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での注意点をまとめよう。Sjögren症候群は目と口だけの病気ではなく、関節痛、Raynaud現象、間質性肺炎、尿細管間質性腎炎による遠位尿細管性アシドーシスなど腺外症状も起こしうる。関節リウマチや全身性エリテマトーデスに合併する二次性のものもある。そして忘れてはいけないのが、悪性リンパ腫、特にMALTリンパ腫の合併だ。
医学生医学生
耳下腺がずっと腫れているような患者さんでは、リンパ腫も意識しないといけないということですね。治療はどうするんですか。
ドクタードクター
ドライアイには人工涙液やヒアルロン酸、ジクアホソル、レバミピドの点眼、涙点プラグなどを使い、ドライマウスにはセビメリンやピロカルピンといったムスカリン受容体作動薬を用いる。腺外病変が重い場合はステロイドや免疫抑制薬を検討する。眼科で「ただのドライアイ」と片づけず、全身疾患のサインかもしれないと考えて内科と連携することが大切だよ。

まとめ

視力・眼圧・眼底が正常で、Schirmer試験の著しい低値とフルオレセイン染色での角膜点状上皮欠損がある場合、涙液減少型のドライアイ(乾性角結膜炎)と考えます。中年女性で両側性に長く続く涙液分泌低下をみたら、外分泌腺にリンパ球が浸潤する自己免疫疾患であるSjögren症候群を想起し、ドライマウスの確認、抗SS-A・SS-B抗体、口唇小唾液腺生検などで診断を進めます。反応性関節炎は結膜炎・ぶどう膜炎、Sturge-Weber症候群は緑内障、神経線維腫症1型はLisch結節、Wilson病はKayser-Fleischer輪と、全身疾患と眼所見を対応づけて整理しておくことが重要です。Sjögren症候群は間質性肺炎や尿細管性アシドーシスなどの腺外症状、MALTリンパ腫の合併もありうるため、眼症状をきっかけに全身を診る視点を養うことが臨床で役立ちます。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・52歳の中年女性。眼精疲労を主訴とし、10年前から両眼の異物感が続いている。 ・視力は両眼1.0、眼圧は両眼12 mmHgで正常、眼底にも異常がない。視神経や網膜、緑内障などの問題はないと考えられる。 ・Schirmer試験(下眼瞼に濾紙を挟み、5分間で涙が濾紙を濡らす長さを測る涙液分泌量の検査)が両眼1 mmと著しく低い。5 mm以下は明らかな涙液分泌低下とされる。 ・フルオレセイン染色で角膜に点状の上皮欠損(点状表層角膜症)がみられる。フルオレセインは上皮が欠けた部分に染まるため、角膜表面が傷ついていることを示す。

診断へのプロセス

涙液の分泌量が減り(Schirmer試験低値)、その結果として角膜上皮が障害されている(フルオレセイン染色陽性)ため、両眼の異物感や眼精疲労が長く続いている。これは涙液減少型のドライアイ(乾性角結膜炎)の病態である。中年女性に両側性に長く続く涙液分泌低下をきたす代表的な全身疾患はSjögren症候群であり、選択肢の中でこの病態を説明できるのはSjögren症候群のみである。口腔乾燥の記載はないが、確定には口腔乾燥症状の確認、唾液分泌量の測定、抗SS-A/Ro抗体・抗SS-B/La抗体、口唇小唾液腺生検などを追加する。

設問の考え方

選択肢はいずれも眼症状を伴い得る全身疾患であり、それぞれに特徴的な眼所見を対応づけて覚えておくことで解答できる。本例の眼所見は「涙液減少+角膜上皮障害」に尽きることに着目する。

選択肢考察

  1. ×a.  Reiter症候群

    Reiter症候群は現在、反応性関節炎と呼ばれる。尿道炎(クラミジアなど)や腸管感染症(赤痢菌、サルモネラ、エルシニア、カンピロバクターなど)の数週後に、関節炎・尿道炎・結膜炎(ときに前部ぶどう膜炎)を生じる。若年〜中年の男性に多く、HLA-B27との関連が知られている。皮膚粘膜病変として足底の膿漏性角化症や連環状亀頭炎がみられる。眼症状は結膜炎や虹彩炎であり、涙液分泌低下は特徴ではない。

  2. ○b.  Sjögren症候群

    涙腺・唾液腺などの外分泌腺にリンパ球が浸潤して分泌機能が低下する自己免疫疾患で、中年女性に多い。涙液の分泌が減ってドライアイ(乾性角結膜炎)となり、Schirmer試験の低値と、フルオレセイン染色やローズベンガル染色などで角結膜の上皮障害が確認される。本例の、長期にわたる両眼の異物感、Schirmer試験両眼1 mm、角膜の点状上皮欠損はこれに一致する。

  3. ×c.  Sturge-Weber症候群

    Sturge-Weber症候群は、三叉神経第1枝領域を中心とする顔面のポートワイン母斑(毛細血管奇形)、同側の軟膜血管腫、脈絡膜血管腫を特徴とする先天性の神経皮膚症候群である。脳病変によるてんかん、片麻痺、知的障害を伴い、眼では緑内障(眼圧上昇)を合併しやすい。本例は眼圧正常で顔面の母斑などの記載もなく、涙液分泌低下も本症の特徴ではない。

  4. ×d.  von Recklinghausen病

    von Recklinghausen病(神経線維腫症1型)は常染色体優性遺伝の神経皮膚症候群で、多数のカフェオレ斑、皮膚の神経線維腫、腋窩・鼠径部の雀卵斑様色素斑、骨病変などを呈する。眼所見としては虹彩の小結節(Lisch結節)が高頻度にみられ、視神経膠腫を合併することもある。涙液分泌低下とは関係しない。

  5. ×e.  Wilson病

    Wilson病は常染色体劣性遺伝の銅代謝異常症で、ATP7B遺伝子の異常により肝臓から胆汁への銅の排泄が障害され、肝臓、脳(大脳基底核)、角膜などに銅が蓄積する。肝障害、錐体外路症状・精神症状、角膜辺縁のKayser-Fleischer輪(Descemet膜への銅沈着による緑褐色の輪)が三主徴である。多くは小児〜若年期に発症し、本例のドライアイ所見とは結びつかない。

Sjögren症候群の概要

・涙腺・唾液腺などの外分泌腺を主に侵す慢性の自己免疫疾患。40〜60歳代の女性に多い(男女比はおよそ1:10以上)。 ・他の膠原病を伴わない一次性(原発性)と、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどに合併する二次性(続発性)がある。 ・腺症状:ドライアイ(異物感、眼精疲労、羞明)、ドライマウス(口渇、固形物が飲み込みにくい、う歯の増加)、耳下腺の腫脹。 ・腺外症状:関節痛、Raynaud現象、間質性肺炎、尿細管間質性腎炎(遠位尿細管性アシドーシス)、環状紅斑、末梢神経障害など。悪性リンパ腫(特にMALTリンパ腫)の合併に注意する。 ・検査:抗SS-A/Ro抗体、抗SS-B/La抗体、リウマトイド因子、抗核抗体が陽性となりやすい。高γグロブリン血症(多クローン性)。 ・眼科検査:Schirmer試験(5分間で5 mm以下が異常)、フルオレセイン染色・ローズベンガル染色・リサミングリーン染色による角結膜上皮障害の評価、涙液層破壊時間(BUT)の短縮。 ・口腔検査:ガム試験(10分間で10 mL以下)、Saxonテスト(2分間で2 g以下)、唾液腺造影、唾液腺シンチグラフィ。 ・病理:口唇小唾液腺や涙腺の生検で導管周囲へのリンパ球浸潤。 ・診断:日本の診断基準(厚生省改訂基準)では、病理組織、口腔検査、眼科検査、血清検査(抗SS-A/SS-B抗体)のうち2項目以上を満たせば確定する。 ・治療:ドライアイには人工涙液、ヒアルロン酸点眼、ジクアホソル点眼、レバミピド点眼、涙点プラグ。ドライマウスにはムスカリン受容体作動薬(セビメリン、ピロカルピン)など。腺外病変が重い場合は副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を用いる。

全身疾患と特徴的な眼所見の対応

・Sjögren症候群:乾性角結膜炎(ドライアイ) ・反応性関節炎(Reiter症候群):結膜炎、前部ぶどう膜炎 ・Sturge-Weber症候群:緑内障、脈絡膜血管腫 ・神経線維腫症1型:Lisch結節、視神経膠腫 ・Wilson病:Kayser-Fleischer輪 ・Behçet病:前房蓄膿を伴うぶどう膜炎 ・Marfan症候群:水晶体偏位(上方)

POINT

・中年女性の両側性ドライアイ(Schirmer試験低値+角膜上皮障害)→ Sjögren症候群を考える。 ・Schirmer試験は5分間で5 mm以下が異常。 ・確定診断には抗SS-A/SS-B抗体、唾液分泌量検査、口唇小唾液腺生検などを組み合わせる。 ・全身疾患と眼所見の組み合わせ:Wilson病=Kayser-Fleischer輪、NF1=Lisch結節、Sturge-Weber症候群=緑内障、反応性関節炎=結膜炎・虹彩炎。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。