涙が1 mmしか出ない目―眼精疲労の裏に潜むSjögren症候群
第105回医師国家試験 A問題 第36問
国試問題にチャレンジ
52歳の女性。眼精疲労を主訴に来院した。10年前から両眼の異物感があった。視力は右1.0(矯正不能),左1.0(矯正不能)。眼圧は右12 mmHg,左12 mmHg。Schirmer試験は右1 mm,左1 mm(基準10~15)。フルオレセイン染色下での細隙灯顕微鏡検査にて角膜に点状の上皮欠損を認める。眼底に異常を認めない。 考えられるのはどれか。
- a.Reiter症候群
- b.Sjögren症候群
- c.Sturge-Weber症候群
- d.von Recklinghausen病
- e.Wilson病
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
視力・眼圧・眼底が正常で、Schirmer試験の著しい低値とフルオレセイン染色での角膜点状上皮欠損がある場合、涙液減少型のドライアイ(乾性角結膜炎)と考えます。中年女性で両側性に長く続く涙液分泌低下をみたら、外分泌腺にリンパ球が浸潤する自己免疫疾患であるSjögren症候群を想起し、ドライマウスの確認、抗SS-A・SS-B抗体、口唇小唾液腺生検などで診断を進めます。反応性関節炎は結膜炎・ぶどう膜炎、Sturge-Weber症候群は緑内障、神経線維腫症1型はLisch結節、Wilson病はKayser-Fleischer輪と、全身疾患と眼所見を対応づけて整理しておくことが重要です。Sjögren症候群は間質性肺炎や尿細管性アシドーシスなどの腺外症状、MALTリンパ腫の合併もありうるため、眼症状をきっかけに全身を診る視点を養うことが臨床で役立ちます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・52歳の中年女性。眼精疲労を主訴とし、10年前から両眼の異物感が続いている。 ・視力は両眼1.0、眼圧は両眼12 mmHgで正常、眼底にも異常がない。視神経や網膜、緑内障などの問題はないと考えられる。 ・Schirmer試験(下眼瞼に濾紙を挟み、5分間で涙が濾紙を濡らす長さを測る涙液分泌量の検査)が両眼1 mmと著しく低い。5 mm以下は明らかな涙液分泌低下とされる。 ・フルオレセイン染色で角膜に点状の上皮欠損(点状表層角膜症)がみられる。フルオレセインは上皮が欠けた部分に染まるため、角膜表面が傷ついていることを示す。
診断へのプロセス
涙液の分泌量が減り(Schirmer試験低値)、その結果として角膜上皮が障害されている(フルオレセイン染色陽性)ため、両眼の異物感や眼精疲労が長く続いている。これは涙液減少型のドライアイ(乾性角結膜炎)の病態である。中年女性に両側性に長く続く涙液分泌低下をきたす代表的な全身疾患はSjögren症候群であり、選択肢の中でこの病態を説明できるのはSjögren症候群のみである。口腔乾燥の記載はないが、確定には口腔乾燥症状の確認、唾液分泌量の測定、抗SS-A/Ro抗体・抗SS-B/La抗体、口唇小唾液腺生検などを追加する。
設問の考え方
選択肢はいずれも眼症状を伴い得る全身疾患であり、それぞれに特徴的な眼所見を対応づけて覚えておくことで解答できる。本例の眼所見は「涙液減少+角膜上皮障害」に尽きることに着目する。
選択肢考察
- ×a. Reiter症候群
Reiter症候群は現在、反応性関節炎と呼ばれる。尿道炎(クラミジアなど)や腸管感染症(赤痢菌、サルモネラ、エルシニア、カンピロバクターなど)の数週後に、関節炎・尿道炎・結膜炎(ときに前部ぶどう膜炎)を生じる。若年〜中年の男性に多く、HLA-B27との関連が知られている。皮膚粘膜病変として足底の膿漏性角化症や連環状亀頭炎がみられる。眼症状は結膜炎や虹彩炎であり、涙液分泌低下は特徴ではない。
- ○b. Sjögren症候群
涙腺・唾液腺などの外分泌腺にリンパ球が浸潤して分泌機能が低下する自己免疫疾患で、中年女性に多い。涙液の分泌が減ってドライアイ(乾性角結膜炎)となり、Schirmer試験の低値と、フルオレセイン染色やローズベンガル染色などで角結膜の上皮障害が確認される。本例の、長期にわたる両眼の異物感、Schirmer試験両眼1 mm、角膜の点状上皮欠損はこれに一致する。
- ×c. Sturge-Weber症候群
Sturge-Weber症候群は、三叉神経第1枝領域を中心とする顔面のポートワイン母斑(毛細血管奇形)、同側の軟膜血管腫、脈絡膜血管腫を特徴とする先天性の神経皮膚症候群である。脳病変によるてんかん、片麻痺、知的障害を伴い、眼では緑内障(眼圧上昇)を合併しやすい。本例は眼圧正常で顔面の母斑などの記載もなく、涙液分泌低下も本症の特徴ではない。
- ×d. von Recklinghausen病
von Recklinghausen病(神経線維腫症1型)は常染色体優性遺伝の神経皮膚症候群で、多数のカフェオレ斑、皮膚の神経線維腫、腋窩・鼠径部の雀卵斑様色素斑、骨病変などを呈する。眼所見としては虹彩の小結節(Lisch結節)が高頻度にみられ、視神経膠腫を合併することもある。涙液分泌低下とは関係しない。
- ×e. Wilson病
Wilson病は常染色体劣性遺伝の銅代謝異常症で、ATP7B遺伝子の異常により肝臓から胆汁への銅の排泄が障害され、肝臓、脳(大脳基底核)、角膜などに銅が蓄積する。肝障害、錐体外路症状・精神症状、角膜辺縁のKayser-Fleischer輪(Descemet膜への銅沈着による緑褐色の輪)が三主徴である。多くは小児〜若年期に発症し、本例のドライアイ所見とは結びつかない。
Sjögren症候群の概要
・涙腺・唾液腺などの外分泌腺を主に侵す慢性の自己免疫疾患。40〜60歳代の女性に多い(男女比はおよそ1:10以上)。 ・他の膠原病を伴わない一次性(原発性)と、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどに合併する二次性(続発性)がある。 ・腺症状:ドライアイ(異物感、眼精疲労、羞明)、ドライマウス(口渇、固形物が飲み込みにくい、う歯の増加)、耳下腺の腫脹。 ・腺外症状:関節痛、Raynaud現象、間質性肺炎、尿細管間質性腎炎(遠位尿細管性アシドーシス)、環状紅斑、末梢神経障害など。悪性リンパ腫(特にMALTリンパ腫)の合併に注意する。 ・検査:抗SS-A/Ro抗体、抗SS-B/La抗体、リウマトイド因子、抗核抗体が陽性となりやすい。高γグロブリン血症(多クローン性)。 ・眼科検査:Schirmer試験(5分間で5 mm以下が異常)、フルオレセイン染色・ローズベンガル染色・リサミングリーン染色による角結膜上皮障害の評価、涙液層破壊時間(BUT)の短縮。 ・口腔検査:ガム試験(10分間で10 mL以下)、Saxonテスト(2分間で2 g以下)、唾液腺造影、唾液腺シンチグラフィ。 ・病理:口唇小唾液腺や涙腺の生検で導管周囲へのリンパ球浸潤。 ・診断:日本の診断基準(厚生省改訂基準)では、病理組織、口腔検査、眼科検査、血清検査(抗SS-A/SS-B抗体)のうち2項目以上を満たせば確定する。 ・治療:ドライアイには人工涙液、ヒアルロン酸点眼、ジクアホソル点眼、レバミピド点眼、涙点プラグ。ドライマウスにはムスカリン受容体作動薬(セビメリン、ピロカルピン)など。腺外病変が重い場合は副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を用いる。
全身疾患と特徴的な眼所見の対応
・Sjögren症候群:乾性角結膜炎(ドライアイ) ・反応性関節炎(Reiter症候群):結膜炎、前部ぶどう膜炎 ・Sturge-Weber症候群:緑内障、脈絡膜血管腫 ・神経線維腫症1型:Lisch結節、視神経膠腫 ・Wilson病:Kayser-Fleischer輪 ・Behçet病:前房蓄膿を伴うぶどう膜炎 ・Marfan症候群:水晶体偏位(上方)
POINT
・中年女性の両側性ドライアイ(Schirmer試験低値+角膜上皮障害)→ Sjögren症候群を考える。 ・Schirmer試験は5分間で5 mm以下が異常。 ・確定診断には抗SS-A/SS-B抗体、唾液分泌量検査、口唇小唾液腺生検などを組み合わせる。 ・全身疾患と眼所見の組み合わせ:Wilson病=Kayser-Fleischer輪、NF1=Lisch結節、Sturge-Weber症候群=緑内障、反応性関節炎=結膜炎・虹彩炎。
