StudyMed医師国家試験

りんご病の子を前に聞くべきは「お母さん、妊娠していませんか」―伝染性紅斑と胎児水腫

第104回医師国家試験 I問題 第64問

国試問題にチャレンジ

第104回 I問題 第64問

6歳の女児。両頬が赤いことを主訴に来院した。数日前に37℃台の発熱があった。3日前から頬が赤くなり,上腕伸側と大腿前面にもレース様の紅斑を認めた。軽度の痒みがある。全身状態は良好である。  親への問診項目として重要なのはどれか。

  1. a.父の職業
  2. b.母の現時点での妊娠の有無
  3. c.弟のワクチン歴
  4. d.家族の膠原病の有無
  5. e.家族のアレルギー疾患の有無

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、子どもの発疹から病名を見抜いたうえで、「誰に何を聞くべきか」まで考える問題だ。診断そのものは難しくない。大事なのは、この病気で本当に困るのは誰なのか、という視点だよ。まず、両頬の紅斑と四肢のレース様紅斑という組み合わせから何を考える?
医学生医学生
頬が真っ赤で、手足に網目状の紅斑……りんご病、つまり伝染性紅斑ですね。小児科の講義でslapped cheekという言葉を習いました。
ドクタードクター
その通り。原因はヒトパルボウイルスB19で、幼児から学童に多い。平手で叩かれたような両頬の紅斑に続いて、上腕や大腿の伸側にレース様の紅斑が広がるのが典型だ。全身状態が良いことも合っているね。
医学生医学生
でも、頬の紅斑というとSLEの蝶形紅斑も浮かびます。だから膠原病の家族歴を聞くのかな、と一瞬思いました。
ドクタードクター
その連想は大切だけど、SLEは6歳ではまれで、発熱が続いたり、関節炎や腎障害、血球減少など他の臓器症状を伴うことが多い。全身状態良好で四肢にレース様紅斑が出ている今回は、伝染性紅斑の典型像と考えていい。家族の膠原病を聞く意義は低いんだ。
医学生医学生
では、患児本人の治療はどうなりますか。
ドクタードクター
特異的な治療はなく、健康な子どもなら自然に治る。だからこの問題の焦点は患児ではなく周囲なんだ。パルボウイルスB19は赤芽球系前駆細胞に感染して、赤血球の産生を一時的に止めてしまう。これが胎児に起こるとどうなると思う?
医学生医学生
胎児は赤血球をどんどん作らないといけないので、強い貧血になりそうです。
ドクタードクター
そう。妊婦が感染すると経胎盤的に胎児へ感染し、高度の胎児貧血から心不全となり、非免疫性胎児水腫、さらには流産や死産の原因になる。特に妊娠前半の感染でリスクが高いとされている。だから母親が今妊娠しているかどうかの確認が最も重要なんだ。
医学生医学生
でも、発疹が出てから気をつければ間に合うんじゃないですか。
ドクタードクター
そこが落とし穴だよ。ウイルスを最も排出しているのは、発疹が出る前の、軽い発熱などかぜ様症状の時期なんだ。発疹は免疫反応によるもので、出たころには感染力はほとんどない。つまり頬が赤くなった時点で、同居している家族はすでに曝露している可能性が高い。
医学生医学生
なるほど、だから発疹が出た後は登校制限も原則いらないんですね。逆に、気づいたときにはもう手遅れかもしれない。
ドクタードクター
その理解で正しい。ほかの問診項目も確認しておこう。弟のワクチン歴はどうかな。
医学生医学生
パルボウイルスB19のワクチンは確か実用化されていないので、聞いても対応は変わらないですね。
ドクタードクター
正解。弟が感染しても健康な子なら軽症で済む。アレルギー疾患の家族歴は、アトピー性皮膚炎や喘息を考えるときには意味があるけれど、ウイルス感染症である伝染性紅斑には関係しない。父の職業も通常は診断や対応に影響しない。
医学生医学生
産婦人科の臨床実習で、胎児水腫の超音波を見せてもらったことがあります。原因の一つにパルボウイルスがあると教わりました。
ドクタードクター
いい経験をしているね。母親が妊娠中なら産科と連携して、抗体検査でIgMとIgGを確認し、感染が疑われれば胎児超音波で水腫の有無を、中大脳動脈の血流速度で胎児貧血を評価する。必要なら胎児輸血を検討することもある。
医学生医学生
妊婦さん以外にも、注意すべき人はいますか。
ドクタードクター
大事な質問だ。遺伝性球状赤血球症のような慢性溶血性貧血の患者では、赤血球の寿命が短いので、産生が一時止まるだけで急激に貧血が進む無形成発作を起こす。免疫不全者ではウイルスが排除されず、慢性の赤芽球癆になることがある。また成人が感染すると発疹は目立たず、手指などの対称性関節炎が主症状になりやすいので、関節リウマチと紛らわしいこともあるよ。
医学生医学生
子どもにとっては軽い病気でも、周りの人によっては重大になる。診断した後に家族の背景まで想像するのが大事なんですね。
ドクタードクター
まさにそれがこの問題の狙いだ。日本の成人女性の抗体保有率は半数程度とされていて、多くの妊婦が感受性をもっている。りんご病の子を診たら、まず家族に妊婦がいないかを聞く習慣をつけておこう。

まとめ

両頬の紅斑に続く四肢伸側のレース様紅斑を認め、全身状態が良好な小児では、ヒトパルボウイルスB19による伝染性紅斑を考えます。患児自身は自然軽快しますが、ウイルスは赤芽球系前駆細胞に感染するため、妊婦が感染すると胎児貧血から非免疫性胎児水腫・流産・死産を起こしえます。感染力が最も強いのは発疹出現前のかぜ様症状の時期であり、発疹に気づいた時点で家族はすでに曝露している可能性が高いため、母親の妊娠の有無を確認することが最も重要です。慢性溶血性貧血患者の無形成発作や免疫不全者の慢性赤芽球癆、成人の関節炎もあわせて押さえておきましょう。患児だけでなく周囲のハイリスク者に目を向ける視点は、感染症診療全般に通じる大切な考え方です。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・6歳の女児で、数日前に37℃台の軽い発熱があった。 ・その後、両頬が赤くなり(平手で叩かれたような紅斑、slapped cheek)、続いて上腕伸側と大腿前面にレース様(網目状)の紅斑が出現した。軽度の痒みがある。 ・全身状態は良好である。

診断へのプロセス

幼児〜学童の、軽い前駆症状に続く両頬の紅斑と四肢伸側のレース様紅斑という組み合わせは、伝染性紅斑(いわゆるりんご病)に典型的である。原因はヒトパルボウイルスB19である。 鑑別として、頬の紅斑からは全身性エリテマトーデス(SLE)の蝶形紅斑が挙がるが、SLEは6歳女児ではまれで、関節炎・腎障害・血球減少など他の臓器症状を伴うことが多い。全身状態が良好で四肢にレース様紅斑を伴う本例は、伝染性紅斑と考えてよい。麻疹や風疹、突発性発疹などの他のウイルス性発疹症とは、発疹の出方(顔から体幹へ広がる、解熱と同時に体幹に出る等)が異なる。

設問の考え方

伝染性紅斑そのものは小児では自然に治る軽い病気であり、患児への特別な治療は通常要らない。問診で重要なのは、周囲にこのウイルスで重大な影響を受ける人がいるかどうかである。パルボウイルスB19は赤血球の前駆細胞(赤芽球系前駆細胞)に感染してその増殖を止めるため、妊婦が感染すると胎盤を通じて胎児に感染し、胎児に高度の貧血を起こし、非免疫性胎児水腫や流産・死産の原因となる。しかも患児は発疹が出る前の、かぜ様症状の時期に最もウイルスを排出しているため、発疹に気づいた時点ですでに家族が曝露している可能性が高い。したがって、家族に妊婦がいないか、とくに母親が現在妊娠していないかを確認することが最も重要である。

選択肢考察

  1. ×a.  父の職業

    伝染性紅斑の診断や対応に、父親の職業は通常関係しない。父親が妊婦や溶血性貧血の患者などと日常的に接する職業であれば理屈のうえで話題になりうるが、問診で優先すべき項目ではない。

  2. ○b.  母の現時点での妊娠の有無

    パルボウイルスB19は経胎盤的に胎児へ感染する。胎児の赤芽球系前駆細胞が破壊されて高度の貧血となり、心不全から非免疫性胎児水腫をきたし、流産・死産の原因になる。特に妊娠前半(おおむね20週以前)の感染でリスクが高いとされる。患児は発疹出現前に感染力が最も強く、発疹が出たころには感染力はほぼないため、同居している母親はすでに曝露している可能性がある。母親が妊娠中であれば、産科医と連携し、抗体検査(IgM・IgG)で感染の有無を確認したうえで、胎児の超音波検査(胎児水腫の有無)や中大脳動脈血流速度測定(胎児貧血の評価)による経過観察を行い、必要に応じて胎児輸血を検討する。

  3. ×c.  弟のワクチン歴

    パルボウイルスB19に対するワクチンは実用化されておらず、弟の予防接種歴を聞いても伝染性紅斑の感染リスクや対応は変わらない。弟が感染したとしても、健康な小児であれば軽症で自然治癒する。

  4. ×d.  家族の膠原病の有無

    頬の紅斑からSLEの蝶形紅斑を連想するかもしれないが、6歳での発症はまれで、本例は全身状態が良好で四肢にレース様紅斑を伴うなど、伝染性紅斑の典型像である。家族歴として膠原病を聞く意義は低い。なお成人のパルボウイルスB19感染では関節炎や一過性の自己抗体陽性などSLE類似の症状を示すことがあるが、それは家族歴を聞く理由にはならない。

  5. ×e.  家族のアレルギー疾患の有無

    アレルギー家族歴は、アトピー性皮膚炎や気管支喘息などを考えるときには意味があるが、ウイルス感染症である伝染性紅斑には関係しない。またアレルギー性の皮疹(蕁麻疹など)は膨疹が出たり消えたりするのが特徴で、両頬の紅斑に続くレース様紅斑という本例の経過とは異なる。

伝染性紅斑の概要

・病原体:ヒトパルボウイルスB19(一本鎖DNAウイルス)。赤血球膜のP抗原を受容体として、骨髄の赤芽球系前駆細胞に感染する。 ・疫学:幼児〜学童に多く、春を中心に流行する。飛沫・接触で感染する。 ・経過:潜伏期は約1〜2週間。まず軽い発熱や倦怠感などのかぜ様症状があり、この時期にウイルス血症となり感染力が最も強い。その約1週間後に両頬の紅斑が現れ、続いて四肢(特に伸側)にレース様・網目状の紅斑が広がる。発疹は1週間程度で消えるが、日光や入浴、運動などで一時的に再び目立つことがある。発疹が出る時期は免疫反応によるもので、ウイルス排出はほぼ終わっているため、発疹出現後の登校制限は通常不要である(学校保健安全法でも、全身状態がよければ登校可能とされる)。 ・診断:臨床診断が基本。必要に応じて抗パルボウイルスB19 IgM抗体を測定する(保険適用は妊婦など条件がある)。 ・治療:特異的治療はなく、対症療法。

パルボウイルスB19感染で注意すべき人

・妊婦:胎児感染による胎児貧血、非免疫性胎児水腫、流産・死産。日本の成人女性の抗体保有率は半数程度とされ、多くの妊婦が感受性をもつ。 ・慢性溶血性貧血の患者(遺伝性球状赤血球症、鎌状赤血球症など):赤血球の寿命が短いため、一時的な赤血球産生停止で急激に貧血が進む無形成発作(aplastic crisis)をきたす。 ・免疫不全者:ウイルスが排除されず、慢性の赤芽球癆(持続的な貧血)をきたすことがある。 ・成人:発疹は目立たないことが多く、手指などの対称性の関節炎・関節痛が主症状となりやすい。

頬の紅斑の鑑別

・伝染性紅斑:小児、全身状態良好、四肢伸側のレース様紅斑を伴う。 ・SLEの蝶形紅斑:若年女性に多く、鼻根部をまたぐ紅斑で、発熱・関節炎・腎障害・血球減少などを伴う。 ・皮膚筋炎:上眼瞼のヘリオトロープ疹、手指関節背面のゴットロン徴候を伴う。

POINT

・両頬の紅斑(りんご様)+四肢伸側のレース様紅斑、全身状態良好 → 伝染性紅斑(ヒトパルボウイルスB19)。 ・感染力が強いのは発疹出現前のかぜ様症状の時期で、発疹が出た時点で周囲はすでに曝露している。 ・妊婦が感染すると胎児貧血→非免疫性胎児水腫・流産・死産の原因となるため、家族(特に母親)の妊娠の有無を確認する。 ・慢性溶血性貧血患者では無形成発作、免疫不全者では慢性赤芽球癆を起こす。 ・ワクチンや特異的治療はない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。