StudyMed医師国家試験

治ったはずのB型肝炎が牙をむく―化学療法前に必ず測るHBV-DNA

第119回医師国家試験 A問題 第32問

国試問題にチャレンジ

第119回 A問題 第32問

78歳の男性。頸部リンパ節腫大を主訴に来院した。頸部リンパ節生検の結果,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断された。血液所見:赤血球470万,Hb 14.1g/dL,Ht 44%,白血球6,800(分葉核好中球52%,好酸球1%,好塩基球0%,単球6%,リンパ球41%),血小板27万。血液生化学所見:総蛋白6.9g/dL,アルブミン3.8g/dL,総ビリルビン0.9 mg/dL,直接ビリルビン0.2mg/dL,AST 28U/L,ALT 16U/L,LD 243U/L(基準124~222)。免疫血清学的所見:CRP 0.8mg/dL,HBs抗原陰性,HBc抗体陽性,HBs抗体陽性,HCV抗体陰性。  リンパ腫の治療前に追加して測定すべき検査項目はどれか。

  1. a.HBc抗原
  2. b.HBe抗原
  3. c.HBe抗体
  4. d.HBV-DNA定量
  5. e.HCV-RNA定量

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、悪性リンパ腫の治療を始める前に何を確認すべきか、という問題だ。注目してほしいのはリンパ腫そのものよりも、肝炎ウイルスマーカーの組み合わせ。HBs抗原、HBc抗体、HBs抗体の結果が何を意味するかを読み解くのが出発点になるよ。
医学生医学生
HBs抗原が陰性なので、B型肝炎には今かかっていない、ということでしょうか。
ドクタードクター
半分正解だね。HBs抗原陰性なら、ウイルスを大量に持ち続けるキャリアではない。ではHBc抗体陽性はどう解釈する?
医学生医学生
基礎の微生物学の講義で、HBc抗体は実際に感染したときにしかできない、と習いました。ワクチンだとHBs抗体だけですよね。
ドクタードクター
その通り。HBc抗体陽性は過去に本物のHBVに感染した証拠で、HBs抗体陽性は回復の過程で中和抗体を獲得したことを示す。つまりこの患者さんはHBV既往感染者、いわゆる「治った人」なんだ。
医学生医学生
治っているなら、リンパ腫の治療にそのまま進んでよさそうに思えますが……。
ドクタードクター
そこが落とし穴。臨床的に治癒していても、HBVのゲノムはcccDNAという形で肝細胞の核の中に残っている。普段は免疫がそれを抑え込んでいるけれど、強い化学療法や免疫抑制療法で免疫が弱まると、ウイルスが再び増え始める。これがHBV再活性化だ。
医学生医学生
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療というと、R-CHOP療法ですよね。リツキシマブとプレドニゾロンが入っています。
ドクタードクター
よく気づいたね。リツキシマブはB細胞を除去するから抗体産生が落ち、ステロイドも免疫を抑える。この組み合わせは再活性化のリスクが特に高い。既往感染者から再活性化して起こる肝炎はde novo B型肝炎と呼ばれ、劇症化しやすく死亡率が高い。しかもリンパ腫の治療も中断せざるを得なくなるんだ。
医学生医学生
それを防ぐために、治療前にウイルスがどれだけいるかを確かめる、ということですね。だからHBV-DNA定量なんですか。
ドクタードクター
正解。ガイドラインでは、免疫抑制・化学療法の前に全例でHBs抗原を測り、陰性ならHBc抗体とHBs抗体を測る。どちらかが陽性ならHBV-DNA定量を行う。20 IU/mL、つまり1.3 LogIU/mL以上なら治療前からエンテカビルなどの核酸アナログを予防投与し、未満なら治療中から治療終了後少なくとも12か月間、原則月1回HBV-DNAを測って、陽性化したらすぐ核酸アナログを始める。
医学生医学生
ほかの選択肢も確認させてください。HBe抗原やHBe抗体は、ウイルスの増殖の勢いを見る指標だと思っていましたが、今回は使わないんですか。
ドクタードクター
HBe抗原とHBe抗体は、主にHBs抗原陽性のキャリアで、ウイルスが活発に増えているか、セロコンバージョンで落ち着いたかを判断するためのものだ。既往感染者で測っても再活性化のリスク評価にはならない。HBe抗体の有無にかかわらず、肝細胞に残ったウイルスは免疫抑制で増えうるから、ウイルスそのものをHBV-DNAで見るのが確実なんだ。
医学生医学生
HBc抗原は、そもそも測定するものなんでしょうか。CBTの勉強でもあまり見かけなかった気がします。
ドクタードクター
いい感覚だね。HBc抗原はウイルス粒子の内側のコア蛋白で、外側をHBs抗原の殻に覆われているから、血中で遊離した形では検出されない。日常診療の検査項目ではないんだ。HBコア関連抗原という別の検査はあるけれど、化学療法前の対策で求められているのはHBV-DNAだよ。
医学生医学生
HCV-RNA定量は、HCV抗体が陰性なので不要ということですね。
ドクタードクター
その通り。HCV-RNAはHCV抗体陽性の人で、今も感染が続いているのか、治癒しているのかを区別するために測る。抗体陰性なら追加の必要はない。
医学生医学生
臨床実習で血液内科を回ったとき、化学療法前のチェックリストに肝炎ウイルスの項目があって、なぜそこまで厳密なのか不思議でした。ようやく意味がわかりました。
ドクタードクター
実は血液内科に限らない話なんだ。関節リウマチの生物学的製剤、膠原病のステロイド大量療法、固形癌の化学療法や分子標的薬、造血幹細胞移植など、免疫を抑える治療ではすべて同じ流れで対策する。もう一つ大事なのは、de novo B型肝炎ではHBV-DNAが上がってから肝障害が出るまでに数週から数か月の時間差があること。だから定期的なDNAモニタリングで早めに見つければ、肝炎の発症を防げるんだ。
医学生医学生
肝機能が正常だから安心、ではなく、肝機能が悪くなる前にDNAで先回りする、ということですね。
ドクタードクター
まさにそう。治療前のHBV-DNAは、その後のモニタリングの基準値にもなる。「HBs抗原陰性でも、HBc抗体かHBs抗体が陽性ならHBV-DNA」と覚えておこう。

まとめ

HBs抗原陰性でHBc抗体陽性(HBs抗体陽性の有無を問わない)であれば、HBV既往感染者と判断します。既往感染者でも肝細胞核内にcccDNAが残存しており、リツキシマブやステロイドを含む化学療法・免疫抑制療法によって再活性化し、劇症化しやすいde novo B型肝炎を起こすことがあります。そのため治療前にHBV-DNA定量を行い、20 IU/mL以上なら核酸アナログの予防投与、未満なら治療中から治療後少なくとも12か月間、原則月1回のモニタリングを行います。HBe抗原・HBe抗体はキャリアの増殖状態の指標で既往感染者の評価には用いず、HBc抗原は血中で測定しません。免疫を抑える治療を行う診療科すべてに共通する重要な安全対策であり、マーカーの意味を正確に理解しておくことが患者の命を守ることにつながります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・78歳男性。頸部リンパ節生検でびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)と診断された。今後、リツキシマブ(抗CD20抗体)と副腎皮質ステロイドを含む化学療法(R-CHOP療法など)が予定される。 ・血算は正常。肝機能(AST、ALT、ビリルビン)も正常で、現時点で肝炎はない。LDの軽度上昇とCRPの軽度上昇はリンパ腫に伴うものと考えられる。 ・肝炎ウイルスマーカー:HBs抗原陰性、HBc抗体陽性、HBs抗体陽性、HCV抗体陰性。

HBVマーカーの解釈

HBs抗原陰性なので、現在B型肝炎ウイルス(HBV)を大量に持続保有している状態(キャリア)ではない。一方、HBc抗体陽性は過去にHBVに感染したことを示す(ワクチンではHBs抗体しかできないため、HBc抗体はワクチン接種では陽性にならない)。HBs抗体陽性は回復の過程で中和抗体が得られたことを示す。以上から、本例はHBV既往感染者である。

設問の考え方

HBV既往感染者では、臨床的に治癒したように見えても、HBVのゲノム(cccDNA:共有結合閉環状DNA)が肝細胞の核内に残っている。強力な化学療法や免疫抑制療法、とくにリツキシマブとステロイドの併用によって宿主の免疫が抑えられると、HBVが再び増殖する(HBV再活性化)。既往感染者からの再活性化による肝炎を「de novo B型肝炎」と呼び、劇症化しやすく致死率が高いうえ、原疾患の治療も中断せざるを得なくなる。 これを防ぐため、日本肝臓学会のガイドラインでは、免疫抑制・化学療法の前に全例でHBs抗原を測定し、陰性であればHBc抗体とHBs抗体を測定する。いずれかが陽性なら、血中のHBV-DNA量を測定する。HBV-DNAが定量下限(20 IU/mL、1.3 LogIU/mL)以上であれば、治療開始前から核酸アナログ(エンテカビルなど)を予防投与する。下限未満であれば、治療中と治療後少なくとも12か月間、HBV-DNAを原則月1回測定し、陽性化した時点で核酸アナログを開始する。したがって、本例で追加すべき検査はHBV-DNA定量である。

選択肢考察

  1. ×a.  HBc抗原

    HBc抗原はHBVの粒子内部のコア(ヌクレオカプシド)を構成する蛋白で、外側をHBs抗原の外殻に覆われているため、血中で遊離した形では検出されない。このため単独のHBc抗原は日常診療の検査項目ではなく、HBV再活性化のリスク評価にも用いない。なお、HBc抗原・HBe抗原などをまとめて測る「HBコア関連抗原(HBcrAg)」という検査はあるが、化学療法前の再活性化対策で求められているのはHBV-DNA量の測定である。

  2. ×b.  HBe抗原

    HBe抗原はHBVが活発に増殖しているときに血中に分泌される抗原で、HBs抗原陽性のキャリアにおいて、ウイルス量が多く感染力が強い状態かどうかを判断する指標となる。本例はHBs抗原陰性の既往感染者であり、HBe抗原を測っても陰性と予想され、再活性化のリスクを判断する材料にはならない。HBe抗原陰性でもHBVが残存していることはあり、ウイルスの有無は直接HBV-DNAで確認する必要がある。

  3. ×c.  HBe抗体

    HBe抗体はHBe抗原が消えた後に出現する抗体で、キャリアでは「セロコンバージョン(HBe抗原陰性化とHBe抗体陽性化)」によりウイルスの増殖が落ち着いたことの目安となる。しかし、既往感染者の再活性化リスクの評価には用いない。HBe抗体の陽性・陰性にかかわらず、肝細胞内に残ったHBVは免疫抑制で再増殖しうるため、評価すべきはHBV-DNA量である。

  4. ○d.  HBV-DNA定量

    HBs抗原陰性でHBc抗体陽性(本例ではHBs抗体も陽性)のHBV既往感染者に、リツキシマブやステロイドを含む化学療法を行う場合は、治療前にHBV-DNA定量を行う。HBV-DNAが20 IU/mL(1.3 LogIU/mL)以上であれば治療前から核酸アナログを予防投与し、未満であれば治療中および治療終了後少なくとも12か月間、原則月1回HBV-DNAをモニタリングして、陽性化した時点で直ちに核酸アナログを開始する。これによりde novo B型肝炎の発症と劇症化を防ぐ。治療前の値は、その後のモニタリングの基準値にもなる。

  5. ×e.  HCV-RNA定量

    HCV-RNA定量は、HCV抗体陽性者において、現在HCVに感染している(RNA陽性)のか、過去の感染で治癒している(RNA陰性)のかを区別したり、抗ウイルス療法の効果を判定したりするために行う。本例はHCV抗体陰性でありC型肝炎ウイルス感染は否定的なので、追加して測定する必要はない。また、化学療法前の肝炎ウイルス対策で最も重要なのはHBVの再活性化である。

HBVマーカーの意味

・HBs抗原:ウイルスの外殻蛋白。陽性なら現在HBVに感染している。 ・HBs抗体:中和抗体。陽性なら既往感染またはワクチン接種による免疫。 ・HBc抗体:コア蛋白に対する抗体。陽性なら感染したことがある(現在の感染または既往感染)。ワクチンでは陽性にならない。高力価はキャリア、低力価は既往感染を示すことが多い。 ・IgM-HBc抗体:高力価なら急性B型肝炎。 ・HBe抗原:ウイルス増殖が活発で感染力が強い。 ・HBe抗体:増殖が低下した状態の目安。 ・HBV-DNA:血中ウイルス量を直接示す。治療適応の判断や再活性化の監視に用いる。

HBV再活性化の分類

・HBs抗原陽性のキャリアからの再活性化:「肝炎の急性増悪」。治療開始前から核酸アナログを投与する。 ・HBs抗原陰性の既往感染者(HBc抗体またはHBs抗体陽性)からの再活性化:「de novo B型肝炎」。HBV-DNAが上昇してから肝障害が出るまでには数週~数か月の間があり、その間に核酸アナログを開始すれば肝炎発症を防げるため、定期的なHBV-DNAモニタリングが有効である。

化学療法・免疫抑制療法前の対策の流れ

1)全例でHBs抗原を測定する。 2)HBs抗原陽性 → HBe抗原・HBe抗体・HBV-DNA定量を測り、肝臓専門医と連携して核酸アナログを予防投与する。 3)HBs抗原陰性 → HBc抗体・HBs抗体を測定する。 4)HBc抗体またはHBs抗体が陽性 → HBV-DNA定量を測定する。  ・20 IU/mL(1.3 LogIU/mL)以上 → 核酸アナログ(エンテカビル、テノホビル製剤など)を予防投与。  ・20 IU/mL未満 → 治療中および治療終了後少なくとも12か月間、原則月1回HBV-DNAを測定し、陽性化したら核酸アナログを開始。 5)両抗体とも陰性 → 通常の対応(未感染)。

再活性化のリスクが高い治療

リツキシマブ(抗CD20抗体)などのB細胞を除去する治療、副腎皮質ステロイド、造血幹細胞移植、フルダラビンなどのプリンアナログが高リスクである。DLBCLの標準治療であるR-CHOP療法はリツキシマブとプレドニゾロンを含み、再活性化の危険が特に高い。関節リウマチなどに用いる免疫抑制薬や生物学的製剤、分子標的薬でも同様の対策が求められる。

POINT

・HBs抗原陰性+HBc抗体陽性(±HBs抗体陽性)=HBV既往感染者。 ・既往感染者でも肝細胞内にHBVが残存し、化学療法・免疫抑制療法(特にリツキシマブ+ステロイド)で再活性化しうる → de novo B型肝炎(劇症化しやすい)。 ・治療前にHBV-DNA定量を測定し、20 IU/mL以上なら核酸アナログの予防投与、未満なら月1回のHBV-DNAモニタリング(治療終了後も少なくとも12か月)。 ・HBe抗原・HBe抗体はキャリアのウイルス増殖の指標であり、既往感染者の再活性化評価には用いない。HBc抗原は血中で測定しない。 ・HCV抗体陰性ならHCV-RNAの測定は不要。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。