StudyMed医師国家試験

背の高いやせ型の少女と心雑音―僧帽弁逸脱が奏でる「収縮期・高調」の理由

第104回医師国家試験 I問題 第48問

国試問題にチャレンジ

第104回 I問題 第48問

15歳の女子。学校の健康診断で心雑音を指摘され来院した。小児期から強度の近視と漏斗胸とを指摘されているが,健常な生活を送っている。身長168 cm,体重48 kg。脈拍72/分,整。血圧118/72 mmHg。心エコー図を別に示す。  心雑音の特徴はどれか。

第104回 I問題 第48問の問題画像
  1. a.連続性
  2. b.収縮期・低調
  3. c.収縮期・高調
  4. d.拡張期・低調
  5. e.拡張期・高調

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、心エコーで見つかった弁の異常から心雑音の性質を推論する問題だ。カギは2つ。1つは体型と既往歴から背景にある疾患を想起すること、もう1つは「雑音の高さは何で決まるか」という原理を理解していることだ。まず、体型と既往歴からどんな疾患が思い浮かぶかな。
医学生医学生
高身長でやせ型、漏斗胸、強度の近視……Marfan症候群でしょうか。
ドクタードクター
その通り。Marfan症候群はFBN1遺伝子の変異で弾性線維がもろくなる常染色体顕性遺伝の結合組織疾患だ。骨格では高身長や長い四肢、漏斗胸・鳩胸、側弯、眼では水晶体偏位や強度近視、心血管では大動脈基部拡張や大動脈解離が知られている。そしてもう一つ、高率に合併するのが僧帽弁逸脱症だ。
医学生医学生
遺伝医学の講義で、Marfanは大動脈解離が怖いと習いました。弁にも影響が出るんですね。
ドクタードクター
そう。弁が粘液腫様に変性して伸びやすくなるんだ。心エコー図では、収縮期に僧帽弁尖が弁輪を越えて左房側へ落ち込む像がみられ、僧帽弁逸脱症と診断できる。弁尖がうまく合わさらないから、僧帽弁逆流を伴う。
医学生医学生
僧帽弁逆流なら収縮期雑音ですね。でも、高調か低調かとなると自信がありません。
ドクタードクター
そこが今回の本題だ。雑音の高さは、雑音を生む血流の圧較差、つまり流速で決まる。圧較差が大きく速い噴流ほど高調、圧較差が小さくゆっくりした血流ほど低調になる。収縮期の左室と左房の圧はどれくらい違う?
医学生医学生
左室が約120 mmHg、左房が約10 mmHgなので、100 mmHg以上の差があります。だから勢いよく逆流して高調になる、ということですね。
ドクタードクター
完璧。だから答えは「収縮期・高調」。心尖部で最もよく聴こえる吹鳴様の雑音だ。僧帽弁逸脱症に典型的なのは、収縮中期クリックに続く収縮後期雑音。クリックは、逸脱した弁尖と腱索が急にピンと張るときの音なんだ。逆流が高度になれば全収縮期雑音になるけれど、どちらにしても収縮期・高調であることに変わりはない。
医学生医学生
OSCEの聴診シミュレータでクリックを聴いたことがありますが、すごく短い音でした。
ドクタードクター
面白い性質があってね、立位やValsalva手技で前負荷が減って左室が小さくなると、クリックは早まり雑音は長くなる。逆に蹲踞や下肢挙上で前負荷が増えると、クリックは遅れ雑音は短くなる。肥大型閉塞性心筋症の雑音の変化と並べて整理しておくといい。では残りの選択肢も確認しよう。拡張期の雑音はどう分けられる?
医学生医学生
拡張期で高調なのは大動脈弁閉鎖不全、低調なのは僧帽弁狭窄のランブルでしたよね。Marfanなら大動脈弁閉鎖不全もありそうで少し迷いました。
ドクタードクター
その迷いはもっともだ。Marfan症候群では大動脈基部拡張による大動脈弁閉鎖不全も起こりうる。大動脈弁閉鎖不全では拡張期に大動脈と左室の間に大きな圧較差があるから高調・漸減性の灌水様雑音になり、Erb領域で座位前傾・呼気止めで聴きやすい。ただ、今回の心エコー図が示しているのは僧帽弁の逸脱だから該当しない。一方、僧帽弁狭窄の拡張期ランブルは、左房から左室への圧較差が小さくゆっくり流れるから低調で、ベル型で心尖部を聴く。重症大動脈弁閉鎖不全に伴うAustin Flint雑音もこの仲間だ。
医学生医学生
連続性雑音は、動脈管開存症のように高圧系と低圧系が心周期を通じてつながっているときでしたね。
ドクタードクター
そう。Valsalva洞動脈瘤破裂や冠動静脈瘻、動静脈瘻でも生じる。僧帽弁逸脱の逆流は収縮期だけだから連続性にはならない。最後に収縮期・低調だけど、器質的疾患で収縮期に低調の雑音が主体となるものは少ない。小児の無害性雑音であるStill雑音は、やや低調で楽音様の収縮期駆出性雑音として知られている。
医学生医学生
圧較差が大きければ高調、小さければ低調。この原理さえ押さえれば、疾患ごとに丸暗記しなくても雑音の高さを導けそうです。
ドクタードクター
まさにそれがこの問題の狙いだ。臨床的な注意点もまとめておこう。僧帽弁逸脱症の多くは無症状で予後良好だけれど、動悸や非定型的な胸痛、不整脈、腱索断裂による急性の高度僧帽弁逆流、感染性心内膜炎を起こすことがある。そしてMarfan症候群が疑われる場合、生命予後を左右するのは大動脈病変だ。大動脈基部径を定期的に画像で追い、β遮断薬やARBの投与、必要なら予防的な大動脈基部置換術を検討する。
医学生医学生
学校健診の心雑音がきっかけで、命に関わる大動脈の病気を早めに見つけられるかもしれないんですね。
ドクタードクター
その通り。心雑音だけを見て「軽い弁膜症」で終わらせず、体型や眼・骨格の特徴から全身疾患を拾い上げる視点を持ってほしい。家族歴の聴取も忘れずにね。

まとめ

高身長・やせ型に漏斗胸や強度近視を伴う場合はMarfan症候群を疑い、心血管合併症として僧帽弁逸脱症と大動脈基部拡張に注意します。僧帽弁逸脱症では収縮期に僧帽弁尖が左房側へ落ち込み、高圧の左室から低圧の左房へ大きな圧較差で逆流が生じるため、心尖部で収縮中期クリックに続く「収縮期・高調」の雑音を聴取し、立位やValsalva手技ではクリックが早まり雑音が延長します。雑音の高さは圧較差で決まり、圧較差の大きい僧帽弁逆流や大動脈弁閉鎖不全は高調、小さい僧帽弁狭窄のランブルは低調、心周期を通じた短絡がある動脈管開存症などは連続性と整理できます。この原理を理解しておくと聴診所見から病態を論理的に推測でき、さらに学校健診の心雑音を手がかりに大動脈解離などの重大な合併症を早期に管理へつなげることができます。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・15歳女子、学校健診で心雑音を指摘されたが自覚症状はなく、日常生活に支障はない。 ・身長168 cm、体重48 kgと、同年代女子としては高身長かつやせ型の体型である(BMI約17)。 ・小児期から強度の近視(Marfan症候群では水晶体亜脱臼を伴うことも多い)と漏斗胸がある。 ・脈拍・血圧は正常範囲である。

診断へのプロセス

高身長・やせ型、骨格異常(漏斗胸)、眼の異常(強度近視)がそろっており、結合組織の先天異常であるMarfan症候群がまず想起される。Marfan症候群はフィブリリン1遺伝子(FBN1)の異常によって弾性線維が脆弱になる常染色体顕性(優性)遺伝疾患で、心血管系では大動脈基部拡張・大動脈解離のほか、僧帽弁の粘液腫様変性による僧帽弁逸脱症(mitral valve prolapse:MVP)を高率に合併する。 心エコー図では、収縮期に僧帽弁尖(主に後尖)が弁輪を越えて左房側へ落ち込む像がみられ、MVPと診断できる。逸脱した弁尖は接合が不十分になるため、僧帽弁閉鎖不全(僧帽弁逆流、MR)を伴う。

設問への考え方

心雑音は「時相(収縮期・拡張期・連続性)」と「音の高さ(高調・低調)」で整理する。音の高さは、雑音を生じる血流の圧較差(流速)で決まり、圧較差が大きく速い噴流ほど高調、圧較差が小さくゆっくりした血流ほど低調になる。 MVPに伴うMRでは、収縮期に高圧の左室(約120 mmHg)から低圧の左房(約10 mmHg)へ大きな圧較差で血液が逆流するため、雑音は収縮期に生じ、高調(吹鳴様)となる。MVPに典型的なのは、収縮中期クリック(逸脱した弁尖と腱索が急に張る音)に続く収縮後期雑音であり、逆流が高度になれば全収縮期雑音となる。いずれにしても「収縮期・高調」である。

選択肢考察

  1. ×a.  連続性

    連続性雑音は、収縮期からII音をまたいで拡張期まで途切れずに続く雑音で、高圧系と低圧系が心周期全体を通じて短絡しているときに生じる。代表は動脈管開存症(大動脈→肺動脈)、Valsalva洞動脈瘤破裂、冠動静脈瘻、動静脈瘻などである。本例のMVPでは逆流は収縮期のみに起こるため、連続性雑音にはならない。

  2. ×b.  収縮期・低調

    収縮期に低調の雑音が主体となる器質的疾患は少ない。小児で聴かれる無害性(機能性)雑音の一つであるStill雑音は、心尖部から胸骨左縁第3肋間付近で聴かれる、やや低調で楽音様の収縮期駆出性雑音である。MVPによる逆流は左室と左房の間の大きな圧較差で生じる速い噴流であり、低調にはならない。

  3. ○c.  収縮期・高調

    MVPでは、収縮期に逸脱した僧帽弁の隙間から、高圧の左室から低圧の左房へ血液が逆流する。圧較差が大きく流速が速いため、雑音は高調で吹鳴様となり、心尖部で最もよく聴取される。典型的には収縮中期クリックに続く収縮後期雑音で、立位やValsalva手技で左室容積が小さくなるとクリックと雑音は早期に移動し、雑音は長くなる。逆流が高度なら全収縮期雑音となる。いずれも「収縮期・高調」の雑音であり、本例の特徴に合致する。

  4. ×d.  拡張期・低調

    拡張期の低調雑音は、左房から左室へ血液が流入するときに生じる心室充満性雑音(拡張期ランブル)が代表である。房室間の拡張期圧較差は小さく流速も遅いため低調で、ベル型聴診器で心尖部を聴くとよく聴取できる。僧帽弁狭窄症(開放音〈opening snap〉に続く)が典型で、重症大動脈弁逆流に伴うAustin Flint雑音もこれに当たる。本例のMVPの雑音とは時相も音の高さも異なる。

  5. ×e.  拡張期・高調

    拡張期の高調雑音は、半月弁(大動脈弁・肺動脈弁)の閉鎖不全で生じる逆流性雑音である。拡張期に大血管と心室の間に大きな圧較差があるため高調・漸減性(灌水様)となる。大動脈弁閉鎖不全症では胸骨左縁第3〜4肋間(Erb領域)で、座位・前傾・呼気止めで聴取しやすい。肺高血圧に伴う肺動脈弁逆流のGraham Steell雑音もこれに当たる。Marfan症候群では大動脈基部拡張によるARも起こりうるが、本例の心エコー図で示されているのは僧帽弁逸脱であり、該当しない。

心雑音の整理(時相×音の高さ)

・収縮期・高調(逆流性・全収縮期〜収縮後期):僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症、心室中隔欠損症、MVP(収縮中期クリック+収縮後期雑音) ・収縮期・駆出性(漸増漸減型):大動脈弁狭窄症、肺動脈弁狭窄症、心房中隔欠損症(肺動脈弁通過血流の増加による相対的狭窄)、肥大型閉塞性心筋症、無害性雑音 ・拡張期・高調(灌水様・漸減性):大動脈弁閉鎖不全症、肺動脈弁閉鎖不全症(Graham Steell雑音) ・拡張期・低調(ランブル):僧帽弁狭窄症、Austin Flint雑音、心室中隔欠損症やMRなどで左房→左室の流入血流が増えることによる相対的僧帽弁狭窄 ・連続性:動脈管開存症、Valsalva洞動脈瘤破裂、冠動静脈瘻、動静脈瘻

僧帽弁逸脱症(MVP)

・僧帽弁尖が収縮期に弁輪を越えて左房側へ逸脱する状態である。心エコー図の傍胸骨長軸像で、弁尖が弁輪を結ぶ線より2 mm以上左房側へ落ち込むことが診断の目安となる。 ・原因の多くは弁の粘液腫様変性で、Marfan症候群、Ehlers-Danlos症候群などの結合組織疾患や、漏斗胸などの胸郭異常に合併しやすい。やせ型の若年女性にもしばしばみられる。 ・聴診:心尖部で収縮中期クリック+収縮後期雑音。立位・Valsalva手技(前負荷減少)で左室が小さくなると、クリックは早まり雑音は長くなる。蹲踞(そんきょ)や下肢挙上(前負荷増加)ではクリックが遅れ、雑音は短くなる。 ・多くは無症状で予後良好だが、動悸・非定型的胸痛、不整脈、腱索断裂による急性の高度MR、感染性心内膜炎などを起こすことがある。

Marfan症候群

・FBN1遺伝子変異による常染色体顕性(優性)遺伝の結合組織疾患。 ・骨格:高身長、長い四肢・指(クモ指)、漏斗胸・鳩胸、側弯症。 ・眼:水晶体偏位(上方に偏位しやすい)、強度近視。 ・心血管:大動脈基部拡張(Valsalva洞拡大)、大動脈解離、大動脈弁閉鎖不全、MVP。生命予後を左右するのは大動脈病変であり、定期的な画像検査による経過観察、β遮断薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の投与、予防的大動脈基部置換術が検討される。

POINT

・高身長・やせ型+漏斗胸+強度近視 → Marfan症候群を疑い、MVPと大動脈基部拡張に注意する。 ・MVP:心尖部の収縮中期クリック+収縮後期雑音(高調)。立位・Valsalva手技で雑音は早期化・延長する。 ・雑音の高さは圧較差で決まる:圧較差が大きい→高調(MR、VSD、AR)、圧較差が小さい→低調(MSのランブル)。 ・連続性雑音=動脈管開存症など、拡張期高調=AR、拡張期低調=MS。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。