上がるもの、下がるもの―急性膵炎の検査値を「機序」で読み解く
第104回医師国家試験 I問題 第21問
国試問題にチャレンジ
急性膵炎で血中に増加しないのはどれか。
- a.ブドウ糖
- b.LD
- c.アミラーゼ
- d.リパーゼ
- e.カルシウム
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急性膵炎は膵酵素の早期活性化による自己消化で起こり、検査値の変化は機序ごとに整理すると理解しやすくなります。腺房細胞の破壊によりアミラーゼやリパーゼが、組織壊死によりLDが上昇し、膵島障害とストレスホルモンの増加により血糖も上昇します。一方、カルシウムは、リパーゼが分解した脂肪から生じた遊離脂肪酸と結合して沈着する脂肪壊死(鹸化)により消費されて低下し、低アルブミン血症も総カルシウム値を下げます。膵酵素は診断に用いるものの重症度とは相関せず、「LD≧基準値上限の2倍」や「総Ca≦7.5mg/dL」が重症度判定基準の予後因子となる点が重要です。高カルシウム血症や高トリグリセリド血症は膵炎の原因にもなるため、検査値を「原因」と「結果」に分けて理解する姿勢が臨床判断の基礎になります。
解答・解説
正解はeです
急性膵炎は、膵臓の中で消化酵素(トリプシンなど)が本来より早く活性化され、膵臓自身とその周囲の組織を消化してしまう(自己消化)ことで起こる急性の炎症である。主な原因はアルコールと胆石である。 血液検査の変化は、次のように機序ごとに整理すると理解しやすい。 1. 膵腺房細胞の破壊により、膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ、エラスターゼ1、トリプシンなど)が血中へ逸脱して上昇する。 2. 組織の壊死・細胞障害により、LD(乳酸脱水素酵素)などの逸脱酵素が上昇する。 3. 膵島の障害に加え、強いストレスによりカテコールアミン、グルカゴン、コルチゾールなどインスリンと逆の作用をもつホルモンが増えるため、血糖が上昇する。 4. 膵酵素(リパーゼ)が膵周囲の脂肪組織を分解して遊離脂肪酸を生じ、これがカルシウムと結合して沈着する(脂肪壊死、鹸化)ため、血中カルシウムは低下する。 したがって、選択肢のうち「増加しない」、すなわち低下するのはカルシウムである。低カルシウム血症は膵周囲の脂肪壊死が広範であることを反映し、重症化を示す指標として重症度判定基準にも含まれている。
選択肢考察
- ×a. ブドウ糖
急性膵炎では高血糖を呈することが多い。膵島のβ細胞が炎症に巻き込まれてインスリン分泌が低下することに加え、強い侵襲によってカテコールアミン、グルカゴン、コルチゾールなど血糖を上げるホルモンの分泌が増えるためである。多くは一過性である。かつて日本の重症度判定基準では血糖値の上昇が予後因子の一つとされていたが、2008年の改訂で予後因子から外された。なお、海外で用いられるRanson基準では入院時の血糖上昇(200mg/dL超)が予後因子に含まれている。
- ×b. LD
LD(乳酸脱水素酵素、LDHとも表記)はほぼ全身の細胞に含まれる酵素で、細胞が壊れると血中に逸脱して上昇する。急性膵炎では膵や周囲組織の壊死、循環障害に伴う臓器障害などを反映して上昇し、特に重症例で高値となる。日本の急性膵炎重症度判定基準(2008年改訂)では「LDが基準値上限の2倍以上」が予後因子の一つとされている。
- ×c. アミラーゼ
アミラーゼは膵腺房細胞から分泌されるデンプン分解酵素で、膵が障害されると血中・尿中に逸脱して上昇する。急性膵炎の診断基準の一項目「血中または尿中の膵酵素の上昇」に該当する代表的な検査である。ただし、発症後比較的早く正常化すること、唾液腺にも由来するため耳下腺炎などでも上昇すること(膵型アミラーゼの測定で区別できる)、また上昇の程度は重症度と相関しないことに注意が必要である。
- ×d. リパーゼ
リパーゼは膵から分泌される脂肪分解酵素で、急性膵炎では血中に逸脱して上昇する。アミラーゼに比べて膵への特異性が高く、高値が持続する期間も長いため、発症からやや時間がたって受診した例でも診断に役立つ。そのため膵酵素の中では診断に最も推奨される項目とされている。アミラーゼと同様に、上昇の程度と重症度は相関しない。
- ○e. カルシウム
急性膵炎では血中カルシウムは増加せず、むしろ低下する。膵から漏れ出たリパーゼが膵周囲や腸間膜の脂肪を分解して遊離脂肪酸を作り、これがカルシウムと結合して沈着する(脂肪壊死、鹸化)ため、カルシウムが消費されることが主な機序である。さらに、炎症による血管透過性亢進などで生じる低アルブミン血症も総カルシウム値を下げる方向に働く。低カルシウム血症は脂肪壊死の広がりを反映するため重症化の指標となり、日本の重症度判定基準では「総カルシウム値7.5mg/dL以下」が予後因子の一つである。高度な低下ではテタニーなどの症状を起こすこともある。
急性膵炎の診断基準(厚生労働省)
次の3項目のうち2項目以上を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断する。 1. 上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある 2. 血中または尿中に膵酵素の上昇がある 3. 超音波、CTまたはMRIで膵に急性膵炎に伴う異常所見がある
急性膵炎の重症度判定基準(2008年改訂)の予後因子
各1点とし、3点以上を重症とする。 ・塩基過剰(BE)≦−3mEq/L、またはショック(収縮期血圧≦80mmHg) ・PaO2≦60mmHg(室内気)、または呼吸不全(人工呼吸管理が必要) ・BUN≧40mg/dL(またはCr≧2mg/dL)、または乏尿(輸液後も1日尿量≦400mL) ・LD≧基準値上限の2倍 ・血小板数≦10万/μL ・総Ca≦7.5mg/dL ・CRP≧15mg/dL ・SIRS(全身性炎症反応症候群)診断基準における陽性項目数≧3 ・年齢≧70歳 これとは別に、造影CTによる評価(CT Grade)でGrade 2以上も重症と判定される。
ポイントとなる検査値の考え方
・膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ)は診断に用いるが、重症度の指標にはならない。 ・重症度は、臓器障害(腎・肺・循環)、凝固異常(血小板減少)、炎症の強さ(CRP、SIRS)、脂肪壊死(低Ca)、組織障害(LD上昇)などで評価する。 ・高トリグリセリド血症や高カルシウム血症(副甲状腺機能亢進症など)は、急性膵炎の原因となりうる。検査値が「原因」として上がる場合と「結果」として変動する場合を区別して理解する。
POINT
・急性膵炎では、アミラーゼ、リパーゼ、LD、血糖は上昇し、カルシウムは低下する。 ・低Ca血症の主な機序は脂肪壊死による鹸化(遊離脂肪酸とCaの結合)である。 ・膵酵素の値は診断に用いるが、重症度とは相関しない。リパーゼは特異性が高く、高値が長く続く。 ・重症度判定基準の予後因子に「LD≧基準値上限の2倍」「総Ca≦7.5mg/dL」が含まれる。血糖は2008年改訂で除外された。
