やせ型でも油断できない血圧―健診データから「本当に必要な指導」を選び出す
第104回医師国家試験 G問題 第43問
国試問題にチャレンジ
45歳の男性。独身。事務職。会社の定期健康診断の結果を持って医務室を訪れた。自家用車で通勤している。普段は朝食をとらずに出社し,昼と夜の食事は外食が多い。休日は自宅で映画のDVDを鑑賞して過ごしている。喫煙歴はない。飲酒は日本酒2合/週を23年間。定期健康診断の結果:身長165 cm,体重60 kg,腹囲78 cm。血圧142/88 mmHg。尿所見:蛋白(-),糖(-)。血液生化学所見:空腹時血糖100 mg/dL,HDL-コレステロール36 mg/dL,LDL-コレステロール120 mg/dL(基準65~139),トリグリセリド120 mg/dL,AST 25 IU/L,ALT 30 IU/L,γ-GTP 40 IU/L(基準8~50)。胸部エックス線写真と心電図とに異常を認めない。同時に実施した食事調査では摂取エネルギー量2,200 kcal/日,塩分摂取量12.5 g/日であった。 指導として適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.禁酒
- b.塩分摂取の制限
- c.摂取エネルギー量の制限
- d.身体活動量の増加
- e.精神的ストレスの軽減
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
健診事後の生活指導では、検査値と生活歴を一つずつ評価し、改善が必要な項目と問題のない項目を切り分けることが出発点になります。本例はI度高血圧の範囲の血圧と食塩12.5 g/日という過剰摂取があり、高血圧患者の減塩目標である6 g/日未満を目指した塩分制限が必要です。また事務職・車通勤・休日も屋内という生活から運動不足は明らかで、有酸素運動による身体活動量の増加は降圧に加えて低HDLコレステロール血症の改善にも役立ちます。一方、BMI約22で肥満はなく、飲酒も週に日本酒2合と少量で肝機能も正常なため、エネルギー制限や禁酒は不要であり、根拠のないストレス軽減よりも明確な課題を優先します。BMIの計算、アルコール量の換算、食塩の目標量といった目安を押さえ、優先度の高い項目を具体的に指導する姿勢は、実際の外来や産業保健の場でも欠かせません。
解答・解説
正解はb, dです
所見の整理
45歳の独身男性、事務職。健康診断結果を持って医務室を訪れた場面で、健診結果と生活習慣から「何を指導すべきか」を判断する保健指導の問題である。健診データと生活歴を一つずつ評価し、改善が必要な項目と、問題のない項目を切り分けることが解答の手順となる。 ・体格:身長165 cm、体重60 kgからBMI(体格指数)=60÷1.65²≒22.0であり、普通体重(18.5以上25未満)に入る。腹囲78 cmも内臓脂肪型肥満の基準(男性85 cm以上)を下回る。 ・血圧:142/88 mmHg。収縮期血圧が140 mmHg以上であり、診察室血圧で140〜159/90〜99 mmHgに当たるI度高血圧に分類される(1回の測定で確定はできないが、少なくとも高血圧域として生活習慣の修正が必要な値である)。 ・脂質:HDLコレステロール36 mg/dLは40 mg/dL未満で低HDLコレステロール血症に該当する。LDLコレステロール120 mg/dL、トリグリセリド120 mg/dLは基準内。 ・糖代謝・肝機能・尿:空腹時血糖100 mg/dL、AST・ALT・γ-GTPはいずれも基準内、尿蛋白・尿糖陰性で、臓器障害を示唆する所見はない。 ・食事調査:摂取エネルギー量2,200 kcal/日、食塩摂取量12.5 g/日。 ・生活歴:デスクワーク、自家用車通勤、休日は自宅でDVD鑑賞と、仕事でも私生活でも身体を動かす機会が乏しい。朝食欠食、昼夜は外食中心。喫煙なし。飲酒は日本酒2合を週1回程度(週当たり2合)。
問題点の抽出
改善すべき点は、①高血圧域の血圧と、その背景にある食塩の過剰摂取(外食中心の食生活は塩分が多くなりやすい)、②明らかな運動不足(低HDLコレステロールの一因にもなる)の2点である。一方、体格は標準で、エネルギー摂取量も身体活動の少ない同年代男性の必要量を超えておらず、飲酒量はごく少ない。ストレスについては問題文に手がかりがない。したがって、食塩制限と身体活動量の増加を指導するのが適切である。
選択肢考察
- ×a. 禁酒
不適切。日本酒1合(180 mL、アルコール度数15%程度)は純アルコール約20 gに相当する。本例の飲酒は日本酒2合を「週に」であり、1日平均にすると純アルコール約6 gにすぎない。高血圧の生活習慣修正で推奨される節酒の目安(男性でエタノール20〜30 mL/日以下)を大きく下回っている。γ-GTPやAST・ALTも正常で、アルコールによる肝障害もうかがえない。したがって禁酒を指導する必要はない。
- ○b. 塩分摂取の制限
適切。血圧142/88 mmHgはI度高血圧の範囲にあり、食塩摂取量12.5 g/日は明らかに過剰である。日本高血圧学会のガイドラインでは、高血圧患者の減塩目標を食塩6 g/日未満としている。一般成人向けの「日本人の食事摂取基準」の目標量(男性7.5 g/日未満)と比べても大きく上回っている。外食中心の食生活は食塩過多になりやすいため、麺類の汁を残す、漬物や加工食品を控える、減塩の外食メニューを選ぶなど具体的な減塩方法を指導する。
- ×c. 摂取エネルギー量の制限
不適切。BMIは約22.0で普通体重、腹囲も78 cmと基準未満であり、肥満はない。摂取エネルギー量2,200 kcal/日は、30〜49歳男性で身体活動レベルが低い場合の推定エネルギー必要量(おおむね2,200〜2,300 kcal/日前後)と同程度かやや下回る水準である。体重が適正に保たれていることからもエネルギー収支はほぼ釣り合っており、エネルギー制限を指導する根拠はない。
- ○d. 身体活動量の増加
適切。事務職(座位中心の仕事)、自家用車通勤、休日は自宅での映画鑑賞と、日常生活全体を通じて身体活動量が少ない。定期的な有酸素運動は降圧効果があり、高血圧の生活習慣修正の柱の一つである(目安として中等度強度の有酸素運動を毎日30分以上、または週180分以上)。さらに運動はHDLコレステロールを上昇させるため、本例の低HDLコレステロール血症の改善にも役立つ。通勤の一部を徒歩にする、休日にウォーキングを取り入れるなど、実行しやすい方法を提案するとよい。
- ×e. 精神的ストレスの軽減
不適切。精神的ストレスは血圧上昇の一因となりうるが、問題文には仕事上の負担、睡眠障害、気分の落ち込みなど、ストレスが強いことを示す情報がない。根拠のない項目を優先的に指導するより、データから明らかな問題(食塩過剰と運動不足)への介入を優先すべきである。
高血圧の分類(日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン2019、診察室血圧)
・正常血圧:120未満 かつ 80未満 mmHg ・正常高値血圧:120〜129 かつ 80未満 ・高値血圧:130〜139 かつ/または 80〜89 ・I度高血圧:140〜159 かつ/または 90〜99 ・II度高血圧:160〜179 かつ/または 100〜109 ・III度高血圧:180以上 かつ/または 110以上 収縮期と拡張期で分類が異なるときは高い方の分類を採る。本例は収縮期142 mmHgのためI度高血圧となる。
高血圧の生活習慣修正の項目(ガイドラインの要点)
・減塩:食塩6 g/日未満 ・野菜・果物の積極的摂取、飽和脂肪酸・コレステロールの摂取を控える(ただし重い腎障害では野菜・果物のカリウムに注意) ・適正体重の維持:BMI 25未満 ・運動:中等度強度の有酸素運動を中心に、毎日30分以上または週180分以上を目標 ・節酒:エタノールで男性20〜30 mL/日以下、女性10〜20 mL/日以下 ・禁煙(受動喫煙の防止も含む) これらを組み合わせるとより大きな降圧効果が期待できる。
健診事後の保健指導の考え方
健康診断の結果から検査値の異常と生活習慣の課題を結びつけ、優先度の高い項目に絞って具体的に指導する。問題のない項目(本例では体重・エネルギー量・飲酒)まで制限を求めると、対象者の負担が増えて指導全体の実行性が下がる。本例のような「数値と生活歴を突き合わせて課題を選ぶ」問題では、標準体重・飲酒量の換算・食塩の目標量などの目安を押さえておくことが重要である。
HDLコレステロールと生活習慣
HDLコレステロールは運動不足、肥満、喫煙で低下し、有酸素運動や禁煙、体重減少で上昇する。本例は非喫煙・非肥満であり、運動不足が主な要因と考えられる。
POINT
・BMI 22.0、腹囲78 cmで肥満なし → エネルギー制限は不要。 ・血圧142/88 mmHgはI度高血圧、食塩12.5 g/日は過剰 → 減塩(高血圧では6 g/日未満)を指導。 ・事務職・車通勤・休日も屋内 → 身体活動量の増加(有酸素運動)を指導。低HDLコレステロールの改善にも有効。 ・日本酒2合/週は少量で肝機能も正常 → 禁酒は不要。 ・問題文に根拠がない項目(ストレス)は選ばない。
