白く光る卵巣の嚢胞は脂か血か―T1強調像の「高信号」を読み解く
第104回医師国家試験 G問題 第39問
国試問題にチャレンジ
骨盤部単純MRIのT1強調像で高信号を示すのはどれか。2つ選べ。
- a.膀胱内の尿
- b.子宮内膜
- c.石灰化した子宮筋腫
- d.皮様嚢胞腫の内容
- e.卵巣チョコレート嚢胞の内容
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
単純MRIのT1強調像では、T1緩和時間の短い脂肪、亜急性期出血のメトヘモグロビン、高蛋白液、メラニンが高信号を示し、尿などの水や、プロトンの乏しい石灰化・線維組織は低信号となります。骨盤部では、脂肪を含む皮様嚢胞腫と古い血液を含む卵巣チョコレート嚢胞がT1高信号の代表で、脂肪抑制T1強調像で信号が低下すれば脂肪(皮様嚢胞腫)、保たれれば血液(チョコレート嚢胞)と鑑別します。チョコレート嚢胞はT2強調像でのshadingも特徴で、大きなものや40歳以上では卵巣癌の発生母地となりうるため壁在結節の有無の確認が欠かせません。子宮内膜の高信号はT2強調像の所見であり、CTで高吸収の石灰化がMRIでは無信号になる点も混同しやすいポイントです。信号を「中身の物質」から考える習慣は、婦人科に限らず全身のMRI読影の基礎になります。
解答・解説
正解はd, eです
MRI(磁気共鳴画像)の信号強度は、組織に含まれるプロトン(水素原子核)の緩和時間によって決まる。T1強調像では、T1緩和時間が短い物質ほど白く(高信号に)写る。 T1強調像で高信号を示す代表的な物質は次のとおりである。 ・脂肪 ・亜急性期の出血(メトヘモグロビン) ・高濃度の蛋白を含む液体 ・メラニン ・ガドリニウム造影剤(本問は単純MRIなので関係しない) 逆に、水(尿、脳脊髄液、単純な嚢胞液)はT1緩和時間が長く、T1強調像で低信号となる。石灰化や線維性組織は可動性のプロトンが少なく、T1・T2強調像のいずれでも低信号となる。 骨盤部で単純T1強調像にて著明な高信号を示す病変としては、脂肪を含む皮様嚢胞腫(成熟嚢胞性奇形腫)と、古い血液を含む卵巣チョコレート嚢胞(子宮内膜症性嚢胞)が代表的である。両者はT1強調像ではどちらも高信号のため区別しにくく、その鑑別には脂肪抑制画像を用いる。
選択肢考察
- ×a. 膀胱内の尿
尿はほぼ純粋な水であり、T1緩和時間が長いため、T1強調像では低信号となる。T2強調像では著明な高信号を示す。膀胱内の尿は、骨盤部MRIで「水」の信号の基準として利用できる。
- ×b. 子宮内膜
子宮内膜はT1強調像では子宮筋層とほぼ同程度の中等度〜低信号を示し、明らかな高信号にはならない。子宮の層構造はT2強調像でよく描出される。内側から、高信号の内膜、低信号の接合帯(junctional zone、筋層の内側部分)、中等度信号の外側筋層の3層に分かれて見える。
- ×c. 石灰化した子宮筋腫
石灰化の部分には信号を出す可動性のプロトンがほとんどないため、T1・T2強調像のいずれでも低信号(無信号)となる。子宮筋腫はもともと平滑筋と線維成分に富み、変性していなければT1・T2強調像ともに筋層と同等か低信号である。石灰化を伴うとさらに低信号となる。なお、筋腫が出血性変性(赤色変性)を起こした場合は、T1強調像で高信号を示すことがある。
- ○d. 皮様嚢胞腫の内容
皮様嚢胞腫(成熟嚢胞性奇形腫)の内容物は、皮脂腺から分泌された脂肪成分(皮脂)と毛髪などである。脂肪はT1緩和時間が短いため、T1強調像で高信号となる。脂肪抑制T1強調像では信号が低下することから、脂肪であることを確認でき、出血との鑑別が可能である。CTでも脂肪濃度(負のCT値)として描出される。
- ○e. 卵巣チョコレート嚢胞の内容
卵巣チョコレート嚢胞(子宮内膜症性嚢胞)の内容は、繰り返す出血によって貯留した古い血液である。ヘモグロビンの分解産物であるメトヘモグロビンは常磁性体としてT1緩和時間を短くするため、T1強調像で高信号となる。脂肪抑制T1強調像でも高信号が保たれる点で、皮様嚢胞腫と鑑別できる。T2強調像では、濃縮した血液成分のため低信号を示すことが多く、この所見は「shading」と呼ばれる。
T1強調像・T2強調像での主な信号パターン
・水(尿、脳脊髄液、漿液性嚢胞):T1低信号、T2高信号 ・脂肪:T1高信号、T2高信号(脂肪抑制で信号が低下) ・亜急性期の血腫(メトヘモグロビン):T1高信号 ・石灰化、線維組織、空気:T1・T2ともに低信号 ・平滑筋(子宮筋層、筋腫):T1中等度、T2低〜中等度信号
T1高信号を示す骨盤部腫瘤の鑑別
・皮様嚢胞腫:脂肪抑制で信号が低下する。化学シフトアーチファクト(脂肪と水の境界に生じる信号のずれ)を伴うことがある。 ・チョコレート嚢胞:脂肪抑制でも高信号が保たれる。T2強調像でshadingを示し、両側性・多房性のことが多い。 ・出血性黄体嚢胞:出血を含むためT1高信号となりうる。経過観察で縮小・消失する。 ・粘液性嚢胞腺腫:蛋白濃度の高い粘液を含む房が、T1強調像でやや高信号となることがある。
臨床的意義
チョコレート嚢胞は、径が大きいものや40歳以上では卵巣癌(明細胞癌・類内膜癌)の発生母地となることがある。嚢胞内に造影される充実部分(壁在結節)がないかを確認する必要がある。皮様嚢胞腫はまれに悪性転化(扁平上皮癌が多い)を起こし、茎捻転の原因にもなる。
POINT
・T1強調像で高信号:脂肪、亜急性期の血液(メトヘモグロビン)、高蛋白の液体、メラニン ・T1強調像で低信号:水(尿など)、石灰化、線維組織 ・皮様嚢胞腫とチョコレート嚢胞はいずれもT1高信号であり、脂肪抑制画像で鑑別する(信号が低下すれば脂肪で皮様嚢胞腫、高信号が残れば血液でチョコレート嚢胞) ・チョコレート嚢胞はT2強調像でshading(低信号化)を示す
