意識・言語・記憶・人格・知能―脳と心の基本用語を一気に総点検
第104回医師国家試験 G問題 第12問
国試問題にチャレンジ
正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.上行性網様体賦活系は大脳に存在する。
- b.Broca野は感覚性言語野として機能する。
- c.記憶の形成には側頭葉内側が深く関わる。
- d.パーソナリティの基礎をなす先天性の特性を気質という。
- e.知能指数は生活年齢を精神年齢で除し,100を掛けたものである。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
意識(覚醒)は脳幹網様体を起点とし視床を経て大脳皮質へ投射する上行性網様体賦活系が担うため、その本体は大脳ではなく脳幹にあります。言語では前頭葉のBroca野が運動性言語野、側頭葉のWernicke野が感覚性言語野であり、記憶の形成には海馬を中心とする側頭葉内側が深く関わります(H.M.の症例やAlzheimer型認知症の海馬萎縮が代表例)。心理学では、生まれつきの特性である気質がパーソナリティの土台となり、その上に後天的に性格が形成されると考えられ、比率知能指数は精神年齢÷生活年齢×100で求めます(現在は偏差知能指数が主流)。これらの部位と定義の知識は、意識障害・失語・認知症・知的能力障害の評価といった臨床の基本を支えるものです。
解答・解説
正解はc, dです
本問は、意識・言語・記憶といった脳の基本的な機能の解剖学的な基盤と、パーソナリティ・知能という心理学の基本用語を横断的に問う一般問題である。臨床での神経診察や精神科的評価の土台となる知識であり、各選択肢について「どこにあるか」「どう定義されるか」を正確に言えるかがポイントとなる。 整理すると次のとおりである。 ・意識(覚醒)の維持:脳幹網様体から視床を経て大脳皮質へ向かう上行性網様体賦活系 ・言語:前頭葉のBroca野(運動性言語野)と側頭葉のWernicke野(感覚性言語野) ・記憶の形成:側頭葉内側の海馬とその周辺構造 ・パーソナリティ:生まれつきの気質と、それを基に環境の影響を受けて形成される性格 ・知能指数(比率IQ):精神年齢÷生活年齢×100 選択肢の記述をこれらと照らし合わせると、c(記憶と側頭葉内側)とd(気質の定義)が正しい。
選択肢考察
- ×a. 上行性網様体賦活系は大脳に存在する。
上行性網様体賦活系(ascending reticular activating system:ARAS)の起点は大脳ではなく脳幹、主に延髄から中脳にかけて広がる脳幹網様体である。脳幹網様体は末梢からの感覚入力などを受けて活動し、その信号が視床(髄板内核など)や視床下部を経由して大脳皮質に広く投射し、皮質を覚醒状態に保つ。大脳皮質は投射先であって、系の本体ではない。この系が障害されると意識障害が生じるため、脳幹病変(橋出血、脳ヘルニアによる中脳圧迫など)で重篤な意識障害が起こる理由の説明になる。
- ×b. Broca野は感覚性言語野として機能する。
Broca野は優位半球(多くは左)の前頭葉、下前頭回の弁蓋部・三角部(Brodmann 44・45野)にあり、言葉を組み立てて発話する働きを担う運動性言語野である。障害されると言語理解は比較的保たれるが、発話が非流暢でたどたどしくなる運動性失語(Broca失語)を生じる。感覚性言語野は上側頭回後部にあるWernicke野(Brodmann 22野後部)で、障害されると発話は流暢だが言語理解が障害され、錯語の多い感覚性失語(Wernicke失語)となる。
- ○c. 記憶の形成には側頭葉内側が深く関わる。
側頭葉内側には海馬や海馬傍回(嗅内皮質を含む)があり、新しい出来事や知識を長期記憶として定着させる(記銘・固定)過程に中心的な役割を果たす。てんかん治療のため両側側頭葉内側を切除された症例(H.M.)が、手術以前の古い記憶は保ちながら新しいことを全く覚えられなくなった(前向性健忘)ことは、この事実を示した有名な例である。また、Alzheimer型認知症では早期から海馬の萎縮がみられ、近時記憶障害が初発症状となりやすい。単純ヘルペス脳炎も側頭葉内側を侵しやすく、記憶障害を残すことがある。なお、海馬と乳頭体・視床前核・帯状回を結ぶPapezの回路も記憶に関与する。
- ○d. パーソナリティの基礎をなす先天性の特性を気質という。
気質(temperament)とは、情動反応の強さや速さ、気分の基調、活動性など、生まれつき備わった体質的・生物学的な特性を指し、パーソナリティ(人格)の土台となる。性格(character)は、この気質を基盤として、養育環境や経験・学習の影響を受けながら後天的に形成される行動・意欲・感情の傾向である。気質とその上に形成された性格を合わせたものがパーソナリティと考えられる。Kretschmerの体格と気質の類型(循環気質・分裂気質・粘着気質)や、Cloningerの気質・性格の7次元モデルは、この区別に基づく代表的な理論である。
- ×e. 知能指数は生活年齢を精神年齢で除し,100を掛けたものである。
分子と分母が逆である。比率知能指数(IQ:intelligence quotient)は「精神年齢÷生活年齢×100」で求める。精神年齢とは知能検査の成績がどの年齢の平均的な水準に相当するかを示した値、生活年齢は実際の暦の年齢である。例えば生活年齢10歳の子の精神年齢が12歳であれば IQ=12÷10×100=120 となり、知能が高いほど値が大きくなる。記述どおりに計算すると知能が高いほど値が小さくなってしまい、指標として意味をなさない。なお、現在広く用いられるWechsler式検査などでは、同年齢集団の平均を100、標準偏差を15とした偏差知能指数が用いられている。
意識の維持と障害
意識は「覚醒(意識の清明度)」と「意識の内容(認知)」に分けられる。覚醒は脳幹網様体から視床を経由して大脳皮質へ至る上行性網様体賦活系が担い、意識の内容は大脳皮質の広範な活動が担う。したがって意識障害は、脳幹(網様体)の障害か、両側大脳半球の広範な障害で生じる。一側の大脳半球だけの限局病変では通常、昏睡にはならない。
失語症の対比
・Broca失語(運動性失語):前頭葉下前頭回後部。非流暢、理解は比較的良好、復唱障害あり。右片麻痺を伴いやすい ・Wernicke失語(感覚性失語):側頭葉上側頭回後部。流暢だが錯語が多く、理解障害が高度、復唱障害あり。病識に乏しい ・伝導失語:弓状束などの障害。流暢で理解も比較的良好だが、復唱が特に障害される
記憶の分類
・時間軸による分類:即時記憶(数秒〜数十秒)、近時記憶(数分〜数日)、遠隔記憶(それ以上) ・内容による分類:陳述記憶(エピソード記憶・意味記憶)と非陳述記憶(手続き記憶など) 海馬は主に陳述記憶の形成に関わり、手続き記憶は大脳基底核や小脳が関与する。健忘症候群を起こす部位として、側頭葉内側(海馬)、間脳(視床背内側核・乳頭体:Wernicke-Korsakoff症候群)、前脳基底部が知られる。
知能の評価
代表的な知能検査に、田中ビネー知能検査(精神年齢を算出する)、Wechsler式知能検査(成人用WAIS、児童用WISC、幼児用WPPSI)がある。知的能力障害(知的障害)の評価ではIQがおおむね70未満であることが目安とされるが、診断には適応機能の障害も合わせて評価する。
POINT
・上行性網様体賦活系は脳幹網様体を起点とし、視床を経て大脳皮質を覚醒させる。 ・Broca野=前頭葉の運動性言語野、Wernicke野=側頭葉の感覚性言語野。 ・記憶の形成には側頭葉内側(海馬)が中心的に関わる。 ・気質=先天的な特性、性格=気質を基に後天的に形成される傾向。両者でパーソナリティを成す。 ・比率IQ=精神年齢÷生活年齢×100。
