目はどちらを向いたか―けいれんの「左右」を教えてくれる共同偏視
第104回医師国家試験 G問題 第11問
国試問題にチャレンジ
けいれんの原因部位が左右どちらにあるかの判定に有用なのはどれか。
- a.幻嗅
- b.嘔吐
- c.意識低下
- d.眼球偏位
- e.口部自動症
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
てんかん発作の症候のうち、焦点が左右どちらの半球にあるかを示す側方徴候として役立つのは、一側半球が反対側を支配する運動や眼球運動に関する所見であり、代表が眼球(頭部)の偏位です。発作で前頭眼野が刺激されると両眼と頭部は焦点の反対側を向きますが、脳梗塞などの破壊性病変では病巣側を向くため、刺激性か破壊性かで向きが逆になる点に注意が必要です。幻嗅や口部自動症は側頭葉内側の焦点を示唆する局在徴候ですが左右は判定できず、嘔吐や意識低下は非特異的な症状です。一側のジストニア肢位やTodd麻痺、発作後失語なども側方徴候として知られ、目撃情報を含めた発作症候の丁寧な観察は、焦点の推定から外科治療の検討にまでつながる重要な臨床技能です。
解答・解説
正解はdです
けいれん(てんかん発作)を診るとき、発作の始まり方や発作中の症状(発作症候)は、発作の起源(焦点)がどこにあるかを推定する重要な手がかりになる。焦点が「脳のどの領域か」を示す症候を局在徴候、「左右どちらの半球か」を示す症候を側方徴候(lateralizing sign)と呼ぶ。本問は後者、すなわち左右の判定に役立つ所見を問うている。 左右の判定に使えるのは、運動系や眼球運動系のように、一側の大脳半球が主に反対側の身体・視線を支配している機能に関する症状である。代表が眼球(および頭部)の偏位である。前頭葉の前頭眼野(Brodmann 8野付近)は、興奮すると両眼を反対側へ向ける働きを持つ。そのため発作で一側の前頭眼野が異常に興奮すると、両眼と頭部が焦点の反対側へ強く向く(向反発作、versive seizure)。この向きから焦点の側を推定できる。 これに対し、幻嗅・嘔吐・意識低下・口部自動症は、どちらの半球から起きても同じような形で現れる症状であり、それ単独では左右を区別できない。
選択肢考察
- ×a. 幻嗅
焦げたにおい・腐ったにおいなど不快な臭いを感じる幻嗅は、嗅覚に関わる側頭葉内側部(鉤、扁桃体周辺)から始まる発作の前兆(鉤発作、uncinate fit)として知られる。焦点が側頭葉内側にあることを示唆する局在の手がかりにはなるが、左右どちらの側頭葉でも同様に生じ、嗅覚も片側だけで感じるような形にはならないため、左右の判定には役立たない。
- ×b. 嘔吐
嘔吐は延髄の嘔吐中枢(最後野の化学受容器引き金帯を含む)の刺激で生じる。けいれんに伴う嘔吐は、頭蓋内圧亢進、発作による自律神経症状、発作後の状態などさまざまな原因で起こり、原因部位の左右とは結びつかない。
- ×c. 意識低下
意識は脳幹網様体から視床を経て大脳皮質へ広く投射する系(上行性網様体賦活系)と両側大脳半球の広範な活動によって保たれている。発作が両側半球に広がった場合や、焦点起始発作でも側頭葉・前頭葉の辺縁系ネットワークを巻き込んだ場合に意識は低下し、左右どちらの焦点でも起こりうる。意識障害の有無は発作型の分類(焦点意識保持発作か焦点意識減損発作か)には重要だが、左右の判定には使えない。
- ○d. 眼球偏位
両眼が同じ方向へそろって向く共同偏視は、左右の判定に役立つ代表的な所見である。前頭眼野などの大脳皮質は視線を反対側へ向ける働きを持つため、けいれん発作でこの部位が刺激(興奮)されると、両眼(しばしば頭部も)は焦点の反対側を向く。とくに発作が全般化する前に強制的・持続的に一側へ向く偏位は、対側に焦点があることを強く示す。一方、脳梗塞や脳出血のように大脳半球が破壊され機能が失われた場合は、健側半球の作用が優位となり、両眼は病巣側を向く(「病巣をにらむ」)。発作後にも同様に焦点側を向くことがある。このように刺激性か破壊性かで向きが逆になる点に注意は要るが、いずれにせよ左右の半球を区別する情報となる。
- ×e. 口部自動症
口をもぐもぐさせる、舌なめずりをする、唇を鳴らすなどの無意味な反復運動を口部自動症といい、側頭葉内側部(とくに海馬・扁桃体)を焦点とする発作に特徴的である(前頭葉てんかんでもみられることがある)。焦点が側頭葉内側にあることを示唆する局在の手がかりにはなるが、左右どちらの焦点でも同じように出現するため、単独では左右の判定に用いない。
共同偏視の向きのまとめ
・大脳半球の刺激性病変(てんかん発作):病巣の反対側を向く ・大脳半球の破壊性病変(脳梗塞・被殻出血など):病巣側を向く(片麻痺の反対側を見る) ・橋の病変(橋出血など):病巣の反対側を向く(片麻痺側を見る)。橋の側方注視中枢(傍正中橋網様体:PPRF)は同側への注視を担うため ・視床出血:下方への偏位(鼻先を見つめるような位置)が特徴的で、ときに病巣の反対側を向くこともある(wrong-way deviation)
てんかん発作の主な側方徴候
・発作中の強制的な頭部・眼球の向反:焦点の反対側 ・一側上肢のジストニア肢位:焦点の反対側 ・一側の間代・強直けいれん:焦点の反対側 ・発作後のTodd麻痺(一過性の片麻痺):焦点の反対側の麻痺 ・発作後の失語:優位半球(多くは左)の焦点を示唆
側頭葉てんかんの典型像
上腹部の不快感(上腹部前兆)、既視感、幻嗅などの前兆に続き、動作停止・凝視、口部自動症や手の自動症を伴って意識が減損する。海馬硬化症が代表的な原因で、薬剤抵抗性の場合は外科治療(側頭葉切除術など)の対象となる。
POINT
・左右の判定には、一側半球が反対側を支配する運動・眼球運動の症状が役立つ。 ・てんかん発作(刺激性)では眼球・頭部は焦点の反対側を向く。 ・脳梗塞などの破壊性大脳病変では病巣側を向き、橋病変では病巣の反対側を向く。 ・幻嗅・口部自動症は側頭葉内側の焦点を示唆するが、左右は判定できない。 ・嘔吐・意識低下は非特異的で、局在・側方の判定には使えない。
