StudyMed医師国家試験

眠らなくても元気いっぱい―躁状態の「睡眠」と症候を整理する

第104回医師国家試験 F問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第104回 F問題 第6問

躁状態でみられないのはどれか。

  1. a.過眠
  2. b.観念奔逸
  3. c.気分高揚
  4. d.誇大妄想
  5. e.談話心迫

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、躁状態でみられる精神症状を問う問題だ。精神科特有の用語が並んでいるけれど、躁状態を「気分・思考・意欲のすべてが亢進した状態」とひとまとめにとらえると、仲間外れが見えてくる。まずは全体像から考えてみよう。
医学生医学生
躁状態というと、テンションが高くて、よくしゃべるイメージがあります。精神医学の講義でも「うつ病の反対」と習いました。
ドクタードクター
出発点としてはそれでいい。整理すると、気分の面では気分高揚、思考の形式では観念奔逸、思考の内容では誇大妄想、意欲・行動の面では談話心迫や行為心迫。そして身体面では睡眠欲求の減少がある。
医学生医学生
睡眠欲求の減少……ということは、躁状態の人は眠れなくて困っているんでしょうか。
ドクタードクター
そこが大事なポイントだ。躁状態の人は数時間眠っただけで「十分休めた」と感じ、疲れを感じずに活動し続ける。本人は眠らないことを苦痛と感じていないことが多いんだ。不眠を苦しいと訴えるうつ状態とはそこが違う。
医学生医学生
だとすると、過眠は躁状態とは真逆ですね。これが躁状態でみられないものだと思います。
ドクタードクター
正解。エネルギーがあり余って休む必要を感じない状態だから、睡眠が過剰になる過眠は当てはまらない。過眠はむしろ、非定型の特徴を伴ううつ病や季節性(冬季)うつ病などでみられることがある。
医学生医学生
観念奔逸は統合失調症の連合弛緩と区別がつきにくくて、CBTの問題でも迷いました。
ドクタードクター
よくある悩みだね。観念奔逸は考えが次々に湧いて速く移り変わり、連想や語呂合わせで話題が脇道にそれていく。全体としての目標には到達しにくいけれど、一つひとつのつながりは聞き手がたどれる。一方、連合弛緩はそのつながり自体が追えなくなる。うつ状態の思考制止とは対照的だよ。
医学生医学生
気分高揚は躁状態の中核症状ですよね。でも、臨床実習で精神科を回ったとき、躁状態の患者さんがすごく怒りっぽかったのが印象的でした。
ドクタードクター
いい観察だ。爽快で楽天的な気分が中心だけれど、思いどおりにならないと急に怒り出す易怒性を伴うことが多い。易怒性のほうが前面に出ることもあるから、「機嫌がいい人」だけを想像していると見逃すんだ。
医学生医学生
誇大妄想は、うつ病の微小妄想と対になるものと覚えています。
ドクタードクター
そう。自尊心が肥大して、自分の能力や地位、財力を実際よりはるかに大きく評価する考えが、訂正できない確信にまで達したものだ。「世紀の大発明をした」といった内容だね。気分に一致した妄想で、うつ状態の罪業妄想・貧困妄想・心気妄想と対比すると覚えやすい。
医学生医学生
談話心迫は、ただの多弁とは違うんですか。
ドクタードクター
話したいという内的な衝動が強くて、黙っていられずに絶え間なくしゃべり続ける状態を指す。他人が口をはさめないほどで、観念奔逸を伴って話題が次々に変わることが多い。同じ亢進が行動に出たものが行為心迫だ。
医学生医学生
気分高揚・観念奔逸・誇大妄想・談話心迫はすべて「亢進」の方向で、過眠だけが「休む」方向なんですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、臨床での注意点も押さえておこう。DSM-5では躁病エピソードは少なくとも1週間(入院が必要なら期間は問わない)、軽躁病エピソードは少なくとも4日間の持続が目安とされる。さらに、浪費や無分別な投資、性的逸脱など、後で困った結果になりやすい行動に注意が必要だ。
医学生医学生
本人に病識がないと、周りが困っていても受診につながりにくそうです。
ドクタードクター
まさにそこが難しいところ。躁状態では病識が乏しいことが多いから、家族からの情報が大切になる。それから、うつ病として治療中の人の睡眠時間が急に短くなり、それでも元気そうにしていたら、躁転のサインかもしれない。睡眠の変化は、気分障害を診るうえで重要な手がかりになるんだ。

まとめ

躁状態は気分・思考・意欲のすべてが亢進した状態であり、気分高揚(易怒性を伴うことも多い)、観念奔逸、誇大妄想、談話心迫・行為心迫などがみられます。睡眠については睡眠欲求が減少し、短時間睡眠でも疲労を感じず活動を続けるのが特徴で、過眠はみられません。過眠はむしろ非定型うつ病や季節性うつ病などでみられることがあります。観念奔逸と思考制止、誇大妄想と微小妄想というように、躁状態とうつ状態を対比させて覚えると整理しやすくなります。病識が乏しい躁状態では、睡眠時間の短縮や浪費などの行動変化を家族から聴取することが、早期発見と適切な対応につながります。

解答・解説

正解はaです

【テーマ】躁状態(躁病エピソード)でみられる精神症状を、精神科特有の用語とともに正しく理解しているかを問う問題である。

躁状態の全体像

躁状態は、気分・思考・意欲(行動)のすべてが亢進した状態としてとらえると整理しやすい。 ・気分の異常:気分高揚(爽快気分)、易怒性(些細なことで怒りっぽくなる) ・思考の異常:形式面では観念奔逸、内容面では誇大的な考えから誇大妄想 ・意欲・行動の異常:多弁・談話心迫、行為心迫(次々と行動を起こす)、活動性の増加、浪費や性的逸脱など快楽的行動 ・身体面:睡眠欲求の減少(短時間の睡眠でも疲れを感じず活動を続ける)、食事も忘れて活動することによる体重減少

考え方

躁状態は「エネルギーがあり余り、休む必要を感じない」状態であるため、睡眠はむしろ短くなる。したがって、睡眠が過剰になる「過眠」は躁状態の症状として当てはまらない。

選択肢考察

  1. ○a.  過眠

    躁状態ではみられず、これが正解である。躁状態の特徴は睡眠欲求の減少であり、患者は数時間眠っただけで十分休めたと感じ、疲労感なく活動し続ける。患者自身は眠れないことを苦痛と感じていないことが多く、この点で不眠を苦痛として訴えるうつ状態とは異なる。過眠は、非定型の特徴を伴ううつ病や季節性(冬季)うつ病などでみられることがあり、躁状態の症状ではない。

  2. ×b.  観念奔逸

    躁状態でみられる。観念奔逸とは、思考の進み方(思考形式)の異常で、考えが次々に湧き出して速く移り変わり、話題が連想や語呂合わせなどでつぎつぎと脇道にそれていくものである。全体としての目標に到達しにくいが、個々のつながりは一応たどることができる点で、統合失調症の連合弛緩(滅裂思考)とは区別される。うつ状態でみられる思考制止(考えが進まない)とは対照的な症状である。

  3. ×c.  気分高揚

    躁状態でみられる。気分高揚は躁状態の中核症状であり、爽快で楽天的な気分が持続し、自信に満ちあふれた状態である。一方で、思いどおりにならないと急に怒り出す易怒性を伴うことも多く、気分高揚の代わりに易怒性が前景に立つ場合もある。

  4. ×d.  誇大妄想

    躁状態でみられる。自尊心が肥大し、自分の能力・地位・財力・家柄などを実際よりはるかに大きく評価する考えが、訂正不能な確信にまで達したものが誇大妄想である(例:「自分は世紀の大発明をした」「自分は何でもできる」)。気分に一致した妄想であり、うつ状態でみられる微小妄想(罪業妄想・貧困妄想・心気妄想)と対になる概念である。

  5. ×e.  談話心迫

    躁状態でみられる。談話心迫とは、話したいという内的な衝動が強く、黙っていることができずに絶え間なくしゃべり続ける状態である。他者が口をはさむ余地がないほど多弁となり、観念奔逸を伴って話題が次々に移り変わることが多い。行動面で同様の亢進が現れたものを行為心迫という。

躁病エピソードの主な症状(DSM-5の基準を参考に整理)

気分が異常に高揚・開放的・易怒的で、活動性や活力が亢進した期間が持続し、以下のような症状を伴う。 ・自尊心の肥大、誇大性 ・睡眠欲求の減少 ・多弁、しゃべり続けようとする切迫感(談話心迫) ・観念奔逸、考えが競い合っている主観的体験 ・注意散漫 ・目標指向性の活動の増加、精神運動焦燥 ・困った結果になる可能性の高い活動への熱中(浪費、無分別な投資、性的逸脱など) DSM-5では躁病エピソードは少なくとも1週間持続(入院が必要な場合は期間を問わない)、より軽い軽躁病エピソードは少なくとも4日間持続することが目安とされる。

躁状態とうつ状態の対比

・気分:高揚・易怒性 ⇔ 抑うつ気分 ・思考形式:観念奔逸 ⇔ 思考制止 ・思考内容:誇大妄想 ⇔ 微小妄想(罪業・貧困・心気妄想) ・意欲・行動:談話心迫・行為心迫、多動 ⇔ 精神運動制止、意欲低下 ・睡眠:睡眠欲求の減少(本人は苦痛を感じにくい)⇔ 不眠(早朝覚醒・中途覚醒が典型)を苦痛として訴える。ただし非定型うつ病などでは過眠を呈することがある。 ・病識:乏しいことが多い ⇔ 比較的保たれることが多い

POINT

・躁状態では睡眠欲求が減少し、短時間睡眠でも活動を続ける。過眠はみられない。 ・躁状態の症状:気分高揚(易怒性)、観念奔逸、誇大妄想、談話心迫・行為心迫、注意散漫、浪費など。 ・観念奔逸(躁)⇔思考制止(うつ)、誇大妄想(躁)⇔微小妄想(うつ)の対比で覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。