まず押さえる、そして急ぐ―主幹動脈損傷を伴う四肢開放創の鉄則
第104回医師国家試験 E問題 第36問
国試問題にチャレンジ
主幹動脈損傷を伴う四肢開放性外傷で正しいのはどれか。
- a.創部を圧迫して止血する。
- b.局所麻酔下に血管縫合する。
- c.鉗子で出血部を挟んで止血する。
- d.血行再建は8時間以上の経過観察後に行う。
- e.末梢の壊死は下肢よりも上肢で起こりやすい。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
主幹動脈損傷を伴う四肢開放性外傷では、まず創部の直接圧迫で止血し、制御できなければ創より中枢側に止血帯を装着して時刻を記録します。視野のないまま鉗子で挟む操作は血管や神経の損傷を広げるため行わず、根本治療は全身麻酔下で洗浄・デブリドマンを行ったうえで、直視下に血管吻合や自家静脈グラフトによる血行再建を行います。骨格筋は温阻血に弱く、おおむね6時間(遅くとも6〜8時間)を超えると不可逆的な壊死が進むため、経過観察を置かず早急に血流を再開させ、再灌流障害やコンパートメント症候群にも備えます。側副血行路の乏しい下肢、とくに膝窩動脈損傷は上肢より虚血に陥りやすく、Gustilo分類IIICの開放骨折は切断率が高いことも重要です。止血の基本と時間との闘いという外傷診療の原則は、救急・整形外科・血管外科のいずれの現場でも役立つ土台になります。
解答・解説
正解はaです
四肢の開放創に主幹動脈(上肢では腋窩動脈・上腕動脈、下肢では大腿動脈・膝窩動脈など、その肢の血流を主に担う太い動脈)の損傷を伴う外傷への対応を問う問題である。考えるべき点は次の3つである。 (1) 初期対応としての止血:まず生命を守るために出血を止める。最も基本的で確実な方法は、出血部位を直接圧迫する直接圧迫止血である。盲目的に鉗子で挟むような操作は、血管や周囲の神経をさらに傷つけるため行わない。 (2) 根本治療としての血行再建:開放創は汚染されているため、全身麻酔下で十分な洗浄とデブリドマン(壊死組織・汚染組織の切除)を行ったうえで、血管吻合や血管移植による血行再建を行う。 (3) 時間の制約:四肢の筋肉は温阻血(常温での血流途絶)に弱く、おおむね6時間(長くとも6〜8時間)を超えると不可逆的な筋壊死が進み、救肢が困難になるうえ、再灌流障害や感染の危険も増す。したがって血行再建は一刻も早く行う必要がある。 また、下肢は上肢に比べて側副血行路が乏しく、虚血の影響を受けやすいことも知っておくべき知識である。
選択肢考察
- ○a. 創部を圧迫して止血する。
正しい。外出血に対する止血の基本は、ガーゼなどを創部に当てて出血点を直接押さえる直接圧迫止血である。病院前、救急初療室、手術室のいずれの段階でも第一に行う処置であり、特別な器具を必要とせず、周囲組織を傷つけずに確実な止血効果が得られる。直接圧迫で制御できない四肢の大量出血では、止血帯(ターニケット)を創より中枢側に装着して一時的に止血し、装着時刻を記録したうえで速やかに根本治療へつなげる。
- ×b. 局所麻酔下に血管縫合する。
誤り。開放創は細菌や異物で汚染されているため、血行再建の前に大量の洗浄と十分なデブリドマンが必要である。さらに、損傷血管の中枢側・末梢側の確保、必要に応じた自家静脈(大伏在静脈など)による血管移植、合併する骨折の固定や神経・腱の処置、コンパートメント症候群を防ぐための筋膜切開なども要する。これらは広い範囲の操作と長い手術時間を伴い、局所麻酔では困難であるため、全身麻酔下に手術室で行う。
- ×c. 鉗子で出血部を挟んで止血する。
誤り。出血している創の中を見通せないまま鉗子で挟む(盲目的な鉗子止血)と、動脈の損傷範囲をさらに広げたり、並走する静脈や神経を挟んで損傷したりするおそれがある。意識のある患者では強い疼痛も伴う。損傷した血管は、手術で十分な視野を確保したうえで、直視下に血管鉗子を用いて愛護的に遮断する。こうすることで血管断端の損傷を最小限にとどめ、その後の吻合が可能になる。
- ×d. 血行再建は8時間以上の経過観察後に行う。
誤り。四肢の骨格筋は虚血に弱く、温阻血時間が6時間程度を超えると不可逆的な筋壊死が起こり始める。血行再建が遅れると、救肢できずに切断に至る可能性が高くなるほか、再灌流時に壊死筋からカリウムやミオグロビンが流出して高カリウム血症や急性腎障害(ミオグロビン尿による)を起こす再灌流障害、コンパートメント症候群、創感染の危険も増す。したがって経過観察を置くべきではなく、受傷後できるだけ早く(目安として6時間以内、遅くとも6〜8時間以内)に血行再建を行う。骨折の固定などで時間がかかる場合は、一時的血管シャントを挿入して先に血流を再開させる方法もある。
- ×e. 末梢の壊死は下肢よりも上肢で起こりやすい。
誤り。一般に末梢の虚血・壊死は上肢よりも下肢で起こりやすい。上肢は肩関節周囲や肘関節周囲の側副血行路が比較的発達しており、主幹動脈が途絶しても末梢の血流がある程度保たれることが多い。これに対し下肢、とくに膝窩動脈は側副血行路が乏しく、損傷すると高率に下腿の重篤な虚血を来し、切断率が高いことが知られている。さらに下肢は筋肉量が多く必要な血流量も大きいこと、心臓から遠いことも虚血に陥りやすい要因である。
四肢主幹動脈損傷の診断
・ハードサイン(手術適応を強く示唆する所見):拍動性出血、増大する血腫、末梢動脈の拍動消失、スリルや血管雑音、明らかな末梢虚血所見(6P:疼痛 pain、蒼白 pallor、脈拍消失 pulselessness、知覚異常 paresthesia、運動麻痺 paralysis、冷感 poikilothermia)。 ・ソフトサイン:小〜中等度の血腫、主要神経の損傷、主幹動脈近傍の損傷、低血圧の既往など。ABI(足関節上腕血圧比)低下(0.9未満)、造影CTや血管造影で評価する。
治療の流れ
1. 直接圧迫止血(制御不能なら止血帯)とショックへの対応(輸液・輸血)。 2. 全身麻酔下での洗浄・デブリドマン。 3. 骨折の固定(創外固定など)と血行再建(端々吻合、自家静脈グラフトなど)。時間がかかる場合は一時的血管シャントで先に血流を再開する。 4. 虚血時間が長い場合は予防的筋膜切開でコンパートメント症候群を防ぐ。 5. 再灌流障害(高カリウム血症、代謝性アシドーシス、ミオグロビン尿による急性腎障害)に注意する。
開放骨折の分類
・Gustilo分類で、修復を要する動脈損傷を伴う開放骨折はタイプIIICに分類され、感染率・切断率が最も高い。 ・軟部組織・骨・血管・神経の損傷が高度な四肢(mangled extremity)では、救肢か一次切断かの判断に重症度スコア(MESSなど)が参考にされる。
POINT
・外出血の止血の基本は直接圧迫止血であり、制御できなければ止血帯を用いる。盲目的な鉗子止血は行わない。 ・開放創を伴う血管損傷は、全身麻酔下に洗浄・デブリドマンを行ってから血行再建する。 ・血行再建は受傷後できるだけ早く(目安6時間以内)行う。 ・側副血行路が乏しい下肢(特に膝窩動脈損傷)は、上肢よりも虚血・壊死に陥りやすい。
