StudyMed医師国家試験

朝食前の散歩で倒れた糖尿病患者―SU薬と低血糖が出す「冷や汗とふるえ」のサイン

第104回医師国家試験 D問題 第43問

国試問題にチャレンジ

第104回 D問題 第43問

75歳の女性。意識障害で搬入された。夫との朝食前の散歩中に動悸を訴え,間もなく意識が混濁したという。1年前に糖尿病と診断され,食事療法,運動療法およびスルホニル尿素薬で治療中である。最近のHbA1c値は5.8%である。意識は傾眠状態。体温36.2℃。呼吸数18/分。脈拍92/分,整。血圧170/90 mmHg。明らかな麻痺を認めない。  この病態でみられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.振戦
  2. b.顔面浮腫
  3. c.発汗増加
  4. d.アセトン臭
  5. e.Kussmaul呼吸

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、糖尿病治療中の高齢者が意識障害で運ばれてきた場面だ。血糖が高すぎるのか低すぎるのか、どちらの方向の異常かを見極めて、その病態で出る症状を選ぶ問題だね。まず、治療内容と発症した状況に注目してみよう。
医学生医学生
糖尿病で意識障害というと、ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態の昏睡がまず浮かびます。
ドクタードクター
もちろん鑑別には入る。でも、この人の治療薬はスルホニル尿素薬、そしてHbA1cは5.8%だ。これをどう読む?
医学生医学生
HbA1cがかなり低いですね。コントロールが良すぎる、ということでしょうか。
ドクタードクター
そう、高齢者でSU薬を使っているなら下げすぎの水準だ。SU薬は膵β細胞に働いて、血糖値に関係なくインスリンを出させる。だからインスリンと並んで低血糖を起こしやすい薬なんだ。そこに朝食前の空腹、散歩による糖の消費、高齢で腎機能が落ちて薬が効きすぎやすいこと、と危険因子が重なっている。
医学生医学生
空腹で運動して、薬は効き続けている……完全に低血糖の条件ですね。動悸から始まったのも関係ありますか。
ドクタードクター
大いにある。血糖が下がると、体はそれを上げようとアドレナリンなどを放出して交感神経が興奮する。動悸、やや速い脈、血圧上昇はその反応だ。さらに下がると脳がブドウ糖不足に陥って、傾眠や意識障害といった中枢神経症状が出てくる。症状の順番もぴったり合うんだ。
医学生医学生
では、交感神経刺激症状を選べばいいわけですね。振戦は入りそうです。
ドクタードクター
正解のひとつだ。手指のふるえは、動悸や不安感、顔面蒼白と並ぶ低血糖の早期症状だよ。もうひとつは?
医学生医学生
発汗増加でしょうか。生理学で、汗腺は交感神経支配なのに伝達物質はアセチルコリンだと習って混乱した覚えがあります。
ドクタードクター
よく覚えているね。交感神経コリン作動性線維がその例外で、低血糖による交感神経の興奮で冷や汗が出る。ちなみにβ遮断薬を飲んでいる人では動悸や振戦が隠れやすいけれど、発汗は比較的保たれるから、大事な手がかりになるんだ。
医学生医学生
アセトン臭とKussmaul呼吸は、ケトアシドーシスの所見でしたよね。
ドクタードクター
その通り。インスリンが極端に足りないと脂肪分解が進み、ケトン体が大量にできる。呼気が甘酸っぱい匂いになり、代謝性アシドーシスを代償しようとして深く大きな呼吸になる。今回はその逆、インスリンが効きすぎている状態だから当てはまらない。呼吸数も正常だね。
医学生医学生
顔面浮腫は少し迷いました。糖尿病性腎症でネフローゼになると浮腫が出るので。
ドクタードクター
その連想は自然だよ。糖尿病患者の浮腫は、腎症の進行や、体液貯留の副作用があるチアゾリジン薬で起こりうる。でもどちらも慢性の経過で、今回の急な意識障害とは結びつかないし、低血糖の症状でもない。
医学生医学生
救急科の実習で、意識障害の患者さんが来たらまず指先で血糖を測っていました。
ドクタードクター
それが鉄則だ。高齢者の意識障害では脳卒中も大事な鑑別だけど、低血糖でも片麻痺のような症状が出ることがある。血糖を測らずに脳卒中と決めつけてはいけない。さらに高齢者や低血糖を繰り返す人では、交感神経症状が乏しく、いきなり意識障害で来る無自覚性低血糖もあるから注意が必要だ。
医学生医学生
治療は、意識がなければ50%ブドウ糖の静注ですよね。良くなったら帰宅でいいんでしょうか。
ドクタードクター
そこが落とし穴。SU薬の低血糖は作用が長く、特に腎機能の落ちた高齢者では、いったん回復しても再び下がることがある。入院して経過を見ることが多いんだ。静脈路が取れなければグルカゴンを使う。そして再発予防として、薬の減量や変更を考える必要がある。
医学生医学生
HbA1cは低いほど良いわけではない、ということですね。
ドクタードクター
そう。高齢者では重い低血糖が認知機能低下や転倒・骨折、心血管イベントにつながる。だから日本の高齢者の血糖コントロール目標では、低血糖リスクのある薬を使う場合に下限値も設けられている。数値の良さだけでなく、その人にとって安全かを考えることが大切だね。

まとめ

スルホニル尿素薬で治療中の高齢糖尿病患者が、空腹時の運動中に動悸から意識障害に至った場合は、まず低血糖を疑い、ただちに血糖を測定します。低血糖では交感神経の興奮による振戦・発汗増加・動悸・血圧上昇がまず現れ、さらに進むと傾眠や昏睡などの中枢神経症状が出現します。アセトン臭やKussmaul呼吸はインスリン欠乏による糖尿病性ケトアシドーシスの所見で、低血糖とは逆の病態です。SU薬による低血糖は遷延・再発しやすいため回復後も経過観察が必要で、高齢者では低すぎるHbA1cそのものが危険信号となります。意識障害の鑑別で血糖測定を最優先する習慣と、薬剤や患者背景から低血糖リスクを読み取る力は、救急でも外来でも欠かせません。

解答・解説

正解はa, cです

所見の整理

・75歳の女性、糖尿病でスルホニル尿素(SU)薬を内服中 ・最近のHbA1cは5.8%と低め(高齢者としては下げすぎの水準) ・朝食前(空腹時)に散歩(運動)をしていた ・動悸に続いて意識が混濁、搬入時は傾眠 ・脈拍92/分とやや速く、血圧170/90 mmHgと上昇 ・体温は正常、明らかな麻痺はない

診断へのプロセス

SU薬は膵β細胞に作用し、血糖値に関係なくインスリン分泌を促すため、糖尿病治療薬のなかでもインスリンと並んで低血糖を起こしやすい。さらに本例には、①食事をとる前の空腹状態、②運動によるブドウ糖消費の増加、③高齢(腎機能低下によりSU薬の作用が遷延しやすい)、④HbA1c 5.8%という厳格すぎる血糖コントロール、と低血糖の危険因子が重なっている。 動悸・頻脈傾向・血圧上昇は、血糖低下に反応してアドレナリンなどのカテコールアミンが放出された交感神経刺激症状として説明でき、その後の意識混濁は脳のブドウ糖不足(中枢神経症状)によるものと考えられる。したがってSU薬による低血糖発作と診断する。 高齢者の意識障害では脳血管障害が重要な鑑別となるが、明らかな麻痺がないことから可能性は低い。ただし低血糖でも片麻痺様の症状が出ることがあるため、意識障害をみたらまず血糖を測定することが鉄則である。糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態などの高血糖性昏睡は、HbA1cが低値であることからも考えにくい。

設問の考え方

低血糖発作で出現する症状、すなわち交感神経刺激症状(振戦、発汗、動悸、不安、顔面蒼白など)を選べばよい。アセトン臭やKussmaul呼吸はケトアシドーシスの所見であり、本病態とは逆の高血糖・インスリン欠乏状態でみられる。

選択肢考察

  1. ○a.  振戦

    血糖が低下すると、血糖を上げるための反応としてアドレナリンなどが分泌され、交感神経が興奮する。その結果として手指のふるえ(振戦)が生じる。動悸・頻脈、不安感、顔面蒼白などとともに、低血糖の早期に出る代表的な交感神経刺激症状(自律神経症状)であり、本病態でみられる。

  2. ×b.  顔面浮腫

    顔面浮腫は低血糖の症状ではない。糖尿病患者で浮腫がみられるのは、糖尿病性腎症が進行してネフローゼ症候群や腎機能低下をきたした場合や、体液貯留の副作用があるチアゾリジン薬(ピオグリタゾン、特に女性で起こりやすい)を内服している場合などであり、本例の急性の意識障害とは関係しない。

  3. ○c.  発汗増加

    発汗は低血糖時の代表的な自律神経症状であり、冷や汗として現れることが多い。汗腺は交感神経支配だが、その節後線維の伝達物質はアセチルコリン(交感神経コリン作動性)であり、血糖低下に伴う交感神経の興奮によって発汗が増える。振戦・動悸と並んで低血糖を疑う重要な手がかりである。なお、β遮断薬の内服中は動悸や振戦が隠されやすいが、発汗は比較的保たれる。

  4. ×d.  アセトン臭

    アセトン臭(果物が熟したような甘酸っぱい呼気臭)は、インスリンが極度に欠乏して脂肪分解が進み、ケトン体(アセトンなど)が大量に産生される糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)でみられる。本例はSU薬で治療中の2型糖尿病と考えられ、HbA1cも低く、病態は高血糖ではなく低血糖であるため該当しない。

  5. ×e.  Kussmaul呼吸

    Kussmaul(クスマウル)呼吸は、代謝性アシドーシスを呼吸で代償しようとして生じる深く規則的な大呼吸で、糖尿病性ケトアシドーシスの典型的所見である(尿毒症などの他の代謝性アシドーシスでもみられる)。本例は呼吸数18/分で異常はなく、低血糖ではアシドーシスを伴わないので該当しない。

低血糖の症状

一般に血糖値がおよそ70 mg/dL未満になると症状が出始め、低下の程度に応じて次のように進む。 ・自律神経(交感神経刺激)症状:発汗、振戦、動悸・頻脈、不安感、顔面蒼白、空腹感、血圧上昇など ・中枢神経症状(ブドウ糖不足による脳機能低下、おおむね50 mg/dL未満):頭痛、集中力低下、異常行動、目のかすみ、傾眠、意識障害、けいれん、昏睡。一過性の片麻痺を示すこともある 高齢者や低血糖を繰り返す人、自律神経障害のある人では自律神経症状が乏しく、いきなり意識障害で発症することがある(無自覚性低血糖)。

低血糖を起こしやすい糖尿病治療薬

・起こしやすい:インスリン、SU薬(グリベンクラミド、グリメピリドなど)、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬) ・単独使用では起こしにくい:ビグアナイド薬(メトホルミン)、αグルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬。ただしSU薬やインスリンとの併用では低血糖のリスクが増す。 ・SU薬の低血糖は作用が長く、腎機能低下のある高齢者では遷延・再発しやすい。いったん回復しても再び低下することがあるため、入院のうえ経過観察が必要になることが多い。

低血糖の対応

・意識があり経口摂取できる場合:ブドウ糖(10g程度)またはそれに相当する糖分を摂取させる。αグルコシダーゼ阻害薬併用中は、二糖類(砂糖)ではなくブドウ糖を用いる。 ・意識障害がある場合:静脈路を確保して50%ブドウ糖液20〜40 mLを静注する。静脈路が確保できなければグルカゴンの筋注(または点鼻)を用いる。

高齢者の血糖コントロール目標

高齢者では重症低血糖が認知機能低下や転倒・骨折、心血管イベントにつながるため、厳格すぎる管理は避ける。日本の高齢者糖尿病の血糖コントロール目標では、SU薬やインスリンなど低血糖リスクのある薬を使う場合、HbA1cの目標値に加えて下限値が設けられている。本例のHbA1c 5.8%は、この観点からみて下がりすぎの状態であり、薬の減量・変更を検討すべき状況である。

高血糖性の意識障害との対比

・糖尿病性ケトアシドーシス:主に1型糖尿病でインスリン欠乏により発症。著明な高血糖、ケトン体上昇、代謝性アシドーシス、アセトン臭、Kussmaul呼吸、脱水 ・高浸透圧高血糖状態:高齢の2型糖尿病に多い。著明な高血糖と高浸透圧、強い脱水が主体で、ケトアシドーシスは軽度かみられない

POINT

・SU薬内服中+空腹時の運動+高齢+低いHbA1c → 低血糖を最初に疑う ・低血糖の交感神経刺激症状:発汗、振戦、動悸・頻脈、血圧上昇、不安、顔面蒼白 ・進行すると中枢神経症状(傾眠、異常行動、けいれん、昏睡、片麻痺様症状) ・アセトン臭とKussmaul呼吸は糖尿病性ケトアシドーシスの所見 ・意識障害をみたら、まず血糖測定 ・SU薬による低血糖は遷延・再発しやすいので、回復後も経過観察が必要

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。