StudyMed医師国家試験

放置した胆石が牙をむく夜―急性胆嚢炎は「石」ではなく「胆嚢」を治す

第104回医師国家試験 D問題 第29問

国試問題にチャレンジ

第104回 D問題 第29問

 59歳の女性。夕食後から出現した強い腹痛を主訴に来院した。数年前から健康診断で胆嚢結石を指摘されていたが放置していた。体温38.4℃。右季肋部に強い圧痛を認める。血液所見:赤血球460万,Hb 12.3 g/dL,Ht 34%,白血球13,000,血小板34万。血液生化学所見:総ビリルビン1.0 mg/dL,AST 24 IU/L,ALT 13 IU/L。CRP 5.0 mg/dL。腹部造影CTを別に示す。  治療として適切なのはどれか。2つ選べ。

第104回 D問題 第29問の問題画像
  1. a.胆嚢ドレナージ
  2. b.腹腔ドレナージ
  3. c.経口胆石溶解薬投与
  4. d.腹腔鏡下胆嚢摘出術
  5. e.体外衝撃波結石破砕術〈ESWL〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胆石を持つ患者さんの急な腹痛から急性胆嚢炎を診断し、治療を選ぶ問題だ。着眼点は2つ。1つは胆嚢炎なのか胆管炎なのかの見極め、もう1つは「何を標的に治療するか」だ。まず、夕食後に始まった痛みという経過から何を連想するかな。
医学生医学生
食事、特に脂っこいものを食べると胆嚢が収縮して、石が頸部に詰まる胆石発作ですね。
ドクタードクター
その通り。結石が胆嚢頸部や胆嚢管に嵌頓して胆汁がうっ滞し、そこに化学的な炎症と細菌感染が加わるのが結石性胆嚢炎だ。急性胆嚢炎の9割以上は胆石が原因といわれる。発熱、右季肋部の強い圧痛、白血球とCRPの上昇がそろっていて、造影CTでは胆嚢の腫大と壁肥厚、頸部付近の結石がみられる。
医学生医学生
消化器内科の実習で、Murphy徴候を指導医の先生に見せてもらいました。深吸気で痛みのために息が止まるんですよね。
ドクタードクター
いい経験をしたね。エコーのプローブで胆嚢を押して痛むsonographic Murphy signも有用だ。では、ビリルビンやASTが正常なことはどう解釈する?
医学生医学生
黄疸がないので、胆管炎ではなさそう…でも、胆石があるなら黄疸が出てもおかしくない気がします。
ドクタードクター
そこは混同しやすいポイントだ。胆嚢炎で詰まるのは胆嚢管で、肝臓から十二指腸へ流れる総胆管は保たれている。だから胆嚢炎単独では原則として黄疸は出ない。ビリルビンや肝胆道系酵素が上がっていたら、総胆管結石や急性胆管炎の合併を考えるんだ。
医学生医学生
Charcotの3徴が胆管炎でしたね。黄疸の有無で処置する場所が変わる、ということですか。
ドクタードクター
その通り。胆管炎なら内視鏡的胆道ドレナージが中心だが、今回は胆嚢炎だから、標的は胆嚢そのものだ。治療の基本は絶食、輸液、抗菌薬。そのうえで胆嚢への処置として柱が2本ある。根治のための胆嚢摘出と、感染胆汁を外へ出す胆嚢ドレナージだ。
医学生医学生
根治なら腹腔鏡下胆嚢摘出術ですよね。でも、炎症が強いときに手術して大丈夫なんでしょうか。外科の講義では「冷えてから切る」と聞いた気がします。
ドクタードクター
昔はそういう考え方が主流だった。でも手技の進歩で、今は軽症から中等症なら発症早期、目安として72時間以内の腹腔鏡下胆嚢摘出術が推奨されている。胆嚢を残すと発作や胆嚢炎を繰り返すから、最終的には摘出が必要になるんだ。
医学生医学生
胆嚢ドレナージはどういう場面で選ぶんですか。
ドクタードクター
高齢や併存症で手術リスクが高い人、重症例、早期手術が難しい状況では、経皮経肝胆嚢ドレナージ、いわゆるPTGBDで胆嚢内圧を下げ、炎症を鎮めてから待機的に摘出する。ドレナージ先行と早期手術、どちらも胆嚢を標的にした適切な治療だね。
医学生医学生
腹腔ドレナージも「ドレナージ」なので効きそうに思えましたが、違うんですね。
ドクタードクター
腹腔ドレナージは、胆嚢穿孔による胆汁性腹膜炎や胆嚢周囲膿瘍など、腹腔内に膿や胆汁がたまったときの処置だ。今回は炎症が胆嚢に限局していて、腹腔に抜くべきものがない。
医学生医学生
胆石溶解薬やESWLは、原因の石をなくすという意味では理にかなっている気もしますが…。
ドクタードクター
発想はわかるけれど、時間軸と目的が合わない。ウルソデオキシコール酸は、石灰化のない小さなコレステロール結石を数か月以上かけて溶かす薬で、症状の乏しい人が対象だ。ESWLも胆嚢結石では現在ほとんど行われず、急性胆嚢炎は禁忌。破砕片が胆嚢管に嵌頓して悪化させるおそれもある。今必要なのは感染と炎症の制御なんだ。
医学生医学生
石を壊すより、炎症の場である胆嚢を抜くか取るか、という整理ですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に臨床での注意点を。重症度はTokyo Guidelinesで判断し、臓器障害があれば重症、白血球18,000超や有痛性腫瘤の触知、発症後72時間超、壊疽性・気腫性胆嚢炎などの高度な局所炎症があれば中等症とする。重症ならまず全身管理とドレナージを優先する。また腹腔鏡手術は二酸化炭素で気腹するので、ショックなど循環が不安定な場合には向かない。結石のない無石胆嚢炎が、ICU管理中や長期絶食の患者さんに起こることも頭に入れておこう。

まとめ

胆石保有者の食後の右季肋部痛に発熱、炎症反応上昇、画像での胆嚢腫大・壁肥厚がそろえば結石性急性胆嚢炎と診断でき、胆嚢管の閉塞が主体であるため原則として黄疸や肝酵素上昇は伴いません。治療は絶食・輸液・抗菌薬を基本に、根治としての腹腔鏡下胆嚢摘出術(軽症〜中等症では早期手術を推奨)と、手術困難例や重症例での胆嚢ドレナージ(PTGBD)先行が柱となります。腹腔ドレナージは穿孔や膿瘍の合併時に限られ、経口胆石溶解薬やESWLは急性炎症の制御にならないため選択されません。Tokyo Guidelinesによる重症度評価と、胆嚢炎か胆管炎かの区別は、どの処置を誰に行うかを決める実臨床の判断の土台になります。

解答・解説

正解はa, dです

所見の整理

・59歳女性。夕食後(脂肪を含む食事の後)に始まった強い腹痛。数年前から胆嚢結石を指摘されていたが無治療。 ・体温38.4℃の発熱、右季肋部の強い圧痛。 ・白血球13,000/μL、CRP 5.0 mg/dLと炎症反応が上昇。 ・総ビリルビン1.0 mg/dL、AST 24 IU/L、ALT 13 IU/Lはいずれも基準範囲内であり、黄疸や肝胆道系酵素の上昇はない。 ・腹部造影CTでは、胆嚢の腫大と壁肥厚、頸部付近の結石がみられる。

診断へのプロセス

食後に起こる右上腹部痛は、胆嚢が収縮して結石が胆嚢頸部や胆嚢管に嵌頓することで生じる胆石発作の典型である。これに発熱、右季肋部の限局した強い圧痛、白血球増多とCRP上昇が加わり、画像で胆嚢腫大・壁肥厚を認めることから、胆嚢結石に起因する急性胆嚢炎(結石性胆嚢炎)と診断できる。 ビリルビンや肝酵素が正常なので、総胆管結石による閉塞性黄疸や急性胆管炎の合併は考えにくい。急性胆嚢炎では胆嚢管が閉塞しても胆汁の流れ道である総胆管は保たれるため、原則として黄疸は出ない点が胆管炎との重要な鑑別点である。

重症度と治療方針の考え方

急性胆嚢炎の治療は、絶食・輸液・抗菌薬投与を基本とし、そのうえで炎症の原因となっている胆嚢そのものへの処置を行う。処置の柱は、(1)胆嚢を摘出する根治手術(第一選択は腹腔鏡下胆嚢摘出術)と、(2)手術がすぐに行えない、あるいは危険な場合に胆嚢内の感染胆汁を体外へ排出する胆嚢ドレナージ、の2つである。 急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン(Tokyo Guidelines)では、臓器障害がなく、白血球18,000/μL超・右季肋部の有痛性腫瘤触知・症状出現後72時間超・高度な局所炎症(壊疽性胆嚢炎、気腫性胆嚢炎、胆嚢周囲膿瘍、胆汁性腹膜炎など)のいずれにも当てはまらないものを軽症(GradeⅠ)とし、早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術を推奨している。中等症では手術に習熟した施設での早期手術、あるいはドレナージ後の待機手術が選ばれ、重症や手術リスクの高い患者ではまず胆嚢ドレナージで全身状態を安定させる。 したがって本症例では、胆嚢ドレナージで炎症を鎮めてから胆嚢を摘出する方法、あるいは早期に腹腔鏡下胆嚢摘出術を行う方法のいずれもが適切な治療となる。一方、胆石を溶かす・砕くといった結石そのものへの非手術的治療は、急性炎症の制御には役立たず、この場面では選択されない。

選択肢考察

  1. ○a.  胆嚢ドレナージ

    適切である。胆嚢管の閉塞で胆嚢内に感染した胆汁や膿がたまっている状態に対し、経皮経肝的に胆嚢へカテーテルを留置する経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD:percutaneous transhepatic gallbladder drainage)や、穿刺吸引(PTGBA)を行うと、胆嚢内圧が下がり炎症を速やかに鎮めることができる。高齢者や併存症があって全身麻酔のリスクが高い例、中等症以上で早期手術が困難な例では、まずドレナージで急性期を乗り切り、炎症が落ち着いた後に胆嚢摘出術を行う。本症例でも手術前の初期治療として妥当な選択肢である。

  2. ×b.  腹腔ドレナージ

    適切でない。腹腔ドレナージは腹腔内にたまった膿や胆汁を排出する処置で、胆嚢穿孔による胆汁性腹膜炎や胆嚢周囲膿瘍、腹腔内膿瘍などを合併した場合に行う。本症例では炎症は胆嚢に限局しており、穿孔や腹膜炎を示す所見は示されていないため、腹腔内に排液すべき貯留物はなく適応とならない。

  3. ×c.  経口胆石溶解薬投与

    適切でない。ウルソデオキシコール酸(UDCA)などの経口胆石溶解薬は、胆汁中のコレステロールを溶けやすくしてコレステロール結石を徐々に溶かす薬である。適応は、胆嚢機能が保たれ、石灰化のない小さなコレステロール結石で、症状が乏しい症例に限られる。効果が出るまでに数か月以上かかるため、急性炎症を起こしている胆嚢炎の治療にはならない。まず感染と炎症の制御が優先される。

  4. ○d.  腹腔鏡下胆嚢摘出術

    適切である。胆嚢結石による急性胆嚢炎の根本的な治療は胆嚢摘出であり、腹腔鏡下胆嚢摘出術がその第一選択である。かつては炎症のない胆石症に限られていたが、手技の進歩により急性胆嚢炎にも広く行われるようになり、軽症〜中等症では発症早期(発症から72時間以内が目安)の手術が推奨されている。胆嚢を残すと胆石発作や胆嚢炎を繰り返すため、ドレナージを先行させた場合も最終的には摘出術を行う。なお、腹腔鏡手術では二酸化炭素を注入して腹腔を膨らませる(気腹)ため、ショックなど循環動態が不安定な場合には適さず、ドレナージや開腹手術を選ぶ。

  5. ×e.  体外衝撃波結石破砕術〈ESWL〉

    適切でない。ESWL(extracorporeal shock wave lithotripsy)は体外から衝撃波を当てて結石を砕く治療で、胆嚢結石では胆嚢機能が保たれた少数のコレステロール結石が対象とされていたが、再発が多く現在ではほとんど行われない。急性胆嚢炎は禁忌であり、炎症の制御にはならないうえ、破砕片が胆嚢頸部や胆嚢管に嵌頓して閉塞を悪化させるおそれもある。

急性胆嚢炎の概要

急性胆嚢炎の約90%以上は胆嚢結石が原因で、結石が胆嚢頸部や胆嚢管に嵌頓して胆汁がうっ滞し、胆嚢壁に化学的炎症と二次的な細菌感染が起こる。結石を伴わない無石胆嚢炎は、重症患者、長期絶食・中心静脈栄養、手術後などにみられる。

臨床所見

・右季肋部痛(食後、特に脂肪食後に起こりやすい)、発熱、悪心・嘔吐。 ・Murphy徴候:右季肋部を圧迫しながら深吸気をさせると、痛みで吸気が途中で止まる。 ・血液検査で白血球増多、CRP上昇。通常、黄疸は目立たない。 ・超音波検査(第一選択の画像検査):胆嚢腫大、壁肥厚(4 mm以上)、嵌頓結石、胆嚢周囲の液体貯留、壁の低エコー層(sonolucent layer)、プローブで胆嚢を圧迫したときの圧痛(sonographic Murphy sign)。

重症度分類(Tokyo Guidelines 2018)

・重症(GradeⅢ):循環障害、中枢神経障害、呼吸機能障害、腎機能障害、肝機能障害、血液凝固異常のいずれかの臓器障害を伴う。 ・中等症(GradeⅡ):白血球>18,000/μL、右季肋部の有痛性腫瘤触知、症状出現後72時間以上の持続、顕著な局所炎症所見(壊疽性・気腫性胆嚢炎、胆嚢周囲膿瘍、肝膿瘍、胆汁性腹膜炎)のいずれかを伴う。 ・軽症(GradeⅠ):上記を満たさないもの。

治療の原則

・全例で絶食、輸液、鎮痛、抗菌薬投与を行う。 ・軽症:早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術。 ・中等症:経験豊富な施設では早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術、困難なら保存的治療や胆嚢ドレナージを先行し待機的に摘出。 ・重症:臓器障害への支持療法と胆嚢ドレナージを優先し、全身状態が改善してから摘出を検討。 ・胆嚢ドレナージの方法:経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)が標準で、内視鏡的経乳頭的胆嚢ドレナージや超音波内視鏡下胆嚢ドレナージも選択肢となる。

急性胆管炎との区別

急性胆管炎は総胆管の閉塞と感染により、発熱・黄疸・右上腹部痛(Charcotの3徴)を示す。ビリルビンや胆道系酵素が上昇し、治療の中心は内視鏡的胆道ドレナージである。胆嚢炎か胆管炎かで処置の対象が異なるため、黄疸の有無と肝胆道系検査値の確認が重要である。

POINT

・食後の右季肋部痛+発熱+炎症反応上昇+胆嚢結石+胆嚢腫大・壁肥厚 → 結石性急性胆嚢炎。 ・胆嚢炎単独では原則として黄疸・肝酵素上昇はない(あれば胆管炎や総胆管結石の合併を疑う)。 ・治療:絶食・輸液・抗菌薬+胆嚢への処置。根治は腹腔鏡下胆嚢摘出術、手術困難・重症例では胆嚢ドレナージ(PTGBD)を先行させる。 ・経口胆石溶解薬やESWLは急性胆嚢炎の治療にはならない。 ・腹腔ドレナージは穿孔・胆汁性腹膜炎・膿瘍を合併した場合に行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。