25年前の帝王切開がいま問われる理由―輸血とフィブリノゲン製剤から薬害肝炎を掘り起こす
第104回医師国家試験 B問題 第48問
国試問題にチャレンジ
60歳の女性。テレビのニュースを見て,35歳時の帝王切開分娩に伴う医原病を心配して来院した。 確認すべき情報はどれか。2つ選べ。
- a.輸血歴
- b.風疹ワクチン接種歴
- c.サリドマイド内服歴
- d.妊娠高血圧症候群の既往
- e.フィブリノゲン製剤使用の可能性
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
1980年代半ばの帝王切開分娩に伴う医原病として代表的なのは、輸血や血液製剤を介したC型肝炎、いわゆる薬害肝炎です。献血血液のHCV抗体検査が導入された1989年以前の輸血や、分娩時の大量出血・産科DICに頻用されたフィブリノゲン製剤では、HCV感染のリスクが高かったため、問診では輸血歴とフィブリノゲン製剤使用の可能性を確認し、該当または不明なら肝炎ウイルス検査を勧めます。本人が投与を覚えていないことも多く、当時の医療機関への診療録照会も有用です。サリドマイドは1962年に販売停止された胎児への薬害、風疹ワクチンや妊娠高血圧症候群は医原病とは関係しません。C型肝炎は無症状のまま肝硬変・肝細胞癌へ進みうる一方、現在はDAAでほぼ治癒が期待できるため、時代背景を踏まえた問診で感染の可能性を拾い上げることが臨床上きわめて重要です。
解答・解説
正解はa, eです
状況の整理
・60歳女性。25年前(35歳時)に帝王切開で分娩している。 ・テレビのニュースを見て、そのときの医療行為による健康被害(医原病)を心配している。
考え方
本問の出題(2010年)の時期から逆算すると、帝王切開は1980年代半ばに行われている。この時代の分娩時の医療行為で、後になって社会問題化し報道が繰り返された医原病として代表的なのが、輸血や血液製剤を介したC型肝炎ウイルス(HCV)感染、いわゆる薬害肝炎である。 ・輸血:献血血液に対するHCV抗体検査が導入されたのは1989年であり、それ以前の輸血ではHCVをふるい分けることができなかった。当時は非A非B型肝炎と呼ばれていた輸血後肝炎の多くがHCVによるものであった。 ・フィブリノゲン製剤:多数の献血者の血漿を集めて製造される血液凝固因子製剤で、分娩時の大量出血や播種性血管内凝固(DIC)に対して止血目的で広く用いられた。当時のウイルス不活化処理ではHCVが除去されず、多くの人がHCVに感染した。 C型肝炎は感染しても自覚症状に乏しいまま慢性化し、20〜30年かけて肝硬変・肝細胞癌へ進展しうる。25年前の帝王切開はちょうどこの問題が顕在化する時期にあたる。 したがって問診では、帝王切開時に輸血を受けたか、フィブリノゲン製剤を投与された可能性があるかを確認し、該当または不明であれば肝炎ウイルス検査(HCV抗体など)につなげる。本人が記憶していないことも多いため、分娩した医療機関に当時の診療録が残っていないか問い合わせることも有用である。
選択肢考察
- ○a. 輸血歴
確認すべき情報である。帝王切開では出血量が多くなることがあり、輸血を受けた可能性がある。1989年に献血血液のHCV抗体スクリーニングが始まる以前(さらに検査精度が向上する1992年頃以前)の輸血では、C型肝炎ウイルス感染のリスクが高かった。B型肝炎ウイルスやHIVなど他の輸血関連感染症の評価にも関わる情報であり、輸血歴があれば肝炎ウイルス検査を勧める。
- ×b. 風疹ワクチン接種歴
風疹ワクチン接種歴は、妊娠前に先天性風疹症候群を予防する目的で重要な情報であるが、帝王切開分娩に伴う医原病とは関係がない。風疹ワクチンは生ワクチンであるため妊娠中は接種しないが、接種そのものが25年後に問題となるような健康被害を母体にもたらすことは知られていない。
- ×c. サリドマイド内服歴
サリドマイドはかつて鎮静・催眠薬として販売され、妊娠初期に服用すると胎児にアザラシ肢症(四肢の形成不全)を起こした代表的な薬害の原因薬である。日本では1962年に販売が停止・回収されており、1980年代半ばの分娩時に使用されることはない。また影響を受けるのは胎児であり、帝王切開に伴う母体の医原病とも関係しない。なお現在は多発性骨髄腫などの治療薬として厳格な管理のもとで再承認されている。
- ×d. 妊娠高血圧症候群の既往
妊娠高血圧症候群は妊娠に伴って起こる疾患であり、医療行為によって生じる医原病ではない。帝王切開の適応となる原因の一つではあるが、報道されるような医原病への不安に応えるための情報としては不適切である。なお妊娠高血圧症候群の既往は将来の高血圧や心血管疾患のリスク因子として知られるが、本問の文脈とは別の話である。
- ○e. フィブリノゲン製剤使用の可能性
確認すべき情報である。フィブリノゲン製剤は分娩時の大量出血や産科DICに対して止血目的で頻用された。多数の献血者の血漿から製造されたうえ、当時のウイルス不活化処理が不十分だったため、投与を受けた人の間でC型肝炎感染が多発し、薬害肝炎として大きな社会問題となった。厚生労働省は、1994年以前にフィブリノゲン製剤を投与された可能性がある人に肝炎ウイルス検査の受検を呼びかけている。本人は投与の有無を知らないことが多いため、「可能性」として確認し、必要なら当時の医療機関に照会する。
薬害肝炎(血液製剤によるC型肝炎)
・原因:特定のフィブリノゲン製剤や血液凝固第Ⅸ因子製剤の投与によるHCV感染。フィブリノゲン製剤は出産時の出血や手術時の出血に、第Ⅸ因子製剤は新生児出血などに使われた。 ・社会的経緯:被害者による集団訴訟を経て、2008年に「特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第Ⅸ因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法」(薬害肝炎救済法)が施行された。給付を受けるには製剤投与の事実などを示す必要があり、当時の診療録の有無が重要となる。
C型肝炎の自然経過
急性感染の多くは無症状で、およそ7割が慢性化する。慢性肝炎から肝硬変を経て肝細胞癌に至ることがあり、日本の肝細胞癌の主要な原因の一つである。現在は直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の内服でほとんどの患者でウイルス排除が可能となったため、感染の可能性がある人を検査で見つけて治療につなげる意義は大きい。
輸血用血液の安全対策の歩み(おおまかな流れ)
・1972年:HBs抗原検査の導入 ・1986年:HIV抗体検査の導入 ・1989年:HCV抗体検査の導入(1992年に精度の高い検査へ改良) ・1999年:核酸増幅検査(NAT)の導入 これにより輸血後肝炎は激減したが、ウインドウ期(感染後、検査で検出できない期間)があるためリスクはゼロではない。
日本の主な薬害
・サリドマイド:胎児のアザラシ肢症 ・キノホルム:スモン(亜急性脊髄視神経ニューロパチー) ・クロロキン:網膜症 ・非加熱血液凝固因子製剤:血友病患者のHIV感染(薬害エイズ) ・フィブリノゲン製剤など:C型肝炎(薬害肝炎) ・ソリブジン:フルオロウラシル系抗癌薬との相互作用による骨髄抑制 ・ヒト乾燥硬膜:Creutzfeldt-Jakob病(薬害ヤコブ病)
POINT
・1980年代の分娩時の医原病といえば、輸血・フィブリノゲン製剤によるC型肝炎(薬害肝炎)。 ・問診では輸血歴とフィブリノゲン製剤投与の可能性を確認し、該当・不明なら肝炎ウイルス検査を勧める。 ・献血血液のHCV抗体検査導入は1989年。それ以前の輸血はHCV感染リスクが高い。 ・サリドマイドは胎児の奇形(アザラシ肢症)を起こした薬害で、1962年に販売停止。
