脳卒中とParkinson病に潜む「心の影」―器質性うつ状態を見抜く
第104回医師国家試験 B問題 第19問
国試問題にチャレンジ
うつ状態を呈しやすいのはどれか。2つ選べ。
- a.Pick病
- b.脊髄癆
- c.脳血管障害
- d.Parkinson病
- e.Creutzfeldt-Jakob病
対話形式の解説
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ドクターまとめ
うつ状態は内因性のうつ病だけでなく、脳の器質的疾患や内分泌疾患、薬剤などによっても生じます。脳血管障害では患者の約3分の1に脳卒中後うつ病がみられ、Parkinson病でも約4割に抑うつがみられ、いずれも心理的反応に加えてモノアミン系神経回路の障害が関与すると考えられています。一方、Pick病(前頭側頭型認知症)は人格変化・脱抑制・常同行動、脊髄癆は後索障害による感覚性失調やArgyll Robertson瞳孔、Creutzfeldt-Jakob病は急速進行性認知症とミオクローヌスが中核で、うつ状態は特徴的ではありません。うつ状態を診たら身体疾患や薬剤性を除外し、神経疾患の患者では気分の変化にも注意を払うことが、適切な治療とリハビリの成功につながります。
解答・解説
正解はc, dです
テーマ
身体疾患、特に脳の器質的疾患に伴って出現するうつ状態(器質性・症候性のうつ状態)を問う問題である。うつ状態は内因性のうつ病だけでなく、脳血管障害、Parkinson病、甲状腺機能低下症、Cushing症候群、全身性エリテマトーデス(SLE)、膵癌、薬剤(副腎皮質ステロイド、インターフェロン、レセルピンなど)など多様な原因で生じる。
考え方
各疾患で「中核となる精神・神経症状は何か」を整理すると判断しやすい。 ・脳血管障害とParkinson病は、うつ状態の合併頻度が高いことがよく知られている。脳血管障害後のうつ(脳卒中後うつ病)は患者の約3分の1に生じるとされ、Parkinson病でも臨床的に問題となる抑うつがおよそ4割にみられるとされる。いずれも、障害に対する心理的反応に加えて、脳内のモノアミン系(セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミン)の神経回路が障害されることが原因と考えられている。 ・一方、Pick病(前頭側頭型認知症)では人格変化や脱抑制・常同行動が、脊髄癆では後索障害による感覚障害・失調が、Creutzfeldt-Jakob病では急速進行性認知症とミオクローヌスが前景に立ち、うつ状態が特徴的症状とはいえない。 したがって、うつ状態を呈しやすいのは脳血管障害とParkinson病である。
選択肢考察
- ×a. Pick病
Pick病は前頭葉と側頭葉に限局した強い萎縮をきたす変性疾患で、現在は前頭側頭型認知症(FTD)、特にその行動異常型に含めて扱われることが多い。前頭葉障害を反映して、人格変化、脱抑制(反社会的行動、万引きなど)、無関心、常同行動(毎日同じ道順を歩く周徊など)、食行動異常、病識の欠如が目立ち、側頭葉障害による言語障害も生じる。自発性低下が抑うつにみえることはあるが、気分の落ち込みや罪責感を伴う典型的なうつ状態を呈しやすい疾患とはいえない。
- ×b. 脊髄癆
脊髄癆は梅毒感染から長い期間(しばしば十年以上)を経て生じる晩期神経梅毒の一病型で、脊髄後根と後索が変性する。電撃痛(下肢などに走る鋭い痛み)、深部感覚障害とそれによる感覚性運動失調(Romberg徴候陽性)、腱反射消失、Argyll Robertson瞳孔(対光反射消失・輻輳反射保存)、Charcot関節などが主症状である。脳実質を侵して精神症状(誇大妄想、人格変化、認知症など)をきたすのは同じ神経梅毒でも進行麻痺であり、脊髄癆はうつ状態を呈しやすい疾患ではない。
- ○c. 脳血管障害
脳梗塞や脳出血の後にはうつ状態が高頻度に生じ、脳卒中後うつ病(post-stroke depression)と呼ばれる。発症率はおよそ3分の1とされ、麻痺や失語などの後遺症に対する心理的反応に加え、前頭葉や基底核の病変によって気分を調節する神経回路(セロトニン・ノルアドレナリン系など)が障害されることが関与すると考えられている。また、MRIで多発性の小梗塞や白質病変がみられる高齢発症のうつ病は血管性うつ病とも呼ばれ、意欲低下や遂行機能障害が目立つ。脳卒中後うつ病はリハビリテーションへの意欲を低下させ、機能回復や生命予後を悪化させるため、早期発見と治療が重要である。
- ○d. Parkinson病
Parkinson病は中脳黒質のドパミン神経細胞が変性・脱落する疾患で、振戦・筋強剛・無動・姿勢保持障害といった運動症状のほかに、うつ、不安、アパシー(意欲低下)、便秘・起立性低血圧などの自律神経症状、嗅覚低下、レム睡眠行動異常症などの非運動症状を伴う。うつは非運動症状の代表で、運動症状が出る前から現れることもある。Lewy小体の病変はドパミン系にとどまらず、縫線核(セロトニン系)や青斑核(ノルアドレナリン系)にも及ぶことが、うつや不安の背景にあると考えられている。Parkinson病に伴ううつは比較的軽症のことが多く、意欲低下や思考の緩慢さが目立つ一方で、罪責感や自責感は乏しいなど、典型的な大うつ病とは様相が異なる傾向がある。
- ×e. Creutzfeldt-Jakob病
Creutzfeldt-Jakob病(CJD)は、異常プリオン蛋白が脳に蓄積して神経細胞が障害されるプリオン病の代表である。最も多い孤発性CJDでは、急速に進行する認知症、ミオクローヌス、小脳失調、視覚異常、錐体路・錐体外路徴候が出現し、脳波で周期性同期性放電(PSD)、MRI拡散強調画像で大脳皮質や基底核の高信号がみられる。数か月で無動性無言(寝たきりで発語や自発運動がない状態)に至る。変異型CJD(ウシ海綿状脳症に関連)では、若年者で初期に抑うつや不安などの精神症状が目立つことがあるが、CJD全体としては認知機能障害が主体であり、うつ状態を呈しやすい疾患とはいえない。
器質性・症候性にうつ状態をきたす主な原因
・中枢神経疾患: 脳血管障害、Parkinson病、Lewy小体型認知症、Alzheimer型認知症(初期)、Huntington病、多発性硬化症、脳腫瘍、頭部外傷 ・内分泌疾患: 甲状腺機能低下症、Cushing症候群、Addison病、副甲状腺機能亢進症(高カルシウム血症) ・膠原病: 全身性エリテマトーデス(中枢神経ループス) ・悪性腫瘍: 膵癌など ・薬剤: 副腎皮質ステロイド、インターフェロン、レセルピン、β遮断薬など
認知症性疾患の精神症状の特徴
・前頭側頭型認知症(Pick病を含む): 人格変化、脱抑制、常同行動、病識欠如。記憶は比較的保たれる。 ・Lewy小体型認知症: 認知機能の変動、具体的な幻視、パーキンソニズム、レム睡眠行動異常症。抗精神病薬への過敏性。うつの合併も多い。 ・Alzheimer型認知症: 近時記憶障害から始まり、物盗られ妄想などがみられる。初期に抑うつを伴うことがある。 ・Creutzfeldt-Jakob病: 急速進行性認知症とミオクローヌス、脳波のPSD。
神経梅毒の病型
・進行麻痺: 大脳実質の障害。人格変化、誇大妄想、認知症。 ・脊髄癆: 後根・後索の障害。電撃痛、感覚性失調、Argyll Robertson瞳孔。
高齢者のうつ病と認知症
うつ病で思考抑制や集中力低下が強いと、認知症のようにみえることがあり(仮性認知症)、治療により回復しうるため鑑別が重要である。
POINT
・脳卒中後うつ病は患者の約3分の1に生じ、リハビリや予後に悪影響を与える。 ・Parkinson病ではうつ・不安・アパシーなどの非運動症状が多く、運動症状に先行することもある。 ・Pick病(前頭側頭型認知症)は人格変化・脱抑制・常同行動が中心。 ・脊髄癆は後索障害(感覚性失調、Argyll Robertson瞳孔)で、精神症状は進行麻痺の特徴。 ・CJDは急速進行性認知症+ミオクローヌス+脳波PSD。精神症状が前景に出やすいのは変異型。
