少量で効く、やめても戻る―覚醒剤精神病を特徴づける2つの現象
第104回医師国家試験 A問題 第5問
国試問題にチャレンジ
覚せい剤精神病でみられるのはどれか。2つ選べ。
- a.意識変容
- b.通過症候群
- c.逆耐性現象
- d.フラッシュバック現象
- e.レム〈REM〉睡眠行動障害
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
覚醒剤精神病は、ドパミン系を刺激する覚醒剤の反復使用により、意識清明下で幻聴や被害妄想などの統合失調症様症状が出現する状態です。特徴的なのは、反復使用で少量でも症状が出やすくなる逆耐性現象と、断薬後も飲酒・ストレス・不眠などをきっかけに症状が再燃するフラッシュバック現象の2つです。意識変容(せん妄)や通過症候群は器質性・症状性精神障害でみられる概念で、REM睡眠行動障害はParkinson病やレビー小体型認知症に関連する睡眠障害です。診断には使用歴の聴取と尿中薬物検査が役立ち、断薬後も長く続く再燃リスクを理解しておくことは、依存症患者への継続的な支援を考えるうえで欠かせません。
解答・解説
正解はc, dです
覚醒剤(アンフェタミン、メタンフェタミン)は中枢神経刺激薬であり、神経終末からのドパミンやノルアドレナリンの放出を促し、再取り込みを阻害することで、シナプス間隙のモノアミン濃度を高める。反復使用により、意識が清明なまま幻覚(特に幻聴)や被害妄想・追跡妄想などが出現する状態を覚醒剤精神病という。症状が統合失調症の陽性症状とよく似ていることから、統合失調症のドパミン仮説を支える根拠の一つとされてきた。 本問のポイントは、覚醒剤精神病に特有の二つの現象を押さえることである。 ・逆耐性現象: 使用を繰り返すうちに、以前より少ない量で精神病症状が出るようになる(感受性の亢進) ・フラッシュバック現象: 使用をやめてしばらく経っても、飲酒・ストレス・不眠などをきっかけに、使用時と同様の幻覚・妄想が再燃する 一方、意識変容や通過症候群は、脳の器質的障害や身体疾患による精神障害(せん妄など)でみられる概念であり、意識が保たれることが原則の覚醒剤精神病の特徴ではない。REM睡眠行動障害はレビー小体型認知症やParkinson病などの神経変性疾患に関連する睡眠障害である。 なお、法律名と薬物名の表記は、2020年施行の法改正で「覚せい剤」から「覚醒剤」に改められた。
選択肢考察
- ×a. 意識変容
意識変容とは、意識障害の一種で、意識の清明さが軽度に低下したうえに、錯覚・幻覚・興奮などが加わった状態を指す。代表例がせん妄である。覚醒剤精神病の幻覚・妄想状態は、原則として意識清明下で生じる点が特徴であり、この点も統合失調症に類似する。したがって覚醒剤精神病の典型的な所見とはいえない。なお、覚醒剤の大量摂取による急性中毒ではせん妄などの意識障害を生じることはありうるが、それは「覚醒剤精神病」の特徴とは区別される。
- ×b. 通過症候群
通過症候群は、頭部外傷・脳炎・手術後など脳の器質的障害や身体疾患の回復過程でみられる、意識障害を伴わない可逆的な精神症状(健忘、意欲低下、感情の不安定さ、幻覚・妄想など)を指す概念である。意識障害の状態から回復に向かう途中を「通過」する時期に現れるためこう呼ばれる。器質性精神障害に関する概念であり、覚醒剤精神病に特有の現象ではない。
- ○c. 逆耐性現象
通常の「耐性」は、使用を続けるうちに同じ効果を得るためにより多くの量が必要になる現象である。これに対し逆耐性現象(感作)は、覚醒剤を反復使用するうちに、以前より少ない量で、より速く、より強く精神病症状が出現するようになる現象をいう。ドパミン神経系が反復刺激により過敏化することが背景と考えられており、覚醒剤精神病に特徴的な現象であるため正しい。コカインなど他の中枢神経刺激薬でも知られている。
- ○d. フラッシュバック現象
フラッシュバック現象(自然再燃)とは、覚醒剤の使用を中止して症状がいったん消えたあとでも、少量の飲酒、心理的ストレス、不眠などの非特異的な刺激をきっかけに、使用時と同様の幻覚・妄想が再び出現する現象である。逆耐性で生じた脳の過敏状態が長期間持続するためと考えられ、覚醒剤精神病でみられる現象として正しい。LSDなどの幻覚剤や有機溶剤でも同様の現象が知られている。断薬後も長期にわたり再燃の可能性があることから、再使用の防止と継続的な治療が重要となる。
- ×e. レム〈REM〉睡眠行動障害
REM睡眠行動障害は、本来REM睡眠中に起こるはずの骨格筋の脱力(筋緊張の消失)が起こらず、夢の内容に合わせて大声を出したり、手足を動かしたり、暴れたりする睡眠障害である。高齢男性に多く、レビー小体型認知症、Parkinson病、多系統萎縮症などのαシヌクレイン関連疾患に合併したり、それらの前駆症状として先行したりする。覚醒剤精神病の症候ではない。治療にはクロナゼパムなどが用いられる。
覚醒剤の作用と臨床像
・急性作用: 覚醒、多幸感、疲労感の消失、食欲低下、交感神経刺激症状(頻脈、血圧上昇、散瞳、発汗)。大量では高体温、不整脈、けいれん、脳出血などを起こし死に至ることもある。 ・慢性使用による精神病状態: 幻聴、被害妄想・追跡妄想・注察妄想、体感幻覚(皮膚の下を虫が這うような感覚など)、易刺激性や攻撃性。意識は清明で、統合失調症の陽性症状に類似する。 ・離脱(中止後): 身体的な離脱症状は目立たず、強い脱力感、過眠、抑うつ、意欲低下などがみられる。精神依存が強い。
統合失調症との鑑別のヒント
覚醒剤精神病では、対人接触が比較的保たれ、陰性症状(感情の平板化、意欲低下など)が目立ちにくいとされる。使用歴の聴取や尿中薬物検査が診断に役立つ。
治療
幻覚・妄想には抗精神病薬を用いる。依存症に対しては断薬の継続を目指し、専門医療機関での治療、自助グループ(NA:ナルコティクス・アノニマスなど)や民間リハビリ施設(ダルクなど)の利用を組み合わせる。
関連する用語の整理
・耐性: 同じ効果を得るために必要な量が増える ・逆耐性(感作): より少ない量で同じか、より強い効果が出る ・フラッシュバック: 断薬後に非特異的な刺激で症状が再燃する ・通過症候群: 器質性精神障害の回復過程でみられる、意識障害を伴わない可逆的な精神症状 ・意識変容: 軽い意識混濁に幻覚・興奮などが加わった状態(せん妄が代表)
POINT
・覚醒剤精神病: 意識清明下での幻聴・被害妄想(統合失調症に類似) ・逆耐性現象: 反復使用で少量でも症状が出るようになる ・フラッシュバック現象: 断薬後も飲酒・ストレス・不眠などで症状が再燃する ・意識変容(せん妄)・通過症候群は器質性・症状性精神障害の概念 ・REM睡眠行動障害はレビー小体型認知症やParkinson病に関連
