StudyMed医師国家試験

3か月続く胸痛と片側性胸水―胸膜を這う腫瘍「悪性胸膜中皮腫」の4つの基本

第104回医師国家試験 A問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第104回 A問題 第28問

65歳の男性。胸痛と呼吸困難とを主訴に来院した。3か月前から胸痛を自覚して次第に増強し,最近呼吸困難も出現した。呼吸数24/分。血圧128/84 mmHg。経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉93%。左呼吸音の減弱を認める。胸部エックス線写真(A)と胸腔ドレナージ後の胸部造影CT(B)とを別に示す。  この疾患について正しいのはどれか。2つ選べ。

第104回 A問題 第28問の問題画像
  1. a.職業に起因する。
  2. b.先行する感染症がある。
  3. c.気管支鏡下生検で診断する。
  4. d.放射線感受性が高い。
  5. e.予後は不良である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢男性の胸痛と片側性胸水から疾患を見抜き、その特徴を問う問題だ。注目してほしいのは、胸痛がじわじわと強くなっている経過と、ドレナージで胸水を抜いた後のCTで病変の主座がどこにあるか、の2点だよ。
医学生医学生
胸水が溜まっているので、まず肺癌の胸膜転移や結核性胸膜炎を考えました。
ドクタードクター
鑑別としてはどちらも大事だね。ただ、CTを見ると、胸水を抜いたことで見やすくなった胸膜そのものが不整に厚くなり、結節状・腫瘤状に盛り上がっている。肺の中に原発巣らしい影はなく、病変は胸膜が主役なんだ。
医学生医学生
胸膜から出てくる腫瘍となると、悪性胸膜中皮腫ですか。
ドクタードクター
その通り。中皮腫は壁側胸膜を這うように広がって、進行すると片側の肺を全周性に取り囲む。胸壁や肋間神経に浸潤するから、持続する胸痛が目立つのが特徴だ。発熱など炎症を示す記載がないことも、結核性胸膜炎や膿胸よりこちらを支持するね。
医学生医学生
衛生学の講義でアスベストと中皮腫の関係を習いました。職業に起因する、は正しそうです。
ドクタードクター
そう、最大の原因は石綿(アスベスト)の吸入で、多くは造船、建設・解体、断熱・保温作業などの職業性曝露だ。潜伏期間が30〜40年と非常に長く、低濃度・短期間の曝露でも発症しうる。だから問診では、若い頃までさかのぼって職業歴を聞くことが欠かせない。
医学生医学生
先行する感染症というのは、どういうときに当てはまるんでしょうか。
ドクタードクター
肺炎に続いて起こる肺炎随伴性胸水や膿胸、結核性胸膜炎などがそうだね。中皮腫の発生に感染症は関与しないから、これは誤り。今回も感染を思わせる情報はない。
医学生医学生
診断は気管支鏡下生検ではだめなんですか。呼吸器内科の実習では、肺癌の診断でよく気管支鏡を見学しました。
ドクタードクター
いい疑問だ。気管支鏡は気道の内側から肺内の病変に到達する方法だから、胸膜にある腫瘍には届かない。中皮腫の確定診断には十分な量の組織が必要で、胸腔鏡下の胸膜生検が推奨される。胸水細胞診だけだと、反応性の中皮細胞と見分けにくく診断率は高くないんだ。
医学生医学生
放射線感受性はどうでしょう。胸膜全体に広がっているなら、照射範囲も広くなりそうです。
ドクタードクター
まさにそこが問題でね。中皮腫はもともと放射線感受性が低いうえに、胸郭内に広く薄く広がるから、十分な線量をかけると肺などの周囲臓器を傷めてしまう。放射線は主に疼痛緩和や集学的治療の一部として使われる。だから感受性が高い、は誤りだ。
医学生医学生
そうなると、予後は不良というのが正しいですね。
ドクタードクター
その通り。症状が出たときには進行していることが多く、手術で取り切るのも難しい。生存期間中央値はおおむね1年前後とされる。組織型では上皮型が比較的よく、肉腫型が最も不良だ。正解は職業に起因する、と予後は不良である、の2つになる。
医学生医学生
原因は石綿、診断は胸腔鏡、放射線は効きにくく、予後は悪い、とセットで整理できました。
ドクタードクター
いいまとめだね。発展知識も押さえておこう。胸水は滲出性で血性のことが多く、ヒアルロン酸の高値が補助診断になる。病理では、カルレチニン、WT1、D2-40といった中皮系マーカーが陽性で、CEAやTTF-1などの腺癌マーカーが陰性であることが、肺腺癌の胸膜転移との鑑別に役立つ。
医学生医学生
病理学で習った免疫染色が、ここでつながるんですね。治療はどうなっていますか。
ドクタードクター
切除できる早期例では、手術に化学療法や放射線を組み合わせた集学的治療を行う。切除できない例では、シスプラチン+ペメトレキセドが長く標準で、現在は初回からニボルマブ+イピリムマブといった免疫チェックポイント阻害薬も使われる。それから臨床で忘れてはいけないのが社会的な側面だ。
医学生医学生
労災の対象になるということでしょうか。
ドクタードクター
そう。職業性曝露による中皮腫は労災保険の補償対象になるし、家族や周辺住民の曝露など職業歴がはっきりしない例でも、石綿健康被害救済法による救済の対象になりうる。胸膜プラークは石綿曝露の指標になる所見だから、画像で見つけたら職業歴を確認する習慣をつけよう。

まとめ

高齢男性で持続的に増強する胸痛と片側性胸水があり、CTで胸膜のびまん性・結節状肥厚を認める場合は、悪性胸膜中皮腫を第一に考えます。原因の大部分は職業性の石綿(アスベスト)曝露で、潜伏期間は30〜40年と長く、職業歴の聴取が診断にも労災補償にも重要です。確定診断は胸腔鏡下胸膜生検で行い、気管支鏡では胸膜病変に到達できず、胸水細胞診だけでは診断が難しいことがあります。放射線感受性は低く、主に症状緩和に用いられ、治療は手術を含む集学的治療や化学療法、免疫チェックポイント阻害薬が中心ですが、予後は極めて不良です。病因・診断法・治療反応性・予後をセットで理解しておくことは、石綿関連疾患全体の理解と患者の社会的支援につながります。

解答・解説

正解はa, eです

所見の整理

・65歳男性。3か月前からの胸痛が徐々に増悪し、最近は呼吸困難も加わった。緩徐進行性で、発熱などの炎症を示す記載はない。 ・呼吸数24/分と頻呼吸、SpO2 93%と軽度の低酸素血症がある。 ・左呼吸音が減弱しており、左胸腔の胸水貯留(または胸膜病変)が示唆される。 ・胸部エックス線写真では左胸水と胸膜の肥厚がみられ、胸腔ドレナージ後の造影CTでは胸水を抜いたことで観察しやすくなった胸膜が、不整に肥厚し結節・腫瘤状に隆起している。病変の主座は肺実質ではなく胸膜である。

診断へのプロセス

高齢男性で、持続的に増強する胸痛と片側性胸水を呈し、画像で胸膜のびまん性・結節状肥厚を示す場合、第一に悪性胸膜中皮腫を考える。中皮腫は壁側胸膜を這うように広がり、胸壁や肋間神経へ浸潤するため、胸痛が目立つのが特徴である。鑑別としては、肺癌などの胸膜転移(癌性胸膜炎)、結核性胸膜炎、膿胸などが挙がる。本例は炎症所見の記載がなく感染性胸膜疾患は考えにくい。肺内の原発巣を示す記載もなく、胸膜全体を取り囲むような肥厚像は中皮腫に典型的である。

設問の考え方

悪性胸膜中皮腫の病因(石綿〈アスベスト〉曝露)、診断法(胸腔鏡下胸膜生検)、治療上の特徴(放射線感受性が低い)、予後(不良)についての基本知識を問うている。

選択肢考察

  1. ○a.  職業に起因する。

    悪性胸膜中皮腫の最大の原因は石綿(アスベスト)の吸入であり、症例の多くに職業性の石綿曝露歴がある。造船、建設・解体、断熱・保温作業、石綿製品の製造などの従事者に多い。曝露から発症までの潜伏期間は30〜40年程度と非常に長く、低濃度・短期間の曝露でも発症しうる点が特徴である。職業性曝露による場合は労災補償の対象となり、職業歴の聴取は診断・補償の両面で重要である。

  2. ×b.  先行する感染症がある。

    中皮腫の発症に感染症は関与しない。本例でも発熱や炎症所見の記載はなく、先行感染をうかがわせる情報はない。先行感染との関連が問題となるのは、肺炎に続発する肺炎随伴性胸水や膿胸、結核性胸膜炎などであり、本症とは区別される。

  3. ×c.  気管支鏡下生検で診断する。

    気管支鏡は気道内から肺内の病変に到達して組織を採取する方法であり、胸膜に主座をもつ中皮腫の組織は得られない。確定診断には十分な量の組織が必要で、胸腔鏡下(局所麻酔下胸腔鏡やVATS:胸腔鏡補助下手術)の胸膜生検が推奨される。CTガイド下の経皮的針生検が用いられることもある。胸水細胞診だけでは反応性中皮細胞との区別が難しく、診断率は高くない。

  4. ×d.  放射線感受性が高い。

    中皮腫は放射線感受性が低く、放射線治療単独での根治は期待できない。また病変が胸郭内に広く薄く広がるため、十分な線量をかけようとすると肺など周囲臓器の障害が問題となる。放射線は疼痛緩和などの症状緩和目的や、集学的治療の一部として用いられる。治療の中心は、切除可能な早期例では手術を含む集学的治療、進行例では化学療法(シスプラチン+ペメトレキセド)や免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ+イピリムマブなど)である。

  5. ○e.  予後は不良である。

    悪性胸膜中皮腫は、症状が出た時点ですでに進行していることが多く、手術で完全に取り切ることも難しい。化学療法への反応も限られるため予後は極めて不良で、生存期間中央値はおおむね1年前後とされる。組織型では上皮型が比較的予後良好で、肉腫型は最も不良である。

悪性胸膜中皮腫の概要

・胸膜の中皮細胞から発生する悪性腫瘍。腹膜、心膜、精巣鞘膜にも発生しうるが胸膜が最多。 ・原因:石綿曝露が大部分。角閃石系(クロシドライト〈青石綿〉、アモサイト〈茶石綿〉)は、蛇紋石系のクリソタイル(白石綿)よりも発がん性が強いとされる。石綿は肺癌、石綿肺、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚の原因にもなる。胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)は石綿曝露の指標となる所見である。 ・疫学:高齢男性に多い。日本では1970〜90年代の石綿使用量を反映して、現在も患者数が多い。 ・症状:胸痛(胸壁浸潤による持続痛)、呼吸困難、咳嗽、体重減少。片側性胸水で発見されることが多い。

検査・診断

・画像:片側性胸水、胸膜のびまん性・結節状肥厚。進行すると患側の胸郭を全周性に取り囲み、胸郭が縮小する。 ・胸水:滲出性で血性のことが多い。ヒアルロン酸の高値が補助診断となる(10万ng/mL以上で中皮腫の可能性が高い)。 ・病理:上皮型、肉腫型、二相型に分類され、上皮型が最多。免疫染色ではカルレチニン、WT1、D2-40(ポドプラニン)などの中皮系マーカーが陽性で、CEAやTTF-1などの腺癌マーカーが陰性であることが、肺腺癌の胸膜転移との鑑別に役立つ。 ・確定診断:胸腔鏡下胸膜生検が推奨される。

治療

・切除可能例:胸膜切除/肺剝皮術(P/D)や胸膜肺全摘術(EPP)を、化学療法や放射線治療と組み合わせた集学的治療。 ・切除不能例:シスプラチン+ペメトレキセドが長く標準であり、現在は初回治療から免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ+イピリムマブ)も用いられる。 ・放射線治療:感受性が低く、主に疼痛緩和などに用いる。

社会的事項

職業性曝露による中皮腫は労災保険の補償対象となる。職業歴がはっきりしない例や家族・周辺住民の曝露例などは、石綿健康被害救済法による救済の対象となりうる。

POINT

・高齢男性の片側性胸水+胸膜のびまん性・結節状肥厚+持続する胸痛 → 悪性胸膜中皮腫。 ・原因は石綿(アスベスト)曝露で、多くは職業性。潜伏期間は30〜40年と長い。 ・確定診断は胸腔鏡下胸膜生検。気管支鏡では病変に到達しない。 ・胸水ヒアルロン酸高値が診断の補助になる。 ・放射線感受性は低く、予後は極めて不良(生存期間中央値は約1年)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。