StudyMed医師国家試験

咳はひどいのに胸の音はきれい―学童の発熱と発疹から肺炎マイコプラズマを絞り込む

第103回医師国家試験 I問題 第63問

国試問題にチャレンジ

第103回 I問題 第63問

10歳の女児。咳と発熱とを主訴に来院した。7日前から咳嗽が出現し,次第に増強している。4日前から38℃台の発熱が続き,市販の感冒薬を服用している。本日,躯幹に発疹が出てきた。咽頭は軽度の発赤を認める。口腔粘膜に異常を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。  病原体として考えられるのはどれか。

  1. a.RSウイルス
  2. b.麻疹ウイルス
  3. c.A群レンサ球菌
  4. d.アデノウイルス
  5. e.肺炎マイコプラズマ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、学童の咳・発熱・発疹から原因となる病原体を推定する問題だ。注目してほしいのは、年齢、咳がどう推移しているか、そして「異常がない」と書かれている所見。陰性所見が鑑別の決め手になるタイプの問題だよ。
医学生医学生
発熱と発疹なので、まず麻疹のようなウイルス性発疹症が頭に浮かびました。
ドクタードクター
自然な発想だね。でも麻疹なら、カタル期のあと一度少し解熱して再び高熱とともに発疹が出る二峰性の経過をとり、発疹の時期には頬粘膜にKoplik斑が見られることが多い。発疹は耳の後ろや顔から始まって体幹・四肢へ広がる。今回は発疹が出た当日なのに口腔粘膜に異常がなく、結膜充血の記載もない。
医学生医学生
Koplik斑はCBTの問題集で何度も見ました。口腔粘膜が正常というのは麻疹を否定する方向の情報なんですね。
ドクタードクター
そう。同じ理由で、A群レンサ球菌による猩紅熱も考えにくい。猩紅熱なら咽頭・扁桃の強い発赤や滲出物、イチゴ舌、口囲蒼白が出て、咳はむしろ目立たないんだ。
医学生医学生
アデノウイルスも咽頭が真っ赤になるイメージです。小児科実習で、高熱と白い扁桃の滲出物がある子に迅速検査をしていました。
ドクタードクター
よく見ているね。アデノウイルスは咽頭結膜熱や滲出性扁桃炎が典型で、高熱が数日続き、強い咽頭発赤や結膜炎を伴うことが多い。発疹は少ない。咽頭発赤が軽度で結膜炎もない今回は、可能性ゼロとは言えないけれど、最も考えやすいとはいえない。では咳の経過に目を向けよう。かぜの咳とどこが違う?
医学生医学生
かぜなら数日でピークを越えるはずなのに、1週間ずっと強くなっていて、熱も続いています。
ドクタードクター
その通り。咳が先に始まって増強し続け、発熱も持続するなら、気管支や肺といった下気道の感染を考える。そして学童期にこの経過をとる代表が肺炎マイコプラズマだ。
医学生医学生
でも呼吸音が正常なら、肺炎ではないんじゃないでしょうか。
ドクタードクター
そこが大事なポイント。マイコプラズマ肺炎は、症状やエックス線の陰影のわりに聴診でラ音が乏しいことが多いんだ。「咳と熱が強いのに胸の音はきれい」というギャップが、むしろマイコプラズマらしさになる。さらに多形紅斑などの発疹を含む肺外症状を伴うことがある。
医学生医学生
年齢、増強する咳、続く熱、きれいな呼吸音、体幹の発疹が全部つながりますね。RSウイルスはどうですか。
ドクタードクター
RSウイルスは主に2歳未満の乳幼児で細気管支炎を起こし、呼気性喘鳴や多呼吸、陥没呼吸が特徴だ。年長児では再感染しても上気道炎程度で終わることが多いし、発疹も通常は伴わない。10歳で呼吸音が正常な今回とは合わないね。ちなみにクループの主な原因はパラインフルエンザウイルスだから混同しないように。
医学生医学生
好発年齢で整理すると覚えやすいです。マイコプラズマの診断はどうやって確かめますか。
ドクタードクター
咽頭ぬぐい液の抗原迅速検査やLAMP法・PCR法などの遺伝子検査、ペア血清での抗体価上昇の確認を行う。寒冷凝集素の上昇は補助的な所見だ。白血球数は正常のことが多く、CRPも軽度から中等度の上昇にとどまりやすい。胸部エックス線はすりガラス影や区域性の浸潤影など多彩だよ。
医学生医学生
治療は、細胞壁がないのでβ-ラクタム系が効かない、と微生物学で習いました。
ドクタードクター
その通り。だから第一選択はマクロライド系。ただし日本ではマクロライド耐性株が多く、効かない場合は8歳以上ならミノサイクリンなどのテトラサイクリン系、小児ではトスフロキサシンなどのニューキノロン系を考える。テトラサイクリン系は8歳未満では歯の着色やエナメル質形成不全のため原則避ける。
医学生医学生
今回の10歳なら、テトラサイクリン系も選択肢になり得るんですね。
ドクタードクター
そう。臨床で注意したいのは、肺外症状が多彩なこと。皮疹ではStevens-Johnson症候群に至ることもあるし、寒冷凝集素による溶血性貧血、水疱性鼓膜炎、心筋炎、髄膜脳炎、Guillain-Barré症候群なども報告されている。潜伏期が2〜3週と長く、家庭や学校で広がりやすい点も覚えておこう。
医学生医学生
市販薬で治らない長引く咳と発熱の学童を診たら、聴診がきれいでもマイコプラズマを忘れない、ということですね。
ドクタードクター
その通り。聴診で異常がないことを「肺炎ではない」と即断しないことが大切だよ。

まとめ

学童期に、しだいに増強する乾性咳嗽と持続する発熱がみられ、症状のわりに聴診所見が乏しい場合は、肺炎マイコプラズマによる下気道感染を考えます。マイコプラズマは多形紅斑などの発疹をはじめ、溶血性貧血や中枢神経症状など多彩な肺外症状を伴うことがあります。口腔粘膜が正常であれば麻疹(Koplik斑)や猩紅熱(イチゴ舌)は考えにくく、咽頭発赤が軽度なら溶連菌やアデノウイルスも否定的で、RSウイルスは乳幼児の細気管支炎が主体です。細胞壁を欠くためβ-ラクタム系は無効でマクロライド系が第一選択ですが、耐性株も多いため年齢に応じてテトラサイクリン系やニューキノロン系を検討します。年齢・経過・陰性所見を組み合わせて病原体を絞り込む考え方は、小児の発熱・発疹性疾患や呼吸器感染症の鑑別全般に役立ちます。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・10歳の女児(学童期)。 ・7日前から咳が出現し、しだいに増強している。発熱より先に咳が始まり、咳が主体の経過である。 ・4日前から38℃台の発熱が持続し、市販の感冒薬では改善しない。 ・本日、体幹(躯幹)に発疹が出現した。 ・咽頭は軽度の発赤にとどまり、口腔粘膜に異常はない(Koplik斑、イチゴ舌などはない)。 ・心音・呼吸音は正常で、肝脾腫もない。

診断へのプロセス

感冒の咳は数日でピークを越えて軽快に向かうのが普通であり、1週間にわたり増強し続け、発熱も持続する場合は、下気道(気管支・肺)の感染を考える。学童期にこのような経過をとる代表的な病原体が肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)である。マイコプラズマ肺炎の特徴は次の通りである。 ・学童〜若年成人に多い。 ・頑固な乾性咳嗽が長く続き、しだいに強くなる。 ・発熱や咳が強いわりに、聴診で異常(ラ音)が目立たないことが多い。 ・発疹(多形紅斑、麻疹様・蕁麻疹様の発疹など)をはじめとする肺外症状を伴うことがある。 本例は、年齢、咳が主体で増強していく経過、持続する発熱、呼吸音が正常であること、体幹の発疹のいずれもこの像に合致する。 一方、口腔粘膜に異常がないことから麻疹(Koplik斑)や猩紅熱(イチゴ舌)は考えにくく、咽頭発赤が軽度であることから溶連菌性咽頭炎やアデノウイルス感染症(強い咽頭・扁桃炎)も考えにくい。RSウイルスは乳幼児の細気管支炎が主体で、年長児では感冒程度で終わることが多く、発疹も通常はみられない。

設問の考え方

発疹は単独ではマイコプラズマ感染症を決定づける所見ではないが、年齢と咳・発熱の経過、陰性所見(口腔粘膜・咽頭・聴診に目立った異常がないこと)を合わせて、他の選択肢を順に除外すれば、肺炎マイコプラズマが最も考えやすい。

選択肢考察

  1. ×a.  RSウイルス

    RSウイルス(respiratory syncytial virus)は乳幼児の下気道感染の主要な原因であり、特に2歳未満の乳幼児で細気管支炎を起こす。呼気性喘鳴(wheezing)や多呼吸、陥没呼吸を伴う呼吸困難が特徴で、聴診で喘鳴や副雑音を聴取する。年長児や成人では再感染しても上気道炎程度で終わることが多く、発疹も通常は伴わない。10歳で呼吸音が正常な本例とは合わない。

  2. ×b.  麻疹ウイルス

    麻疹は、発熱・咳・鼻汁・結膜充血が数日続くカタル期の後、いったん少し解熱し、再び高熱とともに発疹が現れる(二峰性発熱)。カタル期の終わりから発疹が出た直後にかけて、頬粘膜に白い小さな斑点(Koplik斑)がみられるのが特徴である。発疹は耳の後ろや顔から始まって体幹・四肢へ広がる。本例は発疹が出た当日に口腔粘膜の異常がなく、結膜充血の記載もないため、麻疹は考えにくい。

  3. ×c.  A群レンサ球菌

    A群レンサ球菌(化膿レンサ球菌)は咽頭扁桃炎を起こし、発赤毒素を産生する菌株では猩紅熱として発熱と全身の細かい紅色の発疹を伴う。この場合、咽頭・扁桃の強い発赤と咽頭痛、滲出物、口蓋の点状出血、イチゴ舌、口囲蒼白などがみられる。咳はむしろ目立たない。咽頭発赤が軽度で口腔粘膜に異常がなく、咳が主体の本例とは合わない。

  4. ×d.  アデノウイルス

    アデノウイルスは咽頭結膜熱(プール熱)、滲出性扁桃炎、流行性角結膜炎、出血性膀胱炎、肺炎など多彩な病型をとる。小児の呼吸器感染では、高熱が数日続き、咽頭・扁桃の強い発赤や白色の滲出物、結膜炎を伴うのが典型である。発疹を伴うことは少ない。咽頭発赤が軽度で結膜炎もない本例では、可能性はまったくないとはいえないが、最も考えやすい病原体ではない。

  5. ○e.  肺炎マイコプラズマ

    肺炎マイコプラズマは学童期から若年成人の市中肺炎の主要な原因である。発熱とともに、痰の少ない咳が長く続いてしだいに強くなる。胸部エックス線写真で明らかな陰影があっても聴診ではラ音が乏しいことが多い。また多形紅斑などの皮膚症状をはじめ、肺外症状を伴うことがある。10歳という年齢、1週間続いて増強する咳、4日間持続する発熱、正常な呼吸音、体幹の発疹という本例の特徴とよく合致する。

マイコプラズマ肺炎の概要

・病原体:Mycoplasma pneumoniae。細胞壁をもたない細菌で、自己増殖できる最小の微生物の一つである。 ・疫学:学童期〜若年成人に多い。飛沫・接触感染で家庭や学校で広がり、潜伏期は2〜3週と長い。 ・症状:発熱、全身倦怠感、頭痛に続き、頑固な乾性咳嗽が出現する。咳は解熱後も数週間続くことがある。 ・身体所見:症状のわりに聴診所見が乏しい。 ・肺外症状:皮疹(多形紅斑、スティーブンス・ジョンソン症候群を含む)、中耳炎(水疱性鼓膜炎)、寒冷凝集素による溶血性貧血、心筋炎、髄膜脳炎、ギラン・バレー症候群、肝機能障害など。

検査

・白血球数は正常のことが多く、CRPは軽度〜中等度の上昇にとどまることが多い。 ・胸部エックス線:すりガラス影や気管支壁の肥厚、区域性の浸潤影など多彩。 ・病原診断:咽頭ぬぐい液の抗原迅速検査や遺伝子検査(LAMP法、PCR法)、血清抗体(ペア血清でのPA法などによる上昇の確認)。寒冷凝集素の上昇は補助的所見である。

治療

・細胞壁がないため、β-ラクタム系抗菌薬(ペニシリン系・セフェム系)は無効である。 ・第一選択はマクロライド系抗菌薬。日本ではマクロライド耐性株が多く、効果がない場合は、8歳以上ではテトラサイクリン系(ミノサイクリン、ドキシサイクリン)、あるいはニューキノロン系(小児ではトスフロキサシン)を用いる。テトラサイクリン系は8歳未満では歯の着色やエナメル質形成不全のため原則として避ける。

小児の呼吸器感染症と好発年齢の目安

・RSウイルス:乳幼児(特に2歳未満)の細気管支炎 ・パラインフルエンザウイルス:幼児のクループ症候群 ・肺炎マイコプラズマ:学童〜若年成人の肺炎 ・肺炎球菌・インフルエンザ菌:乳幼児を含む全年齢の細菌性肺炎

発疹をきたす小児感染症の鑑別の手がかり

・麻疹:二峰性発熱、Koplik斑、結膜充血 ・猩紅熱(A群レンサ球菌):咽頭扁桃炎、イチゴ舌、口囲蒼白 ・マイコプラズマ:長引く咳+多彩な発疹(多形紅斑など)

POINT

・学童期、しだいに増強する長引く乾性咳嗽+発熱+聴診所見が乏しい → マイコプラズマ肺炎。 ・マイコプラズマでは多形紅斑などの発疹をはじめとする肺外症状を伴うことがある。 ・口腔粘膜異常なし→麻疹(Koplik斑)や猩紅熱(イチゴ舌)は否定的。咽頭発赤が軽度→溶連菌・アデノウイルスは否定的。 ・RSウイルスは乳幼児の細気管支炎(呼気性喘鳴)が主体。 ・マイコプラズマは細胞壁がないためβ-ラクタム系が無効で、マクロライド系が第一選択。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。