黒い肌、男性化した外陰部、そして嘔吐―生後9日の危機が示す先天性副腎皮質過形成症
第103回医師国家試験 I問題 第41問
国試問題にチャレンジ
生後9日の女児。2日前からの繰り返す嘔吐と哺乳力低下とを主訴に来院した。在胎39週,体重3,050g,Apgarスコア9点(1分)で出生した。活気がなく全身に色素沈着を認める。外陰部の写真を別に示す。 診断はどれか。

- a.クレチン症
- b.ガラクトース血症
- c.フェニルケトン尿症
- d.メープルシロップ尿症
- e.先天性副腎皮質過形成症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
新生児で女児の外性器男性化、全身の色素沈着、生後1〜2週の嘔吐・哺乳力低下・活気不良がそろえば、先天性副腎皮質過形成症(主に21-水酸化酵素欠損症)を考えます。コルチゾール欠乏によるACTH過剰が色素沈着を、前駆物質が流れ込んだ副腎アンドロゲン過剰が外性器男性化を、アルドステロン欠乏が低ナトリウム・高カリウム血症と脱水を引き起こし、塩類喪失型では副腎クリーゼに至り得ます。クレチン症、ガラクトース血症、フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症もマススクリーニング対象ですが、外性器異常や色素沈着は説明できず、フェニルケトン尿症ではむしろ色白になります。診断は17-ヒドロキシプロゲステロン高値、治療はヒドロコルチゾンと必要に応じたフルドロコルチゾン・食塩の補充です。ステロイド合成経路と各ホルモンの作用を結びつけて理解することが、新生児の緊急事態を見抜く力になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・生後9日の女児で、在胎39週・出生体重3,050g・Apgarスコア9点(1分)と、出生時の状態には問題がない。 ・生後1週頃から繰り返す嘔吐と哺乳力低下が出現し、活気がない。いわゆる「not doing well(なんとなく元気がない)」状態であり、新生児では重篤な全身疾患を考えるべきサインである。 ・全身の皮膚に色素沈着がある。 ・外陰部の写真では、陰核の肥大と外陰部の色素沈着がみられ、女児でありながら外性器が男性化している。
診断へのプロセス
新生児期に「外性器の男性化」と「全身状態の悪化」が同時にみられた場合、まず考えるべきは先天性副腎皮質過形成症(congenital adrenal hyperplasia:CAH)、特に最も頻度の高い21-水酸化酵素欠損症である。 ・副腎でのコルチゾール合成が障害されるため、負のフィードバックが外れて下垂体からのACTH(副腎皮質刺激ホルモン)分泌が亢進する。ACTHは前駆体であるPOMC(プロオピオメラノコルチン)から作られ、同時にメラニン細胞刺激作用をもつ断片も増えるため、全身の色素沈着が生じる。 ・ACTHの過剰刺激で副腎は過形成となり、合成が滞った前駆物質は副腎アンドロゲンの経路へ流れ込む。この過剰なアンドロゲンが胎生期から作用するため、女児では陰核肥大や陰唇癒合などの外性器男性化が生まれつき存在する(46,XXの性分化疾患)。 ・塩類喪失型ではアルドステロンも欠乏するため、生後1〜2週頃から低ナトリウム血症・高カリウム血症・脱水が進行し、嘔吐、哺乳力低下、体重増加不良、ひいてはショック(副腎クリーゼ)に至る。コルチゾール欠乏による低血糖も加わり得る。本児が生後9日で嘔吐・活気不良を呈したのは、この塩類喪失の典型的な時期に一致する。
鑑別の考え方
女児の外性器男性化をきたす病態には、CAHのほか、妊娠中の母体由来のアンドロゲン過剰(母体の男性化腫瘍や男性ホルモン製剤の使用など)もあるが、こちらは児に副腎不全症状や色素沈着を伴わない。また、染色体が46,XYで外性器の男性化が不十分な病態(部分型アンドロゲン不応症など)でも曖昧な外性器を示し得るが、やはり全身症状は伴わない。外性器異常に加えて色素沈着と全身状態の悪化がそろう点が、CAHを強く示唆する決め手である。 選択肢の他の疾患(クレチン症、ガラクトース血症、フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症)はいずれも新生児マススクリーニングの対象疾患であり、一部は新生児期に嘔吐や活気不良を示すが、外性器の男性化や色素沈着は説明できない。
選択肢考察
- ×a. クレチン症
先天性甲状腺機能低下症のことである。新生児期には遷延性黄疸、便秘、哺乳力低下、活気のなさ、臍ヘルニア、巨舌、小泉門の開大などを示すことがあるが、嘔吐を繰り返して急速に全身状態が悪化する経過は典型的でない。また甲状腺ホルモンは性分化に関与しないため外性器の男性化は起こらず、ACTH上昇による色素沈着も生じない。
- ×b. ガラクトース血症
ガラクトース代謝酵素(主にガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ)の欠損で、授乳開始後に嘔吐、哺乳不良、体重増加不良、黄疸、肝腫大・肝機能障害、白内障などを呈し、大腸菌による敗血症を合併しやすい。嘔吐と活気不良という点は本例と重なるが、外性器の男性化や全身の色素沈着は伴わないため否定される。
- ×c. フェニルケトン尿症
フェニルアラニン水酸化酵素の欠損によりフェニルアラニンが蓄積する疾患である。新生児期にはほぼ無症状で、未治療のまま経過すると乳児期以降に知的障害やけいれんが現れる。発症前に見つけて食事療法を始めることが重要なため、新生児マススクリーニングの対象となっている。メラニン合成の原料であるチロシンが不足するため、皮膚・毛髪はむしろ色白・赤毛になり、本例の色素沈着とは逆の所見である。外性器異常も伴わない。
- ×d. メープルシロップ尿症
分岐鎖アミノ酸(ロイシン・イソロイシン・バリン)の代謝に必要な分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素複合体の欠損症である。古典型は生後数日で哺乳不良、嘔吐、意識障害、けいれん、ケトアシドーシスを呈し、尿や汗からメープルシロップ様の甘いにおいがする。新生児期の嘔吐・活気不良は本例と共通するが、外性器の男性化や色素沈着はみられないので否定される。
- ○e. 先天性副腎皮質過形成症
副腎皮質ステロイド合成酵素の先天的欠損症で、大部分は21-水酸化酵素欠損症である。コルチゾール欠乏によりACTHが過剰となって全身の色素沈着を生じ、蓄積した前駆物質が副腎アンドロゲン産生に回ることで女児では胎生期から外性器が男性化する(陰核肥大、陰唇癒合)。塩類喪失型ではアルドステロン欠乏も加わり、生後1〜2週で嘔吐、哺乳力低下、脱水、低ナトリウム血症・高カリウム血症、低血糖をきたす。女児の外性器男性化、色素沈着、生後9日の嘔吐・活気不良という本例の所見をすべて一元的に説明できる。
先天性副腎皮質過形成症(CAH)の概要
・常染色体潜性(劣性)遺伝。副腎でのステロイド合成酵素の欠損により、コルチゾール低下→ACTH上昇→副腎過形成という流れをとる。 ・約90%以上が21-水酸化酵素欠損症である。そのほか11β-水酸化酵素欠損症(デオキシコルチコステロンの蓄積で高血圧を伴う)、17α-水酸化酵素欠損症(性ホルモン低下と高血圧)、リポイド副腎過形成症(StAR蛋白異常で全ステロイドが低下)などがある。
21-水酸化酵素欠損症の病型
・塩類喪失型:コルチゾールとアルドステロンがともに欠乏。生後1〜2週で副腎クリーゼ(嘔吐、脱水、ショック)を起こし得る。 ・単純男性型:アルドステロン産生はある程度保たれ、塩類喪失は目立たないが男性化を示す。 ・非古典型:軽症で、思春期以降に多毛や月経異常などで気づかれる。
症状の整理
1)外性器の男性化:女児では出生時から陰核肥大・陰唇癒合として気づかれる。男児では出生時の外性器は正常に近いため見逃されやすく、陰茎肥大などの性早熟徴候は幼児期以降に目立ってくる。 2)塩類喪失:低ナトリウム血症、高カリウム血症、代謝性アシドーシス、脱水。 3)副腎不全:哺乳力低下、活気不良、低血糖、ショック、色素沈着。 4)成長:アンドロゲン過剰により小児期には身長の伸びと骨成熟が促進されるが、骨端線が早く閉じるため最終身長は低くなる。
検査と治療
・血中17-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)の著明な上昇が診断の要であり、新生児マススクリーニングでも17-OHPが測定されている。ACTH高値、血漿レニン活性高値、尿中プレグナントリオール増加などもみられる。 ・治療はヒドロコルチゾン(糖質コルチコイド)の補充でACTHを抑制し、塩類喪失型ではフルドロコルチゾン(鉱質コルチコイド)と食塩を補う。急性期の副腎クリーゼでは輸液とヒドロコルチゾンの静注を行う。
新生児マススクリーニング
先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎皮質過形成症、ガラクトース血症、フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症などが対象である(現在はタンデムマス法により対象となるアミノ酸・有機酸・脂肪酸代謝異常症が拡大されている)。選択肢はいずれも対象疾患であるが、外性器異常を伴うのはCAHのみである。
POINT
・新生児の「外性器の男性化(女児)」+「色素沈着」+「嘔吐・哺乳力低下・活気不良」→先天性副腎皮質過形成症(21-水酸化酵素欠損症)。 ・色素沈着はACTH過剰、外性器男性化は副腎アンドロゲン過剰、塩類喪失(低Na・高K)はアルドステロン欠乏による。 ・塩類喪失型は生後1〜2週で副腎クリーゼを起こす。 ・診断は17-OHP高値。治療はヒドロコルチゾン(+フルドロコルチゾン、食塩)。 ・フェニルケトン尿症はむしろ色白・赤毛となり、新生児期は無症状である。
