StudyMed医師国家試験

詰まらせない、育てない―心筋梗塞の再発を防ぐ二本柱

第103回医師国家試験 I問題 第39問

国試問題にチャレンジ

第103回 I問題 第39問

陳旧性心筋梗塞患者の再発予防に有用なのはどれか。2つ選べ。

  1. a.α遮断薬
  2. b.ジギタリス
  3. c.アスピリン
  4. d.アスコルビン酸
  5. e.HMG-CoA還元酵素阻害薬

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、心筋梗塞を一度起こした人の再発予防、いわゆる二次予防に何が有用かを問う問題だ。考え方のカギは「心筋梗塞はどうやって起こるのか」という病態に立ち返ること。そこから必要な薬が自然に見えてくるよ。
医学生医学生
陳旧性心筋梗塞というのは、急性期を過ぎた心筋梗塞のことですよね。
ドクタードクター
そう。一般に発症から1か月以上たったものを指す。一度心筋梗塞を起こした人は再梗塞や心臓死の危険が高いから、長く続ける再発予防の治療がとても重要なんだ。では、心筋梗塞の多くはどんな機序で起こるかな。
医学生医学生
冠動脈の動脈硬化のプラークが破れて、そこに血栓ができて詰まる、と循環器の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。だから再発予防の柱は2つ。1つは血栓をできにくくすること、もう1つはプラークを進ませず安定させることだ。前者の代表がアスピリン、後者の代表がHMG-CoA還元酵素阻害薬、つまりスタチンになる。
医学生医学生
アスピリンは鎮痛薬のイメージが強いんですが、なぜ血栓を防げるんですか。
ドクタードクター
アスピリンは血小板のCOX-1を不可逆的に阻害して、血小板を凝集させるトロンボキサンA2を作れなくする。血小板には核がないから酵素を作り直せず、効果は血小板の寿命である約7〜10日続くんだ。低用量を長期に続けるのが標準で、ステント留置後は一定期間P2Y12受容体拮抗薬と併用する抗血小板薬2剤併用療法を行う。
医学生医学生
臨床実習で循環器内科を回ったとき、PCI後の患者さんがほぼ全員アスピリンとクロピドグレルを飲んでいました。
ドクタードクター
まさにそれがDAPTだね。次にスタチン。肝臓でのコレステロール合成の律速酵素を阻害すると、肝細胞のLDL受容体が増えて血中LDLコレステロールが強く下がる。これでプラークの進行が抑えられ、破れにくくなる。抗炎症作用などの多面的効果も関与すると考えられているよ。
医学生医学生
コレステロールが正常の人にも出すんでしょうか。
ドクタードクター
冠動脈疾患の既往がある人には、コレステロール値が正常範囲でも原則として投与する。日本動脈硬化学会のガイドラインでは、冠動脈疾患の既往があればLDLコレステロールは100mg/dL未満、急性冠症候群や家族性高コレステロール血症、糖尿病などを伴う高リスク例では70mg/dL未満が目標とされている。では残りの選択肢を見ていこう。α遮断薬はどうかな。
医学生医学生
降圧薬なので、血圧を下げれば再発予防になりそうな気もします。
ドクタードクター
そう考えたくなるよね。でもα遮断薬に心筋梗塞の再発予防効果は示されていない。高血圧患者を対象とした大規模試験では、ドキサゾシン群で心不全の発症が多く、途中で打ち切られたほどだ。前立腺肥大症や褐色細胞腫で使う薬と整理しておこう。
医学生医学生
ジギタリスは心不全の薬なので、梗塞後の心臓には良さそうに思えました。
ドクタードクター
ジギタリスは心不全の症状や入院を減らすけれど、生命予後は改善しないことが大規模試験で示されている。再発予防の作用もなく、梗塞後の心筋では不整脈を誘発するおそれもある。「症状を良くする薬」と「予後を良くする薬」は別物だという典型例だね。
医学生医学生
ビタミンCは抗酸化作用で動脈硬化に効きそうですが、違うんですね。
ドクタードクター
LDLの酸化を抑えると期待されたことはあるけれど、ビタミンCやEなどの抗酸化ビタミンのサプリメントは、大規模試験で心血管イベントを減らせなかった。理屈で効きそうでも、エビデンスで確かめることが大切なんだ。
医学生医学生
つまり、血栓を防ぐアスピリンとプラークを安定させるスタチンの2つが正解ですね。
ドクタードクター
正解。発展として、β遮断薬とACE阻害薬またはARBも予後改善が示されていて、特に左室駆出率が低下した例で重要だ。β遮断薬は心筋の酸素消費と致死的不整脈を減らし、ACE阻害薬やARBはリモデリングを抑える。逆に注意したいのが、心筋梗塞後の患者でⅠ群抗不整脈薬がかえって死亡を増やしたCAST試験だ。
医学生医学生
不整脈を抑えるはずの薬で死亡が増えたというのは、OSCE前に先輩からも教わって印象に残っています。
ドクタードクター
臨床では薬だけでなく、禁煙、血圧・血糖の管理、心臓リハビリテーションも二次予防の重要な柱になる。患者さんが長く飲み続けられるよう、なぜ必要かを丁寧に説明することも医師の大事な役割だよ。

まとめ

陳旧性心筋梗塞の再発予防は、プラーク破綻と血栓形成という心筋梗塞の病態に基づいて考えます。柱となるのは、COX-1を不可逆的に阻害して血小板凝集を抑えるアスピリンと、LDLコレステロールを下げてプラークを安定化させるスタチンであり、さらにβ遮断薬やACE阻害薬/ARBも特に左室機能低下例で予後を改善します。一方、ジギタリスは症状を改善しても生命予後を改善せず、α遮断薬や抗酸化ビタミンには再発予防効果が示されておらず、Ⅰ群抗不整脈薬はかえって死亡を増やしました。禁煙や心臓リハビリテーションなどの生活面の介入も欠かせません。「症状の改善」と「予後の改善」を区別し、エビデンスに基づいて薬を選ぶ姿勢は、慢性疾患の診療全般に通じる基本です。

解答・解説

正解はc, eです

陳旧性心筋梗塞とは、発症から時間がたち(一般に1か月以上)、急性期を過ぎた心筋梗塞をいう。心筋梗塞を一度起こした人は再梗塞や心臓死の危険が高いため、再発を防ぐ治療(二次予防)が重要になる。 心筋梗塞の多くは、冠動脈にできた動脈硬化のかたまり(プラーク)が破れ、そこに血小板が集まって血栓ができ、冠動脈が詰まることで起こる。したがって再発予防の柱は、次の2つである。 1. 血栓ができにくくする: 抗血小板薬(アスピリンなど) 2. プラークを進ませず安定させる: 脂質低下療法、特にHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン) このほか、大規模臨床試験で予後の改善が示された薬として、β遮断薬、ACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)があり、左室の収縮力が落ちている例では特に勧められる。あわせて禁煙、血圧・血糖の管理、心臓リハビリテーションも行う。 選択肢のうち、再発予防の有効性(生命予後の改善)が確立しているのはアスピリンとスタチンの2つである。

選択肢考察

  1. ×a.  α遮断薬

    α遮断薬は血管平滑筋のα1受容体を遮断して末梢血管を広げ、血圧を下げる薬である。前立腺肥大症の排尿障害や褐色細胞腫にも用いられる。しかし心筋梗塞の再発を防ぐ効果は示されていない。高血圧患者を対象とした大規模試験(ALLHAT)では、α遮断薬ドキサゾシン群で心不全の発症が多く、その群は途中で打ち切られた。心筋梗塞後の二次予防に用いる薬ではない。

  2. ×b.  ジギタリス

    ジギタリスは心筋のNa+/K+-ATPaseを阻害して心筋の収縮力を高める強心薬で、房室結節の伝導を遅らせるため心房細動の心拍数を抑える目的でも使われる。心不全の症状や入院を減らす効果はあるが、生命予後を改善しないことが大規模試験(DIG試験)で示されている。心筋梗塞の再発を防ぐ作用もない。さらに、梗塞後の心筋では不整脈を誘発するおそれがあり、使う場合は血中濃度の管理が必要である。

  3. ○c.  アスピリン

    アスピリンは血小板のシクロオキシゲナーゼ(COX-1)を不可逆的に阻害し、血小板を凝集させる物質トロンボキサンA2を作れなくする。血小板には核がないため酵素を作り直せず、効果は血小板の寿命(約7〜10日)のあいだ続く。冠動脈のプラーク上に血栓ができるのを抑えるので、心筋梗塞の再発や心血管死を減らす。禁忌がなければ低用量(81〜100mg/日程度)を長期に続けるのが標準である。ステント留置後は、一定期間P2Y12受容体拮抗薬(クロピドグレル、プラスグレルなど)を併用する(抗血小板薬2剤併用療法、DAPT)。

  4. ×d.  アスコルビン酸

    アスコルビン酸はビタミンCのことである。抗酸化作用によってLDLの酸化を抑え、動脈硬化を防ぐのではないかと期待されたことがある。しかし、ビタミンCやビタミンEなどの抗酸化ビタミンのサプリメントについては、大規模試験で心血管イベントを減らす効果は示されなかった。心筋梗塞の再発予防に用いる薬ではない。

  5. ○e.  HMG-CoA還元酵素阻害薬

    HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)は、肝臓でのコレステロール合成の律速酵素を阻害する。肝細胞内のコレステロールが減ると肝細胞表面のLDL受容体が増え、血中のLDLコレステロールが強く下がる。これによりプラークの進行が抑えられ、プラークが破れにくくなる(プラークの安定化)。抗炎症作用や血管内皮機能を改善する作用(多面的効果)も関与すると考えられている。心筋梗塞後の患者でスタチンが再発や死亡を減らすことは多くの試験で示されており、冠動脈疾患の既往がある人は、コレステロール値が正常範囲でも原則として投与する。

心筋梗塞後の二次予防で予後改善が示されている主な薬

・抗血小板薬: アスピリン。ステント留置後は一定期間P2Y12受容体拮抗薬と併用する(DAPT)。 ・スタチン: LDLコレステロールを強力に下げる。効果が不十分なときはエゼチミブやPCSK9阻害薬を追加する。日本動脈硬化学会のガイドライン(2022年版)では、冠動脈疾患の既往がある人のLDLコレステロール管理目標は100mg/dL未満とされ、急性冠症候群、家族性高コレステロール血症、糖尿病などを伴う高リスク例では70mg/dL未満とされる。 ・β遮断薬: 心拍数と心筋の酸素消費を抑え、致死的不整脈や再梗塞を減らす。特に左室駆出率が低下した例で重要である。 ・ACE阻害薬/ARB: 梗塞後に心臓の形が変わって機能が落ちていく現象(リモデリング)を抑え、心不全の発症と死亡を減らす。 ・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬: 左室駆出率が低下した例で追加する。

予後を改善しない、または悪くする薬の例

・ジギタリス: 症状は改善するが、生命予後は改善しない。 ・Ⅰ群抗不整脈薬(フレカイニドなど): 心筋梗塞後の患者で死亡を増やした(CAST試験)。 ・抗酸化ビタミン(ビタミンC・E): 効果は示されなかった。 ・α遮断薬: 二次予防の効果は示されていない。

薬以外の二次予防

禁煙、減量、運動療法を含む心臓リハビリテーション、血圧・血糖の管理、食事療法。

POINT

・陳旧性心筋梗塞の二次予防の柱は、抗血小板薬(アスピリン)とスタチンである。 ・さらにβ遮断薬とACE阻害薬/ARBが予後を改善する(特に左室機能が低下した例)。 ・ジギタリス、α遮断薬、ビタミンCには再発予防効果がない。Ⅰ群抗不整脈薬はかえって死亡を増やす。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。