痛くない「いぼ痔」の理由―歯状線が分ける内痔核と外痔核
第103回医師国家試験 I問題 第32問
国試問題にチャレンジ
内痔核で誤っているのはどれか。
- a.直腸静脈叢に発生する。
- b.歯状線の口側に発生する。
- c.好発部位は3時,7時および11時方向である。
- d.排便時に疼痛を訴える。
- e.肛門外に脱出する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
内痔核は歯状線より口側の内直腸静脈叢に生じ、外痔核は肛門側の外直腸静脈叢に生じます。歯状線より口側の粘膜は自律神経支配で痛覚に乏しいため、内痔核の主症状は無痛性の鮮紅色出血と脱出であり、排便時痛は裂肛や血栓性外痔核を示唆します。好発部位は砕石位で3時・7時・11時、脱出の程度はGoligher分類で評価し、脱出が戻らなくなった嵌頓痔核では例外的に激痛を伴います。排便時出血をみたら痔核と決めつけず、大腸癌などの除外を意識することが大切です。歯状線を境にした上皮・神経・血管の違いを理解することは、肛門疾患全般の症状を論理的に読み解く土台になります。
解答・解説
正解はdです
問われているテーマ
痔核(いわゆる「いぼ痔」)の基本、特に内痔核と外痔核の違いを問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、内痔核の特徴に当てはまらない記述を1つ選ぶ。
正解を導く考え方
肛門管には、直腸粘膜と肛門上皮の境界である歯状線(櫛状線)がある。この線を境に、口側(上側)と肛門側(下側)で、上皮の種類、神経支配、血管の走行が大きく異なる。 ・歯状線より口側:粘膜は円柱上皮で、自律神経(内臓神経)の支配を受けるため痛覚がほとんどない。内直腸静脈叢があり、ここが腫れたものが内痔核である。 ・歯状線より肛門側:重層扁平上皮(肛門上皮)で、体性神経(陰部神経)の支配を受けるため痛みに敏感である。外直腸静脈叢があり、ここが腫れたものが外痔核である。 この解剖学的な違いから、内痔核の主症状は痛みを伴わない排便時の出血と脱出である。一方、痛みは外痔核(特に血栓性外痔核)や裂肛の特徴である。したがって「排便時に疼痛を訴える」が内痔核の一般的な特徴として誤りとなる。
選択肢考察
- ×a. 直腸静脈叢に発生する。
正しい記述である(本問は誤りを選ぶため不正解)。痔核は肛門管の粘膜下にある静脈叢と、それを支える結合組織(クッション組織)が、排便時のいきみや長時間の座位などでうっ血・肥大し、支持組織がゆるんで腫れたものと考えられている。内痔核は歯状線より口側の内直腸静脈叢(上直腸静脈叢)に、外痔核は歯状線より肛門側の外直腸静脈叢(下直腸静脈叢)に生じる。
- ×b. 歯状線の口側に発生する。
正しい記述である(本問は誤りを選ぶため不正解)。歯状線より口側に生じるものを内痔核、肛門側に生じるものを外痔核と定義する。内痔核は円柱上皮(粘膜)に覆われ、動脈血の流入が豊富なため鮮紅色を呈し、出血しやすい。外痔核は重層扁平上皮(皮膚側)に覆われ、うっ血や血栓により暗紫色〜青色を呈することが多い。
- ×c. 好発部位は3時,7時および11時方向である。
正しい記述である(本問は誤りを選ぶため不正解)。砕石位(仰向けで両脚を上げた姿勢、腹側を12時とする)で表すと、内痔核は3時(左側方)、7時(右後方)、11時(右前方)に好発する。これは直腸肛門部に血液を送る上直腸動脈の分枝がこの3方向を走行し、その部位のクッション組織が発達しているためと説明される。これらを主痔核と呼び、その間にできる小さなものを副痔核と呼ぶ。
- ○d. 排便時に疼痛を訴える。
誤った記述であり、これが正解である。内痔核が生じる歯状線より口側の粘膜は自律神経支配で体性の痛覚神経がほとんど分布していないため、内痔核は原則として痛みを伴わない。典型的な症状は、排便時の鮮紅色の出血(便器が赤く染まる、紙に付くなど)と、排便時の脱出である。ただし例外として、脱出した内痔核が肛門括約筋に締め付けられて戻らなくなり、血栓形成や浮腫、循環障害を起こした場合(嵌頓痔核)には激しい痛みを生じる。排便時の痛みを主訴とする場合は、裂肛(切れ痔)や血栓性外痔核をまず考える。
- ×e. 肛門外に脱出する。
正しい記述である(本問は誤りを選ぶため不正解)。内痔核は進行すると排便時などに肛門外へ脱出する。脱出の程度により重症度を分けるGoligher分類が広く用いられ、II度以上で肛門外への脱出がみられる(I度:脱出なし、II度:排便時に脱出し自然に戻る、III度:脱出し指で押し戻す必要がある、IV度:常に脱出して戻らない)。
内痔核と外痔核の比較
・発生部位:内痔核は歯状線より口側、外痔核は肛門側。 ・静脈叢:内痔核は内直腸静脈叢(上直腸静脈叢)、外痔核は外直腸静脈叢(下直腸静脈叢)。 ・被覆上皮:内痔核は円柱上皮(粘膜)、外痔核は重層扁平上皮(肛門上皮・皮膚)。 ・神経支配と痛み:内痔核は自律神経支配で原則無痛、外痔核は体性神経(陰部神経)支配で痛みを感じやすい。 ・主な症状:内痔核は無痛性の出血と脱出、外痔核は血栓形成時の急な痛みと腫脹(血栓性外痔核)。
Goligher分類(内痔核の脱出度)
I度:肛門内で腫れるが脱出しない(出血が主症状)。 II度:排便時に脱出するが、自然に戻る。 III度:排便時に脱出し、指で押し込まないと戻らない。 IV度:常に脱出しており、戻らない。
治療の概略
・I〜II度:生活習慣の改善(便秘・長時間のいきみを避ける、食物繊維の摂取)と、坐薬・軟膏などの保存療法が中心。 ・II〜III度:ゴム輪結紮療法、硬化療法(ALTA療法:硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸注射)など。 ・III〜IV度:結紮切除術(Milligan-Morgan法など)が標準。
鑑別のポイント
排便時出血では、痔核だけでなく直腸癌・大腸癌、炎症性腸疾患も鑑別に挙がる。特に中高年の下血や便通異常を伴う場合は、痔核があっても大腸内視鏡などで悪性疾患を除外することが重要である。排便時の強い痛みと少量の出血は裂肛に典型的である。
POINT
・内痔核は歯状線より口側(内直腸静脈叢)、外痔核は肛門側(外直腸静脈叢)に生じる。 ・内痔核は自律神経支配の領域なので原則として無痛。主症状は無痛性の出血と脱出。 ・例外:嵌頓痔核(脱出した内痔核に血栓・循環障害が起こったもの)では激痛。 ・好発部位は砕石位で3時・7時・11時。 ・脱出度はGoligher分類(II度以上で脱出)。排便時痛は裂肛・血栓性外痔核を考える。
