StudyMed医師国家試験

「血圧が高いほど調子がいい」―否定する前に聞くべき、患者の"解釈モデル"

第103回医師国家試験 H問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第103回 H問題 第6問

高血圧の患者を診察中「私は血圧が高いほど調子がいいのです」という発言がみられた。  対応として最も適切なのはどれか。

  1. a.別の話題に変える。
  2. b.患者の発言を否定する。
  3. c.通院を継続するかを確認する。
  4. d.高血圧の合併症について説明する。
  5. e.発言の根拠となる情報を聴取する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医療面接の問題だ。患者さんが医学的には正しくない考えを口にしたとき、医師としてまず何をすべきか。キーワードは「解釈モデル」だよ。
医学生医学生
高血圧は脳卒中や心筋梗塞のリスクですから、まず誤解を正さないといけないと思ってしまいます。
ドクタードクター
医学的に正しい情報を伝えたい気持ちは大切だ。でも、その前に考えてほしい。患者さんはなぜそう思うようになったんだろう。
医学生医学生
うーん、どこかで聞いた話とかでしょうか。
ドクタードクター
その可能性もあるし、ほかにもいろいろ考えられる。たとえば降圧薬を飲み始めてからふらつく、だるいといった実際の体験があるのかもしれない。急な降圧や下がりすぎ、起立性低血圧が原因になっていることもある。薬への不安や、本当は飲みたくない気持ちが隠れていることもある。
医学生医学生
背景がわからないと、説明の方向も薬の調整も決められないということですね。
ドクタードクター
その通り。患者さんが自分の病気について抱いている考え、つまり原因・重さ・治療・見通しなどについてのイメージを「解釈モデル」と呼ぶ。Kleinmanが提唱した概念だ。だから最も適切なのは、発言の根拠となる情報を聴取すること。「血圧が下がるとどんな感じがしますか」「そう思うようになったきっかけはありますか」と尋ねるわけだ。
医学生医学生
OSCEの医療面接でも「解釈モデルを聞く」という項目がありました。「ご自身では何が原因だと思いますか」と聞くやつですよね。
ドクタードクター
そうそう。あれは試験のための儀式ではなく、こういう場面で本当に役立つ技術なんだ。では、ほかの対応も見ていこう。患者さんの発言を否定するのはどうかな。
医学生医学生
医学的には誤りなので、間違いを指摘するのは正しい気もしますが……。
ドクタードクター
内容としては誤りでも、頭ごなしに否定されると患者さんは責められたと感じて、反発したり本音を話さなくなったりする。理由を理解しないまま否定しても、考えはなかなか変わらないんだ。これはPorterの分類でいう評価的態度に当たる。
医学生医学生
高血圧の合併症を説明するのは、正しい情報提供なので良さそうに見えました。
ドクタードクター
いずれ必要な説明ではある。ただ、患者さんの考えを把握する前に合併症の話をしても、関心とかみ合わず押し付けと受け取られやすい。説明は聴取の後、患者さんの考えに沿って行うのが効果的だよ。
医学生医学生
通院を続けるか確認するのは、治療をやめたいのかなと思ったので……。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。患者さんは通院をやめたいとは一言も言っていない。医師が先回りして意味を解釈し決めつけることになるし、突き放された印象も与えかねない。話題を変えるのも同じで、大事なメッセージを受け流してしまう回避的な対応だ。
医学生医学生
否定も説得も先回りも回避も、結局は患者さんの考えを聞いていない、という点で共通しているんですね。
ドクタードクター
まさにそこがポイント。Porterは面接者の態度を評価的・解釈的・調査的・支持的・理解的に分けていて、患者さんが感情や独自の考えを表出した場面では、受け止めて理解しようとする理解的態度が最も望ましいとされる。
医学生医学生
臨床実習の総合内科外来で、指導医の先生が薬を飲まない患者さんの話をじっくり聞いたら、実は副作用が怖かったとわかったことがありました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。実際、降圧薬を始めた高齢の方がふらつきや立ちくらみ、倦怠感を訴えることは少なくない。「高いほうが調子がいい」という訴えは、過降圧や起立性低血圧の手がかりにもなりうる。聴取した結果によっては、薬の種類や量の見直しにつながることもあるんだ。
医学生医学生
コミュニケーションの問題に見えて、診療の質にも直結しているんですね。
ドクタードクター
その通り。患者さんの考えを知ることで信頼関係が深まり、納得したうえでの治療選択、つまり共同での意思決定が可能になる。まず聴く、それから説明する、という順番を忘れないでほしい。

まとめ

患者が「血圧が高いほど調子がいい」のような医学的に誤った考えを述べたときは、否定・説得・話題の回避・先回りした決めつけから入らず、まずその発言の根拠や背景を尋ねることが最も適切です。患者が自分の病気について抱く考えは解釈モデル(Kleinman)と呼ばれ、医療面接ではこれを把握することが信頼関係と納得のいく説明の前提となります。Porterの態度分類では、患者の考えを受け止めて理解しようとする理解的態度が、感情や独自の考えが表出された場面で望ましいとされます。また降圧薬によるふらつきや過降圧、起立性低血圧が背景にあることもあり、丁寧な聴取は治療調整の手がかりにもなります。「まず聴き、そのうえで説明する」という順序は、あらゆる診療場面に通じる医療面接の基本です。

解答・解説

正解はeです

医療面接において、患者が病気をどのように理解しているか(解釈モデル)を扱う問題である。 解釈モデルとは、患者自身が自分の病気や症状について抱いている考え(原因は何か、なぜ起こったか、どのくらい重いか、どんな治療が必要か、どうなっていくか、など)のことである。患者の多くは医学の専門家ではなく、身近な人の話やメディアの情報、自身の体験などから病気のイメージを形づくっている。そのため、医学的には誤っている考えをもっていることも珍しくない。 「血圧が高いほど調子がいい」という発言は、医学的な常識とは異なる。しかしこの発言の背景には、例えば「降圧薬を飲むとふらつく・だるい」という実際の体験(降圧が急すぎる、あるいは過降圧による症状の可能性がある)、「血圧が高いほうが元気が出る」という思い込み、周囲から聞いた話、薬への不安や服薬したくない気持ちなど、さまざまな事情が隠れている可能性がある。いずれであっても、背景を知らなければ適切な説明も治療調整もできない。 したがって、まず患者の発言を受け止め、「どのようなときにそう感じるのか」「そう考えるようになったきっかけは何か」と、発言の根拠を尋ねるのが最も適切である。患者の考えを理解しようとする姿勢は信頼関係を強め、その後の説明や治療方針の相談を受け入れてもらいやすくする。医学的な説明や誤解の修正は、患者の考えを把握したうえで行う。

選択肢考察

  1. ×a.  別の話題に変える。

    患者が発した重要なメッセージを受け止めずにかわしてしまう、回避的・逃避的な対応である。患者の解釈モデルや、服薬への抵抗・副作用症状といった治療上重要な情報を得る機会を失い、患者も「話を聞いてもらえなかった」と感じて信頼関係が損なわれる。

  2. ×b.  患者の発言を否定する。

    「そんなことはありません」と正誤を判定する評価的態度である。医学的には誤った考えであっても、頭ごなしに否定されると患者は自分が責められたと感じ、反発したり本音を話さなくなったりして、医師患者関係が損なわれるおそれがある。なぜそう考えるのかを理解しないまま否定しても、患者の考えは変わりにくい。

  3. ×c.  通院を継続するかを確認する。

    発言の真意を「治療をやめたいということだろう」と医師が先回りして解釈し、それを確かめようとする対応である。患者は通院をやめたいとは述べておらず、根拠のない決めつけとなるうえ、突き放された印象を与えかねない。まず発言の意味を患者自身から聞くべきである。

  4. ×d.  高血圧の合併症について説明する。

    脳卒中、心疾患、腎障害などの合併症を説明して治療の必要性を納得させようとする説得的な対応である。高血圧の合併症についての説明自体はいずれ必要な情報であるが、患者がなぜそう考えているのかを把握しないまま説明しても、患者の関心や疑問とかみ合わず、押し付けと受け取られて効果が乏しい。説明は患者の考えを聴取した後に、その内容に沿って行うのがよい。

  5. ○e.  発言の根拠となる情報を聴取する。

    患者の発言を正面から受け止め、関心をもってその背景を尋ねる、理解的(共感的)な対応である。「血圧が下がるとどんな感じがしますか」「そう思うようになったきっかけはありますか」などと聞くことで、患者の病気に対するイメージや感情、降圧に伴う症状の有無、服薬への不安などが明らかになる。これにより信頼関係が深まり、患者の考えに合わせた説明や、必要に応じた降圧薬の種類・用量の調整につなげることができる。

解釈モデル(explanatory model)

患者が自分の病気について抱く考えの総体で、Kleinmanが提唱した概念である。医療面接では、病状の医学的な聴取に加えて、患者の解釈モデル、受療行動(なぜ今受診したか)、病気が生活に与える影響、治療への期待などを聴くことが重視される。患者の考えと医師の考えのずれを把握して初めて、患者が納得できる説明と共同での意思決定が可能になる。

Porterによる面接者の態度の分類

・評価的態度:患者の考えや行動の良し悪しを判断する(選択肢bに相当)。 ・解釈的態度:医師の考えで患者の発言の意味を解釈する(選択肢cの先回りした確認はこれに近い)。 ・調査的態度:医師側の関心に沿って質問を重ねる。 ・支持的態度:励ましたり保証したり、説得したりする(dのように治療の必要性を納得させようとする対応もこの方向に近い)。 ・理解的態度:患者の感情や考えを受け止め、理解しようとする(選択肢eに相当)。 医療面接の初期、特に患者が感情や独自の考えを表出した場面では、理解的態度が最も望ましいとされる。

臨床上の注意

降圧薬の開始後に、ふらつき、立ちくらみ、倦怠感などを訴える高齢者は少なくない。急速な降圧や過降圧、起立性低血圧が原因となっていることもあるため、「血圧が高いほうが調子がいい」という訴えは症状の手がかりとしても丁寧に聴く価値がある。

POINT

・患者の医学的に誤った発言にも、否定・回避・説得から入らず、まずその根拠や背景を尋ねる。 ・患者の病気に対する考え(解釈モデル)を把握することが、信頼関係の構築と患者が納得する説明の前提となる。 ・評価的態度(否定)や医師側の解釈による決めつけは関係を損ないやすい。理解的態度が望ましい。 ・医学的な説明は、患者の考えを聴取した後に、その内容に沿って行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。