いびきと昼間の眠気―眠っている間にしか起きない病気は、眠っている間に調べる
第103回医師国家試験 H問題 第27問
国試問題にチャレンジ
48歳の男性。日中の眠気,集中力減退および倦怠感を主訴に来院した。いびきを妻から指摘されている。 まず行うのはどれか。
- a.胸部CT
- b.頭部MRI
- c.気管支鏡検査
- d.心臓カテーテル検査
- e.ポリソムノグラフィ
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
いびきと日中の過度の眠気を訴える中年男性では、まず閉塞性睡眠時無呼吸症候群を疑います。この病態は睡眠中に咽頭が虚脱して起こるため、覚醒時に行う胸部CTや頭部MRI、気管支鏡では診断できず、確定診断と重症度判定にはポリソムノグラフィを最初に行います。ポリソムノグラフィでは脳波で睡眠を判定しながら気流・呼吸運動・SpO2などを記録してAHIを求め、5以上で異常、15以上で中等症、30以上で重症とし、胸腹部の呼吸運動の有無で閉塞性と中枢性を区別します。中等症以上ではCPAPが第一選択で、減量や口腔内装置も選択肢となります。高血圧や心血管疾患、交通事故とも関わる身近な疾患であり、「異常が起きるタイミングで調べる」という検査選択の考え方を身につけるうえでも重要なテーマです。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・48歳の中年男性 ・日中の眠気(過眠)、集中力の低下、倦怠感 ・就寝中のいびきを家族(妻)に指摘されている
診断へのプロセス
中年男性が「大きないびき」と「日中の過度の眠気」を同時に訴えている場合、最初に考えるべきは閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome:OSAS)である。いびきは、睡眠中に咽頭の筋緊張が低下して上気道が狭くなり、そこを通る気流で軟部組織が振動することで生じる。狭窄がさらに進むと気道が完全に閉じて無呼吸となり、そのたびに低酸素と覚醒反応(微小覚醒)が繰り返される。このため睡眠が細切れになって深い睡眠が得られず、日中の眠気・集中力低下・倦怠感として現れる。 日中の過眠をきたす他の疾患も念頭に置く。 ・ナルコレプシー:日中に耐えがたい眠気が発作的に生じ、情動脱力発作(笑いや驚きで急に力が抜ける)、入眠時幻覚、睡眠麻痺(いわゆる金縛り)を伴う。発症は10歳代が多く、いびきとは直接関係しない。本例ではこれらの特徴的症状の記載はない。 ・神経筋疾患(筋強直性ジストロフィーなど):過眠や肺胞低換気をきたしうるが、筋力低下などを示唆する所見はない。 ・睡眠不足症候群、うつ病、甲状腺機能低下症、薬剤性の眠気なども鑑別になる。 以上から、臨床的にはOSASが最も疑わしい。
設問の考え方
「まず行う」検査は、疑っている疾患を確定し重症度を評価できる検査である。睡眠時無呼吸は睡眠中にしか現れないため、覚醒時の画像検査や内視鏡では診断できない。一晩の睡眠中の呼吸と睡眠状態を同時に記録するポリソムノグラフィ(睡眠ポリグラフ検査)が診断の基本となる。
選択肢考察
- ×a. 胸部CT
胸部CTは肺実質や縦隔の病変を調べる検査である。OSASの病態の主座は咽頭を中心とする上気道であり、しかも問題となるのは睡眠中にのみ起こる気道の虚脱である。覚醒時に撮影する胸部CTでは無呼吸の有無も重症度もわからず、最初に行う検査ではない。
- ×b. 頭部MRI
頭部MRIは脳の器質的病変を評価する検査である。中枢性睡眠時無呼吸や二次性の過眠症で脳幹・視床下部病変などを疑う神経所見があれば検討されるが、本例にはそのような所見はない。いびきと日中の眠気からOSASが疑われる段階で最初に行う検査ではない。
- ×c. 気管支鏡検査
気管支鏡検査は気管・気管支など下気道の内腔を観察する侵襲的検査である。OSASの閉塞部位は咽頭(軟口蓋・舌根部など)であり、下気道ではない。閉塞部位の評価が必要な場合は耳鼻咽喉科的な診察や鼻咽腔ファイバースコープなどを用いるが、それもまずポリソムノグラフィで診断を確定したあとの話である。
- ×d. 心臓カテーテル検査
心臓カテーテル検査は冠動脈病変や心内圧・肺動脈圧を直接測定する侵襲的検査である。重症OSASは高血圧、不整脈、心不全、肺高血圧などの合併が多いが、胸痛や心不全徴候などの記載がない本例で最初に選ぶ検査ではなく、侵襲の大きさからも適応はない。
- ○e. ポリソムノグラフィ
ポリソムノグラフィ(polysomnography:PSG、睡眠ポリグラフ検査)は、脳波・眼電図・オトガイ筋電図で睡眠段階や覚醒を判定しながら、口鼻の気流、胸部・腹部の呼吸運動、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)、心電図、いびき音、体位、下肢筋電図などを一晩連続して記録する検査である。無呼吸・低呼吸の回数から無呼吸低呼吸指数(AHI)を算出してOSASの診断と重症度判定を行い、さらに胸腹部の呼吸運動の有無から閉塞性か中枢性かを区別できる。OSASが疑われる本例で確定診断のために最初に行うべき検査である。
睡眠時無呼吸の定義と分類
・無呼吸:口鼻の気流が10秒以上停止した状態 ・低呼吸:気流が明らかに低下し(おおむね30%以上)、SpO2低下(3%以上)または覚醒反応を伴う状態 ・AHI(apnea-hypopnea index):睡眠1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数 ・重症度:AHI 5以上15未満が軽症、15以上30未満が中等症、30以上が重症 ・閉塞性:呼吸努力(胸腹部の動き)はあるのに気流が止まる。上気道の閉塞による ・中枢性:呼吸中枢からの指令が出ず、呼吸努力そのものが消失する。心不全に伴うチェーン・ストークス呼吸などでみられる
OSASの危険因子と症状
危険因子は肥満、男性、加齢、小顎・下顎後退などの顎顔面形態、扁桃肥大(小児では主な原因)、アルコール摂取や睡眠薬などである。症状はいびき、家族が目撃する睡眠中の呼吸停止、夜間の頻回の覚醒・夜間頻尿、起床時の頭痛、日中の過眠・集中力低下などである。日中の眠気の程度はエプワース眠気尺度(Epworth sleepiness scale:ESS)で評価し、11点以上を過度の眠気とみなすことが多い。
検査の流れ
・問診・ESSで疑う ・簡易検査(携帯型装置による気流・呼吸運動・SpO2の記録):自宅で行えるスクリーニング。脳波がないため睡眠の質は評価できない ・終夜PSG:診断と重症度判定の標準検査
合併症
高血圧(特に治療抵抗性高血圧)、心房細動などの不整脈、虚血性心疾患、脳卒中、心不全、2型糖尿病などの代謝異常のリスクが高まる。日中の眠気による交通事故の増加も社会的に問題となる。
治療
・生活習慣の改善:減量、飲酒・睡眠薬の制限、側臥位での睡眠 ・持続陽圧呼吸療法(continuous positive airway pressure:CPAP):中等症〜重症の第一選択。鼻マスクから陽圧を送り上気道の虚脱を防ぐ。わが国の保険診療では、PSGでAHI 20以上、または簡易検査でAHI 40以上などが適応の目安とされる ・口腔内装置(マウスピース):下顎を前方に保持する。軽症〜中等症やCPAP不耐例 ・外科治療:扁桃肥大やアデノイド肥大など解剖学的な原因が明らかな場合(特に小児では扁桃摘出術・アデノイド切除術が有効)
POINT
・いびき+日中の過度の眠気の中年男性ではまず閉塞性睡眠時無呼吸症候群を考える ・診断と重症度判定の標準はポリソムノグラフィで、AHI(睡眠1時間あたりの無呼吸・低呼吸回数)を求める ・AHI 5以上で異常、15以上で中等症、30以上で重症 ・閉塞性と中枢性は胸腹部の呼吸運動の有無で区別する ・中等症以上の治療の第一選択はCPAP
