StudyMed医師国家試験

悲しみは「治す」ものではない―看取りの家族を支えるグリーフケアの基本

第103回医師国家試験 G問題 第32問

国試問題にチャレンジ

第103回 G問題 第32問

死期が迫った患者の家族への対応として適切でないのはどれか。

  1. a.予期悲嘆へのケア
  2. b.死の受容への援助
  3. c.抗うつ薬の予防投与
  4. d.死別後の悲嘆へのケア
  5. e.悲しみを表現する場の確保

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、死期が迫った患者さんの家族に医療者がどう関わるかを問う問題だ。「適切でないもの」を選ぶ形式なので注意しよう。着眼点は、家族の悲しみを「正常な反応」として支えるのか、それとも「病気」として扱うのか、という視点の違いだよ。
医学生医学生
緩和ケアというと、どうしても患者さん本人の痛みのコントロールのイメージが強いです。家族も対象になるんですね。
ドクタードクター
そう、そこが出発点。WHOは緩和ケアを、生命を脅かす疾患に直面する患者と家族のQOLを改善するアプローチと定義していて、死別後の家族への支援まで含めている。家族は大切な人を失いつつある当事者であり、看病や意思決定も担うから、負担はとても大きい。だから「第二の患者」と呼ばれることもあるんだ。
医学生医学生
臨床実習で緩和ケア病棟を回ったとき、看護師さんがご家族の話を長い時間かけて聴いていたのを思い出しました。
ドクタードクター
それこそがケアの中心だね。ここで大事な言葉が悲嘆、つまりグリーフだ。喪失に対して起こる心理的・身体的な反応のことで、悲しみ、怒り、罪責感、不眠や食欲低下などとして現れる。ただし、悲嘆そのものは病気ではない。
医学生医学生
でも、不眠や食欲低下まで出るとなると、うつ病と区別がつかない気がします。
ドクタードクター
鋭い疑問だ。症状は似ていても、通常の悲嘆の多くは時間とともに和らぎ、喪失を受け止めて適応していく自然な過程なんだ。そこを踏まえて選択肢を見ていこう。まず予期悲嘆へのケアはどうかな。
医学生医学生
予期悲嘆は、亡くなる前から始まる悲しみのことですよね。それを支えるのは適切だと思います。
ドクタードクター
その通り。死が避けられないと知った時点から、家族は不安や悲しみ、怒りを抱えて疲弊していることが多い。安易に励まして気持ちを打ち消すのではなく、話を丁寧に聴いて受け止め、病状や見通しを分かりやすく伝える。この段階で心の準備が進むと、死別後の悲嘆が複雑化しにくいとされているよ。
医学生医学生
死の受容への援助は、Kübler-Rossの5段階を講義で習いました。否認、怒り、取引、抑うつ、受容でしたね。
ドクタードクター
よく覚えているね。ただ、必ずしもその順に進むわけではなく、行きつ戻りつするのが普通だ。家族には、呼吸の変化や意識の低下など臨死期に起こる変化をあらかじめ説明しておき、患者さんと過ごす時間や別れの言葉を伝える機会をつくる。受け止め方の速さや形は人それぞれだから、医療者の考えを押しつけず、家族のペースを尊重することが大切だ。
医学生医学生
悲しみを表現する場の確保も、泣いたり話したりできる時間と場所を用意するということで、適切ですよね。
ドクタードクター
そうだね。感情を抑え込まずに言葉や涙として出せることは、悲嘆の過程を進めるうえで重要だ。プライバシーの保たれた場所を用意して、出てきた感情を否定せずに受け止める。表出の機会が乏しいと、悲嘆が長引いたり複雑化したりしやすい。
医学生医学生
死別後の悲嘆へのケアは、亡くなった後なので医療者の役割は終わっている気もしたのですが……。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。緩和ケアは患者さんの死で終わらない。遺族へのグリーフケア、ビリーブメントケアも含まれるんだ。遺族の話を聴き、必要に応じて遺族外来や自助グループにつなぐ。ということで、残る抗うつ薬の予防投与が「適切でない」対応になる。
医学生医学生
うつ病になる前に予防しておく、というのは一見よさそうですが、悲嘆を病気として扱ってしまうことになるんですね。
ドクタードクター
まさにそこがポイントだ。抗うつ薬を予防的に使って死別後のうつ病や悲嘆の遷延を防げるという根拠はないし、副作用のリスクもある。悲しみを感じて受け止めていく自然な過程を妨げるおそれもあるんだ。
医学生医学生
では、薬を使うのはどういうときですか。
ドクタードクター
悲嘆が長期化・重症化して日常生活に大きな支障をきたす場合や、うつ病などを発症したと評価された場合だね。その際もまず精神医学的評価を行う。DSM-5-TRでは、強い思慕や苦痛が死別から12か月以上(小児では6か月以上)続いて生活に支障をきたすものを遷延性悲嘆症として位置づけている。うつ病か、適応障害か、遷延性悲嘆症かを見極めてから専門的介入を考えるんだ。
医学生医学生
正常な悲嘆は支える、病的な状態は評価してから治療する、と区別すればいいんですね。
ドクタードクター
その整理で十分だ。臨床では、看取りの場面での医療者の言葉や態度が、遺族の記憶に長く残ることも意識しておきたい。そして緩和ケアはがんだけでなく、ALSなどの神経難病や臓器不全の患者さんと家族も対象になる。どの診療科に進んでも必ず出会う場面だよ。

まとめ

緩和ケアの対象は患者だけでなく家族も含まれ、家族は「第二の患者」とも呼ばれます。家族ケアの基本は、死別前の予期悲嘆への寄り添い、死の受容への援助、感情を表出できる場の確保、そして死別後のグリーフケアであり、悲嘆の過程を前後にわたって支えることです。悲嘆は喪失に対する正常な反応であり、抗うつ薬の予防投与は有効性の根拠がなく、自然な過程を妨げるおそれもあるため適切ではありません。悲嘆が長期化して生活に支障をきたす場合やうつ病が疑われる場合には、遷延性悲嘆症なども含めて精神医学的に評価したうえで専門的介入を検討します。正常な悲嘆を支える関わりと病的状態への治療を区別する視点は、診療科を問わず看取りに関わるすべての医師に求められる基本姿勢です。

解答・解説

正解はcです

緩和ケアの対象は患者本人だけではなく、その家族も含まれる。WHO(世界保健機関)は2002年に緩和ケアを「生命を脅かす疾患に伴う問題に直面している患者と家族のQOL(生活の質)を改善するアプローチ」と定義し、その中に死別後の家族への支援も含めている。家族は、大切な人を失いつつあるという喪失の当事者であると同時に、患者を支え、看取り、ときに治療方針の決定にも関わる立場にあり、心身の負担は非常に大きい。このため家族は「第二の患者」とも呼ばれる。 死期が迫った患者の家族へのケアの基本は、死別の前から後まで続く悲嘆(グリーフ)の過程を支えることである。悲嘆とは喪失に対して生じる正常な心理的・身体的反応であり、それ自体は病気ではない。医療者は、死別前の予期悲嘆に寄り添い、死が近いという現実を受け止められるよう援助し、感情を表出できる場を保障し、死別後も必要に応じて支援を続ける(グリーフケア、遺族ケア)。 一方、悲嘆を病気として扱い、うつ病を発症していない家族に予防的に抗うつ薬を投与することは、有効性が示されておらず、正常な悲嘆の過程を妨げるおそれもあるため適切でない。「誤っている(適切でない)ものを選ぶ」形式であることに注意し、正常な悲嘆を支える対応と、病的状態への薬物治療とを区別して考えることが解答の鍵となる。

選択肢考察

  1. ×a.  予期悲嘆へのケア

    適切な対応である。予期悲嘆(anticipatory grief)とは、死別が現実となる前、死が避けられないと知った段階から始まる悲嘆である。家族は不安、悲しみ、怒り、罪責感などを抱え、疲弊していることが多い。医療者は安易な励ましで気持ちを打ち消すのではなく、話を丁寧に聴いて感情を受け止め、病状や今後の見通しを分かりやすく伝える。予期悲嘆の段階で心の準備が進むと、死別後の悲嘆が複雑化しにくくなるとされる。

  2. ×b.  死の受容への援助

    適切な対応である。家族が患者の死が近いという現実を少しずつ受け止められるよう、病状経過や臨死期に起こる変化(呼吸の変化、意識の低下など)をあらかじめ説明し、患者と過ごす時間や別れの言葉を伝える機会を確保するなどの援助を行う。受容の速さや形は人によって異なるため、医療者の考えを押し付けず、家族それぞれのペースを尊重し、共感的な姿勢で関わることが大切である。

  3. ○c.  抗うつ薬の予防投与

    適切でない対応であり、これが正解である。死別に伴う悲嘆は正常な反応であり、うつ病とは異なる。抗うつ薬を予防的に投与して死別後のうつ病や悲嘆の遷延を防げるという根拠はなく、副作用のリスクもあり、悲しみを感じて受け止めていく自然な過程を妨げるおそれもある。薬物療法を考えるのは、悲嘆が長期化・重症化して日常生活に大きな支障をきたす場合や、うつ病などの精神疾患を発症したと評価された場合であり、その際もまず精神医学的評価(うつ病か、適応障害か、遷延性悲嘆症かなど)を行ったうえで判断する。

  4. ×d.  死別後の悲嘆へのケア

    適切な対応である。緩和ケアは患者の死で終わるのではなく、遺族への支援(グリーフケア、ビリーブメントケア)も含まれる。死別後には悲しみや思慕、罪責感、不眠、食欲低下などが生じるが、多くは時間とともに和らいでいく。医療者は遺族の話を聴き、必要に応じて遺族外来や自助グループなどの支援につなげる。悲嘆が長期にわたって強く続き生活に支障をきたす場合(遷延性悲嘆、複雑性悲嘆)やうつ病の合併が疑われる場合は、精神科などの専門的支援を検討する。

  5. ×e.  悲しみを表現する場の確保

    適切な対応である。悲しみや怒り、後悔などの感情を抑え込まずに言葉や涙として表出できることは、悲嘆の過程を進め、喪失に適応していくうえで重要である。医療者は家族が泣いたり気持ちを語ったりできる時間とプライバシーの保たれた場所を用意し、その感情を否定せずに受け止める。感情を表出する機会が乏しいと、悲嘆が遷延・複雑化しやすくなる。

悲嘆(グリーフ)とは

喪失に対する正常な反応であり、心理面(悲しみ、怒り、罪責感、否認、思慕)、身体面(不眠、食欲低下、疲労感)、行動面(引きこもり、落ち着きのなさ)など多面的に現れる。多くは時間の経過とともに和らぎ、喪失を人生に位置づけて適応していく。

悲嘆の分類

・予期悲嘆: 死別前、死が予期された時点から生じる悲嘆 ・通常の悲嘆: 死別後に生じ、時間とともに軽快する悲嘆 ・複雑性悲嘆(遷延性悲嘆): 強い思慕や苦痛が長期間続き、日常生活に大きな支障をきたす状態。DSM-5-TRでは死別から12か月以上(小児では6か月以上)持続するものを遷延性悲嘆症として精神疾患に位置づけている。専門的な介入の対象となる。

死の受容に関する考え方

Kübler-Rossは死にゆく患者の心理過程を否認→怒り→取引→抑うつ→受容の5段階で示した。必ずしもこの順に進むわけではなく、行きつ戻りつすることも多いが、患者や家族の心理を理解する手がかりとなる。

緩和ケア関連の用語

・緩和ケア: 生命を脅かす疾患に直面する患者と家族のQOL改善を目指すアプローチ。診断時など早期から、身体的・心理社会的・スピリチュアルな苦痛を評価して対応する。 ・ターミナルケア(終末期ケア): 死が近い時期の患者と家族への援助。がんに限らず、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経難病や臓器不全も対象となる。 ・ホスピスケア: 1960〜70年代の英国のホスピス運動に始まる、終末期患者が苦痛を和らげつつ穏やかに過ごすためのケアとその実践の場。 ・グリーフケア: 死別の前後にわたり家族・遺族の悲嘆を支えるケア。

POINT

・緩和ケアの対象は患者と家族であり、家族は「第二の患者」とされる。 ・家族ケアでは予期悲嘆へのケア、死の受容の援助、感情表出の場の確保、死別後の悲嘆へのケアを行う。 ・悲嘆は正常な反応であり、抗うつ薬の予防投与は根拠がなく不適切である。 ・悲嘆の遷延やうつ病が疑われる場合に、評価のうえで専門的介入を行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。